D.StrikeS_第14話

Last-modified: 2009-06-08 (月) 18:01:21

夢を、夢を見ている。

 

 ―――燃え盛る自分達が住んでいた町……、頭上には青い翼のMSが飛んでいて
 
 3年前から消えることの無い悪夢を。

 

 ―――『ああっ!マユの携帯!!』『俺が取ってくるよ!』

 

 その夢の中で俺はいつも自分の弱さを嘆き、そして叫ぶ。

 

 ―――背後から凄まじい爆音と熱と光が自分を襲う。

 

 自分が弱くなかったら、自分にもっと力があったら……と。

 

 ―――『とう…さん……かあさ、ん? ……ま……ゆ……?』
 
 目に映るその光景を認めたくなくて。

 

 ―――『うそ…だ、うそだ、うそだ、うそだうそだウソダウソダウソダウソダウソダ……ッッ!!』
 
 だってついさっきまで一緒にいたのだから。何があっても、これからもずっと一緒にいられると信じていたのだから。

 

 ―――目の前で消し炭となった父と母は何も答えてくれない。そして同じように、たった一本の腕と携帯電話を残してこの世を去った妹も……もう、自分の名を呼んではくれない。 
 俺はいつもこの夢を見ると嘆きを叫び、自分の弱さを呪う。
 だけど……今の様な力を持っていた所で、俺に何が出来ただろう?

 
 
 

 魔法少女リリカルなのはD.StrikerS
 第14話「平和な時間に唐突な再会なの」

 
 
 
 

「うあああああああアアアアアアアアァァァァァァァァっっっ!!!」

 

 落下する感覚を一瞬味わった後、体を床にぶつけたシンは自分がベッドから落ちたことを理解した。

 

「ハァッ……ハッ……ハッ……
 ……っく、今のは……夢、だったのか?」

 

 安堵したように呟き、シンは寝転んだまま一度大きく息を吸った。
 心臓が早鐘を打つかのように胸の中で暴れているのがわかる。それに合わせる様に呼吸も乱れ、思考が上手くまとまらない。
 深呼吸を幾度かためし、自分を落ち着かせることにする。

 

「だ、大丈夫ですかシンさん!?」

 

 少ししてエリオの驚いたような、そして自分を心配するような声をシンは聞いた。
 視界の端に二段ベッドの上の方からエリオが降りてくるのを認め、シンはむくりと上体を起こした。
 
「あー……うん、多分、大丈夫、だ。悪い夢を見ただけ、それだけだから。」
「本当ですか?」

 

 心配そうにこちらを覗きこんでくるエリオに対し、もう一度大丈夫だ、と言ってからシンは部屋の壁にかけられてる時計を見た。
 そこに示された時間は本来起きるはずだった時間よりも幾らか早くて。

 

「って……まだこんな時間じゃないか。ごめん、起こしちゃったな。」
「いえ、別に僕は大丈夫なんですけど……シンさんは本当に大丈夫なんですか?」
「大丈夫だって言ってるだろ。ただ、さ……」
「ただ?」

 

 エリオは口を濁すシンを珍しいな、と思いつつ耳を傾けた。
 シンは少し考えるような素振りを見せてから、呟くような小さな声で言う。

 

「たださ、今日……なんだなって。」

 

 先ほど時間を確認した時に見えてしまった日付を、確認するようにシンは口にした。
 エリオはシンの言っている言葉の意味を理解できずに、首を捻るばかりだった。
「今日って……6月15日?
 ……何かあったんですか?」

 

 シンはその問いに曖昧に笑って首を振るだけで答えることをせずに、

 

「さて、寝直すって時間でもないよな。
 あー、汗が気持ち悪いしシャワーでも浴びてくるか。」
 
 そう言って白々しく強引に話を切り上げ、部屋から出て行く。
 エリオはなんとなくシンが話したくないと思っていることを理解し、無理に聞こうとはせずシンを見送った。
 シンもそんな年下のルームメイトの気遣いを嬉しく思い、心から感謝した。
 今は少し、一人になりたかった。
 

 
 

「……はぁ。」
『そんなため息をついていると幸運が逃げますよ?』
「いや、最近の俺のため息の半分はお前の所為だと思うんだけどな。」

 

 既に六課内でも彼の代名詞とないつつあるそれ、ため息を吐きながらシンは自分の相棒に答えた。
 場所は六課の技術部が誇るデバイス調整室。
 シンが妙に不機嫌なのには、今朝の夢見が良くなかったのともう一つ理由があった。
 ティアナを中心としたちょっとしたどたばたから2週間。
 今までの忙しすぎる日々のちょっとした清涼剤として、隊長陣が新人達に用意した半日の休み。
 もちろん、シンもどちらかと言えば新人に分類されるので久々の、というかこちらに来て始めて休みを享受出来ると喜んだのだが……

 

