D.StrikeS_第04話

Last-modified: 2009-06-08 (月) 17:45:10

親友に連れられてやってきたのは、黒い髪と赤い目が特徴的な少年だった。

 恐らく昨日の夜なのはが話してくれた彼。
 
 こうして自分の前にいるということは、この少年は彼女の言葉を受け入れたのだろう。 
 彼は私が驚愕するペースで魔法という力を手にしていった。

 なのはと同じタイプなんだろう、と思う。
 だとするならきっとこの先、とてつもなく強大な力を手に入れるだろう……

 なのはもそうだったから……
 
 今はただ、目の前の少年がこの力を間違った方向に使わないことだけを願う。

 魔法少女リリカルなのはD.StrikerS、始まります。
 

 

 魔法少女リリカルなのはD.StrikerS
 第四話「そして手に入れたのは力と仲間なの」

 

 シンは何度かの失敗を繰り返した後、なんとか宙に浮くところまでは漕ぎつけた。

「そうだよ、その調子!」
 
 下の方からフェイトの声がシンに届くが、それに答える余裕はシンにはなかった。
 必死で魔力を操り現状を維持する。

(くそ、少しでも気を緩めると落ちそうになる……!
 流石に、MSと同じってわけにはいかない、か!)
 そっとシンは自分の足元を覗く。
(この高さから落ちたら流石に助からないんだろうなあ……)

 なんて事を考えた瞬間、シンは背筋が粟立つのを感じた。

 それはこれまで戦いを続けてきた中で培った勘、のようなものだったのかも知れない。 無理やり体勢を変えて、移動するシン。
 次の瞬間、シンが先ほどまで居た空間を一筋の閃光が通り過ぎる。

「……っ! 今のは!?」

 光が来た方向をシンは見据える。

「あれは……確かさっき訓練で使われていた機械?」
 その先にはどこか丸っこいシルエットの機械が浮かんでいた。

 また嫌な予感が膨れ上がり、シンは距離を取る様になんとか空を飛ぶ。
 もう一度、光が走りシンがいた空間を通り抜ける。
「くそっ、なんなんだよあれは!?」

『シン、聞こえる!?』
 毒づくシンの頭の中にフェイトの声が響く。

「頭の中に……声が?
 どうなってんだ!?」

 いきなりの出来事に戸惑うシン。
『これは念話って言ってね……ってそんなことを悠長に話してる状況じゃなくて!』

「こいつ一体何なんですか、いきなり襲ってきたんですけど!?」

 フェイトの言葉を聴いている間にも、シンに向かって光が飛んでくる。
 それをギリギリのところでかわしながら、シンは叫ぶ。 
『それはガジェットって言って、私達六課が主に戦ってる相手!
 今そこに居るのは訓練用の奴なんだけど、多分君の魔力に反応してるんだと思う!』

「俺の魔力に反応って……うお!?」
 更に飛んで来た光条がシンの腕を掠める。
『それは私がどうにかするからシンは下まで降りてきて!
 今の君じゃそれには勝てない!』

 フェイトのもっともな言葉にシンは頷きかけて……やめる。

(ここで退いたら駄目だ! 
 ここで退いたら……きっと俺はまた大事な時に戦えなくなる!
 だから……!)

「……断ります!
 こいつは、俺が倒す!!」

 それはある種の脅迫観念のようなものだったのかもしれない。
 自分の力の無さが悔しかったから……もう二度と負けたくなかったから……
 
 もう一度、力を手に入れたかったから……

『シン!』
 咎める様なフェイトの声。
「それに俺はなのはと、アンタ達と一緒にと戦うと決めたんだ!
 こいつらがこれから戦っていかなきゃいけない敵だと言うのなら、ここで戦えなくちゃ……嘘だ!」
 シンの身を切るような叫び。
(そうだ、俺はこんな所で負けていられない……!

