DEMONBANE-SEED_種死逆十字_03_2

Last-modified: 2013-12-22 (日) 05:21:31

「たあぁぁぁっ!」

 インパルスが連結したエクスカリバーを振り上げてガイアに斬りかかる。突進しながらの連撃をガイアがバックステップで避けた直後、腰のライフルを抜いたインパルスはガイアに引き金を引き、続けて背後のカオスにもライフルを放つ。ガイアはシールドで、カオスは建物の隅に隠れ防ぐ。


「あれも新型か!? どういうことだ、あんな機体の情報は……アウル!」

 スティングの声にアビスもインパルスとの戦闘に入る。多数の武装を施されたアビスは一斉にビーム砲を放ち、インパルスの周囲を薙ぎ払う。

「くそっ、プラントの中でこんなっ!」

 シールドでビームを防いだインパルスに再びガイアが迫る。再びサーベルをシールドで防ぎエクスカリバーを一閃、ガイアもシールドで受けるがエクスカリバーの重い一撃で後ろに吹き飛ばされる。なんとか両足で着地したところに連結を解除したエクスカリバーの一本を投げつけられ、シールドを手放してしまう。


『おいシン! 命令は捕獲だぞ! 分かってるんだろうな、あれは我が軍の──』

「分かってます!でもできるかどうかなんて分かりませんよ! 大体何でこんなことになったんです!? 何だってこんな簡単に、敵にっ!」

 ミネルバ副長アーサー・トラインの慌てた声が通信機越しに聞こえる。だがまともにやり合うだけで精一杯なシンはその声に怒鳴り返した。言いたい事は分かるが、そんな事いってる場合か、と苛立ちが募る。


『今はそんなこと言ってる場合じゃないでしょ! 演習じゃないのよ! 気を引き締めなさい!』

 ミネルバの艦長、タリア・グラディスの一喝に押し黙るシンとアーサー。今度は彼女の立場に加え、言ってることはもっともなので流石に反論する気にはなれない。それに──


「くそっ、こいつら……っ!」

 完全に自分を標的とした三機に囲まれたシンに、もうミネルバクルーとの会話に意識を回す余裕はなかった。







 機械の巨人達が対峙する中、その少し離れた場所で小さき者達も刃を交えていた。

 ティトゥスは後退しながら、二体の異形の振り回す計四本のビームセイバーを避け続けていた。
超高熱を帯びた魔力の塊、そんな危ない代物を異形は制御しながら、素早くかつきわどい場所に斬り込んでくる。

 深い一歩を踏み込んできた異形の右振り下ろしを短いバックステップでかわす。更に一歩踏み込み、放たれた左の刺突。右の刀を前に出し、互いの刃をぶつけながら軌道を外側に逸らす。最低限の対魔術儀式は施してある刀と、ビームセイバーが擦れる甲高い音と金属の焼ける匂い、そして火花が広がる。


 深い踏み込みによる隙をついて、その異形の腹に蹴りを叩き込むティトゥス。吹っ飛ぶ一体を気にもかけず、もう一体は更に攻めてくる。今度は防御に回らず、ティトゥスは斬りかかって来たビームセイバーを左の刀で上に弾き、無防備になった胸部に右の刀を突き出す。


 刀は胸を貫くことは無かった。ビームセイバーを消し、代わりに胸部装甲に例の魔術文字の羅列を浮かべた異形は刀を完全に受け止めた。しかし衝撃は消せなかったようで、地面を擦る音と共に異形の体は数メートルバックする。


 刀を構え直し、後ろにのけぞる異形に追撃を仕掛けようとするティトゥス。だが直後視界の隅に映ったモノに一度舌打ちし、前に出ようとした身体を無理矢理止め大きくバックステップする。


