DEMONBANE-SEED_種死逆十字_02_1

Last-modified: 2013-12-22 (日) 05:18:56

 広がるは闇。見えるのは大小様々、色彩も様々な光。

 ただただ黒い闇の空間と輝く星々の光しかないそこは、宇宙〔ソラ〕。



 ──否。此処は宇宙と呼ぶには少々おかしい。存在するのは星々『だけ』などというのはあり得ない。

 この空間には地球も、月も、太陽も、その他大小の惑星も、そして今は数多く存在する『プラント』も存在しない。甚だ出来の悪い、『模造の宇宙』だ。

 その不完全な空間に、一体の巨人が微動だにせずただ浮遊していた。

 それは一機のモビルスーツ──前大戦にロールアウトはしたものの、性能は劣るが生産性の高かった『ストライクダガー』に正式量産機の座を先取りされ、今となっては大戦後期に開発された性能は同程度でかつ生産性も高かった『ダガーL』にお株を奪われ、結局大量生産されることの無かった不遇の機体、『GAT-01A1ダガー』通称『105ダガー』の名を持つMSの姿をしていた。

 しかし、よく見れば違う。パッと見はダークシルバーに塗装されただけの105ダガーなのだが、所々がストライクダガーやダガーL、俗に言うダガータイプのパーツがゴチャゴチャに組み合わされた、左右非対称の姿になっている。最もダガータイプはデザインに大した違いは無く、違和感は殆どないのだが。

 が、通常のダガータイプとは決定的に違う特徴があった。その背中に装備された、巨大な二刀だ。

105ダガーとダガーLに採用された装備換装システム『ストライカーパック』、その換装装備の一つである『ソードストライカー』の武装、対艦刀『シュベルト・ゲベール』である。

 しかし武装がその巨大な大剣のみで、かつ二振りも装備したストライカーパックなど公式には存在しない。

ましてや標準装備している機体などという物は──

「……来たか」

 敵機接近を知らすアラームに、コクピット内で瞑想していた男は顔を上げた。組んでいた腕を解き、

操縦桿を掴む。

 ゴチャゴチャなダガータイプの機体──ダガーモドキ(仮称)の周囲は、何時の間にやら現れた3機のダガーLに包囲されていた。

「エール、ランチャー、ソード装備のダガーLが各一機か……嘗められたものよ」

 男が言い終えた直後、ダガーL3機は一斉にダガーモドキに攻撃を仕掛けてきた。エールダガーLはビームライフルを、ランチャーダガーLは超高インパルス砲『アグニ』を、ソードダガーLはビームブーメラン『マイダスメッサー』をそれぞれ放つ。

 ダガーモドキはアグニとビームライフルを体を捻るだけで軽やかに避ける。しかし一足遅れで飛んできたマイダスメッサーが頭部に迫ってくる。



「フン──」

 ガキィンッ!と甲高い音が鳴る。高速回転するブーメランの実体部分を、何時の間にやら構えた左手の対艦刀、その鍔から伸びたナックルガード部分で弾いたのだ。

 直後、ダガーモドキがスラスターを吹かし、比較的近い距離に居たソードダガーLへと一直線に駆ける。

ソードダガーLは自分のシュベルトゲベールを構えようとして──

「斬っ!」

 一刀両断。ビーム刃を発生させる間もなかった大剣ごと、ソードダガーLはダガーモドキの一閃に中央から分かたれ、爆散。

 流れるような動きで右側のシュベルトゲベールを振りぬいたダガーモドキの後ろから、サーベルを抜いたエールダガーLが高速で迫る。サーベルの刃が無防備に背を向けるダガーモドキを切り裂く──寸前で止まる。

 逆手に持ち変え、振り向かぬまま後ろに突き出された左手のシュベルトゲベールがエールダガーLの胸を貫いていた。ガクリとその場で機能を停止する。

 最も距離を取っていたランチャーダガーLが再びアグニを発射する。ダガーモドキは大剣に貫かれたままのエールダガーLを、迫るビームの方向に剣を振って投げ捨てる。

 エールダガーLをアグニの閃光が貫き、二機の間に爆炎が広がる。MS一機を貫いてもなお減衰しないアグニの閃光を紙一重でかわし、ダガーモドキは大剣を構えて爆炎を突っ切る。

