CCA-seed_787◆7fKQwZckPA氏_09.5

Last-modified: 2010-11-11 (木) 14:48:13

『地球に住む者は自分たちのことしか考えていない。だから抹殺すると宣言した!』
赤い鬼のようなMSが地球を指さして、自分に銃を向ける。
後ろには紺色のボディと金の装飾の入ったMSが追従しており、このMS達は自分の敵だとわかった。
しかし、何でこんな夢を? 彼にはわからなかった。自分が何を操縦しているのか。
自分が帰還した、見覚えのある艦の名前は何なのか。居並ぶダガー似のMSは何なのか。
ブリッジで自分が話しているこの男は誰なのか。
その男の声も知っているが、顔はハッキリと出て来ず朧気だ。

 

急に場面は変わって、コロニーの端と思しき場所で人々の死骸が目の前に広がっていた。
自分は泣いている女の子の頬をはたき、避難するように告げている。
この少女は、誰だっけ? 脇に抱えた資料は何だ?
そして、ZAFTのザクにそっくりなMSが周囲に弾丸をまき散らし、自分は横たえられたGタイプに滑り込んでいる。
宇宙にでて、そして、コロニーに迫るMSと、赤いザク。其奴はビームをかわし視界から消えて…………。

 

「…………!? ……かはぁ!」
ファブリスは額に脂汗を浮かべ、ため込んでいた空気をはき出しながら、
身体を覆っている掛け布団を払いのける。またあの悪夢だ。
ユニウスセブン落下事件、『ブレイク・ザ・ワールド』と呼ばれるこの悲劇の後から頻繁に見るようになった。
あの巨大な小惑星の夢も見るようになり、あの赤いザクのパイロットが言った名前も頭にこびりつく。
『アムロ』
彼はそれを振り払うように頬をはたき、起きあがって洗面所に駆け込む。
冷たい水で顔を洗い余計なことは考えないよう努めるが、やはり頭から声が消えることはない。
「ああ、くそ! 忌々しい」
不機嫌な気分のまま軍服を着込み、上に黒のトレンチコートを羽織り廊下に出た。
窓の向こうには小さいがバルハシ湖が見え、手前には軍事物資を運ぶMS達が見える。
詳しい場所は不明であるが、ここは東カザフスタンに設置されたユーラシア連合の軍事基地である。
十月に入って肌寒くなってきており、軍服一枚でいるには少々厳しい。
廊下を抜け、鉄の扉を開くと、外の風が顔や衣服に吹き付け、彼は少し目を狭める。
上着のポケットから色の合った黒い革手袋を取り出しはめ、
顔面の上半分を覆う仮面の位置を調整し、外に出た。
「おい、これで最後か!?」
「いや、まだあるってさ。全く、ファントムペインばっかり何で良いもんまわされんだよ。
こっちはテロリスト共の警戒もしなきゃならんってのに」
基地外の滑走路沿いに、VTOL輸送機が並び、
ストライクダガーや基地の兵士達が文句を言いつつも物資の積み込み作業にいそしんでいる。
荷物はウィンダムの予備パーツや武装一式が入ったコンテナ、
『フォビドゥンヴォーテクス』や『ディープフォビドゥン』のパーツも見られる。
どこからそんなものを持ってきたかという事など、基地の上層部が彼らに教えるはずなど無く、
文句を言うのも当たり前といえた。
このストライクダガーはこのユーラシア連合・カザフスタン地区軍に所属するMSであり、
僻地であるため基地には新鋭機がなかなか廻されないのだ。
良くて105ダガーが配備されているが、ウィンダムは制式量産ががはじまったばかりで、
まだ彼らの言う『良いとこ』にしか配備が決まっていない。
優先的にいいものが手に入るファントムペインへのやっかみがある。
不安なのは、そこからでる感情でこちら側の兵士と衝突を起こしたりする事だ。
ファントムペインは優秀な兵士が多いが、エリート意識が強く、少々鼻にかけた態度が表に出てしまうことが多い。
それ故大西洋、ユーラシア問わず地方の軍兵士との間に軋轢が生まれやすく、
双方のイライラによってしょっちゅう喧嘩が起き、ネオにとっても、彼にとっても頭痛の種となっている。

 

