ミネルヴァはジブラルタルへと到着すると、基地管制から通信が入る。
「こちらジブラルタルポートコントロール。LHM-BB01、ミネルヴァの到着を歓迎する。」
メイリンがその通信に答えるように
「ミネルヴァ入港シークエンスに入ります。」
そう答えると、ミネルヴァは入港準備に入った。ちょうどそのころMS隊は全員休憩室にいた。
シンがなんとなく誰に聞くでもなく呟いた。
「これから俺たちどうすれば良いんだろう…」
その問いに答えたのはレイだった。
「どうしたらいいかなど俺にもわからない。だから上に立つ人間がいるだろう。俺はその決定に従うだけだ。」
「それはそうだけど…議長の言ってるロゴスを撃つって具体的にどうすればいいのかなって、そう考えちゃって…」
ルナマリアがシンに対して皮肉っぽく言う。
「へ~、あんたでも一応考えたりするんだ。」
「なんだよ、ルナ。それじゃ俺が何にも考えないみたいじゃないか!」
「あら、違った?あんたは直情型なんだから考えても頭パンクするだけじゃないの。そんなのは評議会や、軍上層部に任せるしかないのよ。私たちは軍人なんだから。
それくらいは分かっているでしょう?」
「そりゃ…そうだけど…アスランや隊長はどう思います?」
アスランが先に答える。
「ロゴスを撃つ。それは今まで誰も出来なかったし、しようともしなかったことだ。確かな方法など誰も知る訳無い。ただ相手が戦力を集結させているんなら戦うしか無いだろうな。」
アムロも答える。
「そうだな…平和な解決が一番望ましいんだがな…それが通じない相手も時にはいるものだ。だがその相手をただ撃てば良いと言う訳じゃないぞ。相手が敵意を持っている、なら殺してしまえばいい、そういう考えではまた敵を作るだけだからな。君たちもその辺の事を良く理解しておくんだ。」
四人はこくりと頷いた。
ミネルヴァは入港完了したらしく、艦の動きが止まる。と同時にタリアから放送が入った。
「基地司令部より、アムロ・レイ、アスラン・ザラ、シン・アスカ以上3名に出頭命令が出ています。直ちに基地司令部へと向って下さい。」
「だ、そうだ。行くか。」
アムロがそういうと五人は休憩室を出る。三人はそのまま司令部へと向かった。
司令部へと着くと、将校の一人がハンガーへと案内する。ハンガーの中は真っ暗で、何も見えない。ひとつ明かりが着くとその光が二人の人物を照らし出した。
「議長!?」
アスランが真っ先に気付く。デュランダル議長の脇にはミーアもいた。
「お久しぶりですわね。アスラン?」
「え?ああ、えっとお久しぶりです、ラクス。それに議長も…」
「もうラクスじゃありませんわよ。ふふっ…こんな喋り方じゃ肩こっちゃう。アスラン、もうミーアで良いわ。隠す必要もう無いもの。」
「あ、そうだったな…ミーア。でもなぜここに?」
「それは議長から聞いてね。」
デュランダルが話し始めた。
「アムロ、シン、アスラン。エンジェルダウンではご苦労だった。アスランには特につらい思いをさせてしまったな。が、君たちも知ってのとおり私は世界の現状を見かねて大変な事をはじめてしまってね…そのためにも彼らに邪魔されるわけにはいかなかった。」
シンがそれに対し
「いえ、あいつらは落とすべき敵でした。あいつらのせいでザフトはかなりの被害を受けたんですから。当然の報いです。」
と答える。
(そうだ…そう思われることはお前にも分かっていたはずだろう?キラ…)
アスランの脳裏にキラの顔がよぎる。が、議長の声で我に返った。
「そうだな、そこでだ。次はロゴスを撃たねばならない。戦争を終わらせるためにはね。まあ話したいこともまだあるがとりあえずこれを見てくれないか?」
そういうと目前の照明が付き、2体の巨人を照らしだした。
「ZGMF-X42S、デスティニー。ZGMF-X666S、レジェンド。セイバーやインパルスをはじめとするセカンドシリーズの到達点ともいえるMSだ。バッテリー動力だけでないハイパーデュートリオンによるハイブリット動力で従来のMSなど比較にならないポテンシャルを持っている機体でね。デスティニーをシンに、レジェンドをアスランに乗ってもらいたい。」