『あ、シン君は昼からシャーリーの所に行ってね?』
『え……俺の休みは?』
『なんでもデバイスのことで色々話したいんだって。』
『いや、だから俺の休み……』

 

 午前の訓練を終えた後のなのはとのやりとりを思い出しながらもう一つため息。
 結局、休みはまた後日貰える事で落ち着いてのだが、やはり納得できないものがある。
 しかし自分がぐだぐだと文句を言ったら、折角の休みをエリオ達が思いっきり楽しむことが出来ないとも思うので、渋々と従う形になったのは彼らしかったが。

 

「大体……デバイスについてって、何か新しいことが判ったのか?」
 
 ぼやく様に目の前に突っ伏しながらシン。
 シンが操るデバイスであるインパルス、もしくはそれを筆頭としたデバイス群、インパルスシステムは判らない事だらけなのである。
 製作者も謎。何故フェイスバッジの形をしているのかも謎。
 どのような経緯でシンが手に入れたのかも謎。何を目的として作られたのかも謎。
 謎、なぞ、ナゾ。
 シンが相棒でもあるインパルスのAIに尋ねて見た所で……

 

『そのデータに対するアクセスは許可されていません。』

 

 と、事務的な返答が返ってくるばかりである。
 デバイスと言えば、最近内蔵人格がおかしな事になっている気がするのは気のせいだろうか?
 まあ、害はなさそうなので今の所放置し、て……

 

『いいですかマスター。
 今求められているのは所謂ギャップ萌えという物です。
 ツンデレも言ってしまえばこれの一部で……』

 

 駄目だこいつ、早くなんとかしないと……

 

 
 閑話休題

 

 
 自分を呼び出したシャーリーが、シンがこの部屋に着いた時からコンソールに向かって忙しそうにしていたので、とりあえず手近な椅子に座って作業が一段落つくまで待っている次第である。

 

「ふぅ……あ、ごめん、待たせちゃって。」

 

 とそこで漸くシャーリーが顔を上げ、シンに向き直る。

 

「いえ、それで何の用なんですか?
 インパルスのブラックボックスの解析が進んだとか?」

 

「残念ながらそれはまだ……
 今日シン君に来てもらったのは見て欲しいものがあるからなの。」

 

「見て欲しいもの?」

 

 シンは首を捻る。
 なのはは確かデバイスに関してシャーリーが用がある、と言っていた。
 なのにインパルスとは関係ない、と。

 

「ええ、デバイスの設計図を、ね。
 それを部隊長経由で六課の技術部(うち)に回してきた人がそろそろ来るんだけど……」

 

 あれー? と時計を見るシャーリー。

 

「とりあえず、物を見せてくれませんか?」
「ああ、そうだね、先に見といてくれる?
 私はその人の事待ってるから。」

 

 シンの言葉にそう答えてからシャーリーは手元のコンソールを操作する。
 数瞬遅れて、シンの目の前にいくつかのデータが映し出される。

 

「えっと……『状況にその性能を適応させる為の量産型デバイス構想』……?」

 

 どこかで聞いたようなそんな題名を付けられたその設計図、というよりはレポートのような物をシンは読み出した。
 初めは何の気も無く、なんで自分が……と、面倒くさそうに情報を読み取っていく。
 しかし、読み進めるうちに徐々にシンの表情が変わっていく。

 

「……な、んだ……これ?」

 

 驚き、そして困惑、呆気にとられたような顔でしかしその目だけは忙しなく動いていた。
 そこに書いてあったのは幾つかのデバイスと、それのスペック。
 また戦闘に於けるそれらの画期的な運用方法。
 そしてシンはそのデバイスの名称に目を留めて、固まる。

 

「ちょ……待てよ。
 あ……? これ、どういう……え、なんで、だ?
 読み違い、じゃないよな?」
 
 シンは慌ててもう一度初めから読み直した。
 適当に読み飛ばしが無いように逐一チェックを入れながら読んでいく。
 
(えっと……?
 ここで提唱するデバイスは魔法を使用する補助としてのそれではなく、単一の目的にその性能を絞ることで多大な効果が期待できる、ある意味では兵器としてのそれである。
 基幹として存在するデバイス、ザクウォーリア。
 そしてそれと合わして使用することで真価を発揮する幾つかのデバイス。
 ファルクス、オルトロス、そしてファイアビー。
 それらのデバイスに合わせてデバイス、ザクウォーリアの形態を最適なものに変化させる。
 そのシステムを総称してウィザードシステムと……

 

 ……マジかよ、これ……?
 ザクにウィザードシステムだって!?)

 

 何度読んでもそう書いてある。
 まるでインパルスと同じように、デバイスとして再現されているザクの情報。

 

(一体、誰が……!?
 まさか、俺以外に……?)

