閑散とした談話室――本来の用途とは掛け離れた雰囲気の中、鬱屈とした面持ちのナタルが一人佇んでいた。
「向いてないのかもな……」
シャアの力によってアルテミスからの補給を得たものの、クルーを危険に晒したという事実は何ら変わらない。
ナタルはその責任感の強さと厳格さ故、自らの失態にさいなんでいた。
「こんなところで、どうしたの?」
振り返ると作業着姿のマリューがいつの間にか存在していた。
「いえ、何でもありません」
階級的には下位であっても、艦長という立場上、弱気な姿を晒けだす訳には行かなかったナタルは表情を引き締まらせた。
「疲れてるんじゃないの?慣れないことも多いだろうし」
「それは否定出来ません。しかし、そんなことも言ってられませんから」
「そう……。でも、あまり根を詰めないようにね。なんだかんだ言っても、まだ経験が足りないんだから」
マリューはそう言い残し、談話室を去っていった。
マリューは、暗に自分を慰めてくれたのだとナタルは気付いた。
それは、何よりありがたい言葉だった。
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一方、MSデッキでは鉄火場のような雰囲気がその場を支配していた。
「ボウズども!ガンバレルの接続は俺がやる!
お前らには荷が重いからな!」
「「はい!」」
マードックの怒鳴り声が耳をつん裂き、ツナギを着たサイとカズイは、うつ伏せになったジンの背部から離れた。
「すげぇよなぁ……」
ジンの背部にガンバレルが設置される壮観な光景に、サイは息を漏らした。
「うん。軍って、最新技術の塊だよね」
相槌を打ったカズイも目を輝かせながら同じくジンを見つめていた。
二人はブリッジの業務だけでなく、暇を見付けてはMSデッキに赴き、作業を手伝っていた。
サイとカズイが来るたび、メカマンたちは顔を綻ばせながら彼等を可愛がっていた。
メカマンの中には、同じ歳の位の息子を持つ者が多く、サイとカズイにその姿を投影していたのだ。
「ああ……サヨナラ……俺の愛機……」
目を輝かせるサイとカズイとは対照的に、ムウはその傍らで哀愁を漂わせながらガンバレルを見つめていた。
「大尉、ブローの時期が来たんですから仕方無いですぁ」
マードックが遠巻きから落ち込むムウを激励した。
ムウのメビウスゼロは、既に劣化が激しく、運用の見通しが立たずにいたのだった。
そんな折にシャアの要請で、本来はメビウスゼロの補給パーツであったガンバレルをジンに設置せよとの通達が下り、
それは即ち、メビウスゼロの終りを意味していた。
「……ところでさ、俺はMS乗れねぇんだ」
「はい?」
ムウが急に深刻な様子に変貌し、マードックはそれに付いていけない風に気の抜けた声を発した。
「戦力外通告……?」
「「「はっはっは!」」」
ムウの一言で、その場にいた三人は腹を抱えて笑いだした。
よもやそのようなことを考えているとは、思っても見なかったからだ。
「いやいや、違ぇますよ!あのジンは複座にする予定なんです」
涙目になりながらマードックは続けた。
「大尉には砲手をやって頂いて、ヒヨッコのどちらかが機動を担当する予定なんですよ」
「……おいおい、不安だなぁ……」
戦力外では無いことが判明したものの、新入りが足場を受け持つことに不安の色を隠せぬムウであった。