DEMONBANE-SEED_ですべのひと_04_3

Last-modified: 2013-12-22 (日) 19:26:49

「まず、アザトースというものについて説明せねばならんな。これは……」

目の前には黒板。

目の前には魔導書。

目の前には白衣。



Q:この状況を具体的に説明せよ。

A:白衣を着た魔導書が黒板を使って俺に教鞭を振るっている。



俺のプライドどこいった。



それはともかくとしてだ。

正直驚いた。

今まで最小レベルの物質単位は原子あたりだったのに、

さらに小さいレベルで「アザトース」というものが存在する。

これに干渉して魔術を使うという。

俺が知ることのなかった世界の法則。

魔術が失われたCEでは、知ることはできなかっただろう。



「―――と、まあ理屈は一旦此処までとするか。汝、理解はできたか?」

「ああ」

すると、アルが手を俺に向けてくる。

「では実際に、魔術を行使する。しかと見よ」

そう言ったアルは、手の中に魔力の球を作り出す。

「これは汝でも普通に触れられるように調整した。魔力の流れは分かりやすくしてある。

 常人の汝にも見えるだろうから、それを観察せよ」

……一応、常人より優れてるんだけどなあ、コーディネイターっていうのはさ。

そんなことを思っても仕方ないので、渡された球をじっと見ていると、

確かに若干何かの流れが見えるような感じはする。

とても微少ながら、表面の力の薄いところも。





試しに、感触の違いを確かめようと触れてみた。

「まそっぷ!?」

破裂。

「汝……魔力の流れが脆いところをついたな」

青天な俺を見下ろすように、アルが言う。

情けない俺。

「見えていたか?」

「……ああ。まさか破裂するとは思いもしなかったけどな」

アルの問いかけに答えると。

「まだ始まったばかりだから正確な判断はできないが、

 少なくとも並の魔術師程度には素質がありそうだな」

悪いわけじゃなかったらしい。

「今度は魔術、魔力というものに慣れてもらう。次第に精度は上げていくぞ」

そして、次の球が渡される。



パン!

パン!

ぱきっ!

ぽみゅ!

ゴシカァン!!

ズギュゥゥゥン!!



―――数時間後。

「あらあらあら? どうしたのシン君、そんなケガして」

「まあ、いろいろとありまして」

ボコボコの顔でライカさんのところを訪ねることとなってしまった。





ギィ―――ンギュルギュルバルバルバル―――ン!!

「ふんぎゅらばあああああああ!?」



ブラックロッジの本拠地・夢幻心母に放り込まれた翌日。

いきなり、目覚めはギターだった。

あなたのギターは、いずれ僕の鼓膜を殺す!

とはいっても、人の話を聞く人とは思えないし、素直に起きる。

何故か妙にだるい。ああ、そうか僕はあの時……

「僕達の……貞操は……」

「エルザのはあげないロボよ?」

いや、君の話はしてない。

というか君は誰だ。

「目が覚めたであるか、少年」

「……此処は?」

この人にはうんざりしてるけど、一応顔は知ってる。

「我輩の研究所である。此処で我輩はエルザを始めとした

 科学の結晶の制作をしているのである」

成程、よくある悪の科学者―――あれ?

此処にいるのは三人。

このキ○○○は制作者。

僕は僕だ。ロボじゃない!

ということは。

僕の視線が固まったのを察した少女は、その頭を押さえ……



かぽ。



「ろ、ロボットぉ―――!?」

「これぞ大天才・ドクt(ryの最高傑作!

 ってこら略すなである」

「自己紹介が遅れたロボ。エルザというロボ」

なんか、まんまだ。

「よろしくロボ~」

首を回したまま言われてもさ。





「さて、突然であるが」

「はあ」

「少年よ、我輩の改造を 受 け な い か 」

そう言うと、彼は白衣のポケットからおもむろに何かを取り出し始めたのだ。

ウホッ、いいスイッチ。



次の瞬間、僕は拘束された。

「ちょ、何コレ、手術台!?」

「この大天才の手術を受けられるのであるぞ?

 光栄に思うのである。一生の思い出はプライスレス、買えないものは夢幻心母で。

 今ならタダでご提供! 銅鐸もつけるのである!」

いきなり意味不明なことを言うの許せないじゃない?

だからやめてよねというかやめろーショッカーぶっとばすぞー

「では、レェェッツ……」

そして、無情にもボタンは―――



「そこまでだ」

押されなかった。

「あ、あなたは!」

「……ウェスト。この者は客人だ、丁重にもてなせ」

大導師さん、心なしかなんかツヤツヤしてます。

アレですね。アレなんですね。

「だ、大導師殿がおっしゃるのならば」

ということで、解放された。助かった。





「あ、あの、大導師さん……?」

「キラ・ヤマト。貴公の得意分野はプログラミングだといったな」

「はあ、一応それがとりえですけど……」

「ウェスト。使ってやれ」

「「はへ?」」

唐突な発言に、ぽかーんとする二人。

だが大導師は続けて言う。

「貴公はあの機械人形を動かしていたと聞く。

 此処での仕事を与えると言っているのだ。

 よかったなウェスト、貴公に生身の助手が増えたぞ。生身のな」

「あ、ありがたき幸せであるっ!!」

さりげに生身を強調する大導師さん。

これって、僕を此処に留めるための条件?

「三食に風呂や寝室、外出も許可する。好きにやればよい」

そんな破格な待遇でいいの?

「悪の秘密結者」とか言われているブラックロッジが、僕を。

それに、あの人達のところに行くかもしれないのに。

「―――よいな、キラ」

その瞬間。

彼の瞳は、虚ろの中にどこか悲しみを抱えていた。

見てすぐは、信じられない、飲み込めない、そんな印象だったけど。



―――知りたい。

彼の奥底の悲しみ、その理由を。

近付けるかもしれない、心が。

悪でさえも憎みきれない、甘すぎるかもしれない考えは、その時僕を動かした。

「やります。やらせて、ください」

僕は、彼を知りたい。

我が儘でもいい、彼の悲しみを知りたい。



「それは、果たして『造られた最高』の、偶然の共感だったのか。

 君達が知るところじゃないけど―――ツーペアの完成だね」

闇の微笑みは狂喜であり、狂気。







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