 

「あ、やっぱり驚いた?
 それ、インパルスに似てるよね。だからシン君の意見も聞いてみたくて呼んだんだけどさ。」

 

 驚愕を隠せずにいるシンに気づいたのか、シャーリーが声を掛ける。
 しかし、シンはそれに答えることは出来なかった。
 当然、それどころではなかったのだ。
 
 混乱という言葉がどの程度の状況を指すのかはわからなかったが、少なくともこのときのシンは、そんな言葉すら生温い程の状態を味わっていた。

 

 だから直後、部屋のドアが開いたのに気づくのが一瞬遅れてしまう。
 部屋の中に入ってきた人物が声を上げるまで、気づかなかった。

 

「悪いね、少々遅れた。
 連絡が来てると思うんだが、陸士108大隊から来た……」

 

「あ、はい、通ってます。
 お待ちしていました、―――特務三等陸尉殿。」

 

 そんな二人のやり取りの端を聞いて、漸くシンは顔をあげ、その人物を見て……
 今度こそ、本当に固まった。 
 陸士隊に支給される、今シンが着ているのと同じ制服を纏って。
 
「は……」

 

 オレンジがかったサラサラの金髪。
 
「ん……お前、もしかして……?」

 

 軽薄なイメージを与えつつも何故かいつも自信に満ち溢れていたその顔。

 

「……は、い……」

 

 そして、何よりも。

 

 アスランほどではないものの、見ている者に不安を与える輝く凸。

 

「……ハイネぇぇええええええええええっ!?」
「お前、シン! シンアスカか!? ミネルバの!!」

 

 その男、ハイネヴェステンフルスを見ながら、シンは絶叫を上げた。

 

「な、な、なななななななな……っ!?
 なんでハイネさんがここにいるんですかっ!?
 ゆ、幽霊!?」
「お、おいおい幽霊は酷いだろ!
 それになんでってんならこっちの台詞だ!
 俺以外にこっちに来てる奴が居るなんて……!
 っっ~~~~~~~~~~~!!」

 

 ハイネが感極まったように唸る。
 その声が少し震えてるように感じたのは、きっと気のせいでは無いとシンは思う。

 

「ハイネさん……」
「あー、湿っぽいのは似合わねぇよな!
 こっち来てから、始めて知ってる奴に会えて嬉しかったんだ、悪い。」

 

 そんなことない、とシンは強く首を振った。
 何故なら、自分の視界だって現在進行形で曇り始めているのだから。
 だって、ハイネが居るのだ。目の前に、生きて。
 死んだと思っていた、あのハイネが……!

 

 それが不思議だとか思う前に、そんな疑問を考えるよりも、喜びのほうが勝った。
 嬉しさのほうが強く心の中に溢れた。
 それはハイネも同じだったのだろうか。
 言葉も無く、互いの無事を確認し合う様に肩を抱き合ったところで、

 
 

「……あの~、もしかして三尉とシン君って、知り合い?」

 
 

 二人がすっかり忘れていたシャーリーが声を上げた。

 

「あ、すみません!」
「わ、悪い、ちょっと我を忘れてたわ……
 えっとだな、あ~…………」
「あ、シャリオフィニーノです。
 気軽にシャーリーとでも呼んで頂ければ。」

 

 説明しようとして、彼女をどう呼べばいいか迷ってハイネが口ごもり、それにシャーリー自身が助け舟を出した。

 

「オーケー、シャーリー。
 俺のことも三尉とか堅苦しい呼び方じゃなくて、ハイネでいいぜ。
 で、俺とこいつの関係、だよな。」
「はい、知り合い……なんですよね?
 でもシン君が六課(ここ)以外に知り合いがいるって変だし……」」
 
 シャーリーがシンの方にも視線で問いながら疑問を伝える。
 シンとハイネは一旦顔を見合わせて少し悩んでから……ハイネの方が口を開いた。

 

「少しの間だけ、一緒に戦ってたんだよな。
 前に居た世界で……まあ、すぐ俺がこっち来ちゃったんだけどな。」
「そうですね。
 本当に少しの間だった気もするけど。
 というか色々聞きたいんですが。」

 

 落ち着いてきた所でようやくなんでハイネがここに居るのか、等の疑問が気になりだしたシンは尋ねてみる事にするが、

 

「その辺は後でじっくりやろうぜ?
 とりあえず今はお仕事の方を、だ。
 シャーリーもそれでいいな?」

 

 そう言われ、話題を変えられる。
 しかし言われてみれば確かにその通りであるのだし、シンは頷いて頭を切り替えた。
 シャーリーの方も既に準備に取り掛かっている。

 

「さて、俺が今回ここに来たのはだな……」

 

 ハイネが資料を片手に話し出す。
 要はデバイス作成の依頼、との事らしい。
 ハイネが持ってきた設計図を許に三人による議論が交わされていく。

 
 

