CCA-Seed_98 ◆TSElPlu4zM氏_第13話_前編

Last-modified: 2007-11-10 (土) 17:42:10

 戦艦の中で一番忙しい部署は厨房だろう。戦いに明け暮れる兵士と言えど、食わなければ死んでしまうのから。
 アークエンジェルは、乗り込んだ人員に比例するように、厨房を支える者達も少なかった。代わる代わる食事を取りに来る者たちがやって来る。休みなども他のクルーに比べれば、少なく多忙さを極めていた。
 いつもの如く、数人のスタッフによって食事の仕込が進められていたが、今日は少し違っている。
 理由は、地球軍の士官用のスカートと少年兵用の制服、そしてエプロンを身に纏い、淡いピンク色の長い髪をポニーテールにしたラクスの姿がある事だった。

「いかがでしょうか?」

 ラクスは煮込んでいたスープをカップに注ぐと、年配の男性に両手で差し出す。
 男性は片手で受け取り、スープを軽く口に含む。数回に分けて飲み干すと感心したような顔つきになる。

「ああ、上出来だ」
「ありがとうございますぅ!」
「ね、私にも貰える?」

 ラクスが褒められた事に顔を綻ばせると、二十代半くらいの女性が興味有りげに言った。
 ラクスは女性にもスープを勧めると、カップに口を付けると驚いたような表情をした。

「本当に本格的な料理初めてなの?」
「お菓子やお茶意外は、簡単な物しか作った事がありませんの。でも、スープは家で、たまに作っていましたから」

 ラクスは、柔らかい微笑を称えながら答えると、女性はラクス自身に興味を持ったのか、思った事を口にする。

「へぇー、素人にしても器用な物ね。もしかしてコーディネイターだからか?」
「違いますわ。コーディネイターも人間ですから、何でも器用にこなせる訳ではありませんわ」
「そうか」

 女性も嫌味で言った訳ではないと分かっているのか、ラクスは一度首を振り、微笑を絶やさないまま、キッパリと言うと、感心したような言葉が男性の口から出て来た。
 ラクスは男性の言葉を耳にすると、満足するように両手を合わせながら微笑む。

「それにしても、お料理って本当に楽しいですわ」
「ま、ここは軍艦の中だから、出来合えの物に手を加えるだけだが、乗ってる連中にすれば楽しみの一つでもある訳だし、喜んでもらいたいからな。期待は裏切れんさ」
「はい!美味しい物を食べると、人は笑顔になりますもの。それは、私も同じですわ!」
「本当、あなた、楽しそうねぇ」

 男性は、料理が楽しいと言ったラクスの言葉が嬉しかったのか、満足げに口を開く。
 ラクスは、男性の言葉に瞳を輝かせると、嬉しそうに同調した。
 そのラクスの姿に、女性は少し可笑しそうに笑う。

「ハハハッ!そうか!もたもたしてると腹を空かせた連中が来るからな。とっととやっちまうか」

 男性はラクスの子供のような目の輝きと言葉に、満足げに笑うと厨房のスタッフを見据えながら、口を開いた。

「――はい!」

 ラクスを含む、他のスタッフも男性の言葉に頷くと、各々の持ち場で仕込み再開されたのだった。

 
 
 
 

 アークエンジェルのブリッジでは、マリューが少し渋い顔をしていた。
 マリューが渋い表情をしている理由は、ラクスの申し出にあった。
 ムウとナタルの進言もあり、ラクスは居住区を自由に歩く事が出来るようになると、散歩して回ったのだが、結局の処、話相手はハロ以外におらず、暇を持て余す事となった。
 そんな時に手伝いをしている少年達を見て、何か思いついたのか、ラクスは自ら手伝いを申し出たのだ。
 マリューからすれば、大変有り難い申し出だったのだが、ラクスの立場を考えれば受け入れる訳にもいかず、一度は断ったのだが、再度の申し出に条件を付ける事としたが、迷ったのが、ラクスに何をさせるかだった。
 一人で掃除をさせたり、ブリッジの手伝いをさせる訳にもいかず、結局、厨房で刃物を使わない事と、艦内の風紀も考慮して制服を着用する事を条件にラクスに了承してもらう事となった。
 そんな事があり、マリューは今更ながら後悔をしていた。

「それにしても、本当に良かったのかしら……」
「いいんじゃないの。人手も足らないし、手伝ってくれるって言ってんだからさ」
「それはそうですが……」
「これで基地に着いたら何されるか分からないんだ。少しは楽しませてやってもいいだろ?艦長だって、そう思って許可をだしたんだろ?」

