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Last-modified: 2010-03-27 (土) 10:35:49
 

失いし世界をもつものたち
第29話「ロンデニオン共和国」(前編)

 
 

 ヘリオポリスを視認出来る位置に来て、私はここ数日の逃走劇にようやく収束が付いたかと感じ、安堵した気持ちになる。

 

「何とか無事に辿り付けましたね」

 

 作戦参謀のトマス・ウィラー中佐が、努めて明るく言った。しかし私は気の緩みからか反射的に口を滑らしてしまった。

 

「ああ、そうだな。あまり無事とは言い難いかもしれんが」

 

 私の言葉の端に、護衛部隊将兵の犠牲とランチ撃墜等の被害を読み取ったウィラーも目を細める。ただウィラーの言葉には、ここ数日ほど重かった雰囲気を打破しようという意図があっただろう。
 反射的とはいえ下手な応答をしてしまったな。中佐に対して申し訳なく感じてしまう。そこに第3戦隊先任参謀代行のオルトヴァン・ジェスール少佐が、意を決したように口を開く。

 

「司令、あえて申し上げます。被害に関して言えば、あの状況下ではむしろ僥倖でした。閣下やアムロ大隊長ら幹部が無事だったことが、今回における不幸中の幸いといえるかと考えます」

 

 あえて不興を買ってでも直言する、この男の芯の強さに好感を持つ。元々は私のミスだ。気を遣わせるわけにはいくまい。

 

「いや、わかっているよ、少佐。ウィラー、すまなかったな」
「とんでもありません」

 

 私は話を切り替える事にした。

 

「スミス中尉の容態はどうか」
「とりあえず小康状態ですな。しばらくは入院の必要があります。まぁ、あのお調子者には良い薬でしょう」
「フ、そうかもしれんな」

 

 一同に困ったような笑いが広がる。

 

「ともかく、その間はオルトヴァン少佐に職務を代行させよう。今の第3戦隊に参謀が必要というわけでもないからな」

 

 その言葉にオットー艦長も苦笑で応じる。

 

「確かに実質主計業務を任せている状況ですからな」
「自分は助かっていますがね。何せ事務仕事の消化率が、赴任以来最高レヴェルです」

 

 普段は寡黙な副長のボーリンネア中佐が肩をすくめると、オルトヴァン少佐だけでなく、その言い様に笑いが吹き出す。ようやく空気が軽くなったな。

 

「さて、私は食事を取ってくる。君たちも順次取ってくれ、その辺りは艦長に任す」
「承知しました」

 

 オットー艦長が了解の敬礼をする。私は艦橋を去り食堂へと向かうと、その途中エレベーターを降りたところで、アムロと出くわした。

 

「ブライト、食事か?」
「ああ、アムロも付き合え」
「わかった」

 

 しばらく互いに無言のまま、ハンドグリップで進んでいき、食堂へと向かう最後の角を曲がったところで、アムロが口を開く。

 

「ブライト、ラクス・クラインはどうするつもりだ?」
「正直に言って、扱いに困っている。成り行きからこうして行動を共にしているが、まさかヘリオポリスに匿うわけにもいかないだろう」
「そうだな、拡大ユーラシアから使節は来るし、あのアズラエルに知られると厄介だな」
「そういうことだ。そも、これ以上厄介ごとの種を増やしたくないというのが本音だよ」

 

 グリップを離して入り口に立ち、ドアが開く。食堂に入るとまずはメニューに目をやる。何を食べようか。
 私は艦内時間が昼という事もあり、ハンバーグ定食にすることにした。アムロはチャーシュー麺の食券を買う。その行動を見て私は話を続ける。

 

「その辺りはコロニーに着いてから幹部と話そう。ま、向こうも我々にそこまで寄りかかるつもりもないようだしな」
「そこはシャアの功績かもな」
「珍しいな?アムロ」
「茶化すなよ」

 

 プラント離脱後に、ラクス・クラインと今後について話し合っていた事を思い出す。

 

 ※ ※ ※

 

「それで、今後どうされるおつもりですか?」
「私としても不本意な形でプラントを出たことは確かです。我々としては、ザラ議長を説得するつもりでしたが、ラウ・ル・クルーゼに先手を打たれた形になってしまいました」