「だからこれは魔力さえあれば基本的に誰にだって使えてだな……」
「術式のブラックボックス化の強化ですか……しかも個々のデバイスがそれぞれ目的に特化した魔法を使うことだけに作られてるから……
 今までのストレージデバイス以上に、機能を優先させた作り……インパルスと同じですね。
 確かにそれならちょっと前のシン君みたいに魔法のこと知らなくても魔力を渡す事で強力な魔法が使えますね。」
「俺の黒歴史を……てかこれハイネさんが作ったんですか?」
「ん、ああ。俺のデバイスを元に108隊の技術部と相談して簡易版として作ってみた。」
「あー、これカタログスペックだとそれなりの魔力持ってる人が使ったらAMF抜ける気が……」
「勿論、それを考慮してのこの設計なんだぜ? まあ、使える魔法はその分限定されてるけどな。」
「でもちょっと強度が不安ですね、シン君はどう思う?」
『ツンデレはいいものだとおもいま……っ!』
「よし、握りつぶされたくなかったらお口にチャックな? ってかどんだけツンデレ好きなんさ?
 っと、そうですね……あ、いっそザク抜きでオルトロスとかファルクスだけを携行武器として使うってのは?
 カードリッジシステム応用して外部にエネルギーパックみたいなのもつけてさ。」
「ああ! それもわるかないな。でもなあ……
 ザクの耐久性と環境適応性能は魅力的なんだよなぁ……量産型として考えると。
 というかシン、お前のデバイスいい性格してるな。」
「ですね……今までの量産型デバイスは使いやすさこそあれど、これ!っていう長所が無いんですよね……」
「そう、それ! というか実際ガジェットとやりあって勝てる奴って多くないんだよな、管理局。」
「そうなんですか? 俺は六課しか知らないんでその辺はよく判らないんですよね。」
「六課は結構異常なんだよねぇ、戦力とか……課員の私が言う事じゃないけど。」
「っと、おいおい、話がずれてるぜ? とりあえず開発コンセプトはド素人でもガジェットなんて怖くない!」
「「おお~……!」」

 
 

 なんてやり取りが暫らく繰り返される。
 一見馬鹿らしくも見えるが、当人達はかなり真剣であった。
 現在ガジェットによる被害はさほど多くない、というか処理の殆んどに六課が当たっている為表面には現れていないだけであるが。
 一般的な武装局員の使用する魔法はミッド式のそれが多い。
 それがどういうことか……つまりAMFの効果によって、その能力の殆んどを制限されてしまう局員が多いことを指す。

 

 魔法が扱え魔力があるのならば、基本的に誰でもガジェット等の兵器と相対しても渡り合える。
 少なくとも手も足も出せずに敗走するしかない、なんて事にはならないはずだ。
 そんなデバイスがあれば……この先、もしガジェットを使う者達と全面的な戦闘になったとしても、予想されるほどの被害は出ないだろう、と。

 

 ハイネがそんな事を考えているのは彼から伝わってくる熱意でシンにもなんとなく解った。
 だから、飽くまでも真剣に。
 同じような機構を持つデバイスを使用している者として、自分が提供できる情報を可能な限り提供した。
 思わず、インパルスを握り締める手にも力が入る。
『い、痛いぃぃぃい!? ま、マスター、落ち着いて! 落ちつい、アッー!』
「あ、悪い。ってか痛み感じる機能ついてたっけお前?」

 

 そんなこんなで時間が過ぎていって……

 
 

「……うーん。」
「どうしたの、なのは?」

 

 唸るなのはを連れたって廊下を歩いていたフェイトが気遣うように尋ねる。
 先ほど市街の方に行ったスバルとティアナ、それにエリオとキャロの四人を見送り、今は自分達の仕事に戻る所だったのだが。

 

「シン君に悪い事しちゃったかなーって。
 本当なら今日お休みあげれたのにね。」
「ああ、その事で悩んでたの?
 まあ、仕方ない事だし変わりにシンも今度休みもらえるんだよね?」

 

 そうなんだけど……となのは。

 

「他にまだ何かあるの?」
「んー……なんか今日変だったんだよね、シン君。
 訓練の時もそうだし、他の時も……どうかしたのかな?」

 

 なのはの言葉を聞いて、今日の訓練中のシンをフェイトは思い浮かべた。
 言われてみれば、下らないミスが目立ちシグナムあたりから叱責を受けていたような気もする。
 フェイトがそこまで考えた所で、丁度廊下の向かい側からシグナムとヴィータが現れた。

 

「あ、シグナムさん、それにヴィータちゃんも。」
「シグナム、外回りですか?」

 

 それに気づいた二人がそれぞれ声を掛ける。

 

「ああ、陸士108部隊と聖王教会にな。」
「ナカジマ三佐が合同捜査本部を作るってんで、その辺の打ち合わせなんだ。」
「……あれ? でもあの人今日こっちに来るって言ってた様な……違ったかな?」
 
 二人の言葉を聞いてフェイトが首を捻る。

 

「フェイトちゃん、どうかした?」
「ううん、なんでもないよ、なのは。
 でもシグナム、捜査周りのことなら私も行ったほうが……」
「準備はこっちでやる。
 お前は指揮官で私はその副官だ。これくらいは、な?」

