D.StrikeS_第4.5話

Last-modified: 2009-06-08 (月) 17:46:28

俺ことシン・アスカが、いきなりバインドで締め付けられたりとか、いきなりほっぺを抓られたりとか、挙句の果てに訓練用のガジェットに襲われる……といった行程を経て、機動六課―――正式名称古代遺物管理部機動六課……に配属されて早いもので一週間がたちました、皆様どうお過ごしでしょうか?
 

 因みに俺はというと、なのはによる地獄の訓練で死に絶え絶え……というわけではなかった。
 いや、ハードなことには変わりないといえばないんだけど。

 基本的に基礎ばかりを訓練時間の大半に費やしている、どうもそれがなのはの方針のようだった。
 
 焦って無理したところで、その先に待つ未来はろくでもないものなのだから。
 
 かつて身をもって体験したそれを理解しているつもりだ。

 そう、そして今回はそんな俺の昔の話。
 それじゃ、魔法少女リリカルなのはD.StrikerS 番外編、はじまります。

 
 魔法少女リリカルなのはD.StrikerS
 第4.5話「それは遠い過去のお話なの」
 
 

「と、いうわけで、六課におけるシンの立場についてなんやけど……」

「いや、いきなり呼び出しておいて第一声でというわけでとか言われてもわけわかりませんから。」

 シンはその日の訓練を終えた後、はやてに呼び出されていた。

「確かにずっとこのままってわけにもいかないでしょうけどね?」

 六課に加わってから1週間、書類等の諸々の事情があり。シンは訓練には参加するけど特に決まった役職がない、いわゆる宙ぶらりんな状況が続いていた。

「そうやろ? ようやくシンを六課に入れるための書類工作……じゃなくて書類の整備も終わったことやし、そろそろちゃんとせんとな。」

 はやての言葉に混じった不穏な響きに、シンは眉根を寄せるが気にしないことにした
 自分が異邦人であることは事実だし、そんな自分を軍にも似た組織にいきなり組み込むなんて、そうそう出切る事ではないと理解していた。

 その点ではシンは目の前の上司に感謝していた。
 
 ……事あるごとに自分をからかおうとするのは勘弁だったが。

「それで具体的に俺はどういう扱いになるんです?」

「んっとな、今からなのはちゃんやフェイトちゃんが隊長を勤める分隊に組み込むのは、流石に無理やから、私直属……つまり六課部隊長直属の遊撃戦力って形にしといたわ。
 とは言うても、これは形の上だけやから基本的にはなのはちゃん達隊長や、ヴィータたち各分隊の副隊長、それに私の命令には従ってもらうけどな?」

 シンは当然だろうな、と頷く。
 ZAFTではそこまで細かく位が分けられていた訳ではなかったが、それでも指揮系統はしっかりとすべきだということくらいは理解している。
 
「それでや、一応シンのコールサインを決めとかなあかんくてな。
 今あるのは、なのはちゃんの所のスターズ、フェイトちゃんところのライトニング、そして私が指揮をとってるロングアーチの三つ。
 それとかぶらなかったらなんでもええし、なんか希望ある?」

「コールサイン……か。」

 ミネルバにいた時は基本的に名前か機体名で呼ばれていた。
 しかし流石にインパルス、というわけにはいかないだろうとシンは思った。
 なにか無いものか、とシンは頭を巡らす。
 
(自分を示す言葉か。
 ザフトレッド、ってのはなんか違うしな。
 他になにか……ん? ああ、あれはどうだろう?)

 ふと思いついた言葉をシンは口にする。
「フェイス、とか駄目ですか?」

「フェイス……まあええけど、なんか意味あるん?」
 はやてはシンにそう決めた理由を聞く。
 
「前の世界での称号みたいなものですよ。
 意味は信念、信頼だったはずです。
 正式にはFast Acting Integrate Tactical Headquarters―――戦術統合即応本部っていうのの略語なんですけどね。」
 
 そして自分にとっては友との絆でもある、シンは心の中でそう呟いた。

「そうか、それならその信頼に期待するってことで、シンのコールサインはそのフェイス? で決まり、と。」
「了解です。ところで俺は出撃が掛からない平時はどうしてたらいいんです?
 今のところ訓練しかしてないんですけど……」
「あー、そうやね。
 基本的にはそれでええよ、大分戦えるようになってきてはいるやろうけど、まだ魔法に慣れたわけやないやろ?」