「あ、にーにー!」
「ファブリス、ゲンキ? ファブリス、ゲンキ?」
基地の中には、兵士達のリラクゼーション用の施設がいくつかあるが、
そのうちのストリートゴール用のコートで、少年少女達が勝負に打ち込んでいた。
1on1形式で、今はちょうど良く少年二人がお互いボールを取り合っている。
彼が来たのに気づいた少女、ステラ・ルーシェは手を振って彼に駆け寄り、
その後ろにペットロボ、アッガイがバタバタと付いてくる。
「ファブリス、ワルイユメミタカ?」
脳波を感知したのだろう、アッガイが彼を見上げ、ちんまりしたクローでトレンチコートの裾を引っ張りながら言う。
彼は大丈夫だとかえすと、ひっつこうとするステラを引き離しながらコートを横切った。
アウル・ニーダとスティング・オークレーも彼を見やると『よっ』とでも言いたげに手を軽く挙げる。
そして、彼はコートの端のベンチでぐったりと身を横たえる男のそばに立ち、
「……何やってるんですか? 大佐」
ゼェゼェと息を切らしている31才、ネオ・ロアノークに、冷ややかに声をかけた。
「ハァ…ハァ…、いや……ハァ、アウル達に誘われて。
勇んで……ハァ、彼奴等に挑んだまでは……ハァ…ハァ、良かったんだが……」
「結局、途中から体力が保たなくなったんでしょう? 全く……」
「彼らに張り合ってどうするんですか! いい年してはしゃぎすぎです!」
後ろから大声がしてファブリスは飛び上がり、後ろを見てみれば、セリナが呆れた顔をして、
その手にポ○リス○ットのボトルを持って立っていた。
ネオはゆっくりと身を起こすと、彼女の手からボトルを受け取って、グイッと一口のみ、
「……いや、まさかここまで鈍ってるなんて思ってなかったよ」
そう言って笑った。
「鈍ってるとかそう言うんじゃありません、彼らが特別保つだけですよ」
「そうは言うが、あいつらだってまだ16,7な訳だし……」
そう見苦しい言い訳をしようとするネオに、アウルが横から茶々を入れる。
「ネオは『おっさん』だもんな~」
「お、おっさん言うな! 俺はまだ31だ!」
「え? も う 31? 十分おっさんだぜ」
「アウルぅ!」
ネオはボトルをファブリスに放り、ベンチから跳ね起きるとアウルを追いかけ始め、
アウルは笑いながらゴールポストの下やコート内を駆け回り、スティングは苦笑いしながらそれを見つめている。
ステラは胸にアッガイを抱きながら見守っていた。
「一体何歳なんだ? あの人は」
「いいじゃないですか、賑やかで」
「一応ここは軍隊なんだが……、まぁ、あれがあの人の良いところだな」
羨ましいと思った。自分にはああやって、まだ少年とはいえ部下に当たる子供達に接することは出来ない。
何かこう、『兄貴的な何か』をしてやるというのが基本的に苦手なのだ。
内向的な性格に生まれたことを恨むが、こればっかりは仕方がない。
「大尉」
ふと、セリナが自分の顔をのぞき込んでいた。
「あ、何だ? 中尉」
「一緒にしませんか? バスケ」
突然の申し入れに彼はたじろぎ、数歩後ずさるが、気づけば、ステラとスティングも、期待を込めた目でこちらをじっと見つめている。
やめてほしい。そんな目で見つめられればやりたくなってしまうではないか。
アウルはと言うと、彼らの向こう側でネオととっくみあいになっている。あそこまで行くともはやガキの喧嘩だ。
「いや、でも俺はバスケなんて殆ど……」
「じゃあ教えますから! ね!?」
「いいじゃん、兄ぃも一緒にさぁ」
「にーにー♪」
三人に腕を掴まれ、ずるずるとコートの中央まで引きずられていく。振り払うべきだとは思わない。
翌日明朝には、インド洋に向けて出立するわけで、彼らにとってもこれが一時の休息なのだ。

 

本当は顔を出した後、自室で別のペットロボ『ビグザム』制作にいそしむ予定だったのだが、
ここで彼らに付き合うのも悪くはないかもしれない。

 

「……やれやれ」
スティングがアウルとネオに向かって駆けていく後ろ姿と、
笑顔で自分の腕を引っ張る少女二人を見ながら、彼はこのほんの一時の幸福感に浸っていた。

 
 

数十分後、医務室のベッドが二つ埋まることになるのは、また別の話である。

 
 
 

機動戦士ガンダムSEED DESTINY IF
~Revival of Red Comet~
第9.5話

 
 