直後耳を打つ炸裂音のような音と、ティトゥスと異形の間を通過する幾つかの光線。光は瓦礫や壁にぶつかった直後、更に砕けた瓦礫と閃光と破砕音と煙を周囲に撒き散らす。


 たちこむ煙の間からティトゥスが見つめた光の出所には、右手をキャノン砲に変形させた異形の姿。

 砲身をこちら側に向けてくる側面の異形と、体勢を立て直し再びビームセイバーを構える正面の異形。

そしてその正面の更に数メートル後ろ、ティトゥスからずっと距離を保ちつつ、ただただティトゥスを見つめ続ける、両手を失った異形。

(やはり、こ奴等は……)

 その姿から連想されるのはティトゥスもよく知る、二体の機械天使。そしてかの天使の簡易模造として造られた意思持たぬモノ達──そしてそれら全ての生みの親である、狂気を孕んだ老紳士──


「人間魔導兵器……悪趣味は相変わらずか、ウェスパシアヌスめ……」







「さぁーて行こう!慎ましくな!」

 ネオの掛け声と共に、ガーティー・ルーがその姿を露わにしてアーモリーワン周辺を警備していた艦船に奇襲をかける。ガーティー・ルーの主砲『ゴットフリート』が一斉に火を噴き、二隻の艦が閃光に貫かれて宇宙の藻屑と消える。


 突然の襲撃に混乱はあっと言う間に広がり、司令部を初めとする港の軍人達はてんやわんやの大騒ぎとなる。

「ミラージュコロイドだと!? 条約違反ではないか!」

「地球軍なのか!?」

「出撃命令! 何としても落とせ!」

 慌てて港から出航しようとする艦の群れ。しかしその目前に、事前にガーティー・ルーから出撃して港の入り口で待機していた黒いダガーL──『ダークダガーL』四機が飛び出し、その手に構えたバズーカを艦のブリッジに次々と撃ち込む。ブリッジと共に制御を失った艦は大きな振動と共に港の壁にぶつかり爆発、


 更に大きな振動と破壊を引き起こす。しばらくは港の入り口は使い物にならないだろう。

「ダガーL! やはり地球軍か!」

「お、おのれ……ナチュラルどもが!」

 幸いにも艦の直撃と爆発から免れた司令部で怒りの声が上がる……が、それはすぐに消えた。

「? 入り口の方向、あれは何だ? ……人間?」

 誰かの発言に司令部に居る全員の視線が艦の残骸に殆ど塞がれた入り口の方向に向く。残骸の隙間から、 小さな灰色の何かが二つ、こちら側に向かってくる。

 司令部の壁──港内部を一望できる強化ガラスの向こう側まで近づいてきたそれは、灰色の装甲の付いたパイロットスーツにも見える人型の何かだった。

 その二体の人型はガラスに向かい、その腕を砲身に変化させ──

「────っ!!」

 ──何本ものビームがガラスを砕き、悲鳴と血と肉片が司令部から真空へと放り出された。





「港の入り口の破壊は完了。『レギオン』ナンバー4、5も内側に侵入、順調に破壊活動を進めているようです」

 通信士からの報告を受け、ネオはへぇ、と少し意外そうな表情をする。リーは表情を崩さず、ウェスパシアヌスは髭に手を当てながらニヤニヤとしたり顔だ。

「ふむ、ちゃんとアレは動いてくれているようだね。安心した、いや安心致しましたよ。もしちゃんと動かず、御迷惑をおかけしたらどうしようかと思っておりましたが、これで、これで肩の荷が下りました」


「ご冗談を、先程まで随分と自信に満ちておられたではないですか。しかしこれだけ早く港の主要な場所を 破壊できるとは……正直ここまで出来るとは思っていませんでした。あのサイズであれだけの火力と機動力、それに高い隠密性……あれと比べればMSも形無しだ」


 ネオも流石にこの成果を認めないわけにはいかなかった。ダークダガーLによる船舶と港の外部の破壊、そしてウェスパシアヌスの持ち込んだ『レギオン』と呼ばれる者達による、港内側の破壊。


