Char-Seed_1_第19話

Last-modified: 2007-11-10 (土) 19:31:08

ナスカ級からの火線を紙一重でいなし、シャアはライフルに備え付けられた虎の子のグレネードランチャーの照準を合わせた。
爆音と共に放たれる対艦用の必殺の一撃――!

『当たってくれよ!』

その刹那、広範囲に渡る散弾がグレネードの弾頭を突き刺し、
爆風が実を結ぶこと無く辺りを照らし上げた。
迎撃弾が放たれた方角へメインカメラを向けると、硝煙を上げたガンランチャーを構えるバスターが飛込んできた。
それに続くようにして終結する多色の機体群。

クルーゼ隊の登場である。
各々、バスターと同型のガンランチャーを携えていた。
それらの銃口はシャアに向けられ、まるで氷が如く浴びせられる鉄の雨――!

「小嚼な!」

舌打ちをしながらスラスターを目一杯に酷使し、引き金を一つ引く。
慣性が内臓を絞め上げ、血の気が引いて行くのをシャアは感じた。

『幾ら腕が良いからといっても……ナチュラルはナチュラルだろうがぁぁ!』

死体布を身を纏ったイザークのデュエルASがガンランチャーと同時に、
肩にマウントされたレールガンとミサイルランチャーの幕を張り始めた。
その、完全には避けきれぬ射撃がシャア専用デュエルの装甲を霞めていった。

「もしや……」

シャアは敵の真意に気付き初めていた。
――既に長時間の戦闘をこなした上、レンジの広い射撃をかわすために高機動を維持しなければならない状況――
それが意味する所は自明であった。

「パイロットの消耗が狙いか!」

シャアとて人間である。疲弊すれば操縦の質の低下は免れない。
更に人一倍高い機動も、裏を返せば体を蝕む毒となるのだ。
しかしクルーゼ隊が盛った毒はそれだけでは無かった。

「なっ……!?」

異変に気付くシャア。
ライフルを使わずにも関わらず、減少して行くエネルギー。
それは機体を霞める雨の量に比例していた。

「フェイズシフトがマイナスに働くとは……」

何ら支障をきたさぬ僅かな損傷。それすら許さぬフェイズシフトが、シャアの首をじわじわと絞めていった。
万全の状態ならば敵の攻撃全てをかわすことも出来たかもしれないが、
疲労のために精彩を欠き、それも叶わなかった。

『退路を潰せ!
赤い彗星もここまでだ!』

アスランの号令に従うようにバスターとデュエルがアークエンジェルへの道に立ちはだかり、いよいよ進退が極まり、シャアは苦悶に顔を歪め始めたのだった。

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《大佐を助けて……》
「なんだ!?」

ナタルの耳に入る声。
「少佐が持ちそうにありません!」

時を同じくしてミリアリアの報告が入り、ナタルは怪訝な顔付きを浮かべた。

「よし、援護に行くぞ!最大戦速だ!」

声の主は分からずじまいだった。
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「年貢の納め時か……!」

シャアは覚悟を決めた。フェイズシフトのスイッチを切り、そして、染みが抜かれるように消えて行くシンボルカラー。
次の瞬間、マニュピレーターを駆動させ、諸刃の剣を振り上げてブリッツに突進する――!

『うわぁぁぁぁ!!』

ブリッツはガンランチャーをばらまいたが、デュエルは所々を破壊されながらも怯まなかった。

「死なばもろともだ!!」

シャアの叫びと共に、ビーム粒子がブリッツの腹部を貫通し、焦熱の留煙が立ち込めた。
その白煙はニコルの死を意味していた。

『ニコルゥゥゥ!!』

アスランは激昂し、照準も付けずに引き金を引き続けた。
原型を失って行くデュエル――
飛び散った破片がシャアの体に食い込んで行った。

「ララァ……今行く……」

血滴が球体となってコックピットに浮かび、生命をわし掴みにされる感覚がシャアを襲ったが、
ララァに逢えると思うと恐怖は感じなかった。
ハマーンに殺される身の上だったであろう自分。
ただ元に戻るだけ、そんな気さえしていた。