 

 その辺りの事情も詳しく聞いていなかったな。オルトヴァン少佐が問いただす。

 

「しかし、何故クルーゼという男はシーゲル議長の暗殺とザラ議長の暗殺未遂をもくろんだんですか?プラントの目的は自主独立であったはず。
 先日にランズダウン侯爵が演説で述べた提案は、交渉に入る価値のある内容であったと思うのですが。もちろん私はこの世界に来たばかりで、この世界の詳細な事情に通じていないところがあると思いますけれども」

 

 彼の疑問は、我々のほぼ全員が共有しているとこだ。結局のところ、ラクス嬢ではなく、バルトフェルド隊副官のマーチン・ダコスタから説明が行われた。
 この男は、まだ共に行動した時間が少ないにもかかわらず、どうにもラクスという少女を偶像崇拝の対象か何かとして扱っているような印象を受ける。おそらく、王制でもない退任した前元首を執事でもないのに、その娘を含めて様付けで呼んでいることからだろう。

 

「クルーゼが何を考えているのか、実のところ全くわかりません。ただ、わかっていることは、今回のザラ議長暗殺未遂事件を企画したという事です。こうなるとシーゲル様も彼の可能性があります」

 

 やや突拍子もない言い様に、作戦参謀のトマス・ウィラー中佐が苦笑気味に指摘する。

 

「それは少し憶測に過ぎるのではないか?逃げ回る中で、あまり細かい事情を聞いていないから、君たちのやっていたこと全て教えてもらっていないという事はあるが」
「おっしゃることはわかります。プラントにおいて、クルーゼが焚きつけたことしかお話していませんからね。我々は、ロンド・ベルの皆さんに接触を試みる事しかしてなかったわけではありません。シーゲル様を暗殺の前後関係についても調べていました」
「それで?」

 

 ウィラーは両手の腕を組み、椅子に背中を預け、その先を促す。

 

「暗殺事件の時、警備責任者はクルーゼでした。我々も当初はザラ議長に近い彼が警備を担当することに疑問を持ちませんでした。普段から彼がプラントにいるときは責任者でしたから。
 ですが、先のホテルの件で大使館員を焚きつけたという事実を把握した直後に、ヴァレリア・マッケンジー女史を焚きつけたことが判明しました。その行動を考えると、囮の用意と警備関係者に刺客を紛れ込ませる事は可能です」
「それは少し君のバイアスが懸かりすぎていないか? ザラ議長の件はクルーゼである可能性はわかる。けれども、シーゲル・クライン前議長暗殺事件は証拠不十分だ。可能性にすぎない。
 例えば、クルーゼがザラ議長の指示で動いているのかもしれない。自分を狙ってもすぐにSPが動くという事を織り込み済みでな。なんといっても彼は一連の騒ぎで得をしている人物のひとりだ。私には保守、というより右派政治家に見えたからね」

 

 限られた状況下で判断を強いられたことはわかる。実際に、その判断のおかげで我々は命拾いをしたのも確かだ。しかし、ウィラーも言うように拙速に過ぎはしないか。ダコスタ君は続ける。

 

「中佐の意見はわかります。ザラ議長の経歴を考えれば、そういう考え方は出来ます。しかし、それだけではありません。彼はいわゆる主戦派という立場で、ザラ議長がシーゲル様と対話に応じることに反対している経緯があります。
 議長は対立があってもシーゲル様に対して、同志である姿勢をこれまで捨てたことはありません」
「その経緯も芝居の可能性はあります。加えて言えば、それも状況証拠です。それだけでは訴追できないと思います。但し、お国の法律が異なるかもしれませんが」

 

 オルトヴァン少佐が指摘する。確かに我々と異なる法体系の可能性もあるな。そこにそれまで黙っていた、アンドリュー・バルトフェルドが口を開いた。

 

