CCA-Seed_98 ◆TSElPlu4zM氏_第19話_後編

Last-modified: 2008-05-11 (日) 03:01:05

「――腕をやられた!?まずい!」
「――待て、キラ!」

 今のキラに選択肢はアークエンジェルに向かう他は無い。キラはイージスを無視するかの様にストライクのスロットルを全開に開いた。
 ――今の僕じゃ、アスランには勝てない……。
 キラは自分の未熟さに唇を噛んだ。
 アスランは、キラが逃げの一手を取るとは思わず、ストライクに一瞬、置いていかれる形となったが、すぐにバーニアを噴かして追いかけ始める。
 そこへ、イージスへの攻撃を知らせるアラームが鳴り響いた。

「――ちっ!攻撃だと!?」

 アスランは、イージスを捻る様にしてメビウスから発射されたミサイルを回避すると、イーゲルシュテルンで弾幕を張りつつ、ストライクを追おうとするが、二機のメビウスがイージスの邪魔に入る。
 その間にストライクは、更にイージスとの距離を引き離しに掛かる。ストライクにメビウス一機が近付いて来ると、通信が入った。

「――ストライク、援護する!離脱してアークエンジェルへ向かえ!」
「――済みません、お願いします!」

 キラはメビウスのパイロットに頷くと、真っ直ぐ前だけを見詰める。
 メビウスは旋回をするとイージスへと向かって行く。

「――チョロチョロと!」

 アスランは、正面から向かって来るメビウスに怒りをぶつけるかの様にサーベルで切りつけた。メビウスは正面から両断され爆発を起こす。
 イージスは残り二機のメビウスを無視し、全力でストライクを追いかける。
 その追いかけられているストライクのコックピットには、補給艦からの通信が入って来た。 

「――ストライク、聞こえるか?」
「――あ、はい、聞こえます!こちらストライクです!」
「分かっていると思うが、アークエンジェルは補給艦隊直下にて降下態勢に入っている。降下するまでは、我々が盾と成る。急げ!」

 恐らく補給艦の艦長、直々にストライクに声を掛けたのであろう、ストライクのスピーカーから聞こえる声は威厳のある物だった。
 キラは目の前で、三隻の補給艦が並ぶ様にしてアークエンジェルの盾代わりの役目をしているのを確認する。

「ありがとうございます!ご無事で!」

 キラは、盾代わりと成っている補給艦に敬礼をすると、その間を通る様にしてアークエンジェルへと向かう。
 それを見たアスランは、この距離では追いつくのは難しいと判断するとイージスを変形させた。

「――逃げるな!キラ、止まれ!」

 モビルアーマーへと変形したイージスは、正面中央に砲門がある五八〇ミリ複列位相エネルギー砲"スキュラ"を足止めの為に、ストライクではなく補給艦へと向けて発射した。
 イージスから発射された光の帯は、中央の補給艦に直撃し爆発を起こす。

「――うわっ!」

 加速を掛けていたストライクは爆発の衝撃を後ろから喰らい、アークエンジェルとは違う方向へと飛ばされ、地球へと落ちて行く。
 攻撃をしたアスランからすれば、ただの足止めのつもりが予想外の事態と成り、落ちて行くストライクを目にして、名を叫んだ。

「――キラー!」
「――まずい、このままじゃ!」

 コースが逸れたストライクを必死に戻そうと、キラは歯を食い縛りながら操縦桿を握るが、爆発の影響で加速が付き過ぎた機体は、重力に引かれコントロールさえままならない。
 ダメージを受けたストライクで、このまま落ちれば爆発の危険もあった。
 
「――このイージスなら!」

 キラが死んでしまっては、追いかけて来た意味など無くなってしまう。
 アスランはキラを助けようと、イージスの性能を頼りにスロットルを開き、イージスが急激な加速を掛けるが、その時、突然、コックピットに声が響いた。

「――イージス、止まれ!」
「――!?俺の邪魔をするな!」

 イージスを追う様に、二機のジンが近付いて来ていた。その内の一機は、イージスを追っていたメビウスと戦闘を行い、撃墜こそしたが、自らも被弾し、片足が失っていた。
 アスランは制止の声を振り切り、キラを助けようと更に加速を掛けようとするが、二機のジンはイージスに組み付く様にして、動きを止めに掛かった。
 イージスのコックピットを激しい揺れが襲う。

「――うっ!」
「――ふざけるな!お前の命令違反で、どれだけの味方が死んだと思っている!」
「――!」

 動きを止められたイージスのコックピットに、ジンのパイロットの怒鳴り声が響くと、アスランはその意味に息を飲んだ。
 ヘリオポリスで戦死したミゲルの顔が脳裏の浮かぶ。
 アスランは戦闘中の力強さが嘘の様に抜け、その肩を落とした。