 だからしばらくは訓練とそれについてのレポート製作がシンの仕事、とはやては言う。「わかりました、こっちとしても訓練に集中できるほうが助かりますからね。」
 
 納得して頷くシン。
 
「ん、それじゃあもういってもええよ。
 訓練終わった後で疲れてるところ悪かったなあ。」

 はやてのその言葉にシンは笑みと敬礼で返し、部屋から出て行く。

 そんなシンを見てはやては一人呟く。
「……なんかシン変わったなあ、第一印象はもっとギスギスしてたんやけど。」
 
 この一週間で部隊にも慣れ、少しやわらかくなった気がする。
 どこか捻くれた感じがするのは相変わらずではあったけども。
「ま、これからなんやけどな……」

 コンソールを操作しカリムから送られてきた予言の解析結果を表示させる。
 シンがこちらに来たその日、とある予言の末尾に加えられるようにカリムが得た一節。 
 そもそもカリムのレアスキル、預言者の著書(プロフェーティン シュリフテン)は年に一回しかそのページを増やすことはない。
 今回のはその時期では無かったし、以前書かれたページに更に文章が付け加えられるという、今までに見たことの無いケースだった。
 カリム自身は自分でも良くわかってない能力なのだし、と受け入れることにしているようだ。
 
 本人がそう言うのだから、はやてとしてはそれを信じるしかない。

(シンがこっちに来たのとほぼ同タイミング、それが何を意味してるかは私にはわからんけど……) 
 
 そのせいでカリムの予言に何か変化が起きたのではないだろう、とはやては考えもう一度ディスプレイに表示されている、訳された文章を見る。

 そして何も言わずに肩をすくめると、椅子に座りなおし天井を仰ぐ。

「今私が考えてもどうしようもない……か。
 とりあえずは部隊長として皆を守る、それくらいしか出来ないやろうしな。」

 その為に私の命はあるのだから……と口に出さずに自分に対して言う。

「と、あかんあかん、部隊長の私が暗くなりすぎてしもたら。」
 フルフル、と顔を振り口元に笑みを浮かべるはやて。

「まあ、どちらにせよ、私は私の仕事をするだけや。」

 その先何かあったらその時はその時なのだから、とはやては自分を納得させた。

 はやてとの話が終わりシンは自分の部屋に戻る。

(すっかり遅くなったな。
 流石にエリオはもう寝てるか?)

 六課に入ることになったあの日、シンの生活空間をどうするかということが問題になった。
 具体的には隊舎に空き部屋が無かったのだ。
 いろいろあったが、シンは現在エリオと相部屋、ということになっている。

「……ただいま~。」

 寝ていた場合を想定してノックをせずに声も小さくしてシンは部屋に入る。

「あ、お帰りなさいシンさん。」
「なんだ、起きてたのか。
 もう遅いからそろそろ寝ないと明日の訓練きついぞ?」

 想像に反してベッドの上で本を読んでいたエリオの姿に、シンは少々驚く。

「なんだか寝れなくて……」

 それはそうなんですけどね、と頬をかきながらエリオがばつの悪そうな顔をする。
 まあ、そんな日もあるか……シンは上着を脱ぎながら思う。

 自分も子供のころに、何故か夜に眠れなくなったことあったなぁ、とシンは昔を思い出す。
(そんなときはどうしてたっけな?
 ああ、そうだ……確か。)

 思いついたようにシンはベッドに腰掛けているエリオの横に座る。
「どうかしたんですか?」
 そのシンの行動を不思議に思うエリオ。

「いや、俺も昔そういう風に寝れなくなったことがあったなあって。
 そういう時はさ、父さんが色んな話しをしてくれたんだよ。
 そうしてるうちに眠くなってさ、気がついたら寝てるんだよな、いつも。」

 共働きで普段はあまり家に居ない両親だったが、たまに家に居るとすごく優しかったのをシンは覚えている。
 
 それに妹のマユがそう言って自分の寝室に来たこともあった。

「え、でも悪いですよ。」
 
 遠慮がちに言うエリオの頭をぐしゃぐしゃと掻き乱し、シンは言う。

「気にすんなよ、それに妹にもよくしてやったしな。」
 
 こういうのは慣れてる、と言うシンにエリオがおずおずと言う。
「……じゃあ、僕はシンさんの昔の話が聞きたいです。
 会ってから1週間くらい経ちますけど、まだあんまりシンさんのこと知らないですし。」
 エリオからそう言ってくれて嬉しく思う反面、シンはどうしたものか……とも考えていた。
 何について話したものか、とシンは頭を悩ます。
 
「俺の昔の話……って言ってもな、面白い話なんてあんまり無いぞ?」
 幼少期を除けば戦ってばかりだったはずだ、とシンは思う。

「あの、無理に考えてもらわなくても……」

 迷惑をかけているかもしれない、エリオの表情にそう出たのをシンは感じ取り、慌てて口を開く。

「いや……面白いかはさておいて、折角こうして同じ部屋で生活することになったんだしな。
 俺の昔のルームメイトだった奴、そいつとの話でもしようか。」

 それでいいか? と視線で問うシンに頷くエリオ。

「そいつはさ、レイ、レイ・ザ・バレル、って言う奴だったんだけどな……」

 そうしてシンは自分の過去を語りだした。

 その前にまず俺が軍に居たってこと言ったっけ?
 
  いえ、聞いてないです。

 そうか、あいつとはその時乗っていた軍艦で同じ部屋だったんだけどさ。

 友達だったんですか?