 

 フェイトにそう答えてシグナムは口の端を歪めて笑みを浮かべた。

 

「ところで、今日のアスカなんだが……」
「あ、シグナムさんも気づきました?」
「ああ、どうにもらしく無かったのだが……何か知ってるか?」

 

 ふるふると、シグナム以外の三人が首を振る。

 

「やっぱ、一回休ませた方がいーんじゃねーか? 今日は仕方ないにしてもよ。」
「まあ、それはちゃんと休暇あげる約束になってるし……ああ、休暇といえばなのは? はやてが『なのはちゃん、まだ休暇の届けだしてへんやん!』って、怒ってたよ?」
「……わ、わたしは大丈夫だって。ちゃんと休みだって、取るよ?」

 

 本当に? と三人の視線を受けてなのはが慌てて何度も首を縦に動かす。

 

「駄目だな、信用できねーよ。」
「無茶に定評のある高町が言ってもな……」
「ちゃんと休みはとらないと駄目だよ、なのは。」
「……そ、そんなに信用無いかなぁ。」

 

 しかし、にべも無く切って捨てられ肩を落とす。

 

「ああ、ならいっその事シンの奴と同じ日に休みとればいいじゃねーか。」
「それは……悪くないかもしれないな。
 どうせアスカは此処から出たことがほとんど無いから案内役はいるだろうし。」 

 

 我ながら名案、とヴィータが得意げに胸を反らしシグナムが同調した。

 

「え、え……えぇええええ!?
 なんでそうなるの!?
 べ、べべ、別にわたしとシン君はそんなんじゃ……っ!」

 

「嫌なのか?」

 

「……出来るならそういうのも悪くないかも……って、ハッ!」

 

 途端に顔を真っ赤にして慌てて声を上げるなのは。
 しかし気づく。
 今の自分をニヤニヤと微笑ましげに見つめる6つの瞳があることに。

 

「ヴィータちゃんにフェイトちゃん! それにシグナムさんまでーっ!」
「さて、私たちは外回りがあるからな。そろそろ行くとしようか、ヴィータ。」
「そだな、行くかシグナム。
 ああ、なのは?」

 

 思わず叫ぶなのはを何処吹く風、と二人のヴォルケンリッターは動き出していた。
 そして少し歩いてから振り返って、

 

「「頑張れ(よ)。」」

 

「~~~~~~~~~~~っ!!」

 

 顔を真っ赤にして恥ずかしさとかそういうのに震えてるなのはを見ながら、フェイトは颯爽と去っていった二人に手を振り見送った。

 

 そしてふと気づいた様に呟く。

 

「そういえばなのは、よく気づいたね。
 シンが調子悪いって。」
「……え? でもそれだったらシグナムさんだって……」
「シグナムは今日はずっとシンの訓練見てたからわかるんだけど……
 今朝のなのはって、ずっとティアナとスバルに訓練してたし。」
 
 なのになんで気づけたのかなって、とフェイトが尋ねた。

 

「……なんでだろ?」

 

 少しの沈黙の後、不思議そうになのはが小首をかしげた。
 そんな親友を見ながらフェイトは思う。
 
 よく見てるんだよね、シンの事。
 今はまだその行為の理由までは気づけてないのだろうけど。
 多分自覚症状すら無い。

 

 微笑ましさすら感じさせるなのはにフェイトが言う。

 

「さ、私達もそろそろ仕事に戻らないとね。」
「あ、そうだね、うん。いこっか、フェイトちゃん。」

 

 そして、歩き出した直後にもう一言。

 

「あ、頑張ってね、デート。」

 

「だから、違うって言ってるのに~~~!!」

 

 そんな平和な昼時の六課。
 

 

「ふぅ……結構疲れたな……」

 

 ある程度基本的な構想が纏まったので、後は私が頑張るから~とシャーリーに追い出されてしまったのだ。
 それに彼女には六課の面々のデバイスの整備という重大な仕事もある。
 入れ違い気味に入っていったリィンフォースは恐らくその為に来たのだろう、とシンは推測した。

 

 ハイネと共に廊下に出てから一度大きく伸びをする。
 そして近場にあったちょっとした談話ルームのソファに座った。

 

「さて、シン。
 お互い聞きたい事とか色々あると思うんだが……」
「だが……なんです?」

 

 シンが聞き返すと、ハイネは改まったように咳払いをして、表情を正して口を開いた。
「お前、フェイスになったんだな?」

 

 シンの胸元のフェイスバッジを模した待機状態のインパルスを指してハイネ。

 

「え、ええ……ヘヴンズベース戦の功績のお陰で……」
「そっか。ならまずはおめでとう、と言わしてくれ。
 この世界に於いては意味の無いその称号だが、同じフェイスとしてお前がフェイスに選ばれた事を祝福したい。」

 