シンは感嘆の声を出しながら
「これが…俺の機体?」
一見まがまがしい面構えのMSを見上げるシンにデュランダルは微笑みながら答える。
「そうだ。君に合わせて既に調整はされているから断られると困るんだが…」
「断るなんてとんでもありません!ありがとうございます、俺、いえ自分なんかに…!」
「そうか、そういってもらえると用意したかいがあるというものだ。アスランはどうかな?」
少し複雑そうな表情をしてアスランは聞き返した。
「これはプロヴィデンス…ですか…?」
「…後継機、ではあるがね。嫌かな?」
ぐっと唇をかみ締めたあと、何か決心したように強い口調で答える。
「いえ、プロヴィデンスの性能は身をもって知っています…やらせてください!」
デュランダルはふっと笑う。そして続けた。
「これらのMSは君たちに対する期待の現れだと思って欲しい。これからもザフト、いやこの世界の人々のためにがんばってくれ。ああ、あとアムロ君は…お、ちょうど来たな。」
そう言うとデュランダルはアムロ達の後ろへと意識を移した。それにつられるように三人は後ろを見るとそこにはアムロには見覚えがある男が立っていた。そのいでたちは整備士のようだ。
「君は…確かあのときの工場の主任じゃないか。」
「覚えていてくれたんですか。光栄です。」
そういって帽子を脱ぐ男は以前アムロがはじめてプラントに訪れた際にνガンダムを預けた工場の主任だった。それを見届けたデュランダルは
「それでは私はこれで失礼する。シンとアスランは機体のところに専門のスタッフがいるから詳しいことはそこで聞いてくれたまえ。アムロ君の機体はこことは違うハンガーに置いてある。主任に付いて行ってくれ。」
そう言うとミーアを残して去っていった。シンは早足で機体の近くで立っているスタッフの下へと急ぐ。アスランはミーアに腕を捕まれ引っ張られるようにレジェンドの方へと
歩いていった。主任がアムロに声をかける。
「では、我々も行きましょうか。」
アムロは振り返らずに聞いた。
「主任、時間は少しあるか?」
主任は少し考えたが正直に答えた。
「ええ、今日はアムロ大尉にMSをお渡ししたら自分はほかに用事はありませんので…」
「そうか。ところであの二機、どういう機体か知っているか?」
また怪訝な表情で正直に答える。
「資料で見たくらいですが…それが何か…あ!!」
気付いたときはもう遅かった。アムロは嬉しそうな顔で主任を見ると簡単に予測できる言葉をかける。
「じゃあ、見て行こうか。説明してくれよ。あの二機を。」
「ええ?そんな…νガンダムのところへ行かないんですか?」
「自分が指揮する部隊のMSの性能くらいちゃんと把握しとかないといけないだろう?今がいいチャンスなんだ。分かるよな。」
(うそだ…絶対自分が見たいだけだ…)
しかしもうこうなったら逆らうだけ無駄というのは初対面のあとザクに乗り込んだという話を聞いたのでわかっていた。意気揚揚と歩くアムロに対しとぼとぼと後ろを歩く主任。
まずはデスティニーへと向かう。怖もての面構えの上に背中にはごてごてとした羽が生えている。羽の後ろには折りたたみ式の武器が2本付いている。アムロは主任に聞いた。
「この機体はどういうコンセプトなんだ?機体特性は?」
「ええとZGMF-X42Sデスティニーですね…ミネルヴァに搭載されていたインパルス、その特性はご存知ですよね。」
「ああ、確か一機のMSが装備を換装することであらゆる戦局に対応する、だったか。」
「そのインパルスの三つのシルエットをひとつにまとめたのがこの機体なんです。一機のMSで何の換装等も無しにあらゆる戦局に対応する、と言うことですね。
ああ、ちなみに換装すると言う発想自体は三年前に確立されていました。連合のストライクって機体なんですけど、もう半ば伝説と化してるんですがね…そういえばストライクEって後継機が出たって聞きましたねえ…見てみたいなあ…」
