EDGE_プロローグ

Last-modified: 2007-12-19 (水) 19:51:09

【レクイエム発射口内】

 

「くっ・・・間に合え!」

 

あと数秒で放たれるビームにあせり、アスランは必死にスラスターをかけた。
これが撃たれたらオーブは終わる。プランに対する最後の希望が消える。そうしたら世界は議長の思うがままになってしまう。
『誰もが幸せになる世界……』
そんな言葉がいくども頭の中をよぎる。だがアスランは

 

(絶対的な世界などありはしない。人は変われる。これからなんだっ!)

 

自分にきかせる言葉も確実ではないかもしれない。しかしこれだけは、今放たれようとしているこの『力』にすがることは
絶対に間違っている。

 

そして、発射口に近づきその思いを届けるようにジャスティスの兵装ユニット-ファトゥムを飛ばした。
すぐ近くではアカツキもドラグーンで攻撃していた。数秒後、ビームの発射一歩手前で大きな爆発が起こる。
次々と周りも誘爆していった。破壊は成功したのだ。しかし瞬く間に爆炎の柱が駆け上っていく。
アスランの安堵もつかの間、すぐに脱出を始める。しかしファトゥムを失ったせいで推進力が格段に落ちていた。

 

(くそっ…このままじゃ。巻き込まれる)

 

あせる一方爆炎はじわじわとジャスティスにしのびよる。あともう少しで出口なのだが明らかに炎柱のほうが
早かった。普通の爆発とは規模がちがいすぎる。さらに溜めてあったビームも一緒に流れ出ているのであの爆炎にのまれれば
機体は確実に消し飛んでしまう。

 

「もう少しなんだ……」

 

脳裏に親友のキラ、ラクス、マリュ-、ムウ、メイリン、そして自分がもっとも愛した女性、カガリの顔が浮かんだ。
再会を想う。話したい。幾度も幾度も交差する思想。だが気がついたらもう炎は機体の半分をのみ込んでいた。

 

コックピット内の温度が急激に上がってきた。スーツ越しでもわかるようになってきた。暑さで視界がぼやけてきた。
アカツキからの通信があったが轟音で聞こえない。段々とひどくなっていく状況。
間に合わない。アスランはそう理解した。そして、自然に手を通信ボタンにもっていき押した。すべての通信回線を
ひらいた。

 

「…すまない。キラ、ラクス、みんな…、俺はここまでだ。レクイエムは止まった。……もう大丈夫だ、」

 

息も絶え絶えで言葉を紡ぐ。

 

「それとキラ、あいつを・・・シンを導いてやってくれ。俺の最期の頼みだ」

 

気になっていた元部下の未来をキラに託し。最後に微笑むように言った。

 

「この世界を・・・・頼んだぞ」

 

そう言って通信をきった。体の力を抜き操縦もやめた。機体にすべてを任して炎の柱に包まれていった。
煮えたぎるような暑さの中ふとアスランは思う。どうせならと、

 

(俺は天国に行くのか?いや…それはないか。………でもあいつらに会えたらいいな)

 

亡くなっていった戦友のことを思い出しそのことを願った。そして目を閉じ走馬灯のように今までのことを振り返る。
目の端から涙が流れて頬をつたう。でもアスランにとってそれは悲しみの涙ではなく、喜びの涙だった。
この世界への。未来への。

 

やがてレクイエムの発射口から紅い柱が宇宙へ駆け上がった。だがその柱の一部は神々しいほどの光をはなっていた。
まるでなにかを誘うようなそんな光だった。

 
 

【新暦0075年2月-ミッドチルダ北部-陸士108部隊】

 

まだ暖かい気温にはならず寒さが身にしみる季節。隊舎のロビーにてギンガは先日の
事件に対する資料をまとめていた。

 

「軽い事件でよかったけど大丈夫かなぁ」

 

事件の内容はこうだった。ある商業施設に一人の男がおしいり強盗をはかった。
その男は魔法を使えなかったが質量兵器をもっていた。本物の銃。とっくの昔に根絶されていた物がなぜあるのか。
駆けつけたギンガはそう思ったが、それよりも人質の確保が最優先だった。

 

危険だと思われていた戦闘はすぐに終わった。簡単に潜入。人質は相手が盾にするまえに
障壁で囲み触れないようにした。錯乱した犯人は銃をギンガに向けて乱射した。しかし元々慣れていなかったのか、
そこら辺のへたな射撃魔導師よりも全然だめだった。予備の弾もなかったため、交戦の最中に弾がきれ、そこをバインドで取り押さえられた。

 

本部に連行し事情をきいたところ、その銃は歩いていたところに突然降ってきたと言った。怪しかったので念を押して聴いてみたが、男は否定しなかった。
どうやら本当らしい。そうして男は借金があるという理由で犯行におよんだ。
質量兵器の使用は法でかたく禁じられているため刑は厳しくなる。しかし男はその銃の恐ろしさを教えてもらい深く謝罪し刑を自ら了解した。
根はやさしい性格だった。