「そこは変わりませんよ。ですがね、状況証拠はかなり黒に近いグレーであることを示している。加えてザラ議長の件です。このタイミングで動かなければ逆に我々も身動き出来ません。
 国内では我々の協力者達が、その辺りの証拠を押さえるべく尽力しています。また、僕は放送業界にコネクションがありましてね。今頃は各種疑惑の一斉報道で大混乱ですよ。
 それにザラ議長との因果関係までは得られないからこそ、クルーゼを突くことで揺さぶりを掛け、様子を見るのです」
「そりゃ、貴方の言い様はわかります。だが今回の動き方では、それこそ国内の中立勢力の取り込みも困難になりませんか? タイミング的に我々との内通を疑われかねない」

 

 オルトヴァン少佐には、彼らの行動が軽率に過ぎるように感じているようだ。私も彼に近い印象を持ったが、命の恩人である。その事に対する感想は控えた。クワトロ大尉が発言した。

 

「そのあたりは判断の問題で、我々が何を言っても仕方が無いだろう、オルトヴァン少佐。むしろ、私の関心は君だな、ラクス・クライン。今回の行動は君の意志かね?」

 

 列席者の中で、おそらくキラと同じ最も若い少女に視線が集まる。少女はまっすぐにクワトロ大尉に視線を送る。

 

「父は誰よりも私を愛してくださいました。私は父を失い、しばらく何も考えられませんでした。
 ですが、クルーゼ隊長がザラ議長を暗殺しようとしていることを知り、このままでは世界がより混迷に向かうことになると思いました。それを知り、何か出来る立場にあったのです。
 そこで、まずは行動することに決め、平和を作るという目的のために動こうと考えたのです。それに対して、どのようなことになるかまだわかりません。ですが、このままで良いわけがないのです」
「私もクライン前議長とは対話してその人柄には、信頼出来るものはある。だが、君には残酷な言い方だが、開戦の当事者であり、戦争序盤における大量の犠牲者を生んだのは、彼のサインによるものだ。
 君は大量殺戮者の娘としての批判を受け、なおも平和を求めるのか?」

 

 エイプリルフール・クライシスでもっとも犠牲となったのは、貧困層であると聞く。それもそうだろう、富裕層は対応出来るだけの余力があるが、いざ危機が起きると対応出来ない下層民衆が最もわりを被るものだ。
 ダコスタ君が凶悪な表情をする。クワトロ大尉は意に介せず、平然と続ける。

 

「君たちが本当に行動していくのであれば、そうした問題と向き合わねばならない。そして、ラクス・クライン、君がその集団の中心にいる以上は、君がこれからどうするのかを示さねばならんのだ。
 今後、君達は様々な勢力と対話していくだろう、我々ともな。まさか我々におんぶというわけでもないだろう。その中で明確なビジョンやプランが無いのであれば、我々とも共にあることは出来んよ。
 願望だけで動く連中と共にあるのは、我々にとってはリスクが大きすぎる」

 

 再びラクス嬢に視線が集まる。クワトロ大尉は彼女とその一党を値踏みしているのだろうか。アムロがクワトロ大尉の言葉に複雑な表情を見せる。
 ただ、ラクス嬢に対しては何か考えることを促しているようにも見えるので、口には出すことはなかった。

 

「父は、10億人もの犠牲者に心を痛めていました。自分が大量虐殺にサインをしてしまったと。そのようにシャア総帥とよく話していたことを私も見ていました。
 だからこそ父は協調による世界を志向していたと思います。私はその父の意志を受け継ぎ、戦争を終わらせる努力をしなければならないのです。
 たとえ大量殺戮者の娘と言われようともです。そのために独立勢力になる覚悟もあります」
「業を背負うか……」

 

 クワトロ大尉の声に感慨に近いものを感じる。父親であるジオン・ズム・ダイクンを思い起こしているのだろうか。私はともかくも、彼女たちに今後のことを伝える。

 

「あなた方のお考えはわかりました。しかし我々も綱渡りを求められている状況です。無条件に受け入れられる状況にはありません。ヘリオポリスへの入港は許可しますが、その後のあなた方の扱いについては、こちらも正式な手続きの後で返答したいと思う」

 

 結局のところ、彼らの扱いは事実上保留と言う事になった。ただ、クワトロ大尉との対話から、我々と合流しないという方向に持って行けた面もあると思う。もちろん、まだ確定とはいえないが。