 そうだな、うん、一番の友達だったよ。
 あいつと出会ったのはアカデミー、軍学校だった。

 そこで初めて会った時から意気投合して?

 いいや、あの時の俺は寧ろ逆。 
 レイのことすんげー嫌いだった。

そ、そうなんですか?

 あの頃の俺は死に物狂いに強くなることしか考えられなくてさ。
 必死で訓練して、勉強して、それでそこそこ強くなってきたかな、って自分で思えてきたころだったな、レイと会ったのは。
 あれは確か格闘戦の訓練で模擬戦した時だったっけか。
 あいつが成績優秀で、MS戦だろうが格闘戦だろうがトップクラスなのは知ってたけど、今の自分なら勝てるだろうって思ってたんだ。

 凄い人だったんですね。

 まあそうだな、で模擬戦のほうなんだけど普通に負けたよ。
 ショックだった、なんであんなに努力したのにこんなスカした奴に勝てないんだ、ってな。
 それからは本当に必死だった、次こそは勝つために、あんな奴に見下されたままで終わるもんか、それこそ寝る間も惜しんで訓練に全てを費やした。
 しばらくしてもう一度、レイの奴と戦う機会が巡ってきたんだ。
 
 それで、勝てたんですか?

 惨敗だった、前に戦った時よりひどい負け方だったような気もするな。
 
 そんな……シンさんも頑張ったんでしょう?

 いや、今じゃ負けて当然だったと思ってる。
 無理な訓練で睡眠不足に体力不足、ついでに集中力にも欠けてたしな。
 そんな状態で勝てる相手じゃなかったわけだ。
 でもな、前と違うことがあったんだよ。

 なにがあったんです?

 レイの奴がさ、終わった後俺の方に来てさ、こう言ったんだ。
 悪くなかった、お前が万全なら今地面に伏しているのは俺の方だったろうってな。   
 後、無茶な訓練は良くない、折角の才能が潰れるぞ? とも言ってたっけ。
 普通負かした相手にそんな事言うか? って思うだろ。
 そんなの言われたって普通は嬉しくもなんともないしな。
 
 確かに……僕だったら怒ります、きっと。
 
 だろうな、でもさ……
 あのときの俺は腹を立てるのと同時に、その言葉が無性に嬉しかったんだ。
 レイのあの言葉がきっと本心から来た物だってなんとなくわかったんだ。
 それにさ、アカデミーに入ってから初めて俺のこと認めてくれたのは、あいつだったんだ。     
 
 僕には、良くわかりません……
 
 そうか、俺はそれでもいいと思う。
 まあ、それからだな、レイと行動を一緒にし始めたのは。
 始めのうちは下らないことで喧嘩もしたりしたっけな。
 そうそう、俺があいつのプリン食ったら本気で切れたんだぜ、おかしいだろ?
 
 あの……

 ん?

 その人、レイさんは今どうしてるんですか?

 ……死んだよ、俺の目の前で。

 え!?

 戦場で兵士が死ぬのは別に不思議なことじゃないしな……

 あ、その、ごめんなさい!
 何も考えないで僕は……

 別にいいさ、知らなかったんだから仕方ないしな。
 それにあいつは、最後に俺にもう長くない命を、自分の明日を託すって言って死んだんだ。
 だから、あいつは今でも俺の中で生きている。
 レイは……今でも俺と一緒に居てくれている。

 あの、長くない命……ってどういう?
 
 俺も聞かされたのは最近だったんだけど、あいつ誰かのクローンだったらしいんだ。
 そのクローニングが不完全で、レイは寿命が普通の人より短かったんだ。

 クローン……

 だからさ、あいつにとって明日ってのは凄く大事なものだったと思うんだ。
 それを受け取ったんだ、俺はあいつの分も生きてかなきゃいけないんだろうな。
 
 さて、それからも色々あったな……

 

 そこからのシンの話は取りとめの無いものだった。
 やれ、ルナマリアが模擬戦で射撃を失敗してレイを間違えて撃ってしまったとか、やれ、レイと二人でカンニング容疑をかけられ、追試を受けたとか。

「まあこんな感じだな、レイについては。
 なんだかんだでいい奴だったよ……ってエリオ?」

 大体話終えたかな、とシンが切り上げたとき、既にエリオはシンの横で寝息を立てていた。

「っと、寝てたか。」

 シンはそっとエリオを抱え上げるとベッドに寝かしてやり、上から毛布をかける。

「さて、俺もそろそろ寝るかな……明日も早いことだし。」
 
 自分のベッドに入り、シンは目を閉じる。

(なあ、レイ。
 俺さ、考えるのとか苦手でよくわかってないけど、これでいいんだよな?
 お前の分まで俺が生き抜いてやるから、そっちで見ててくれよな?)

 心の中で今はもう居ない友に語りかける。
 そうしているうちにシンも眠気を感じ、それに身を任せた。