 
 

自分が説得した人を思い出しながらギンガはようやく資料を完成させた。
ふと時間を見ると夜の10時をまわっていた。

 

(時間を忘れちゃってたか…考え事をするといつもこれだなぁ。悪い癖ね)

 

そう自分の癖を反省し、モニターを消した。

 

ほかの局員もすでに隊舎に帰っているのかあまりひと気がなかった。
自分のバックを整理して、よし帰ろうとした時、急に地震が起き始めた。
ひどい揺れではなかったがギンガはすぐに身をかがめ机の脚につかまった。あまり起こらない出来事なのですこし驚いたが
こんな時こそ冷静にと落ち着いていた。
揺れが治まると周りが少し騒いでいたが大したことではないので帰る足を再開させた。
しかし、その足は再び止まった。局員の一言で。

 

「おいっ!なんだあれは!」

 

大きめな声で言うためギンガは後ろを振り向く。すると今度は本当に驚いた。
窓の外、少し近い空に赤い渦のようなものが見えたからだ。渦はぐるぐると円を巻きその間に稲妻がはしっていた。

 

「なんなのあれ!?」

 

自分も驚愕の言葉。さっきの地震とは違い初めて見るものだったからだ。
呆然とする中ギンガはすぐに我に返り指示をだした。

 

「すぐに本部に連絡!それから2、3人私と共に現場へ急行!」

 

バックを放り出し、現場へと向かった。

 
 

現地へと着いたギンガはその光景にあっとうされる。近くで見るとさらに大きいからだ。
渦の中心は黒くバチバチと稲妻が音をたてていた。

 

「ギンガ陸士、周りの住人の避難、および安全の確認ができました」

 

局員にそう告げられると、ありがとうと返し渦を見上げる。

 

「調べてみたところ転移魔法に近いようです。そんなに大きな反応ではありませんが」
「なにかが転移されてくるのかしら?」

 

ふむと隣の魔導師が予想をたてる。

 

「ガジェットですかね?」
「それにしてはでかすぎるだろ」

 

すぐに不定されまた考えなおす。今までにこんなでかい転移魔法でガジェットはでてこなかった。
系統も違っている。それにわざわざこんなところに転移させるのもおかしい。

 

「とりあえず本部の局員がくるのを待ちましょうか。」

 

とギンガが言って他の仲間が頷く。そして少し距離をおいてみようと離れようとした時、いきなり轟音が鳴り響いた。

 

その聞こえた方に目をやると、渦からだった。
さらにさっきよりも渦の回転が速くなり、稲妻も頻繁にはしっていた。

 

「魔力反応、増大しています!さっきの倍近くになっています!」

 

魔力を計測していた仲間がそれを言うがまた

 

「えっ!!まだ上昇するのか!!!魔力反応…B……A…嘘だろ…」

 

段々とあがっていく魔力ランクに驚きを隠せないようだった。そして、

 

「と、止まりました」
「どれだけの反応だったの?」

 

ギンガがきく

 

「魔力ランク・・・・SSですっ!!」

 

声をあげてそう言った。みんなの表情が蒼白になる。SSなど普段では滅多にないからだ。
そのランクの意味する通りならかなりの強い力のなにかが現れるのだ。

 

「ギンガ陸士!ここは危険です!さがって局員の応援がくるまで…」
「駄目です!もしガジェットだったらどうするのですか!ここで少しでもくいとめないと周囲に被害がでるかもしれないんですよ!!」

 

仲間の意見を拒否し、陸士としての発言を返す。
ギンガの立ち向かう姿勢に他の仲間は悩んだあと、デバイスを構えた。それを見てギンガは微笑んだ。

 

(大丈夫……必ず応援が来るまでもってみせる)

 

そう決意し、渦に向けて構えをとる。

 

やがて、それらしい反応がくる。

 

「転移……来ます!!」

 

それを聞いて全員さらに表情と姿勢を引き締めた。汗が頬を伝う。
そして、何かが出ようとしたその時、強烈な光が視界をさえぎった。

 

「なっ、何なの!?」

 

確認したいが目を開けていられなかった。そうして光はまた輝きを増していった。

 

何秒か経ったあと光は次第に薄くなっていった。ギンガ達は光にやられた目を必死で慣らす。
少しずつ視力が戻ってきた。
そして、さっきまであった渦の方向に目を戻すと信じられないモノがあった。

 
 

最初は壁だと思った。しかし視線を上にもっていくとすぐに不定された。それは一言でいうなら……巨人だった。
ガジェットよりも遥かに大きく20m近くあり力強い印象だ。全身は灰色で、手と足がはっきりわかるように付いている。
頭のような物もある。それにはV字のような飾りが付いていた。
右手にはライフルらしき物と反対の手には盾があった。その脅威のモノがギンガ達の眼前に直立不動で立っているのだ。

 
 

多分、いや確実に生きてきた中では一番の驚愕の顔だっただろう。
全員、動かずに呆然と立ちつくしていた。

 

「っ!熱い!!」

 