 

「大西洋連邦に条約条項の譲歩をさせる!? 可能なのですか!?」
オーブ本国、アカツキ島のアスハ別邸内。ダイニングでの食事時であった。
ラクス・クラインは、目の前の金髪の少女が言った言葉に驚愕し、フォークを取り落とした。
今この別邸には、彼女と、目の前のカガリと、孤児院の子供達以外にはいない。
キラやマリュー、バルトフェルドはもう2,3時間もすれば帰ってくるだろう。
マルキオ導師はオーブ国外に出かけて今はいない。
そのカガリの言うところによれば、
ユウナ・ロマ・セイランが閣議の中で、同盟を叫ぶ老人達に猛反発したのだという。
その中には父であるウナトがいるのにもかかわらず、だ。
「それができるんだ! ユウナがある映像を提示してくれたおかげで、
あちらとも話を付けることが出来るって」
「……映像、ですか?」
「ああ。連合の新型MS、『ウィンダム』のことは……と、ラクスは知らないか……」
ラクスは知らないふりをして誤魔化したが、無論、その名前も姿形も知っている。
105ダガーに替わる新鋭量産機として生産・配備が進められている、
あの『ストライク』をそのまま量産化した機体。
「そのウィンダムが、ユニウスセブン破砕作業の妨害をしているとしか思えない映像を手に入れたんだ」
「………………!?」
ラクスは自分の息を呑む音と聞き取り、サーッと血の気が引いていくのをハッキリと感じ取った。
なぜそんなものがユウナ・ロマの手に渡るのだ?
一体誰が? どこからそんな情報を?
「……誰が」
「む?」
腹の底から絞り出すようにラクスは声を出し、
ミートソーススパゲッティを口にほおばったカガリは、
ソースをまき散らしながらそれを口にすすり込んで彼女に向き直る。
近くにいた子供が飛び散ったソースの餌食になったが、気にせずカガリはラクスに、
「どうかしたのか? ラクス」
「誰が、ユウナにその情報を渡したのですか?」
「……言わなきゃ、ダメか?」
気まずそうに視線をそらすカガリになおも、
「……聞かせてくださいな、カガリさん」
今度はカガリが青ざめる番だった。
底冷えのするような低い声、今までの彼女からは想像できない、恐怖すら感じる声。
カガリは思わず、名前を口にしてしまっていた。
「……あ、アレックスから」
「……アスランが?」
意表を突かれた。
まさか、あの臆病者がそのような大それたまねをしでかすとは思ってもいなかったのである。
「で、彼は今どこにいるのですか?」
「アスランは……今オーブにはいない。プラントに行ってるよ」
「プラントですって!?」
今度こそ彼女は勢いよく立ち上がった。
カガリのみならず、周りの子供達も、その剣幕に椅子ごと後ずさる。
「あ、あら……私としたことが。
ま、まさか、アスランがもう一度プラントに戻るなんて考えてなかったものですから」
「うん、私も最初は驚いたさ。でも、ユウナがとっても真剣な顔で言ったんだ。
『彼は彼にしかできない事をするために、君を守る為に、プラントへ戻ったんだ』って。
彼奴のあんな顔見るの初めてでさ、一瞬ドキッとしちゃったよ。
アスランの見送りもしたかったけど、ちょうどそのころ私はウナト達の所で軟禁状態だったし」
「それで……いいのですか」
「正直言うと、嫌だよ。
でも、アスランもユウナも真剣に、私とオーブの事を、
真剣に考えてくれてるんだって思えれば、また会えればいいかって思えるんだ」
幸せともとれる表情でカガリはそう言い切って、天井を見上げる。なぜか一段と、綺麗な女性に変わっているように見えた。
「今夜はもういいですわ、顔を洗ってきます」
ラクスはそう告げて、ユラリと食卓を出で台所まで歩いていくと、
先程まで自分が調理していたまな板の近くまでフラフラと近づいていき…………

 

ダァンッ

 