 ムウが気楽な表情で口を開くと、ナタルはマリューと同様の表情を見せた。

 実際の処、マリューの心中ではムウの言うように、ラクスが本部に到着した後に受ける仕打ちに、後ろめたさがあったのは言うまでもなかった。

「……ええ」
「……でも、何かあってからでは……」

 マリューは、ムウの言葉に迷ったように答えると、自らの進言が事の切っ掛けではないかと悩むナタルは、言葉尻を濁す。

「おいおい。厨房の連中だって銃くらいは携帯してるんだ。何かあっても女子供くらい、どうにか出来るさ。まぁ、最も、あのお姫さんが何かやるようには見えないけどな」

 ムウは、煮え切らない二人に呆れたように口を開くと、マリューは頷く。

「……とりあえず、様子を見ましょう」
「……そう……ですね」

 艦長のマリューが同意した事で、ナタルは頷く他なかった。

「そんじゃ、俺は格納庫に行くわ。後、ヨロシクー!」
「あ、はい」
「は!」

 その場の意見が決まった事で、ムウは笑いながら軽い感じでブリッジを後にする。
 気後れするようにマリューが返事をすると、ナタルと共にムウを見送った。

「はぁ……。フラガ大尉、整備にでも?」

 ムウが出て行くと、マリューは溜息を吐き、ナタルに聞いた。
 ナタルはマリューの問いに真剣な表情で答える。

「いいえ。キラ・ヤマトの訓練ですよ。彼が自ら申し出たんです」
「キラ君が!?」
「はい」

 ナタルは先の戦闘で自らの覚悟を決める切っ掛けとなったキラに対して、覚悟を決めた者同士としての仲間意識が多少なりとも芽生えたのか、少し微笑むように頷く。

「……そう」

 元々は自分がストライクに乗せてしまったが為に、戦う事となったキラを想うとマリューの心は苦しくなった。
 しかし、ナタルはマリューの心の内など知るはずも無く、再び真剣な表情をすると口を開いた。

「……艦長。キラ・ヤマトをはじめ少年達は皆、協力的です。臨時とは言え、志願兵として扱うのが望ましいと思いますが」
「だけど、それじゃ……」
「例え非常事態でも、民間人が戦闘行為を行えば、それは犯罪となります。それを回避する為の措置としても、有効かと思いますが」

 マリューはナタルの最もな意見に頭を悩ませる。
 ――あの子達を戦争に巻き込んでおいて、私は……。彼等が死ぬ事があれば、私の責任ね……。
 苦々しい表情をしながらも口を開く。

「……分かりました。少し考えさせてもらえる?」
「はい。……あと、……アムロ大尉の事で、ご相談があるのですが……」

 ナタルは頷くと、何とも言いにくそうな表情になった。
 あれから、色々と考えてみたのだが、良い考えが浮かばず、上司であるマリューに相談する事にした。
 それによって、マリューは、もう一つ悩みを抱える事となる。

 
 
 
 

 アスラン達、訓練校時代の教官でもあったレイ・ユウキを隊長とした捜索隊は、ユン・ロー隊と連携して、捜索が行われていない宙域の捜索を行っていた。
 元来、ザフト軍特務隊FAITHの隊長であるユウキが出て来る事など、非常に稀な事で、それ程、逼迫した事態だと表している。
 数機のジンが間を空けながら、宇宙のゴミが漂う中、何かを捜すように飛んで行く。
 ジンのコックピットで、アスランは焦りながらも見落としが無いように、モニターの隅々まで食い入る。しかし、目的の物は見つからない。

「――くっ!どこにいるんだ!」

 アスランは苛立ちながら、他の場所にメインカメラを向ける。
 既に、この宙域で捜索に入って六時間近くが経過していた。
 ――ラクスが乗っていたのは民間船とは言え、それなりに大型の船だったはずだ!いったいどこに?
 心は焦るばかりで、嫌な汗が出てくる。
 ――辛そうな、お顔ですのね……。
 シルバーウインドが出港する前にラクスと交わした会話が思い出される。

「……俺は……君の言う通り、きっと……辛そうな顔をしているんだろうな……。だから……ラクス――」

 アスランは、ヘルメットのバイザーを上げ、汗を拭うと自然と口が開く。表情は言葉通りの物だった。
 アスランが言いかけた、その時、スピーカーから通信が流れ込んで来る。

「――入電!ユン・ロー隊が、シルバーウインド号を発見した。現在、船内を捜索中との事。各機、至急、向かわれたし!場所は、ポイント――」
「見つかった……のか!?」

 シルバーウインドが発見の報に気が緩んだのか、しばし、呆然と耳を傾けてしまうが、まだラクスの無事を確認した分けではない。
 ――ラクス、さん、無事に見つかるといいわね……。
 フレイとの別れの際の言葉が、頭の片隅でアスランの今の願いと重なる。