前の巨人から発生しているのであろうすさまじい程の熱気がギンガの目を覚まさせた。仲間もそれに続いて正気にもどる。
温度がちょうどいい距離まで下がって再び戦闘体勢をとる。しかしさっきまでの闘志はなくなっていた。
はたして自分たちの力だけでアレを止められるのか?わからない。アレが未知数すぎるからだ。
ガジェットなら何とかなったかもしれないが明らかに違うタイプだった。こんなこと全員が初めてだった。

 

滝のように流れる汗をぬぐいもせず巨人を見る。両者とも一歩も動かず時間が過ぎていった。
・・・・・・やがて仲間の一人が

 

「動きませんね?」

 

と耐え切れずに声を漏らす。

 

「様子見にしては長すぎるな」

 

動かないのを見て少し余裕がでてきたのか会話をする。そして話し合いの結果ギンガが近くにいき呼びかけることになった。
一番動きが早いのでまんがいち巨人が動いてもすぐに逃げれるからだ。他の仲間は後ろで援護を任された。

 

ゆっくりと近づき、巨人への差をつめていく。
さっきまであった激しい熱気はだいぶ冷めていた。残り5mというところで足を止め巨人を見上げ

 

「私たちは管理局の者です。私はギンガ・ナカジマ。あなたの出身世界と名前を教えてください。」

 

巨人の世界などあるのかわからないが、とりあえず尋ねてみた。
しかし、巨人は反応せず沈黙を続ける。

 

「あのー、私の声が聞こえますかー?」

 

再び大きめな声で尋ねてみたが、まったく反応なし。

 

「……ウイング・ロード!!」

 

地面に拳を叩きつけ天翔魔法を発動させ、道を巨人の顔にあたる部分の前まで造った。
ローラーブレードで駆け上がり天辺まで着くと三度、

 

「すいませーーん。あなたは一体誰なんですかー?」

 

叫ぶが・・・沈黙。こんなに呼びかけても反応がないのでギンガは少しイライラしてきた。
そして何を思ったか巨人に飛び移った。

 

ボディはまだ熱が残っていたがバリアジャケットを着ているので大したことではなかった。
巨人の顔の横までくると拳でコンコンと叩いてみた。反応なし。
次は構えをとって、強い一撃を当ててみたが反応なし。
無駄とわかったのか今度は巨人の胸部に移動して顔を見上げる。V字の飾りに何かが彫られてあった。

 

「…ZGMF-X19A?」

 

何かの番号だということはわかるが聞いたこともなかった。ガジェットでもない。
もう何がなんだかという感じで腕を組み、視線を下げる。

 

「あれっ?」

 

自分の足元に小さいくぼみがあるのに気づいた。しゃがみこみそのくぼみに触る。
カパッとそれは開いて中にはいくつかのボタンとレバーがあった。
レバーの上には[開閉]と書かれていた。

 

「開くのかな?」

 

興味本位でそのレバーを下げてみた。

 

ガコンっと今度は何かが動くような音がした。

 

「もしかしてヤバイのかな?」

 

自分のやったことに後悔して周辺を警戒する。
するとギンガのすぐ目の前の部分が突然開いた。何かが登ってくるような音が響き、ギンガはすぐに構えをとる。
内心すごい焦りながらそこを直視する。そして現れたそれは、

 

「……人?」

 

だった。全身を紫色のピッチリとした服をきて紫色のヘルメットをかぶっていた。
ベルトで椅子に固定されているが、その体はだらんとしていた。

 

「あっ…あの、あなたは?」

 

聞いてみるが返事はない。近づいてみる。
顔を見たいのだが、ヘルメットが曇っていて見えない。恐る恐る自分の手をヘルメットにもっていき外そうとする。
だが取れない。よく見たら後頭部にボタンがあったので押してみる。
シュウーと音をたてヘルメットの固定感がなくなった。今度こそ外してみる。

 
 

最初に目に入ったのが肩までとどく青い髪。自分の髪より深い藍色だった。

 

「男の人だ……」

 

顔を見ると整った顔立ちをしていて普通の人よりもかっこいいと思う。
自分と同じぐらいの年齢だろうか。
風が吹いて二人の肌をなでる。

 

「…うっ…ぐ」

 

冷たい風にあてられた青年は目を覚ます。そして目を少しずつひらいた。
綺麗な緑色の目はギンガをとらえる。ビクっとしたがその場に踏みとどまった。

 

「……ここは…俺は…一体?」

 

今にも消え入りそうな声で青年はつぶやく。

 

「えっ?あの…えっと」

 

少し混乱気味のギンガは言葉を紡げないでいた。
そして返事をしようとしたとき、青年は意識を保てずに気絶していた。そばに寄りその状態を見る。

 

「ひどく衰弱してる…このままじゃあ…」

 

青年の危機を感じギンガは救護班を後ろの仲間に要請した。

 
 

かくしてアスラン・ザラはC.Eから消え新世界へと迷い込んだのであった。
この世界でまた新たな運命を歩むことは、まだ彼は知らない。