 炎の中から現れたダガーモドキにランチャーダガーLの反応は僅かに遅れ──それが致命的な隙となる。

 剣閃が十字を描く。最後のダガーLは胴体を×の字に分かたれて、消滅した。

「次……ほう、五機出てきたか。結構なことだ」

 アラームと同時に前方からの機影を目視で確認した。ザフト軍のMSシグー、ゲイツが各2機。そして、ゲイツを改修したゲイツRが一機。

「ゲイツ、とかいったか。ザフトの現主力機……さて、どの程度のものか?」

 五機のMSは散開、距離を取りながらダガーモドキを取り囲む。同時に、一斉射撃。シグーはマシンガン、ゲイツはビームライフル、そしてゲイツRは腰の二門のレールガンを放った。

 圧倒的な火力差の攻撃がダガーモドキに迫る。ダガーモドキには大した火器は見受けられず、装甲も決して厚いようには見えない。五対一の圧倒的な戦力差、普通なら覆せるはずも無いが──

「──やはり、甘い」

 ダガーモドキはある一方向を向き、そちらに向かってスラスター全開で駆ける。マシンガンとビームは寸前までダガーモドキの居た場所を空しく通り過ぎ……レールガンから放たれた2発の弾丸は、向かってくるダガーモドキに真正面から迫った。



「くっ、おおっ!」

 叫びと共に振られる双剣。二本の大剣は電磁加速された砲弾を一発は両断、もう一発は反応が遅れつつも左の刀身で弾く。左のシュベルトゲベールはレーザー発生器が故障してしまったようだが、そのまま間合いを詰めてゲイツRを無傷の右で袈裟斬り、撃破。後四機。

 両翼からゲイツ、後ろからシグーが迫る。振り向くと同時に、ダガーモドキは二刀を逆手で振りかぶり、シグー目掛けて投擲。力強く投げられた二つの大質量はマシンガンを物ともせず飛び、先端の実体刃をシグーの胸元に突き立てた。後二機。

 得物を二本とも無くしたダガーモドキに、2機のゲイツは急接近して両腰に装備されたロケットアンカー『エクステンショナル・アレスター』を撃つ。これは先端にビーム砲が内蔵された特殊な武装で、直撃すればゼロ距離からのビーム砲を見舞われ、決定打は免れない。

 四匹の蛇の如く向かってくるアンカーを、ダガーモドキのパイロットは見つめる。その眼と思考は、アンカーの動きとスピード、そして未来位置を正確に補足、計算していた。

 両腰のビームサーベルを抜き、両手を十字に構え──アンカーが有効射程に入ると同時に、二つの剣先が円を描きながら振るわれる。

 直後小爆発が三回、ダガーモドキの周囲で起こる。サーベルは向かってきたアンカーの内三つの迎撃に成功した。が、一つだけ逃したものが右脇腹に迫る。

「ちぃっ!」

 頭部のイーゲルシュテルンII機関砲で迎撃、ギリギリのところで破壊。爆発がコクピットを揺らすが、些細なものだ。即座にゲイツの片方へと駆け、サーベルを一閃。返す刀でもう一機に向き直り急接近、ビームライフルを物ともせずに間合いに入り、右の斬撃。それはシールドに止められるが、即座に突き出された左のサーベルにコクピットを潰され、停止。