 シンが知っているハイネが、殆んど見せた事の無いような真面目な顔でそう言ってくるものだから、嬉しいようなこそばゆいような、そんな不思議な感情を感じた。

 

「なんか、照れ臭いですね。
 その、ありがとうございます。」

 

 頬をかきながら礼を言う。
 と、そこでハイネが手を前に出し違う違うと首を振った。
 そして表情を崩すと、笑いながら。

 

「なぁに硬くなってんだよ!
 同じフェイスなんだからよ、そういう敬語とかさ、さん付けとか?
 そういうの無しで行こうぜぇ?
 ほら、もう一回!」

 

 いきなり雰囲気が変わりすぎている事にシンは面食らったが、しかしこれでこそハイネだ、とも思った。
 だから気がついたらハイネが差し出してきていた手を強く握り返して、

 

「ああ、改めてよろしくな、ハイネ!」

 

 そう言い切った。

 

「ハハっ、それでいい!
 この世界に二人しか居ない同郷の友だ。仲良くやろうぜ!」

 

 がっちりとその手を握り返しながらハイネ。

 

「ハイネは何時こっちに?」
「こっちの時間で大体1年位前だな。
 あの時アスランの奴を庇って、俺自身もう死んだと思ってたんだが気がついたら……」
「気がついたら?」

 

 不自然に言葉を切ったハイネをシンが不思議そうに見る。

 

「……風呂場にいた。」
「……は?」

 

 聞き返すシンにハイネは肩をすくめるだけでそれ以上答えようとせずに、

 

「そういうお前は何時ミッドに来たんだよ?」

 

 逆にそう聞いてくる。

 

「俺は二ヶ月位前かな……
 ハイネと同じようにフリーダムの新型と戦っててやられた、と思ったら六課(ここ)の訓練場に倒れてたらしいんだ。」

 

「なるほどねぇ、俺と同じってことか。ああ、そうだ。
 戦争は……ザフトは、議長はどうなった?」

 

 ハイネがふと思い立ったように言う。
 それを聞いて、シンの顔に陰りが浮かんだ。

 

「連合との戦争なら……勝ったよ。
 さっきも言ったようにあいつ等の本拠地だったヘヴンズベースも落とした。
 ただ……」
「ただ……?」

 

「俺は途中でこっちに来たからあの後どうなったかなんて知らないけど……
 多分、最終的にあの世界で勝ち残ったのは……

 

 オーブ、というかラクスクラインだと思う。」

 

「……な、に?」

 

 心底わけがわからないという顔をしているハイネにシンはハイネが居なくなってから何が起きたかを大雑把に説明し始めた。

 

「なるほど、ね。
 ロゴスにジブリール、そしてオーブにラクスクライン、か。
 ったく、何処が平和の国なんだかね?

 

 シン、議長は……」

 

 大体の説明を終えた所で沈痛な表情でハイネがそう呟く。
 話の流れで、どうなったかはハイネだって理解しているはずなのだが、それでも聞かずにはいれなかったのだろう。
 今でこそここで管理局にいるわけだが、彼の忠誠心の高さはシンも知っていた。
 だからこそ、自分が知っている事実を伝えるのが、辛かった。

 

「……ごめん、まもれ、なかった。
 俺、フェイスなのに……副長にも、議長を守れって言われたのに……っ!
 俺が、もっと……!」
「強かったら、なんて言ったらぶん殴るからな?」
「……ハイネ。」

 

 陰鬱な表情でシンが言った言葉を遮って、ハイネがシンの肩を強く掴む。

 

「いいか、シン。
 俺たちがフェイスだのなんだのって言った所で戦場じゃたった一人の兵士だ。
 忘れるな、俺たち一人が出きる事なんてたかが知れてるんだ。
 だからもしお前が自分に責任を押し付けてるなら、殴ってでも目を覚まさせてやるよ。
 それにお前は良くやったさ、あのアスランを倒したんだろう?」

 

 その言葉に不承不承シンが頷く。
 心からの納得は、出来てなかった。
 何時だって自分が弱かったから失ってきたのだと、シンは思っていた。
 ふと、今朝見た夢を思い出す。
 例えばあの時、今みたいな力があれば家族を失わずに済んだのだろうか?
 
(そんなの……わからないよな。)

 

 考えて、シンはそれを否定した。
 もしかしたら救えたかも知れないし、結局何も出来ないままだったかもしれない。
 そしてなんとなく理解する。
 
 そんなことは考えたって仕方ないんだって。
 過去を変えることなんて、出来はしないのだから。
 だけど忘れる事はしてはいけない。
 あの思いを、悲しみを、そして家族に感じていた愛を……忘れてはいけないのだ。
 何故ならこれから先を生きるために。もう二度とあんな思いはしたくなかったから。
 守りたいと思える人を、今度こそこの手で守り抜くためにも。

 

 あの時感じた事を、忘れてはいけないのだ。

 

 そういえば、とシンが気づいた様に口を開く。

 