手に持っていたフォークを、思いっきりまな板に突き立てた。
ケヤキの木で出来たまな板をそれは貫通し、下のステンレス製キッチン表面まで貫いていた。
ギリギリと唇を噛みしめてうめき声すら上げぬようにし、フォークを握っている手からは血が流れ始めた。
「……アスランめ、余計なまねを」
予定が狂い始めた事が、無性に腹立たしい。
それも、確固とした自分の意見を持たないヘタレと、所詮いいとこの坊ちゃんだと思っていた男によって、
自分の、このラクス・クラインの計画の一端が阻害されたともなれば当然である。
「……こうなれば、何としてでも『完全な条項』の条約に調印させねばなりませんね」
一時の休止を経て、カガリがまた行政府に呼び出されたのを、
玄関先で見送ったラクスは、子供達に二階で遊んでいるよう言いつけると、
一階の固定電話をすぐさま手にとって番号を押し、カツカツとヒールを床に打ち付けながら待つ。
「……私です」
電話に出た男には名乗らせもせず彼女はそれだけを告げた。
それだけ、彼女は焦っていた。キラ達が帰ってくるまであともう少し。
それまでに、何とかしてプランを繰り上げ修正を加えなければならない。
「……!? これはラクス様。一体どのような御用向きで」
「……ヨップさん達に伝えなさい。
『計画を繰り上げる。今夜の内にこの邸宅を襲え』と」
「こ、今夜でありますか!?」
「そうです! 私を失望させないでくださいね?」
「わ、わかりました」
尋常ではない彼女の様子に向こうの男も半分おびえたように電話を切り、
彼女が受話器をおろすのと、キラ達が別邸の玄関を開けるのはほぼ同時であった。
「ただいま……!? どうしたの、ラクスさん!? どこか具合でも悪いの?」
マリューはラクスの顔を見ると、血相を変えて彼女に駆け寄った。バルトフェルドも心配そうにマリューの後に続くが、キラは最後であった。
彼女ははっとなって、今自分がどんな顔をしているのか思い出す。
眉間にしわを寄せ、顔を歪ませて、何か痛みに耐えているように見えたのは幸いだった。
「な、なんでもありませんわ。足を電話台にぶつけただけです。
ここ最近眠れないことが多かったですから……。疲れていたのでしょう」
ラクスがそう言って微笑みその場を取り繕ったので、大人二人はそれ以上何かを言うのを止めた。
キラはと言うと、玄関から少しだけ覗くことが出来る台所に見える、
突き立てられたフォークをじっと見つめていた。

 
 

黒い防弾チョッキに、ライフルと暗視スコープ。
見るからに、特殊部隊と思しき一団が、アスハ家別邸に音もなく忍び寄っていた。
『アスハ家を急襲し、使用人達の殺害並びに、標的をシェルターへ誘導せよ』
これが、特殊部隊、アラファス隊に与えられた任務である。情報によれば、別邸の周囲には警報装置をいくつか設置してあるので、玄関を密かに破った後、別働隊はそれにワザと引っかかれとの事だ。
「作戦開始。……使用人共に気づかれぬようにな」
ヨップはそう指示を下すと、自身は一隊を率いて正面玄関へ、
別働隊は散開し、警報装置が設置されている箇所へと忍び寄る。ヨップがサッと玄関の戸に近づき、ノックする。
この時間帯は皆が寝付き始める頃ではあるが、この屋敷では最低一人は起床して急な来客に対応できるようにという規範があるそうだ。
それに則って、一人の少々恰幅の良い女性が戸を開ける。
「はい、どちら……!?」
彼女の声が最後まで続くことはなかった。
ヨップは戸が開いた瞬間彼女の口元を抑え、その腹部に深々とナイフを突き刺す。
彼女は悲鳴を上げようと、犯人を引き離そうと藻掻くが、相手が悪かった。
女性の力が抜けていき、ヨップはゆっくりと、その使用人の体を床に倒した。

 

その女性の名前は『マーナ』。しかし、それを知るものは今夢の世界にいる。

 

ヨップはあらかじめリークされていた屋敷の図面から使用人用の寝室を探り出し、
部隊のメンバーも中へ滑り込む。何故使用人達まで殺す必要があるのかは、彼らはわからないが、
「……許せよ」
寝ている老若男女達の口を塞ぎ、部隊員達は寝ている彼らの首を掻き切った。
ここにいる住人の内残るのは、子供達と、モルゲンレーテの技師が一人。
顔に傷のあるコーディネイターが一人と、ナチュラルの母親にコーディネイターの息子。
そして、『我らが主』。
ヨップはペンライトを取り出し、一階の窓から外へSの字を書くように振った。
『警報装置作動』、そして『標的に目的を知られぬようにせよ』の合図であった。

 
 