 終わってみれば実に鮮やかであっさりとした、ダガーモドキの完勝だった。

「……やはり、遅い」

 しかしダガーモドキのパイロットはこの結果に不満らしい。ヘルメットどころかパイロットスーツすら着ていない彼は、操縦桿を握りこんで表情を歪めた。

「確かに良い機体、良き戦馬よ……だがやはり、この程度では足りぬ、足りぬのだ、まだ──?」

 彼の思考を止めるように、再びアラーム。レーダーに捉えられたのは一機のみ。

 今更一機で何を──というパイロットの思いは、その機体を見た瞬間、吹き飛んだ。

「……はは、はははは……面白い!あの女史もなかなか良い趣向をこらしてくれる!」

 それは白き機械の体と蒼き鋼鉄の翼を持つ破壊の人形──最強のMS、大戦の英雄。その二つ名は数知れず。



 自由の名を持つ白き天使──フリーダム。



 フリーダムはダガーモドキを射程に捉えると同時に、右手のビームライフル、翼に内蔵された二門の収束ビーム砲、そして両腰のレール砲を展開、その全てを一斉に放つ。ダガーモドキはスラスター噴射で回避──だがフリーダムは全武装を絶え間なく撃ちまくり、その圧倒的な火力を見せつける。

 火力の凄まじさと此方の動きを読んだ正確極まりない射撃に、回避が間に合わなくなっていく。

「ええいっ!」

 ダガーモドキは足を止め、両手のビームサーベルでレール砲の弾丸を斬り落とす。ビームは全て四肢での機体動作とスラスターの瞬間起動のみでギリギリかわし、レール砲の弾はサーベルで捌き続ける。

 先程までとは違う、完全な防戦一方。フリーダムの射撃は容赦なく、ダガーモドキは防御と回避のみで精一杯、もはやその場を動くことすらままならない。

 そして更に、ダガーモドキにとって致命的な事態が起きていた──

「くっ、ただでさえ不十分だというのに……!」

 サーベルを振り回してレール砲の弾を捌く両手の反応速度が、徐々に低くなっていく。関節の所々から火花が上がる。パイロットの技量に限界を超えた駆動を強いられた腕が、耐えられないのだ。

 ビームとレールガンを避ける、避ける、捌く、捌く、避ける、避ける、避ける、捌く、避ける、捌く、

避ける、避ける、避ける、捌く、捌く、避ける、避ける避ける捌く捌く避ける避ける避ける避ける捌く

捌く避ける避ける避ける避ける捌く捌く避ける掠める避ける避ける捌く捌く掠める避ける避ける掠める

掠める避ける捌く掠める捌く避ける避ける掠める捌く掠める掠める掠める避ける捌く捌く掠める掠める

掠める掠める掠める捌く掠める掠める掠める掠める掠める捌く掠める掠める掠める掠める掠める掠める──



 ──そして限界が来る。

 ビームが両腕を貫き、レールガンが両足を砕く。四肢が無くなったダガーモドキ。そこで攻撃は一度止むが、まだ終わりではない。

 フリーダムが翼を広げ、右手で腰のビームサーベルを引き抜くとダガーモドキへと高速で突撃する。 ダガーモドキに迫る斬撃。それはMSの戦闘においては格段に速く──ダガーモドキのパイロットの感覚では、速いが見切れぬことはない程度の速さだった。

 体感する時間が重い。ゆっくり、とてもゆっくり視界を覆わんとする光刃。しかしそのゆっくりな一撃を避けられない。避けることが出来ない。

「……実に、無様」

 ビームサーベルがダガーモドキの首を刎ねた瞬間、



 彼らが居た宇宙に似たセカイは、消えた。



「お疲れ様、ティトゥスさん」

 開いたコクピットから出てきた黒装束の男──ティトゥスの背に女性の声がかけられる。

このモルゲンレーテMSドックの責任者の一人でもあるオーブの設計技師、エリカ・シモンズだ。

「やってくれたものだシモンズ女史。まさかあのフリーダムを出してくるなどとは思っても見なかった」

「驚かれたかしら? でもそれはこっちも同じ、正直最初の三機で中破位はすると思ってたのに、ザフトMS五機相手にした後も被害は小破程度なんて信じられなかったわ。もうフリーダムくらいしか、貴方を倒せそうなデータが残ってなかったのよ。数で押し切るのは面白みが無いし」

「所詮はプログラム制御、多少経験を積んだ操縦者よりも数段劣る……ただ、フリーダムの動きだけは少々 舌を巻いた。あれは機体性能だけではないな、誰か優秀な操縦者のデータ流用か?」