 もう、失いたくないんだ!!)
 心の中で強く叫び、シンは手にもったS2Uをガジェットに向けて構えなおす。
 意識を集中する、目の前の敵を倒すために。

「シン……!」
 
 あまりにも悲壮であまりにも硬すぎる決意だとフェイトは感じた。
「フェイトちゃん!」 
 そこにようやくなのは達が到着する。
「なのは!」

「シン君は……戦うつもりなんだね。
 念話、聞こえてたよ。」

 シンの強すぎる叫びは魔力に乗ってなのは達の元にも届いていた。

「ごめん、なのは……
 私には、止められない……」
 フェイトは俯きながらそう言う。

「私にも……止められないかな……」
 止めたいけど、となのはは何処か諦めたように言う。
 この中で唯一なのはだけがシンの事情を知っていた。

 だから、止められないと思った。
 本当はこんな危険な真似をさせたくはなかったのだが、もう二度と負けたくないと言うシンの気持ちがわかってしまったから。  

「いくらなんでも無茶です! 
 だって彼は魔法使い始めたばっかりなんですよね!?
 それなのに、ガジェットと戦うなんて……」

「そうですよ、なのはさん!」
 ティアナが異を唱え、それにスバルが加わる。
「ならさ、ティアナ達は彼を止められる?」
 なのはが上空のシンを仰いで呟く。
 
「それは……」
 二人がいいよどむ。
 彼女達にもシンの声は届いていたのだ。

 そこで今まで黙っていたキャロが声を上げる。

「で、でも……さっき聞こえましたけど、あの人私達の仲間になるんですよね!? 
 だったら私は……あの人を助けたいです!」
 
 今にも泣き出さんばかりの表情でキャロが言う。
「キャロ……」
 隣に立っていたエリオがキャロの手を握り、そして言う。

「僕も、キャロと同じ思いです。
 これから一緒に戦っていく仲間なら、僕は!」
 
「エリオ君……うん!」
 エリオとキャロが真っ直ぐに前を向く。
 それに同調するようにスバルとティアナもなのは達を見る。

 なのはだって心配なのだ。
 見たところ魔法は使えるようになってはいるようだが、それだけでガジェットと対等に戦えるようになるわけでは無いのを、なのはだって知っている。
 いくら、訓練用に開発されたものといっても、その性能は限りなく実機に近づけられているのだから。

「……そうだね、でもとりあえず様子を見ようか。
 危なくなったら、私が加勢する。」
 それでいい? というなのはの言葉に4人は一度互いの顔を見合わせたあと、同時に頷いた。

 戦う、とは言ったもののシンは防戦一方となっていた。
 飛行魔法にはなんとか慣れてきたものの、未だに攻勢に移れずいる。

「くそっ! なにか攻撃する方法は……」
 よけきれなかったガジェットからの攻撃を、なんとか弾いてシンは唸る。
『シン君聞こえる?』
 
 聞き覚えのある声がシンの頭に響いた。

「なのはか!? 止めたってむ『無駄なんだよね?』……あ、ああ。」
 シンの言葉を遮るようになのはは言う。
『危なくなったら私が助けに行くから、だから、思う存分……』

 ―――戦っちゃえ、となのはの言葉がシンの脳裏に響いた。  

 その言葉にシンはフン、と鼻を鳴らし、

「……了解だ!」
 そう小さく口にし、再度自分に向かってきた光をS2Uを振るい打ち落とした。
 
 そのままガジェットにその先を向ける。
「……基本は同じ、やれるはずだっ!」
 魔力を杖の先端に集中させ、ガジェットに向け放つ。
 が、それはガジェットに届く前に霧散する。

「無効化された!?
 こいつ、もしかして魔法が効かないのか!?」

 もう一度、確認するようにシンは魔力弾をガジェットに放つが、それもまたかき消される。
 
「やっぱり……まるで連合のMAじゃないか!」
 流石にあれほど気味の悪い外見をしているわけではないが、厄介さならそう変わらない。
 相手は攻撃し放題なのに対して、こちらの攻撃は効かない……その状態にシンは徐々に焦り始めていた。
 その焦りがシンの動きを散漫にしていく。

 今まで何とかかわすなり、弾くなりしていたガジェットの攻撃もシンの体を掠め始める。

(くそっ、何か手は……手は無いのかよ!?)
 ああも大見得を切った以上、なのは達に助言を貰うという案はシンの中に無かった。
 そもそもそんなことを考えている余裕も無かった。
 いたずらに魔力を練り、魔力弾として放っていくものの、そのどれもが届かない。

「っ……ぐぁ!?」
 そうこうしているうちに遂に一本の光がシンの右腕、S2Uを保持している方の腕に直撃し、シンは思わずS2Uを落としてしまう。

「しまっ……!」
 使っている魔法のほとんどの制御をS2Uに頼っていた為、シンは現状を維持……つまり空を飛んでいることさえ辛くなる。
 それでも、なんとか必死に体勢を整ようとするシンに、更なる攻撃が迫る。
(ここまでか……!? 俺にはこれが限界なのか!?)