「――ラクス、無事でいてくれ!」

 アスランはジンのバーニアを最大まで吹かすと、シルバーウインドの見つかったポイントまで向かう。その間も、祈るような想いで操縦桿を強く握っていた。
 やがて、モニターの中央に小さくだが、シルバーウインドの船体が映る。移動しつつも、メインカメラで最大まで拡大する。

「――なっ!?」

 ボロ雑巾のように破壊されたのシルバーウインドの姿にアスランは絶句する他なかった。
 ブリッジは撃ち抜かれたような穴が開いていた。船体の所々もかなりの攻撃を受けたのか、原型を留めているのが不思議なくらいだった。

「……いったい誰が!……どうしてなんだ!?何故、罪も無い人達が攻撃を受けなければならないんだ!?」

 操縦桿を握る手が怒りで震える。誰がこんな酷い事をしたのかと、心の中では色々な感情が渦巻いた。

「――くっ!……ラクスは……、ラクスは無事……なのか?」

 アスランは、無理やり感情を押さえ込むように、気持ちを切り替える。そう簡単に変わる訳ではないが、そうでもしなければ、自分自身が爆発してしまうような気がしていた。
 ラクスの名を呼びながら、シルバーウインドへと取り付こうとすると、アスラン達、捜索隊の母艦であるナスカ級戦艦から通信が入る。

「――船内探索は、ユン・ロー隊が行っています。休息と補給の為に帰艦してください」
「――こちら、アスラン・ザラ!酸素もエネルギーも充分残っている。そのまま捜索を続行する!」
「――アスラン・ザラ!帰艦してください!」

 アスランは帰艦指示を無視し、シルバーウインドに取り付こうとすると、再度、指示が来る。
 帰艦した処で、落ち着かないのは分かっていた。それなら捜索をしていた方がマシだし、ラクスを見つけない事には、気が落ち着くとは思えず、指示を無視をした。

「――アスラン、艦に戻れ!」
「――しかし!」

 捜索隊の隊長であるユウキの声がジンのコックピットに響く。
 アスランは戸惑いながらも反抗するような声を上げるが、ユウキの諌めるような声がスピーカーから響いて来る。

「君は、ここに着いてから良くやっている。モビルスーツに乗り続けて、休みも取ってないだろう」
「――まだラクスが……ラクスが見つかってないんです!お願いします!」
「……分かった。好きにするといい」
「――はい!」

 ユウキも、ラクスがアスランの婚約者なのは当たり前のように知っている。婚約者がこのような事態に巻き込まれているのだ。懇願するアスランに同情し、頷いた。
 アスランは返事をすると、シルバーウインドに取り付き、ジンを離れ、船内へと入って行く。
 船内も酷い状況で、所々で生きていた者の亡骸やその一部だった物が漂っていて、アスランは、あまりの光景に目を背けそうになるが、吐き気を堪えながらもラクスを必死に探す。
 そうしてる間に、先に船内の捜索を行っていたユン・ロー隊のパイロットのオープン通信が入ってきた。

「――駄目だ、全員死んでる!――生存者ゼロだ!」
「――なっ!」

 そのパイロットの言葉は、ラクスを必死に探すアスランを絶望の淵に追いやる物だった。
 アスランは崩れるように両膝を着いた。

「――了解!乗船していた人数と合っているか?」
「――いや、この有様だ。そこまでの確認は無理だ。……外に放り出されてたり、体が無くなっててもおかしくないからな……」
「――脱出した形跡は?」
「――荷物用のハッチも酷くやられていて確認は不可能だ」

 パイロットと船とのやり取りは、そんなアスランを更に打ちのめす物だった。

「――そ、そんな……ラ……クス……うっ、うう……」

 アスランは両膝を着いたまま、両手を着き泣き崩れる。涙の粒が珠になり、ラクスの記念日ごとにプレゼントしたハロのようにヘルメットの中を漂っていた。

 
 
 
 

 プラントにあるザフト軍本部の一室。照明は薄暗く、不気味な程だった。
 革張りに椅子に腰を掛けたパトリックは、アークエンジェルを見失い、アルテミスの周辺宙域を探索していたガモフと捜索隊からの報告を聞いていた。