「ええ。まあ、ね」

 苦笑しながら答えたエリカは、ティトゥスが降りて来たMSに目を向ける。ハンガーに固定され、コクピットから幾つかのコードが伸びているその機体は、先程までシミュレーター内でティトゥスが使っていたダガーモドキだ。

「けどこの機体もなかなかの物よ。『ツヴァイダガー』っていったかしら?105ダガーをベースにその他ダガーシリーズのパーツを流用して修理、改修を施した機体……説明だけ聞けばほとんどジャンク品なのに スペックは純正品とほぼ同等、一部能力だけならそれ以上だわ。OSもそれに合ったいい出来だし」

「南アメリカの整備士達が良い仕事をしてくれたのでな。それに『とある機体』から流用した機体データと OSも良い物だった」

 ティトゥスは約一年ほど前に参加した戦場で共に戦った兵士やメカニック、そして愛機のデータを提供してくれた陽気な黒人の戦友の顔を思い出した。

「とはいえいくら貴方の戦闘スタイルに合わないとはいえ、迎撃機関砲以外の火器を持たないのは問題じゃ ないかしら?これじゃフリーダムでなくても遠距離特化の機体や高火力機体相手に不利になるのは当然よ。今回はフリーダムまでなんとか持ったけれど……あれも実際、かなり綱渡りだったんじゃないの?」

「……仰る通り。とはいえやはり拙者は飛び道具と相性が悪いらしくてな。色々と使ってはみたが、どうにも扱い辛くて適わん。それに、飛び道具など無くとも……」

 ティトゥスは一度言葉を止め、少し声のトーンを落として続きを語りだした。

「自惚れと思われるかもしれんが……この機体では拙者の望んだ通りの動きを完全には実行できぬ。 この機体が傭兵の身で所持できるMSとしては、破格の性能であることは理解している。しかし…… それでも足りぬ。拙者の力を完全に、遺憾なく発揮できる機体があれば……すまん、言い訳だなこれでは」

「ティトゥスさん……とても言い辛いのだけれど、はっきり言わせてもらうわ」

 自嘲気に笑って話を止めたティトゥスに、エリカは少々歯切れ悪く、だが真剣な顔つきで言った。

「それは無理よ。どんなMSだろうと貴方の反応速度についてこられるものは無いわ。例え、フリーダムや ジャスティスのような『最強』のMSであろうともね」



 ティトゥスがこの世界に飛ばされてから、既に約2年が経過していた。現在彼は世界各地の紛争やテロの鎮圧に参加して日銭を稼ぐ傭兵として、このコズミック・イラの世界に生きている。

 理由としてはまず、やはりティトゥスの能力は戦いにこそ向いているからという単純な理由から。

それにティトゥスは己を一から鍛え上げる事を望み、それにはやはり実戦が一番だと思ったのもある。

 第二の理由として、ティトゥスがこの世界の人間ではない、本来存在しない人間であること。傭兵なら戸籍を持たない人間でも、能力さえあれば建前はどうであれ雇う側は基本、その辺りを問わないのだ。

 そしてもう一つ……ティトゥスはこの世界の主流兵器である、MSの操縦上達も望んでいた。

 傭兵を始めた初期はそれほど意識せず己の強さのみの上達を望み、どんな相手だろうと──それこそMS相手にも身体一つで戦う毎日だった。だがやはり一機や二機ならまだしも、何十機ものMS相手に生身では限界があり──必然的に、彼はMSの操縦法を覚えることになった。

 まあ元々MSと理屈は全く違えど『鬼械神』という魔導ロボットを操っていたティトゥスである。MSの操縦に抵抗はあまり無く、むしろこれも力の一環と納得するのは早かった。鬼械神とは違う操縦方法についても、基本さえ覚えてしまえばコーディネーターを超えた身体能力と反射神経を活かし、実戦で通用する程度にはすぐにこぎ付けた。

 ただ、その当初からティトゥスはMSの反応速度に対して不満足感を覚えていたが……







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