 本来ダークダガーLだけが暴れる予定だったが、ウェスパシアヌスの進言で使ったレギオンの戦果はかなりのものだ。予定よりかなり長くザフトの対応は遅れるだろう。


「ハハハハ! まあ流石に、流石にMS相手ではまだ、まだ太刀打ちできませぬ。まだまだ試作品ですよ」

 そう言いつつウェスパシアヌスは満更でもない口振りで微笑む。それにネオは適当に相槌を打ちつつ──心中ではこの紳士の皮を被った悪魔へ、嫌悪の念を更に募らせていた。


(『ラボ』の連中も相当なもんだが……このジジイも相当イカれてやがる)

 ほんの数分前まで、ネオはレギオン達の事を『エクステンデットと似たようなもの』程度にしか考えていなかった。しかしつい先刻、ウェスパシアヌスは自分から事実を暴露した──レギオンは、脳を含めたその身体の殆どを機械化されている操り人形、正に『兵器そのもの』であることを。


 更にウェスパシアヌスはその改造過程や改造する人の『選定方法』など、ドス黒い部分をなんでもないことのように、実に楽しそうに話しだしたのだ。エクステンデットなどの運用をしている分、軍の薄汚い部分もある程度理解しているこの船のブリッジクルーやリーですら、そのおぞましさに表情を歪めた。


そんな話を、この老紳士は嬉々として語り上げる。武装や動力などについては『手品のタネ』などと言って何一つ語ることはなかったのだが……

『ただ、素体に何人かコーディネーターも使っていることがジブリール卿はお気に召さぬようでしてね。談笑ついでに売り込んでみたらいらないと言われたばかりか、小言を言われてしまいましたよ。いやはや、私としては元の人種がどうであれ、『モノ』になってしまえばそんなもの関係ないと思うのですがね』


 この言葉を聞いた時点で、やっとネオは理解することが出来た──この男にとって、人の命など『実験材料』程度の認識でしかないことに。







(さて、4と5はちゃんと動いてくれているようだが)

 ウェスパシアヌスもまた、ネオと同じように笑顔を貼り付けた表情の裏で別の思考を巡らせていた。

 レギオンの実戦テストは問題ないようだ。本来予定されたスペック以上に自分の趣味を組み込んでみたため一抹の不安があったが、これは杞憂に終わりそうだ。あとは『もう一つの』、『本来の』目的が達成できれば完璧だ。


 ネオには『強奪組の護衛及び市街地への潜入テスト』としか伝えていない、コロニー内部に潜入した三体のレギオン。だが実際は彼等にはある命令が既に入力されている。それはある人物二人の捕獲だ。


 『ロゴス』としては余り良い事ではない、むしろ後々を考えればマイナスに働く可能性もある……が、ウェスパシアヌスにとってそれはどうでもいいことだった。連合もザフトも、ブルーコスモスもロゴスも、彼にとっては大して意味のあるモノではないのだから。


 彼はなんとしても、『アスラン・ザラ』と『カガリ・ユラ・アスハ』というカードが欲しかった。彼等を手に入れることは、彼の『計画』を大きく前進させることになるだろう。更に他のカードを手に入れるための布石にも成り得る。


(今ならば行方不明となっても違和感のないシチュエーションだ。実に、実に都合がいい。情報をくれた『彼』に感謝しなくてはな)

 実に素晴らしいチャンス。捕まえてしまえば後はどうとでもなる。この艦に持ち込む過程は少々面倒だが、最悪クルー全員の記憶を弄れば事足りる。あとはレギオンが二人を捕まえられるかだ。


(なあに心配することはないとも。あれの優秀さはこの私が一番分かっているだろう? 大丈夫、大丈夫さ)

 そう自分に言い聞かす。あれの戦闘力はコーディネーターを大きく上回る、どんな護衛が居ようと何の問題もない。MS相手は辛いが、ザフトのMSは強奪機に手一杯で彼等に回す余裕はあるまい。仮に──


(──仮に、アンチクロス級の力を持つものが……まだ見つかっていないあの二人、いや……『三人』の内、誰かが護衛に居れば、いくらレギオンといえど瞬殺だろうが──)