「捜索隊ですが、シルバーウインド号は何者かの攻撃を受けた模様で、生存者は今のところ……ゼロとの事です」
「そうか。捜索隊は引き続き、生存者の捜索と遺体の収容に当たらせろ。で、ガモフは何と言って来てるのだ?」
「ユニウスセブン宙域より離脱した地球連合軍ユーラシア連邦所属のドレイク級艦二隻を拿捕したとの事です。もう一つなんですが、地球軍艦艇が新型艦を捜索している模様との報告が入っています」
「…それで?」
「現在、ガモフは敵艦のデータの洗い出しを行っているとの事です」
「分かった、下がれ」

パトリックは一通り報告を聞くと少し考えるような仕草をすると、壁に目線を向けた。

「攻撃を受けたと言うが……どう思うクルーゼ?」
「当てがあるとすれば、ロストした新造戦艦か、ガモフが拿捕した地球軍艦艇のどちらかかと思いますが」

 目線の先にはクルーゼが直立不動で立っていた。不気味にも、暗闇に白い仮面が際立って見える。
 パトリックはクルーゼの意見が、自分の考えと同じだったのか、頷くと、理由を聞く為に口を開く。

「……どうして、そう思う?」
「アルテミスが近い事を考えれば、巡視艇などがいてもおかしくはありません。新造戦艦にしても機密保持の名目で攻撃した可能性も考えられます」
「やはりそう考えるか。貴様なら、この事態をどう乗り切る?」
「シルバーウインドが攻撃を受けてから、大分時間が経過しています。もしも、攻撃を行ったのが、あの新造戦艦ならば、今から追撃した処で、捕捉するのは不可能です」
「……かと言って、見す見す逃がす訳には行くまい」

 クルーゼの言葉に、パトリックは何かを考えながらも、良いアイデアが浮かばないようだった。突き刺すような視線がクルーゼに向けられる。
 クルーゼは二歩程、前に出ると口を開いた。

「それならば、帰るべき箱を壊してしまえばいいだけの事です」
「……どう言う意味だ?」
「向かう先は月基地」

 パトリックがクルーゼを睨みつけるが、臆する事無く攻撃目標を口にした。
 クルーゼが示した攻撃目標に一瞬、絶句するが、あまりにも馬鹿げた話に声を荒げる。

「攻めろと言うのか!?今は、それだけの部隊が展開してはおらんではないか!」
「足つきの追撃に失敗したガモフ、地球周辺に展開している巡視艇及び捜索隊を衛星軌道上に囮として集結させ、敵艦隊を引っ張り出し、手薄になった月基地を足の早いナスカ級とモビルスーツ叩く形となりましょう」

 クルーゼは淡々と自らの考えを言ってのけた。その言葉は、自信に満ち溢れた物だった。
 パトリックは疑うような目つきで、厳しい視線を投げた。

「……貴様、本気で言っておるのか?」
「既に、シルバーウインドが攻撃を受けた事で、名目は立ったと思いますが?」
「……勝算は?」
「……我らがアイドルと兵士の士気……次第かと」
「……」

 クルーゼは口を歪ませるように微笑む。
 パトリックはクルーゼの意図する事が理解出来たのか、無言で考える。
 ――危険な賭けにはなるが、確かに、それならば兵士や国民に戦意高揚を謳う事が出来る……。

「……パトリック・ザラだ。最高評議会議長に繋いでくれ」

 パトリックは緊急で最高評議会のメンバーを招集させる為にシーゲル・クラインに電話をしたのだった。

 
 
 
 

 キラはストライクのコックピットの中で、懸命にジンを追っていた。攻撃しても、そう簡単にビームは当たらず、四苦八苦する。
 マーカーがジンを捕捉すると、間髪入れずトリガーを引く。

「――当たれ!」

 ビームが当たるとジンは爆発を起こす。キラは、すぐにストライクの方向を次のジンへと向ける。
 その時、スピーカーを通じて、アムロの声が響いた。

「いい感じだ。欲を言えば、相手の攻撃に対処するだけではなく、相手の攻撃を読んで回避しつつ、攻撃を仕掛けるんだ。出来るだけ視野を広く持て。キラ、出来るか?」
「はい!やってみます」

 アムロのアドバイスに頷くと、ストライクのコンソールを弄り、シミュレーターを再起動させる。
 モニターが一度、ブラックアウトすると、再び宇宙空間が映し出され、ジンが、襲い掛かってくる。
 キラは牽制でビームを撃つと、ジンは左右に振りながら回避する。単調な回避行動を繰り返すジンに、本命のビームを撃つと、今度は違う回避行動に入り、意図も容易くビームを避けて行った。