「分かったら、戻れ!」
「……俺は……俺はただ……うっ、うっ……くそっ!」

 ジンのパイロットの厳しい声が再び響くと、アスランは涙を零し、操縦桿に思い切り拳を振り下ろして叫んだ。
 この後、イージスとジンが帰艦し、両軍共に艦を後退させていた事で、地球衛星軌道上での戦いは幕を閉じる事となった。

 地球、ザフト両軍の戦闘は幕こそ引かれこそしたが、地球に降下中のアークンジェルのブリッジでは、戦闘の時よりも慌しい状況にあった。
 それも、イージスの攻撃により、補給艦の爆発に巻き込まれたストライクは大きくコースを逸らす事となり、戻るに戻れない状態となっていた為だった。
 
「フェイズスリー!融除剤ジェル展開!大気圏突入!」

 艦の舵と握るノイマンが、アークエンジェルの大気圏突入を告げると、船底から灼熱の赤いヴェールは船体包んだ。摩擦熱の影響で、外装温度が一機に上昇して行く。
 今の所、誰一人、ストライクとνガンダムの帰艦を確認はしては居ない。

「――キラとアムロはどうなっている!?」

 仲間が帰艦していない事を心配したムウの声が、スピーカーを通してブリッジに響いた。
 ナタルがモニターを通して、アークエンジェルと同じ様に赤いヴェールに包まれたストライクを見つけると声を上げた。

「――あっ!ストライクが!」
「キラ……」
「キラ!」
「キラ君!」

 全員が固唾を飲み、ストライクに乗るキラを名を叫んだ。
 ストライクは単独でも大気圏突入が可能とは言え、見た所、左腕を失いダメージを負っている。機体が不完全な状態での大気圏突入は、あまりにも無謀に思えた。
 ストライクを見詰める中、パルの声がブリッジに響く。

「――νガンダム、後部甲板に着艦!」
「――よし!ストライクは、あのまま降りるの気か!?」

 ナタルは拳を握ってνガンダムの帰艦を喜ぶと、パルに向かってストライクの状況確認をする。
 パルは顔を顰めながら、モニターに出て来る結果予測を口にした。

「本艦とストライク、突入角に差異!このままでは降下地点を大きくずれます!」
「ええ!?」
「――キラ!キラ!戻れないの?艦に戻って!」

 マリューは、パルから齎される結果予測を耳にし、驚きと焦りで顔を歪ませると、ミリアリアは慌てながらストライクに通信を繋ごうと声を上げた。
 それを見たナタルがモニターを見詰めながら、苦汁の表情で呟く。

「……無理だ!ストライクの推力では……もう……」
「艦を寄せて!アークエンシェルのスラスターならまだ……!」
「――艦長!?」

 マリューは、ノイマンに向かってストライクに艦を寄せる様に指示を出すと、諦めかけたナタルは驚いた表情で苦い顔をしている上官の顔を見詰める。
 まだマリューは、ストライクを助ける事を諦めてはいなかった。それを見て、ナタルは何か感じ取ったのか、顔を引き締める。
 指示を出されたノイマンは、額に汗を浮かべながら、無茶な指示を出すマリューに対して声を張り上げる。

「しかし、それでは艦も降下地点が!」
「――ストライクを見失ったら意味がないわ!早く!」
「――まだストライクは無事なんだ!早く艦を寄せるんだ!」
「ええぃ……」

 マリューとナタルが、ノイマンに向かって立て続けに怒鳴り声を立て続けに飛ばす。
 当のノイマンは眉間に皺を寄せ、厳しい顔つきで舵をストライクの方へと倒した。
 灼熱の赤いヴェールに包まれたアークエンジェルは、戻る事の出来ないストライクを助ける為に、巨大な船体を近付いて行った。

 青い星に赤いヴェールに包まれながらストライクは落下して行く。
 灼熱のコックピットの中で、キラはこの局面を乗り切る為に、コンソールに大気圏突入のマニュアルを写し出していた。
 熱さの為に滝の様に汗が流れる。キラは必死に操縦桿を握り、暴れる機体を安定させようとした。
 そうしていると、正面モニターに赤いヴェールに包まれたアークエンジェルを見つける。

「――!アークエンジェルが寄せてくれてるの!?」

 キラは、この状況でも助けようするアークエンジェルに驚きながらも、心の中で感謝するが、モタモタしていれば、焼け死ぬ可能性の遥かに高い。そうなってからでは遅すぎる。
 アークエンジェルは、徐々にモニターの中央へと近付いて来た。
 
「……これなら行ける!」

 キラは助かると確信を持つと、軽くスロットルを開いた。ストライクは徐々に加速を始めるが、その代償に装甲表面温度が見る見る上昇して行く。
 アークエンジェルの後部甲板には、膝を折り曲げて佇むνガンダムの姿が見えた。

「お願いだから届いて――!」

 アークエンジェルに近付いて行くストライクの中でキラは叫んだ。
 必死に操縦桿を握るキラは、段々と大きく見えるアークエンジェルの船体に向かってストライクの右手を伸ばした。 

