EDGE_第01話

Last-modified: 2010-09-30 (木) 17:40:14

灼熱の悪夢にうなされて、アスランは徐々に意識を取り戻す。

 

(俺は…生きているのか?)

 

さっきまで鮮明に覚えているコックピットでのビジョンが彼の頭に浮かび、
今の感覚が信じられないでいた。あの爆発にのまれては助からないということを
彼は知っているので、なおさらだ。

 

だが、彼の思いは体の痛みによって現実に戻される。
これは、夢なんかではないと。
納得すると、とりあえずは自分が今どこにいるか知りたかったので、
重いまぶたを少しずつ開いていった。

 

アスランが最初に見たのが白い天井で、視線を横にやると医療器具のような物がある。
点滴が自分の腕についていた。周りの状況から判断してアスランは、自分は医務室に運ばれ
たのを理解する。着ている服もパイロットスーツではなく、入院患者が着ているような服で
あった。

 

しかし、アスランはすぐに疑問を感じた。

 

(ここはどこの医務室なんだ?)

 

自分の知っている艦、アークエンジェルやエターナルの医務室ではないのだ。
しかも戦艦の医務室ですらないことが、
周りの充実した器具や部屋の構造が教えていた。

 

(重力があるということは、ここは地球なのか?)

 

自身の体にかかる重力が宇宙でないことを示す。

 

(だとしたら俺はあの爆発で地球に飛ばされて、ここに来た?
 いや、それはないか。レクイエムは月の裏側にあるから飛ばされるなら反対側になる)

 

その可能性を否定し、だとしたら答えはこれしかないと悟る。

 

(誰かが助けてくれたのか。ならお礼を言わないとな)

 

そう納得し上半身を起こそうとするが、自分はだいぶ寝ていたらしく、力は入りづらいし、
頭痛がかなりひどい。体調の悪さに苦戦しながらもなんとか起き上がることができ、
アスランは再度あたりを見回す。
そして、ベッドから出ようと思ったとき、急に医務室の扉が開いた。

 

「あっ、気がついたんですね?」

 

入ってきたのは一人の女性だった。印象は、茶色の制服に身をつつみ、
髪は長く、少し薄い青色。そして、その髪の色より青いリボンをしている。
まだ若くアスランは自分と同じぐらいだと感じた。
彼女はベッドの隣にきて、かけてあった折りたたみの椅子をだして座り、言葉をはっした。

 

「気分はどうですか?」
「あっ…ああ、えっと、まだ少し悪いみたいです」

 

体調をきかれ、アスランは返す。

 

「それはそうですよ。あなたは本当に大変な状態だったんですから。
 もうちょっと助けるのが遅かったら多分、死んでましたよ」

 

その彼女が言ったことにアスランはもしかしてと思い、きいてみる。

 

「あなたが助けてくれたのですか?」
「ギンガ」
「えっ?」
「私の名前はギンガ・ナカジマです。」

 

彼女が自己紹介するのでああ、そういえば名前を言ってないと納得し自分も

 

「アスラン・ザラです」
「はい、アスランさんですね」

 

名前を教えるとギンガはニッコリと微笑んだ。
そして、アスランも微笑返すともう一回きいてみた。

 

「ギンガ…さんが助けてくれんですか?」
「ギンガでいいですよ、年も変わらないだろうし。私は医療班を呼んだだけですよ」
「呼んだっていうことは君が俺を最初に発見してくれたんだろう?なら君が俺の命の恩人だ」

 

そう言ってアスランはありがとうと頭を下げた。それにギンガは驚いて手を振り不定する

 

「私なんてただ驚いてばっかでしたよ。それほどのことでは…」
「いや、今俺がここにいるのは君のおかげだ。本当にありがとう」
「いえ…あの…どういたしまして」

 

真っ向からお礼を言われてギンガは少し恥ずかしくなり、顔を下に向けた。
それを見てアスランは頬をゆるめると今度はさっきから疑問に思っていたことを
尋ねる。

 