 自分の不甲斐無さにシンは歯噛みする。
 やはり自分には無理なのか、と。

 その時、シンの頭の中に突然声が響く。

『シン、お前にとって一番使い慣れた力はなんだ?』

(この声……なんだ!?)
 いきなり聞こえてきた言葉にシンは戸惑う。
『その名を呼べばいい、そうすればお前は力を手に入れられる。
 お前なら……できるだろう?』

「できるか? だって!?
 ……やってやるさ! ああそうだ、やってやるとも!」

 虚空に手を伸ばし、そしてふと頭の中に浮かんだ自分にとっての力をの名を叫ぶ。

「こい、こいよ……っ! イン、パルスぅぅぅぅぅ!!!」

 手の中に光が溢れ、何か硬いものが触れる。
 それが何か確認する間も無く、強く握り締めシンは叫ぶ。

「セット……アップ!!!」

 瞬間、ガジェットの放った光線がシンを直撃し、爆炎がシンを包み込んだ。

 「「「なのは(さん)!」」」
 
 どう見ても悪戦苦闘しているシンを見ながら、他の面々がなのはの名を呼ぶ。

「もう少し……もう少しだけ……」

 なのははまだ粘る。
 勘めいたものだった……根拠は無かったがシンならどうにかできるのでは、となのはは感じていた。

 しかし次の瞬間、シンがついにガジェットの放った光が直撃したのを見て、自分の考えが甘かったと思い改める。

 恐らくこのまま落下してしまうであろうシンを救うために、なのはは飛び立とうとした。
 その瞬間、更なるガジェットの攻撃がシンを撃ち、シンの姿が見えなくなる。

「……あ……あ……」 

 自分の判断ミスだ、となのはは己を責めた。
 自分が勘なんかにこだわったから……
 
 でも何故かこうも思ったのだ、シンなら大丈夫、と。
 理屈でないところで、そして今でも心のどこかではそう思っている自分をなのはは不思議に思う。
 教導官失格かな? と心の中で一人ごちる。

 その時、なのはの元に通信が入る。

『なのはさん、大変です!
 分析してたあの子のデバイスが、消えまちゃいました!』

 焦ったようなシャーリーの声がなのはの耳を打つ。
 
 しかしなのはは、いやその場にいた全員がそれに答えることはなかった。
 全員が目の前の事態に目を奪われていたから。

 シンを包んでいた煙が晴れる。
 そうして現れたのは、直撃をもらい落下していくシン、ではなかった。
  
 青と白を基調とし腹部を赤く染めた服を纏い、片方の手にはライフル銃を、もう片方の腕には盾をもち、シンは何事も無かったのように空中に浮かんでいた。

 シンは自分に起こった出来事を把握できずいた。

(なんだ、いきなり服が変わって……というか無傷で済んでる!?)

 それに、何故か力が溢れてくる、というかすごくしっくりきていた。
 先ほどまで魔法を操っていたときに何処か感じていた、違和感が無い。
 
 今ならなんでもできる……誇張ではなくシンにはそう思えた。

『シン・アスカですね?』
 
 突然自分の胸の辺りから聞こえてきた声にシンは驚きつつも、声をしたほうを向く。
 そこには、銀に輝く羽を象った勲章が鈍い光を放っていた。

「フェイス、バッジ……?」
『私はインパルスといいます。
 貴方をマスターとして認識しました。
 ご命令を。』

 聞き覚えのある名前にシンは疑問を口にする。

「インパルス……ていうとあのインパルス、でいいのか?」 
『はい、貴方のしっているMSのインパルスと、ほぼ同じ性能を持っていると考えていただいて構いません。』

 何故MSであったインパルスがデバイスとして、自分の手元にあるのかシンにはわからなかった。
 しかし、とシンは思う。
 理由はどうあれインパルス、自分にとって始めての愛機で相棒だった機体とともに再び戦える。
 その事実にシンは昂揚していた。