〈ガガ……目標は子供達と共に…ガ…武器は無し……早く仕留め……ガガ〉
崩れ落ちた黒ずくめの男が装着していたイヤホンから、衝撃的な言葉が聞こえ、
少年、キラ・ヤマトは身をこわばらせた。
バルトフェルドが密かに屋敷の周りに設置していた警報装置が作動したそうで、
マリューとバルトフェルドは銃を片手に、ヤマト親子と子供達、そしてラクスにシェルターへ行くよう言ったのである。
二階や三階の部屋から子供達を集め、建物の裏のにある階段を一階まで下りるように。しかし、容易に事は運びそうになかった。
階段を通ろうとすれば窓に銃弾は撃ち込まれるし、マリューやキラが行く先々に、武装した特殊部隊の兵士が現れる。
バルトフェルドやマリューは鬼気迫る顔でこれらを排除していく。
正直、マリューはこっちの方が性に合っている気がしたが、それは言わないでおいた。
ジリジリと、時間は掛かったが一人たりとも欠けることなく、無事シェルターにたどり着いた。
「大丈夫か?」
「ええ……、何とか」
バルトフェルドが見回して皆に尋ね、マリューは息を切らせて答える。
「相当訓練されたの特殊部隊だ。それも、正規軍の」
「……一体、何処の誰が? ZAFTのですか?」
キラは思わずそう呟いていた。それに答えたのは、
「……誰かは存じませんが、恐らく、狙っていたのは私でしょう」
ラクスが肩を震わせて言った。その目には、涙があり、何故こんな事になったのかと問う悲しみの色があった。
ホロホロと大粒の涙を彼女は流しながら、
「ま、マーナさんが、ここの人たちが……。カガリさんに、なんと言えば…………」
ラクスはキラの胸の中に顔を埋めると、声を押し殺すように泣き始め、
子供達、キラの母であるカリダ、そしてマリューもそれに誘われ涙する。
しかし、悲しんでいる暇など無い。
ゴォン、という轟音と共に床が揺れ、子供達は悲鳴を上げた。
「これは、……爆発だ」
バルトフェルドがその振動から、上の屋敷が攻撃されているのだと判断した。
「相手はMSまで投入しているというの!?」
「恐らくそうだろうな……」
キラもそうであるが、ここにいる皆の顔に絶望の色が浮かぶ。
シェルターとはいえども、MSに時間をかけて攻撃されればひとたまりもない。

 

「…………キラ、私、怖い」

 

ラクスはキラの服の襟をギュッと握りしめた。キラの中に、二年前に放棄したはずの感情が、再び燃え上がる。
「ラクス、僕は……」
「……キラ、私の話、落ち着いて聞いてくださいますか?」
「うん、何? ラクス」
ラクスが、先程からずっと胸中に抱えているピンクのハロを、
彼の前に差し出しながら、震える声で言い放つ。
「私、貴方にずっと隠していたことがあります」
ラクスはキラの後ろにある、シェルターの中に設けられたもう一つの扉へと、すたすたと歩いて行く。
バルトフェルドやマリューも、彼女の真意を測りかね、ただ彼女の後ろ姿を見つめるばかりだ。
彼女はハロの口を開け、その中から豪奢な装飾が施された黄金の鍵を取り出す。
大きな扉に開いた小さな鍵穴にそれを差し込むと、彼女はその鍵を、ゆっくりと、回した。
機械音と共に、巨大な扉が左右に響き、その向こうには、闇に覆われた巨人の姿が立っていた。
扉が開ききると共に、その向こう、格納庫に、パッと光が点った。
「「「これは…………!?」」」

 
 

