CCA-Seed_427◆ZSVROGNygE氏_33-2

Last-modified: 2012-02-09 (木) 03:43:26
 

失いし世界をもつものたち
第33話「揺れ動く世界の中で」(後編)

 
 

クワトロ大尉の意見に各々が考え込む。

 

「我々が積極的に今時大戦に関わり終戦に絡むか・・・そんなことが出来るだろうか?」

レディング中佐が、疑問を呈する。こういう時真っ先に慎重論を唱えるのは、彼の役割だ。

 

「レディング艦長の言うことはわかる。
 だが我々には、事実上この世界において最強クラスの武装と練度を有する武力がある。
 そして、現段階において首脳部の意思統一も万全で、体制も揺るぎない。
 なにより実力以上の虚像がある。
 つまり国力で言えば、大西洋連邦とEEFには対抗出来るわけがないし、
 プラント相手でも厳しいというのが現状だ。
 しかし、我々はこの世界においてファンタジーな存在ゆえに、実力以上の役割を求められる」

 

その言い様にあるものは苦笑し、あるものは肩をすくめる。

 

「今回の作戦を持って、連合は戦争のケリを付ける為に、大規模な軍事行動に出るだろう。
 その時に受け身であったらどうだ。
 確実にかつてのロンド・ベルや木馬のような扱いになろう。ならば、我々は主体的に動いても良いはずだ。
 我々はこれまで、嫌々ながらも注目もされ、利用されようとしてきた。
 EEFは、今のところ誠実な相手ではあるが、結局のところ、我々の戦力と技術に期待している。
 この際、その期待に応えることで、発言権、特に作戦計画への参加を求めるのだ。
 受け身に危険な作戦に加わるよりかは、虚像を利用して戦局に関わり犠牲の少ない形で終戦を迎え、
 改めて帰還のためにどっしり腰を据えるべきだと思う」

 

次第に列席者から苦笑が消えていく。
シャアと呼ばれてきた男は、我々にある種の覚悟を求めているのだ。

 

「勘違いしないで欲しい。私は諸君らに戦うマシーンになれと言うつもりはない。
 この数ヶ月を顧みるに、戦争が終わらない限り帰るための算段を考える余裕がないという事実だ。
 考えてみて欲しい、今回の作戦までに我らがしたことと言えば、拠点の拡充整備だけだ。
 帰還の算段などに取りかかる余裕など、全くなかった。
 今後もこの戦争に付き合わされるのであれば、早期終結に協力すべきだと思う」

 

一同、特に転移者たちは複雑な表情で沈黙する。その中でコンタリーニ中佐が口を開く。

 

「私は元々軍人だ。政治家ではない。状況を打開する手段として、軍事力を行使するのに不満はない。
 だが、政治って奴はそう単純なものではないこともわかるつもりだ。
 つまり貴官は、事実上安定した状況を迎えられそうなこの段階を持ってなお、
 元の世界に帰るためにこの戦争に関わろうというのか」
「そうだ」
「結果として、異世界の骨を埋めることになってもか」
「いたずらにではなく戦略目標を持って行うと言う事だ。
 今のままでは結果として、何も成し得ずに異世界に骨を埋めることになりかねない」

 

そこで、意外な男が赤い彗星の言葉に同意を示す。アムロ・レイだ。

 

「シャアの意見には、聞くべき点があると思う」
「中佐・・・」

 

意外そうな声を漏らすのは、隣に座るメランだ。
彼は艦長ではないものの、実質のところ私が不在の時は艦長代行を勤める機会があるので列席している。

 

「では、この戦争に介入していくことに、中佐も賛成なのか」

 

問い詰めているものの、メランの言葉遣いは、何となくではあるが、かつての言い方に戻っている気がする。
対等ではないが、戦友として親しみを含んだ暖かみがあるように思えた。

 

「俺はシャアのいう意見だけでなく、もうひとつの危険要因について考えないといけないと思う」
「ラウ・ル・クルーゼか」

 

ハルバートン少将が応じる。

 

「そうです。彼の行動はみんなもわかっているように、もはや振り切れている。
 しかもそのためになら何でもするだろう。それにはこの戦争をとことん利用もする。
 少なくともこれを排除しない限り、俺たち自身の安全にも障害になると思う」
「そうだアムロ、加えて言えば、彼は現議長の側近でもある。しかもその議長は強硬派なのだ。
 陰謀はそれだけでは成り立たないが、立場と権限、そして意志があれば案外あっさりと動く。
 前回のプラントの一件のように、今後も扇動や蠢動することは十二分にある。
 それがこの世界に生きている我々に、良い影響を与えるとはこの場の諸君も思わないだろう。
 ならば、彼の排除を行う必要がある。
 それはすなわち、この世界への関わりを深めなくてはならんと言う事だ」

 

クワトロ大尉は、アムロの意見にかぶせてさらに自説を展開して見せた。
私は憮然とせざるを得なかった。
彼に、というよりも、腹立たしい現実を認め無ければならないということに。
私の沈黙を思索中と受け止めたのか、一同も思い思いに考え込む。
そこに、意外な人物が発言の許可を求めてきた。
キラ・ヤマトである。

 

「僕は、クワトロ大尉の言う事に賛成です」
「キラ君」
「ヤマト少尉・・・」

 

アークエンジェルで共に行動したふたりの女性が、驚きと共に彼を見る。
特にバジルール少佐にとっては、意外な光景であろう。

 