 にぃ、っと口元に笑みを刻み……

「わかった、インパルス! ソードシルエットだ!」

『OK,Load Sowrd Silhouette』

 シンの服の青色の部分が赤へとその色を変え、同時にその背には二本の大剣が、両肩にはそれぞれ羽の様に突き出したブーメランが現れる。

「いくぞ、インパルス! やれるな!?」
『私と貴方なら、何の問題も無く。』
「よく言うよ!」

 自分と、相棒を鼓舞するようにシンが叫び、インパルスがそれに答える。
 先ほどまで手こずっていたのが嘘のように、飛行魔法を上手く扱い、シンはガジェットへと近づく。

 それに対して迎撃する形でガジェットが光線を放つ。
「魔法が効かないからって!」

『フラッシュエッジ』

 シンの叫びに呼応するかのように、インパルスが武装の名前を音声として出力する。

 肩口からフラッシュエッジを二本とも抜き放ち、魔力の刃を形成させその部分でこちらに向かってくる光線を弾き飛ばす。
 間髪いれずに魔力刃の発生をやめさせたフラッシュエッジを連結させ、そのまま投げつける。

 なんとかかわしたガジェットの動きを、腰から抜いたライフルから放った魔力弾で牽制し、その場に釘付けにする。

「うおおおおおおおおおおお!!」

『エクスカリバー』
 
 背中から抜いた1本の大剣を両手に構え、帰ってきたフラッシュエッジがガジェットを切り裂くと同時に、大上段に振り上げたエクスカリバーをシンは振り下ろす。

 十字に切られたガジェットが爆発四散する。
 それを背に手元に帰ってきたフラッシュエッジをシンは掴んだ。

 そのさまをなのは達は呆然とみていた。
『なのはさーん? 
 応答してくださいよ、なのはさん!』
 
 ただ、シャーリーの声だけが空しく響く。
 その時、後ろから声がかかる。

「おー、シン結構やるなあ。
 あ、シャーリー訓練所おいでな、おもしろいもの見れるよ?」

 はやてであった。
「「はやて(ちゃん)!?」」
 いきなりと登場に自分を取り戻したなのはとフェイトが驚く。

「やっほーなのはちゃん、フェイトちゃん。
 ていうか、声おおきいって……寝不足なんやからちょっと勘弁したって。」
「あ、ごめん、はやて。」
 少々仏頂面をしたはやてにフェイトが謝る。

「ところではやてちゃん、どうしてここに?」
「ああ、なのはちゃんに頼まれてたの大体終わったから、こっちの様子見にな。」
 それにしても、とはやては続ける。
「シンって本当に魔法使ったことないん?
 いくらなんでも魔法使い初めて数時間で、あれはなかなかないと思うよ。」

 丁度ガジェットを切り裂いたシンを指差しながらはやて。
「本人が言うにはそのはずなんだけど……
 はやてはどう思う?」
 フェイトは小首を傾げながら答える。
 実際、シンが魔法を使ったことはないのは態度を見ていてわかったし、それに嘘をついてもメリットがあるようには思えなかったからだ。

「ん~、私にも嘘をついているとは思えへんな。」
 
 はやてはそこで一旦言葉を区切り、更に話し始める。 

「まあでも、戦力はあるに越したことは無いしね。
 いい拾い物をしたっておもっとこか。」
「拾い物って……それは流石にシン君に失礼な気がするんだけど。」
 苦笑いを浮かべながらなのはは言う。

 それに、フェイトとはやてが笑いを浮かべて確かに、と頷いた。

「はあっ、はあっ、はあっ」
 シンは息を上げながら、なのは達がいる方へと向かって降下していく。

『初戦でここまで出来れば上出来でしょう。
 お疲れですか、マスター?』

 初めての魔法、初めての戦闘、シンにとっては疲れる要素が多すぎた。 
「ほっとけ……いや、ああ、流石に疲れたよ。」
 素直にそれを認めるシン。
『無理は為さらないように、それで体を潰しては話になりません。』

「はいはい、わかってるさ。」
 インパルスの言葉を受け流しながら、シンは大地に降り立つ。

 ふと周りを見回すとなのはにフェイト、それにはやてと、後はこうして対面するのは初めてな4人。

「お疲れ様、シン君。」
 なのはが代表して労いの言葉をかける。

「ああ、っていうかいきなり襲われたときはどうしようかと思った……」

 シンの愚痴にも似た呟きに、ガジェットの設定を行ったフェイトが額に汗を浮かべながら、顔に笑みを張り付かせる。

「まあ、結果オーライってことでええやないの。
 それよりシンもこの子らも、こうして会うのは始めてやろ?」
 目線でスバル達フォワード陣を示しながらはやては言う。
 それを引き継ぐ形でなのはが、