 

 ※ ※ ※

 

「ブライト?」

 

 アムロの声で、私は現実に気持ちを戻された。

 

「すまん」

 

 私の考えていたことに察しが付いたのだろう。アムロが箸をトレイに乗せながら話す。

 

「ラクス・クラインの思いは本物だよ」
「アムロ……。そりゃ俺もそう思わないでもないが」
「彼女はピュアなんだよ、だからナイーブな感覚が強く見える。ただ状況とか諸々も含めて、周りが急ぎすぎるのさ」
「まったく、俺が言うのも何だが、子供に頼りすぎている。困った大人たちだ」

 

 我々は各々の食事を受け取ると、適当な席を探す。すると、キラとレーンが食事をしている光景が目に入った。先日の戦闘後を思い出す。
 プラント離脱後にキラは、兵士達の犠牲に自責の念を抱き、彼らの死に涙を流して悔しんでいた。

 

「僕が、あんな提案しなければ、みんなは、みんなは……それに僕は肝心なときに銃をうまく扱えなかったんです、レーンさん……。生身の人間相手に躊躇ったから……」

 

 そんな彼を、レーンが一喝したのだ。

 
 

「いい加減にしろ!!自惚れたことを言うんじゃない!!!」

 
 

 ビクッとするキラにレーンも、少し悔し涙を見せる。

 

「レーンさん……」
「あいつらはプロだったんだ。おまえよりもよっぽど陸戦経験もあったし、訓練もしていた!!
 そのあいつらが責任持って支えてくれると言ってくれたんだ!!! 任せる事は当然だ!!!
 だから、あいつらが帰ってこなかったのは……少しばかり運がなかったにすぎないんだよ!! 誰が悪いとか、そういう事じゃないんだ……」

 

 キラは拳を握りしめて悔し涙を流す。そして謝り続ける。

 

「……すみません、すみません」
「謝るんじゃない!! おまえがちゃんと自分の考えで意見を言ったことを誰も恨んじゃいねえよ。
 だから、謝るなよ。あいつらは俺たちを守ることが任務だったんだ。
 軍人が自分の任務に誇りを持ってやったことにおまえの言い方じゃ、まるで泥を塗っている!」
「すみません、そういうつもりはないんです。でも……」
「つもりがないのがわかっているから、怒鳴るだけにしているんだ!
 ……くそ、何が『レーンの坊や』だ、『ニュータイプ』だ……
 馬鹿野郎、あいつら俺の方が階級は上だってのに、しかも20も半ば過ぎているのにガキ扱いしやがって……」

 

 彼も、この数日かなり冷やかされていたからな。いや、普段から交流もあった兵もいただろう。
 私はアムロと目合わせ頷き会うと、2人のところに歩き出す。ふたりともばつの悪い表情をする。

 

「大丈夫か?」
「アムロ中佐……すみません」

 

 レーンの肩にアムロが手を置く。私は自分のハンカチをキラに差し出す。

 

「キラ、とりあえず顔を拭け」
「ブライト司令……」
「途中からだが、話は聞こえていたよ。レーンの言う通り、君が自責の念を負う話じゃあない。
 だが、ひとつの決断がこういうことも招くことは確かだ。だから、君自身の決断を軽んじないでくれ。
 君の意見は、間違いと断言出来る類のものじゃない。
 ただ、彼らのためを思って泣いてくれるなら、自分の部屋で泣く分には止めはしない」

 

 そこにラクス嬢がやってきた。

 

「キラ、大丈夫ですか?」

 

 ラクスがキラに寄り添う。心配しているようだった。

 

「ラクス……うん、ありがとう。少しひとりにしてくれないかな」
「キラ……」
「ごめん……後でご飯でも食べよう」

 

 そういったことを思い出していると、我々の視線に気付いた2人が、立ち上がり敬礼する。
 私は他の将兵達も含めて楽にさせ、ふたりの前に座る。アムロが声を掛ける。

 

「少しは元気になったか?キラ」
「はい、ご心配をお掛けしました」
「心配されるのは少年の特権だと思って良い」

 