 流石にそれはあるまい、とウェスパシアヌスはその仮定を切り捨てた。





 轟音と爆炎を背景に、剣閃が煌き、火花が散り、閃光が飛び交う。

 キィン! と打合った刀とビームセイバー。そして互いに一度間合いを広げるティトゥスと異形──二体のレギオン。互いに決定打を打ち込めず、戦況は膠着状態が続いている。レギオンの攻撃はティトゥスには当たらず、ティトゥスの攻撃はことごとくレギオンの装甲──局所的に展開される防御陣に止められる。


 この防御陣がかなり厄介で、装甲なら何処でも展開できる上に強度が半端ではない。刀への負荷も相当なものになって来ている。このまま長期戦になるのは少々ティトゥスにとって分が悪い……のだが。


「……ふむ」

 小さな呟き。それと同時にティトゥスの纏う雰囲気が変わる。元々刃のような鋭さを持つティトゥスの闘気が静かに、更に研ぎ澄まされ──両手の刀が、上段に構えられる。


「カラクリ、ようやく見切ったり──参る」

 ティトゥスが一直線にレギオンへと走る。レギオンの一体がそれに呼応するように走り出し、両者が接近する。

 顔を狙って突き出されたビームセイバーを、身体を横に傾けて避けるティトゥス。かすめた光刃が左頬を焼く感触を感じながら、ティトゥスは左の刀を斬り上げ──レギオンの左手を斬り落とす。バランスを崩して地面に倒れるレギオンを尻目に、自分は体勢を立て直してもう一体のレギオンに全力で駆ける。加速を強めたティトゥスの身体は、即座にレギオンとの間合いを詰める。その段階で、既に構えなおされた左の刀がレギオンに迫る。


 ──耳鳴りに似た音と共に、刀は折れた。術式の浮かぶ右腕に阻まれ、酷使され続けてきたそれはあっけなく半ばから砕け散り、刃先が高く宙に舞う。飛び散った破片がレギオンの装甲を打ち、ティトゥスの左腕に突き刺さる。攻撃を防御したレギオンが反撃の一手を放とうとした──ほんの刹那。


「疾ィィィィッ!」

 次の一手をどうするか、その思考が終了する前にレギオンの意識は一筋の閃光を認識した直後、断絶した。









 左の一撃で防御を誘った直後、右手に残った刀で目の前の敵を一刀両断したティトゥスは間髪いれずに後ろを振り返る。視線の先には先程左腕を落とされたレギオンが、右腕を砲身に変化させて此方に向けていた。


 砲身に魔術の光が集まる。ティトゥスは刀を逆手に持ち替え、左足を前に出しながら大きく上半身を後ろに捻り、腰を入れる。身体の重心を左足へと移動させながら、捻りこんだ筋肉を開放、腕を大きく振り上げる。


 キャノン砲から放たれる魔術の塊とほぼ同時に、ティトゥスは身体機能を総動員した全力の投擲を放った。

 無防備の体勢で魔力の光が迫る中、投擲の際身体に掛かった力を利用し、倒れこむ形でなんとか直撃を避けようとするティトゥス。前のめりに倒れこむ体の左肩をビームが貫き、肉の焼ける音と匂いがした。


 そして尋常ならざる速度で投擲された刀は、砲身を構えた体勢のレギオンの目を寸分の違いなく貫く。

そのまままるでマネキンのように固まったまま後ろに倒れるレギオン。頭を貫通した刀身が地面に刺さり、中途半端な角度を保っている様が実に滑稽に見えた。

 それを一瞥して、地面に倒れていたティトゥスは立ち上がり、最後の一体──両腕を失い、ただ此方を見つめ続けていたレギオンに視線を向ける。肩を貫かれ、刀の破片が所々に突き刺さった左腕を持ち上げ、折れた刀をレギオンに向ける。今更のように、落ちてきた刀の先端がキンと地面に突き刺さった。