「ハイネは……驚かないんだな、アスランが裏切ったって聞いても。」
「なんとなく予想は出来たからな。
 ずっとオーブと戦う事に不満あったみたいだったし……
 ったく、割り切れって言ったのにな、あの馬鹿が……」

 

 やれやれ、と肩を竦めてハイネ。
 その横顔がどことなく寂しそうに見えるのは、きっと気のせいでは無いのだろうと、シンは思う。
 一緒にいた時間は短かったが、ハイネが仲間思いな人間だった事は知っていたから。
 ただ、なんて声を掛けていいかわからなかった。

 

 そんなシンを見て、少し不思議そうにハイネが口を開いた。

 

「……シン、お前さ。変わったよな?」
「へ……? 突然何言い出すんだよ。」
「いや、なんて言ったらいいんだ?
 雰囲気、みたいなのが前にあった時と随分違う気がするぜ?
 落ち着いたって言えばいいのかね、こういうのは。」
「そう……なのか?」

 

 そんなこと言われても自分でよくわからない、と首を捻るシン。

 

「俺はそう思うよ。自覚無いなら無いでいいけどな。」

 

 そう言われ少しシンは考え込んだ。
 この世界に来てから、というよりもハイネと別れてから、本当に沢山の事があった。
 その中で今の自分にとって一番大きい影響を与えたのは……別れと出会い。
 そして、何よりも最近決意した事。

 

「別になにかあったわけじゃないんだけど……
 ……守りたい人が出来たんだ。」

 

 だからこう言った。これ以上に言い方が見つからないような気がした。

 

「……ふぅん。なるほどねぇ……」
「な、なんだよ……」

 

 にやにやと笑いながら納得したように頷くハイネに不気味なものをシンは感じた。
 シャマルとか、はやてに感じるそれらと同じようなものを。

 

「いや、なんでもないさ―――っと、悪いシン。
 通信が入った、少し外すな。」

 

 と、シンが戦々恐々としていると、ハイネがシンと同じようなフェイスバッジ―――恐らくこれが彼のデバイスなのだろう―――を手に持ち、席を立った。
 その後姿を見送りながらシンは考える。

 

(俺以外にも、この世界に来てる奴がいた……)
 
 そこで浮かんだのはやはり、再会の嬉しさや互いに生きていた事に対しての喜び。
 もちろんそういった感情が大きかったが、今改めて考えてみると色々と疑問が浮かぶ。
 ハイネヴェステンフルス。ザフトのフェイス、シンにしてみれば先輩に当たる存在。 戦闘中にアスランを庇って撃墜。
 死体は確認されず、しかし状況から判断して生存は絶望的とみなされ戦死扱いになる。

 

「それがミッドにきていた。」

 

 ハイネ自身の言葉を信じるなら死の直前、気がついたらこっちに来ていた、となる。
 そしてそれはシンも同じであった。
 他にも共通点は探せば幾らでもある。

 

 例えば、互いにザフトのフェイスだったこと。
 フェイスバッジがデバイスの待機状態であること。
 さきほどのデバイス案を見る限り、ハイネのデバイスもインパルスの様にザフト製のMSを模しているであろうこと。
 そしてミッドにおいて魔道師として活動していること。

 

 偶然? それとも何かの……誰かの思惑があるのか?
 他にも自分達のような奴らがいるのか?

 

「……その辺りどうなんだよ?」
『どう……とは?
 私が一体誰に、どの様な目的で作られたか、という話でしたら前にも言ったように……』
「その情報に対するアクセス権は無い、か。」
『ええ。ですがお悩みのようですので私から一つ。
 あまりその辺りの事は気になさらなくてもいいかと。
 私は貴方に与えられた力です。
 
 それをもって何をするのも貴方の意思次第なのですから。』

 

 そこに製作者の意図は入り込めません、とインパルスがシンに言う。

 

「まあ、そうなんだろうけどさ……でもなぁ……」

 

 自分一人なら……まだ、よくわからない力のせいで、なんてとんでもな話でも納得出来たのだが……
 それが二人となるとまた変わってくるようにシンは思った。

 

 だからと言って一人で考えたところで何かいい考えが浮かぶでもなくて。

 

「ハイネが帰ってきたら聞いてみるか。」

 

 とりあえずシンがそう結論付けた時だった。

 

 隊舎の至るところに設置されているスピーカーから、例によって例のごとく、出動を意味するけたたましい音が鳴り響いた。
 シンがそれが意味することを理解して動き出そうとした瞬間。

 

「おい、シン。」
「お、お、おわあ!? な、なんだよ、ハイネか。」
「どんな驚き方だよ。
 で、さっきの音の意味は?」

 

 通信を終えたらしいハイネが現れ、シンに声を掛けた。

 

「ああ、出動がかかった。
 ったく、なんでよりにもよって今日なんだよ……」

 