十数機の奇っ怪な形をしたMSが、何発も、何発も、アスハ家別邸にミサイルを撃ち込んでいた。
『UMF/SSO-3 アッシュ』。それが、この機体に与えられた名前である。
グーンやゾノに替わって、新たにZAFTの水陸両用MSとして開発された機体である。
アラファス隊の面々は一時屋敷から身を引き、アッシュに乗り込んで再び屋敷を襲撃する。
その際、上の屋敷に残った死体や自分たちの痕跡を排除し、どうじに地下からアレが出てくるのを待つ。
これで任務は完了となるはずだ。きっと、『主』もお喜びになるだろう。
しかし、予定時間がジリジリと近づいている。これ以上長引けばオーブ国防軍に感知されてしまうのだ。
「早く……、早く出てこい、『フリーダム』!」
そう焦りの言葉を漏らしたとき、ふと三時方向の山肌から、何条もの光の束が天空へと上がった。
「来たか……!」
其方に目をやると、ビームで吹き飛んだ山肌の中から、一機のMSが空へと舞出でるのが見える。
『ZGMF-X10A フリーダム』
自由の名を冠するこの機体は、二年前の大戦でお大いにその力を振りまき、
その桁外れの機動性と火力を持って戦場を駆けた、『ラクス・クラインの聖なる剣』
これが出てくるのを待っていた。ヨップ達のこの作戦が実ったのだ。
残るは、あの機体に攻撃を仕掛けて武装を奪われること。あの機体のパイロットは、此方を殺しはしない。
しかし、此方も本気だというポーズを見せなければ鳴らない。
ヨップと部隊員達はフリーダムに向け、バルカンとビーム、ミサイルの雨あられをお見舞いするが、
奴はそれをすべてひらりと避けていく。話に聞く以上の性能だ。
フリーダムはサーベルを振るい、ライフルを撃ち込み、肩のプラズマキャノンもたたき込み、
アッシュの手足や武装を次々と葬って行く。最後に、ヨップの番となった。
右手を出せば右手が撃たれ、左手を出せば左手を撃たれ、すぐさま、ヨップのアッシュも達磨となった。
これであとは脱出し海中へ逃げ込むだけだ。海中には『主』が用意した潜水艦が控えているはず。
そう確信して、ヨップは脱出装置のレバーを引いた。

 

しかし、なにもおこらなかった。

 

「……は?」
何が起こったのか、一瞬理解できず彼は頭が真っ白になった。おかしい、何故脱出装置が作動しないのだ?
これでハッチが開き自分は外に出られるはずではないのか?
ヨップだけでなく、他の隊員のアッシュもそうらしい。
「隊長! どうなってるんですか? ハッチが開きません!」
「こっちもです、隊長!」
「落ち着け!」
とはいうものの、ヨップ自身もはや冷静な判断が出来ない。
すると、彼ら全員のモニターに、ある文字が映し出される。

 
 

『ご苦労様でした、皆さん。お礼に私からのご褒美を差し上げましょう。
《永遠の眠り》というご褒美を…………
では、またお会いしましょう。……会えれば、ね』

 
 

「そ、そんな…………。
ラクス様ぁあああああああああああああああ!!!!」
それが、ヨップの最後の言葉となった。
彼らが乗っていたアッシュ達は次々と自爆装置が作動し、中に乗っている隊員もろとも蒸発してしまった。

 
 

「え? 何で? どうして、こんな……」
キラ・ヤマトは、目の前で次々と爆発していく謎の機体達を、呆然とただ見ることしかできなかった。
確か、彼らの動力部を破壊するような攻撃はしなかったはず、なのに何で?
機体を降り立ってからも、彼の頭の中はその言葉でいっぱいだ。
「キラ!」
降り立つやいなや、少女が自分の元へ駆け寄り抱きついてくる。ラクスだ。
「……怪我はない? ラクス」
「いいえ、私は大丈夫ですわ。それよりもキラは……」
「僕も、何ともないよ」
「……良かったぁ」
ラクスは安堵の表情を浮かべると共に、キラへともたれかかる。彼はそれを受け止めると、その向こうに目をやった。
子供達は瓦礫と化した屋敷の前で悲観に暮れ、母カリダとマリューは泣き崩れる子供をあやしている。
そして、難しい顔をしているバルトフェルドに気づく。
「どうかしたんですか? バルトフェルドさん」
「ん? ああ、いや、さっきのあのMSのことなんだが……」
バルトフェルドは何か気まずそうな顔をして、頬をポリポリとかく。
マリューも二人の会話に気づいたのかそばに寄ってきて、彼は続けた。
「おれも、データしか知らんから確かなことは言えないんだが……、
あのMS、『アッシュ』って言ってな、まだロールアウト直後の機体なんだ」
「それって…………!?」
マリューもキラも、驚愕を隠せず聞き入った。
「まだ正規軍にしか配備されていないはずの機体なんだ」
あの特殊部隊はZAFTの差し金ではないかという議論を交わす三人は、
そのそばで薄暗い笑みを浮かべる少女の顔に、終ぞ気づくことはなかった。

 
 

「……ヨップさん、あなた達のことは私の造る歴史の一ページぐらいには載せてあげます。だから安心してお眠りなさいな」

 
 
 

第9.5話~完~

 
 

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