 数分に感じられる一瞬が過ぎて──両手を失ったレギオンの輪郭が、突然歪む。そのまま周囲の風景に溶け込むかのように、その姿が消えた。

「……………………ふう、どうやら逃げたようだな」

 敵の姿が消えて更にしばらく、己の感じ取れる限りで微弱な魔力も一切感じなくなってから、ティトゥスはようやく安心して一息ついた。折れた刀を鞘に戻す。

「さて、あの二人を追わねばならんが……何処に行ったのか」

 刀の刺さったレギオンに近づきながらティトゥスは思案する。港側に攻撃があったのは自分も戦闘中に気付いたので、アレックスがわざわざそちらに近づくことはないだろう。となるとザフトの関係者を捕まえてザクの所在を確認してみるべきか。いや、もしかしたらMSを降りてシェルターに入っている可能性も……


「……こ奴等もどうしたものか」

 周囲に転がるレギオンの死骸──いや残骸を見渡す。このまま放置しておけばまず間違いなくザフトに回収されることになるだろうが、それがザフトに、いやこの世界にどんな影響を及ぼすのか──


「──気にはなるが、拙者が考えることではない、か。今考えるべきはあの二人の無事を──むっ?」

 そう言って、残骸に刺さった刀に手をかけるティトゥス──その直後彼の感覚が、突然膨れ上がった残骸の魔力を感じ取る。

「何っ──!?」

 その場を飛び去ろうとするも既に遅く……ティトゥスは閃光と爆音に呑み込まれながら意識を失った──







「……ちょいと遅すぎるかな?」 

 送り込んだ強奪組の帰還予定時刻の遅れが大きくなってきて、ネオは少々心配げな声色で呟く。

「失敗ですかな?」

「連中が失敗する事はないと思うんだけどねぇ」

 冷淡なリーの言葉にそれはないだろうと返すネオ。しかし現に遅れているのは確かなのだ。

「どうしますかな? 港の入り口を塞いで内部を破壊したといってもそのうち復旧するでしょう。レギオンもMS相手、更に数がいれば敵いませぬしな。周辺のプラントから増援の来る可能性もある」


 ウェスパシアヌスが相変わらず髭を撫でながら笑顔で言う。だが発言の内容はもっともだった。

「仕方ないな……迎えに行くとしよう! ダガーは予定通りレギオンを回収させて呼び戻しておけ! 俺はエグザスで出る!」

 席を立ちブリッジの出口へ飛びながらネオは指示を出す。

「ウェスパシアヌス卿、内部に侵入した三体は?」

「この時間なら既にナンバー4達と合流している筈ですな。もしそうでなくても4達に撤退命令を送ればそこから伝わるはずです」

「そう願いますよ……リー、あとは任せたぞ」

 ネオはブリッジを出て行き、リーは格納庫に発進準備の指示を出す。ウェスパシアヌスはその横でニコニコしていた……が。

「……リ、リー艦長それに、ウェスパシアヌス卿」

 少々怯え気味の通信士に、呼ばれた二人は怪訝な顔を向け……通信士の言葉を聞いて更に表情を変えた。

「レギオンを回収したダークダガーからの報告ですが……レ、レギオンナンバー4および5は無傷ですが、市街に侵入した三体はナンバー1を除き合流せず、1もかなりの被害を負っていると……」


「なんとっ!?」

 初めてウェスパシアヌスの顔から余裕が消える。一瞬目を見開き驚愕の表情を浮かべるが、すぐに落ち着きを取り戻し通信士に問いかける。

「ふむ……ナンバー1は何か、何か持ち帰ってはいないかね?」

「は? いえ、そういう報告はありませんが何か?」

「いや、何でもないさ、そう何でもないんだ、気にしないでくれたまえ」

 そう言って作り笑いを浮かべるウェスパシアヌス。だが彼をある程度知る人間なら、それが少々引きつった笑みであることに気付いただろう。

(失敗、か……まさか、まさかこんな結果になるとは。まあとにかく、とにかくだ。レギオンのデータ解析をすぐに行わないとな。一体全体何が起きたのか……知る必要がある)






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