「あの人の言い方は、憎しみに塗れていました。
 そして、悪意の固まりで行動しているようにも感じます。
 僕やフラガ少佐だけではなく、不条理な物事全てに対してです。
 あのひとはそれを利用して、ここまで世界をメチャクチャにしたんです。
 僕は決してそれを許せないし、何とかしなければならないと思います。
 少なくとも、この戦争を終わらせるには必要な事じゃないかという、
 アムロさんや大尉の意見が正しいと思います」

 

自らの意志を開陳するキラに、私がその意を問おうと考えたとき、
キラと付き合いの長い異邦人の男がそれをする。

 

「キラ、それは憎しみや怨念で言っているのか?」
「アムロさん。僕は、否定されたからという事ではなく、父さんに対しての仕返しという事でもなく、
 この世界に生きるひとりとして、あの人のやり方を認めてはいけないと思うんです。
 僕がこうして生きてきた理由や目的なんて、まだ見えている訳じゃない。
 結局、憎しみなどないといえるほど、気持ちは整理できていません。
 父さんにしたことは許せませんし、僕に対してのあの気持ちに対して普通じゃいられません。
 でも、僕はこの1年近い時間を通して、守りたいと心からいえるものが出来てきました。
 だから、世界がメチャメチャになって欲しくない。
 だから、あの人と戦って勝たないといけないと思うんです」

 

その言葉に対して、私が口を開くより早く、かつてキラの意志を罵倒したピレンヌ艦長が再び尋ねた。

 

「勝つことで、君の守りたいものが守れるのか。
 かつて君は争いの源を断つとまで言って見せた。
 いま、あれから多くのものを見て、考えた上で君の求める守りたいものは、何か」

 

キラは、はっきりとピレンヌ艦長の目を見据えて言って見せた。

 

「僕は、僕をこうして受け入れてくれる人々の・・・まだ青臭いと言われるかも知れません。
 僕が何であろうと、こうして受け入れてくれたみんなが笑って暮らせる場所を守りたい。
 そして、それが僕らのいるロンデニオン共和国だけじゃなく、
 この世界全てがそうなって欲しいと思います」

 

ピレンヌ艦長は、青臭さに肩をすくめつつも孫の成長を喜ぶ祖父のような表情をみせた。
シニカルな笑みだが、決して冷たいものではない顔だ。
フラガ少佐やラミアス艦長は、もっと暖かい表情である。私は改めて思う。
少年が大人になるのは、人や社会、教育、それらをひっくるめて環境なのだと。
私は、キラの成長に対する喜びと、ハサの迎えた結末に対する言い様のない気持ちで、
ピレンヌ艦長とはまた別の表情を浮かべていたと思う。
私は自分の思考に頭を振り、キラの覚悟を確認した。

 

「キラ、君が目指すものは、かつて君が述べたものよりも重いぞ」
「はい」

 

ここでそういえるのは、若者の特権だな。
今度こそ私は暖かな笑みを浮かべることが出来たと思う。
それを見て、クワトロ大尉が発言する。

 

「ブライト司令、司令の意見を聞かせて欲しい」
「私は・・・」

 
 

※※※

 
 

艦橋にアムロが報告に上がってきたことで、私は思索の海から帰還した。

 

「ブライト、いいか」
「なんだ?」
「例のジェガンとリゼルの件で、報告したい」
「ああ」

 

アムロの報告するところによると、装甲面ではまだ改善の余地はあるが、
充分に運用に耐えられるとのことだった。
一方で技術者や参謀から指摘されているが、装甲よりも不安要素はヘリウム3などのエンジンの材料が、
安定的に供給できるか否か、という点である。
アムロはそれを踏まえ、むしろ性能を犠牲にしてでも
当面はバッテリーを予備に搭載していた方がいいかもしれないという。
確かに、今はまだにせよ、そのうちEEFも融合炉を本格運用すれば月面のヘリウムだけではとても足りない。
直ちに資源は枯渇する。それに対する解決策が、例えば我らの世界における木星開発であろう。
しかしながら戦時ではそちらへ余力を回すことなど不可能であるし、
仮に戦争が終結しても安定供給までは時間がかかる。
建造に目処が立ったとしても、依然として綱渡りにはかわりはないか。
それでも、食料生産すらままならない状況ではなくなっただけマシか。
全く別の問題で自分を慰める事に思わず苦笑いをしてしまう。

 

「ブライト?」
「いや、人間の社会というのは、高度になるほど面倒でいかんな」
「そうだな」

 

アムロも言わんとすることはわかったのだろう。肩をすくめて苦笑いをしてみせる。
苦笑いをひとしきり済ませると、やや自分に言い聞かせるように、艦橋の外の虚空を見つめて言う。

 

「俺たちは、帰るその時までこの世界で生きていかなければならない」
「アムロ・・・」
「だから、まずは終わらせる。
 巻き込まれっぱなしだが、この戦いが終わらない限り落ち着いて調べることも出来ない。
 だったら、奴の言うように嫌でも積極的に終わらせることに荷担しないとな」

 

主体的に世界に関わるか。ハサ、今の俺をおまえは何というのだろうな。
夢の中でおまえは逃げたといった。
本来あるべき世界で主体的に動かず、本来いるべきではない世界で、
自らが世界を失って始めて主体的に動く俺をどう見るのだろうか。
目を閉じ、浮かび上がるハサは、肩をすくめているように思えた。
私は諸々の感情と共にため息混じりに愚痴る。

 

「間抜けな話だ」
「俺たちらしいといえば、らしいじゃないか。一年戦争以来、好きこのんで戦争なんてしたことあったか?」

 

私はその言葉にいよいよ苦笑させられる。その苦笑は艦橋全体に広がっていった。

 
 

第33話「揺れ動く世界の中で」end.

 

 

【次回予告】

 

「道具は用い方だよ」

 

第34話「ボアズ攻略作戦」