「そうだね、じゃあ皆注目!
 本当はさっき言おうとしたんだけど、今日から六課に加わることになったシン君。
 とりあえず自己紹介しようか……って皆聞いてる?」
 そこでようやく未だに呆然としていたスバル達が再起動する。

「あっ、すみませんなのはさん!
 じゃあ、私からいきます。
 スバル・ナカジマです、スバルって呼んでくれていいから、私もシンでいいよね?」
 元気良くスバルがシンに自己紹介をし、シンはそれに頷くことで答える。

「うん!じゃあこれからよろしく、シン!
 ほら、次はティアの番だよ。」
 スバルに促され、その隣に立っていたティアナが口を開く。
「ああもう、わかったから体を揺らさないでよ。
 あー、ティアナ・ランスターよ。
 私もシンって呼んでいいわよね?」
「ああ、別に構わない。」
「そう、じゃあよろしくね、シン。
 次は……そうね、エリオの番ってことで。」

 ティアナがスバルがそうしたように、エリオを指名する。
「えっと、エリオ・モンディアルって言います。
 これからよろしくお願いします!」
 元気良く挨拶をするエリオにシンが笑いながら答える。
「ああ、少ない男同士頑張ろうな。」
「はいっ、じゃあ次はキャロの番だね。」

「あ、あのキャロ・ル・ルシエっていいます!
 よ、よろしくお願いします!」
 どこか緊張したようにキャロが言う。
「ああ、よろしくな。」

「じゃあ、次はシン君の番だね。」

 なのはの言葉にシンは頷き、

「シン・アスカです。
 なんだかんだあって、起動六課……でしたっけ? に入ることになりました。
 ……えっと、こんな感じでいいですか?」
 伺いを立てるようにはやてやなのは、フェイトといった隊長陣を見やるシン。

「ん~、50点! 無難すぎるわ。 
 ちゅうわけで、こういう時恒例の質問た~いむ!」
 はやての言葉にえええええ、とシンは心の中で嘆く。
 シンはこういう和気藹々とした雰囲気に慣れてはいないのだ。

「じゃあ、いいですか?」
「はい、エリオ! なんだって聞いてええで!」
(勝手に決めんなよ! そこは俺が答えるところじゃないのかよ!?)

 思わず突っ込みたくなったが、何故かはやてから発せられるプレッシャーに黙るシン
「特技とかなにかありますか?」

 エリオの質問にティアナ辺りが流石にそれはありがちじゃ……と表情に出すが、
「ええよ、ええよ、そのありがちな所がすごくええよ!
 ほな、シン! 答えたってや!」
 何故かはやてのテンションは上っていった。
 なのはやフェイトは苦笑いを浮かべ、スバル達は始めてみるはっちゃけた上司の様子にまたも唖然としている。

 げに恐ろしきは徹夜明けのテンションか。

「なんだかなあ……えっと特技だっけ?
 何かあったかな……」
 シンは頭の中を探る。
「ああ、これがあったか……」

 ふと思いついたように腰の辺りに、備えられているナイフ―――フォールディングイレイザーを取り出し、右手に構える。
「一応、ナイフ捌きには自信が無くも無いかな?」
 言って、右手に持っている方のそれを、誰も居ない方向の瓦礫に向かって投げつける
 シンの身体能力も相まって、深々と突き刺さるそれを見て六課の面々はおお~、と感嘆の声を上げるが、

「でも、あんまり日常生活には役に立たないよね?」

 スバルの何気ない一言に場の空気が固まる。
 え、え? と、辺りを見回すスバルを、ティアナが馬鹿、と念話で叱り付ける。

「じゃ、じゃあ私からもいいかな?」

 なのはが空気を変えようと声を上げる。

「多分、皆気になってるとは思うんだけど……
 シン君のそれ、どうしたの?」 
 シンの服を指差しながらなのはは言う。
 その言葉に他の面子も興味津々、といった風にシンを見る。

「どうした……って言われてもな。
 俺にもよくわかってないんだけど……」

 言いよどむシン。
 その時であった。
「説明しましょう!」

 訓練場の入り口が開き、声がかかる。

「「シャーリー!?」」

 突然といえばあまりにも突然なその登場になのは達は驚く。

「お、シャーリー、ようやくきたんかいな。」
 呼びつけた本人のはやては至って普通の様子。
「どうもどうも~。
 あ、シン・アスカさんですよね?
 シャリオ・フィニーノって言います。気軽にシャーリーって呼んで下さって結構ですよ~。」
「あ、ああ、わかったけど……」