 今頃、スバルやティアナ、それにエリオにキャロも休暇を楽しんでいるはずなのに。
 余りにもタイミングが悪い事態にシンは憤る。

 

 シンはハイネを伴いながらヘリの格納庫目指し走った。
 出動がかかると戦闘要員はまずそこに集まる手はずになっていたからだ。

 

「……ふむ。
 なるほどな……シン、お前も出るのか?」

 

「あ、ああ。多分そろそろ……」
『マスター、高町一等空位から通信です。』
「……だよなぁ。」

 

 インパルスに命じてシンはなのはからの通信を開く。
 もちろん足を止めるような真似はしない。

 

『シン君! 今の聞こえた!?』
「聞こえた! 今格納庫に向かってるとこだ!」

 

 映し出されたなのはの問いにシンは答えながら角を曲がる。

 

『わたしとフェイトちゃん、あとシャマルさんにシン君が揃ったら出るから急いでね……ってそちらの方は?』

 

 シンを急ぐよう促してから、ようやくなのははシンの横を走るハイネに気づき疑問の声をあげる。

 

「ああ、どうも。
 ハイネヴェステンフルス特務陸等三尉です。
 今日は技術部の方にお邪魔してたんですけど……」

 

『……ああ!
 八神部隊長とフェイト隊長から色々聞いてます。
 でも、なんでシン君と一緒に?』
「色々あったんだ。後で話す。
 そういや、なんでハイネが俺についてきてんだよ?」

 

 なのはの疑問にシンが答える。
 そして余りにも自然に一緒に走り出していたから疑問にも思っていなかったことを、改めてシンも不思議に思い隣を涼しげな顔で走っているハイネに聞いてみる。

 

「さっきギンガから通信が入った時に聞かされた話と関係があると思ったんでな。
 とりあえず、俺も現地に向かいたいんで便乗しようかと。
 多分、ギンガのことだから六課の方にも連絡入れるだろうし、詳しくはあいつから聞いて判断してください。」

 

 それ如何で俺を連れて行く行かないはそちらの判断に任せます、とハイネがなのはに言う。
 シンはそれを聞きながら思う。

 

(どうせ建前なんだろうなあ……何言われたってついてくる気満々の癖に。)

 

 それはシンと同時に動き出していた時点でわかることだった。

 

『う~ん……わたしは別にいいかと思うんだけど……
 わかりました。とりあえず部隊長に伺いを立ててみます。
 これでいい?』
 
 それはなのはにも伝わっていたらしく、はやてが駄目だしを出すとはこれっぽっちも思っていない表情でそう言ってのけた。

 

「ええ、それで結構です。」
 
 ハイネは我が意を得た、とでも言わんばかりの表情で、しかし飽くまでも一応上官に当たるなのはに対して敬語で頷いた。

 

「じゃあ、そろそろ着くから切るぞ?」

 

 用件は終わっただろうし、シンが通信を切ろうとするが。

 

『あ……え、えっと、シン君? あのね……』
 
「……なのは?」

 

 妙に挙動不審になったなのはを怪訝そうにシンは見た。

 

『ううん! やっぱりなんでもない!
 じゃあ、出来るだけ早くお願いね!』

 

「あ、ああ」

 

 ぷちんと通信が切られ、何か釈然としないものを感じながらもシンがとりあえず足を動かしていると……
 
「……なるほどなぁ。」

 

 何度も頷きながら微笑ましいものを見たと言わんばかりの表情をしているハイネの視線を感じ、シンは彼を睨みつけた。

 

「なんだよ?」
「いや、なんでもないぜ?」

 

 そう聞くとしれっと返されたのでシンも黙るしかない。

 

「ああ、頑張れよ? 高町一等空尉はファンが多いぞー。
 うちの部下にも何人か居たし……」
「なっ……!? べっ、別になのはとはそんなんじゃない!
 ってかファンってなんだよ!?」
「あれ、お前知らないの?
 あの人若い管理局員に人気あるんだぜ。広報とかに使われてたりするし。
 確かファンクラブとかもあるんじゃねえかな?」
 
 シンの眉間に皺が寄っていく。
 恐らくはまだ彼自身が気づいていない感情のせいで。
 ただ……

 

「……なんだかわからないけど。」
「けど?」
「無性に腹が立ってきた……っ!」
「オーケー、その苛立ちを敵さんにぶつけようじゃないか。
 にしても、俺とお前が一緒に出撃(で)るのは、これで二度目かな?」

 

 言われてみるとそうである。
 ハイネがミネルバに来てから始めての戦闘で彼は……

 

「今度は落とされないようにな? ハイネ?」
「だぁれにもの言ってんだよ? 後輩クン?」

 

 やはり体は動かしながら、互いに表情を見合いそして笑い、腕をぶつけ合う。
 また、この人と共に戦えることが嬉しくて。

 

 シンはまだ知らない。
 この日……彼が家族を失ったこの日。
 彼にもう一つ、大切な出会いがあることを……まだ知らない。