「――キラ、掴まれ!」
「ハァ…ハァ…あ!アムロさん!」

 アムロがνガンダムを立たせ、近付いて来るストライクに向けて手を差し伸べる。
 キラは、νガンダムに向け必死に手を伸ばす。そして、両機に手ががっちりと握り合うと、ストライクはアークエンジェルの後部甲板へと両足を着地させた。

「――ストライク、着艦!」
「やったぁ!」
「キラ君!」
「キラ!」

 ブリッジにパルの声がストライクの帰艦を知らせると、全員が歓声を上げた。
 ナタルは、喜ぶ少年達やクルーを見ながら大きく息を吐いて、マリューに笑顔を向ける。

「……ふぅ。……やれやれですね」
「……そうね」

 マリューも、ホッとした表情を見せると苦笑いを浮かべながら頷いた。
 アークエンジェルはその白い船体を赤く照らしながら、人類の母たる星に降りて行った。

 自分に宛がわれた部屋に一人佇むラクスは、ベットに座り、扉が開けられるのを待っていた。この扉が開く時、それは戦闘が終了した事を意味する。
 部屋でこうしている間にも、色々な事が脳裏を過ぎり、自分がどうすればいいのかと頭を悩ませていた。
 しかし、年端も行かない少女に答えは早々見つかる物でも無く、ただ全員の無事を願うばかりに終始するばかりだった。
 扉の方から、トリィとハロの声が聞こえて来る。

「――トリィ」
「テヤンディ!チキショウ!」
「――?なんですの……?」

 ラクスは俯いていた顔を上げ、不思議そうな表情でトリィとハロを見詰めた。
 トリィが扉をつつくと、ハロが扉に体当たりをして弾き返される。

「……扉……ですか?」
「トリィ」
「……開けるのですか?」

 トリィが再び扉を突付くと、ラクスは腰を上げて扉に近付き、試しに開閉スイッチを押してみた。
 すると、扉は空気が抜ける音と共に横へと開いた。

「――あ!」
「トリィ」
「マケタクナーイ!」
「あ、ピンクちゃん!」

 ラクスが驚いていると、トリィとハロは待ってたとばかりに勢い良く部屋を飛び出して行く。
 それを見てラクスは慌てるが、自分が部屋を出ては不味いのは分かっているつもりだった。
 しかし、扉が開いたにも関わらず誰も顔を見せないのを不思議に思ったラクスは、おずおずと顔を扉の外へと出してみる。見張りが居たはずだが、誰も立ってはいなかった。
 
「あ、あのーぉ、お部屋を出てもよろしいですかー?」

 ラクスは良く通る声で、誰も居ない通路に向かって呼び掛ける。当たり前だが、誰の返事も返って来る事は無かった。
 小首を傾げてトリィとハロの後姿に目を向けると、ラクスは部屋を出て追いかけ始める。

「ピンクちゃん、鳥さーん、待ってくださーい!」

 ラクスはトリィとハロを追いかけて走っていると、時々だが小さな揺れが襲い足を取られそうになった。
 その事で、未だ戦闘中なのかと思いながらも必死に追いかけると、トリィとハロは展望デッキへと入って行った。

「――はぁ、はぁ……展望デッキですか……?外はどうなってるのでしょう……?」

 ラクスは息を切らしながらも、トリィとハロと同様に展望デッキへと入る。
 いつもと違い重力がある事に気付くが、そんな事よりも戦闘の事が気になり、シャッターが下ろされた窓を見詰めた。
 そうしていると、シャッターが上がり始め、窓のには霧がに立ち込めていた。

「――えっ!?ここは……一体!?」

 その光景にラクスは驚きながら窓へ近付いて行き、片手で窓へと触れると、突然、霧が晴れ、そこには青空が広がっていた。
 空と海の切れ目が遥か彼方に見える。アークエンジェルの下には海、そして、その先には大地が見えた。

「……綺麗……。ここは地球……ですか!?」

 ラクスはその美しい光景に目を取られ、記憶に焼き付ける様に眺め続ける。そうしていると、デッキが僅かだが揺れる。次の瞬間、光を遮る様に影がラクスに落ちる。
 見上げると、アグニを抱えたνガンダムが、バーニアを噴かしながらカタパルトデッキへと帰艦して行く姿だった。

「――モビルスーツ!戦いは終わったのですか……!?キラ、キラは!?」

 ラクスはνガンダムの帰艦を目撃して、戦闘が終了した事を感じ取った。そして、その戦いに参加しているキラ姿を必死に捜した。
 再び、ラクスに影が落ちると、左腕の肘から先が無くなった灰色のストライクが姿を現す。
 「あのモビルスーツにキラが乗っている」と教えるかの様にトリィが鳴いた。

「トリィ」
「――あ、あのモビルスーツは……キラ!?キラですか!?」

 ストライクの機体の損傷を見て、キラが怪我をしてるのではなないかと思ったのか、ラクスは顔色を青褪めさせる。
 そして、後退りながら窓を離れると展望デッキを飛び出し、格納庫へと走って行ったのだった。