「――避けられた!?」

 キラは自らも大きく回避行動に入り、相手の動きのパターンを読み取りながら、マーカーがジンを補足するのを待つ。

「――そこ!」

 マーカーがジンを捉えると、タイミングを見定め、ジンに向かってトリガーを引いた。

「――あ、当たった!」

 敵機が爆発するとモニターが消え、ストライクのコックピットカバーが開くとアムロが顔を覗かせる。
 アムロの顔を見たキラは、大きく息を吐いた。

「ハァ……。こんな感じ……ですか?」
「まだまだだが、初めてなら上出来だ。こう言う事は経験が物を言うからな。今は仕方がないさ」
「経験ですか……」

 アムロは時折、笑顔を見せる。身を乗り出すようにして、上半身をコックピットの中に流し込んだ。
 キラはそんなアムロを見ながら、汗を拭った。
 キラに巧く伝わるようにと、アムロは少し考えると、言葉を選んで、感覚的な物を伝える。

「ああ。そうだな……感覚的には、装甲ごしに殺気や気配を感じるような物だな」
「……装甲ごしに?そんな事、出来るんですか?」

 キラは想像が出来ないのか、不思議そうな顔をした。

「フラガ大尉も出来るから、生き残っているんだろう。キラも経験を積めば分かるようになるさ」
「……はぁ。……僕なんて、まだまだですね」
「キラは、まだ経験も浅い。訓練も受けてなかったんだ。そう焦る必要はないさ。キラ次第ではあるが、ストライクの特性を巧く生かせれば、今以上の戦い方が可能になる」
「僕次第……ですか?」

 アムロやムウと比べる事自体、間違っているのだろうが、キラは自分が未熟なのを実感する。
 そんなキラを見て、アムロは気を落とすなとばかりに、肩を叩くと身を乗り出した状態で、コンソールのスイッチを押し、ストライクの機体データをモニターに表示させる。

「ああ。PS装甲は実弾を無効化出来る優れ物ではあるが、反面、エネルギーの消費が激しい。被弾率を下げればエネルギーの節約にも繋がる」
「要は当たらなければいいって事ですね」

 今度はストライクの戦闘データを表示させると、キラはモニターを見ながらアムロの言いたい事を理解する。
 アムロは頷くと、ストライクのキーボードを引き出すと、器用にも逆さの位置でキーを叩く。

「そうだ。戦闘に慣れれば、被弾しそうな時だけPS装甲を展開させる事も可能だろう」
「はぁ……自信がないです」
「実際、出来るかは俺も分からないが、要は慣れだ」
「慣れ……ですか」

 キラは大きく溜息を吐き、少し肩を落とす。
 アムロは、そんなキラを見て元気を出せと促すと、キーボードを叩く手を止めた。

「それにしても、何回か戦闘をして感じたのだが、こちらの世界のモビルスーツは射撃をする時に、わずかだが動きが止まるようだな」
「待ってください。……はい。確かにプログラムされていますね」
「……無駄な動きは命取りになる。今は、狙いも全てオートにしているだろうが、細かい狙いはマニュアルでコントロール出来るようになるのが理想だな」
「マニュアルでですか!?」

 アムロの言葉に反応するように、今度はキラがキーボードを凄いスピードで叩き、射撃プログラムを開いて内容を確認する。
 モニターにプログラムが表示され、アムロも確認する。
 アムロは少し考え込むとキラを見据えながら言うと、キラは驚きの表情を見せた。

「そうだ。オートでは避けた相手を追う事しか出来ないが、細かい射撃が出来るようになれば、相手の動きを予測した箇所にピンポイントで撃ち込める。分かるか?」
「はい。無駄弾を使わなくて済みますね。やってみていいですか?」

 キラはアムロの言う事に頷くと、気分を切り替え、再度、シミュレータープログラムを起動させる。

「相手を捕らえてトリガーを引く前までは、オートで構わないからな。……キラ、気負い過ぎるな」
「はい!ありがとうございます」

 アムロはアドバイスをすると、気負いすぎてると感じたのか、心配そうな表情をしながら、コックピットから離れた。
 キラは心配してくれるアムロに礼を言うと、コックピットカバーを閉じ、シミュレーターをスタートさせた。
 アムロがストライクの足元に降り立つとムウがやって来る。

「どんな調子?」
「まだ、始めたばかりだからな……」
「気長にってとこかな?」

 アムロとムウは、キラが乗るストライクを優しげな目で見上げた。
 微笑みながらアムロは口を開く。

「素質は十分過ぎるくらいだ。そのうち物にするだろう」
「そりゃ、俺達もうかうかしてらんねえなぁ」

 アムロの言葉にムウは、茶化すように笑う。
 二人は、教えを請う弟子に色々と戦う術を伝授していくのだった。