 いきなり現れたシャーリーに面食らうシン。

「それでシャーリー、説明って……シンのこれのこと?」

 フェイトの問いにシャーリーは頷き、口を開く。

「はい! さっきまで分析してたのに、なんでここにあるのかはこの際置いておいて・
 まず結論から言いましょう。
 シンさんのこれはバリアジャケットや、騎士服といったフィールド系の魔法ではなく、この服装、便宜上バリアジャケットっていいますけど、それ自体がデバイスなんです。」
「バリアジャケットじゃないって……?
 じゃあ、シンのデバイスの本体はそのでっかい剣じゃないの?」

 シャーリーの言葉に、シンの背中のエクスカリバーを指差しながら首を傾げるスバル。
「それが違うんですよ~。
 私の解析が正しければ、今のそれはあなたの形態の一つですよね、インパルスさん?
『ええ、そのとおりです。』
 シンの胸元のフェイスバッジから機械的な声が響く。

「そして、その形態は全部で3「3種類だな?インパルス。」 人のセリフを取らないでください~。」
 シンが確認するように己のデバイスに聞く。

「シン君、わかるの?」

「ああ、多分こいつの使い方に関しては、俺が一番くわしい……と思う。
 今の近接戦闘用のソードシルエット、他に機動戦闘用のフォースシルエット、遠距離火力支援兼砲撃戦闘用のブラストシルエットの三つ……違うか?」
 
 なのはの問いにシンは確認するかのように答える。
 
『それで合っていますマスター。』

「まあ、というわけでこのデバイス、インパルスさんは単体で全ての状況に対応できる、そういう目的で作られたようなのです。」
 シャーリーがそうまとめ、以上で説明は終了です、と締める。

「はい、質問です。」
 ティアナが片手を上げる。

「つまり、一人で近、中、遠全てのレンジでの戦闘をやってのけないと駄目って事ですよね?
 そんなこと、実際にできるんですか?」

「ちょっとよくわからないですねー。
 こういうコンセプトで作られたデバイスは今までにあまり例がありませんし……」
 
「それに、それだけ沢山の魔法を使いこなさないと駄目ってことだしね。
 使い手次第だと思う。」
 フェイトの言葉にその場の視線がシンに集中する。
「な、なんだよ?」
 
 思わずうろたえるシンになのはが笑顔を浮かべて言う。

「シン君、頑張って、訓練しようか。」

 何故か楽しそうにしているなのはに、シンは背筋を震わせる。

(そういやなのはって本職は教導官だって言ってなかったか?
 もしかしなくても……これから大変?)

 視線だけをなのはの教え子であるフォワード陣に向けるが、気の毒そうに目をそらされる。

 さらにフェイトやはやての方も見てみるが、フェイトは苦笑いを浮かべるだけで、はやてに至っては楽しそうに目を細めながら手を振っている。

 そして、目の前に立っているなのはを見る。
(本当に楽しそうにしてやがる……)

 目が合いなのはが、ん? と小首を傾げる。
「ああ、もう! わかったよ、やればいいんだろやれば!?」
 やけくそ気味にシンがそう言うと、なのはが更に嬉しそうに頷き、
「改めてよろしくだね、シン君!」

 シンの前になのはの手が差し出される。
 
 少々うろたえ、もう一度周りを見渡す。
 程度の差さえあれど、みんな、笑っている。
 まるでシンのことを歓迎するように。
 
 それがシンは嬉しかった。
 
 だから、その笑顔に後押しされるように、一際いい顔で笑みを浮かべているなのはの手を握り返す。
 
 朝のように顔をそらすことなく、真っ直ぐに前を向いて。

「ああ、まだわからないことばかりだけどさ、その、これからよろしくな。」

 どこか恥ずかしげにそう言った。

「うん! 起動六課へようこそ!」

 なのはの言葉に、フェイトやはやて、シャーリーはやわらかい笑みを浮かべ、スバルが祝福するように手を叩く。
 そんな相棒を呆れたように横目で見つつも、ティアナも一緒に手を叩き、エリオとキャロが一度互いに顔を見合わせ笑う。

 そんな、どこかやさしい風景をみて、シンは自分の中のささくれだった部分が、少しずつ消えていくのを感じた。
 失くしたものはもう戻らないけど……もう一度、この新しい仲間達と頑張っていこう、心の底から、そう思えた。

 

番外編第4.5話