乗り気でなかったくせにやはり技術者はこの手の話になると聞いていないことまで喋ろうとする。アムロはせきをすると
「少し話がずれているぞ…それじゃああの背中の折りたたんである武器は長距離砲と近接武器か?」
「そうです。しかもそれだけでなく運動性もかなりのものらしいですよ。セカンドシリーズ、いや、今まで出ている全てのMSでもトップクラスらしいです。」
コックピットからシンが顔を出した。
下にアムロがいるのに気付き
「隊長、この機体すごいですよ!インパルスの比じゃないです!見てみますか?」
そう言うとコックピットから降りてきた。アムロは断るはずも無く頷くとシンと入れ替わるようにコックピットへと入っていった。メインスイッチを入れると少し暗めのトリコロールに機体が染まる。センサー類が作動し始めOSが立ち上がる。詳しく見てみるとインパルスに入っていたプログラムの多くがインストールされている為手直しなど必要ないようだ。
しかも出力がインパルスと段違い。かなりの高性能機であることは明白であった。コックピットを出るとシンとまた入れ替わる。
「どうでした!?すごいですよね!」
「ああ、いい機体だな。シン、しっかり慣れておけよ。」
そう言うと今度はレジェンドへと向かう。ミーアがそれに気付き声をかけてきた。
「隊長さ~ん!どうです?アスランのMS、かっこいいでしょう?星をしょってるみたいで。」
そう言うとミーアは自分の星の形をした髪飾りを人差し指で指す。
(ここまでガンダムタイプが続くとお腹いっぱい気味だが…)
そう思ったがミーアの顔を見るとそうも言っていられない。
「ミーアさん、そうだな…かっこいいな。しかしあのとげとげはなんなんだい?」
「…ドラゴン?システム?だったっけラグーンシステム?あれ?」
「ドラグーンですね。Disconnected Rapid Armament Group Overlook Operation Network SYSTEMの略でD.R.A.G.O.O.N。
分離式統合制御高速機動兵装群ネットワークシステムの事で、要は無線で制御する分離式の小型砲台です。一昔前は人並み外れた空間認識能力が必要だったんですが、
インターフェイスの改良でだいぶ普遍的になりました。」
「サイコミュで制御するファンネルかインコムみたいなものか…」
「え?サイコ…何ですって?」
「サイコ、”ミュ”」
「サイコ”ミュ”?」
「ミュ」
「ミュ?」
二人でミュ、ミュ言ってる雰囲気に飲まれたのかミーアも交えてミュ?、ミュ、ミュ?と三人が言いつづけるのは異様な光景だった。コックピットからその光景を見ていたアスランは
(…なんだ…?あれは…?新しい挨拶か何かか?はやってるのか?”ミュ?”後でシンに言ってみよう。)
そう結論を出すとすごすごとコックピットの中に戻っていった。三人はミュ、ミュと言うのをやっと止め、機体の説明を受ける。ミーアが説明しているのでどこまで本当かどうかはわからないがファンネルもどきをつけている機体であることとミーアの美的センスにど真ん中ストライクなのは存分に分かった。
アムロはやっと満足し、自機の元へと向かうことを決めるとミーアに挨拶し、主任と共にデッキを去っていった。その後アスランはコックピットから降り、外部端末で調整を始めた。しばらくするとシンも降りてきて隣の端末で調整を始める。アスランは意を決し、さっき三人がしていた挨拶をすることにした。
「シン…」
「ん?なんですか?」
「ええと…その…ミュ!!」
「はあ?」
「だから、ミュ!!」
あきれながらシンはアスランに言う。
「何言ってるんですか?なにか変なもんでも喰ったんですか?」
「知らないのか?”ミュ”今流行ってるらしいぞ。」
「…そんなんだれも使ってませんよ…どこでつかんだんです?そんなガセ。そんなん使ってたら馬鹿と思われますよ。止めてください、こっちが恥ずかしくなりますんで。」
アスランは顔を真っ赤にしながら端末を信じられない速さで叩く。しかしその計算の殆どがミスしているのにしばらくたってから気付いた。お互いの間にぎこちない空気が漂っていた。