 あまりにも年寄りじみた物言いに、私は自然と笑みがこぼれアムロを冷やかす。

 

「そうだが、おまえも段々年寄り臭くなるな」
「だから茶化すなよ」

 

 レーンとキラも吹き出す。私はふたりの食事に目をやる。レーンがクスクスを食べているのに対して、キラは金目鯛の煮物を食べている。

 

「君は随分若者らしくないものを食べるな」
「甘いものが好きなんです」
「そりゃ、煮物は甘いが、そういう甘さに好みがいく少年も珍しいぞ」

 

 キラが顔を赤らめ照れている脇で、レーンも応じる。

 

「そうですよ。そもそもこういうのが、この艦のレパートリーにあることも驚きですが、10代が好んで食べるものじゃない。
 それにしても司令も煮物について色々あること、ご存じなのですか?」
「ふむ、実は退役した後はレストランでもやろうかと思っていたんだ。それで、少しだが勉強している。それに妻が日系でね、よく作ってくれた」

 

 前者の言葉に心底意外そうな顔を見せるレーンとキラに対して、アムロは後者の言葉に惚気を読み取ったようだ。

 

「ミライさんは料理上手だものな」

 

 アムロの冷やかしに、私は笑って応じつつも、いまは異界にいる妻のことを思うと不意に寂しいもの感じてしまう。
 そして、心に残るハサのことも。アムロがそうした感覚に気付いたようだ。すまないという表情を作る。全くニュータイプという奴はこういう時に困る。

 

 しばらく談笑していると、そこに、ロミナ・アマルフィがニコル君と共にやってきた。彼女は、ばつの悪い顔をしている。
 それというのも、彼女は数日前に、改めて取り乱して私に気持ちをぶつけてきたのだ。

 

 ※ ※ ※

 

 それは、少し抜け殻な彼女を心配したニコル君が私に相談してきたので、時間を作り彼女に話しかけた時のことである。
 彼女は押さえていた激情を私に叩き付けてきたのだ。

 

「あなた方が、あなた方が来なければ、こんなことにならずにすみました!!!」

 

 私の頬を強烈にはたいたのである。私は慌てるニコル君や、周囲の人間を右手で押さえる。そして、やりきれない感情を両手に込め、私の胸を叩く。

 

「私には何を言う資格もありません。気の済むまで私を叩いて下さい。夫人」
「……いえ、違うのです。提督、貴方にこうしてあたることが、いまの私に出来る事で、それが理不尽なことだっていう事もわかります。
 でも、駄目なんです。貴方がニコルを救ってくれていることもわかっているのです……でも」
「構いません。貴女の言い様は正しい。戦争では貴女のような人がいつも割りを食うのです。
 貴方がこうして私に怒りを叩き付けることは全面的に正しいのです。
 寿命以外で人間が死ぬことは、それも人間の手によって命が失われることは、正しいあり方じゃない」

 

 私は両手で、私の胸を叩き涙を流し続ける彼女を抱きしめた。
 ニコル君と同じエメラルド色の髪の毛から香るシャンプーの甘い薫りに、年甲斐もなく胸がドキドキすることを自覚し、ミライに申し訳ないと思った。

 

 ※ ※ ※

 

 そんなことを思い出していると、彼女から声を掛けてくる。恥じらう表情は可愛いなと思う。アムロやレーン、キラも少し顔を赤くしている。
 その雰囲気にニコル君は苦笑している。よくあることなのか。

 

「ブライト司令、この間はすみませんでした」
「いえ、かまいません。どうですか共に食事でも? ニコル君、君もどうだ?」
「はい、ご相伴にあずかります」

 

 プラントへの旅は失うものも多かったが、コーディネイターという我々に取って異質な存在が、なんてことはない、全く変わらぬ人間の所行を見ることが出来た。
 そのことは彼らをブルーコスモスの言う異種生命体としてではなく、物事を思考する人間として捉える上では良かったと思う。
 特にニコル君やキラ、レーンが楽しげに会話しているのを見ると、人の可能性というものを信じていいと思う。
 そうだろう、ハサウェイ。

 
 

 ――中編へ続く――

 
 

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