「ところで一体ここはどこなんだ?戦争はどうなった?」

 

彼の問いにギンガは顔を上げ、えっ?という感じで問い返した。

 

「ここはミッドチルダの北部にある陸上警備隊第108部隊の
 医務室ですけど……戦争は起こっていませんよ?」
「ミッド…チルダ?」
「はい…」

 

ギンガの答えにアスランは呆然とする。
ミッドチルダという地名など聞いたことがないからだ。
そしてアスランは念のきいたみた。

 

「ザフトやオーブって知ってる?」
「えっと……すいません知りません」
「!?……ここは…地球なのか?」
「いえ…違いますけど……」

 

さらに期待はずれの言葉に彼は愕然とした。
ザフトもオーブも知らないと言うし、おまけに地球でもないと言う。
冗談かと思ったが、今の状況とギンガの性格からして、ありえないだろうと推測する。
なら一体自分はどこに来てしまったのだろうと彼の頭は混乱してきた。

 

「……」
「あっ…あの」

 

アスランは沈黙しさっきまでの空気が段々と暗くなっていった。そんな彼に、
ギンガはなんと言っていいかわからず困惑する。その時、

 

「お!目ぇ覚めたのか?」

 

再びドアが開かれ、入ってきたのは男性のようだった。
アスランは気づき視線を向ける。ギンガと同じ茶色の制服で髪は銀色。
年は中年といったあたりだが、その元気な笑顔が、
まだまだ現役というオーラをかもしだしていた。

 

「あ!お父さん!」
(父親なのか?)

 

ギンガの言葉でアスランは理解し、男に向けて会釈する。
ふっと男性は微笑むとギンガと同じようにベッドの横に椅子を出し腰掛けた。

 

「んっとまずは自己紹介だな、俺はゲンヤ・ナカジマだ。この部隊の部隊長をやっている。」
「アスラン・ザラです」
「アスランだな?よしっ突然だが、これからお前に質問や何たらをするから、
 ちゃんと答えてくれよ?お前も疑問に思ったことを言ってもいいからな」

 

ゲンヤの言葉にアスランは素直に頷く。今は少しでも状況を整理しないといけないからだ。

 
 

そうしてゲンヤの質問にアスランは一つ一つ、嘘偽りなく答えていった。
自分が軍人であること。コズミック・イラのこと。国を守るために戦ったこと。
そして最後の戦いの時に死んだと思っていたらここにいたこと。
その話を聞いていたギンガは、途中途中驚いた表情をしていたが、
ゲンヤは真剣な表情を崩さずに聞いていた。

 

一通り話し終わりアスランは二人の表情を見るが、
あまりいい雰囲気でないことがわかった。

 

「う~~ん。…どれもこれも聞いたことのない単語ばっかりだな」

 

ゲンヤの言葉にアスランはかなり沈む。
大人の彼が言うことなので信頼はできるし、嘘をつくような人には見えないからだ。

 

「…さて、アスラン。今度はこっちが説明する番だ。信じられないかもしれないが
 こっちとしては大真面目だからしっかり聞いてくれよ?」

 

頷き、真剣な表情になるアスラン。
だが、彼の発する言葉の前にその表情は、段々と驚愕な顔へと変わっていく。

 

ここは異世界であること。MSや兵器はなく、
代わりに『魔法』が存在し、活用されているということ。
実際に見てみろとゲンヤが言い、ギンガが宝石のような物を出した。
次の瞬間、彼女がいきなり光り、一瞬のうちに着ている服が変わる。
そして、アスランの方に指を向けると、彼の両腕に水色の輪が出現し、縛られた。
力を入れてもびくともしず、呆然とその輪を見つめるアスラン。
他にも、どうみても映画やCGではない、魔法を使っている映像を見せられたり、
口が動いていないのに頭の中に声が聞こえたりした。彼はそれらの不思議な現象を
信じるしかないのであった。

 

魔法を見終わった後もゲンヤの説明は続く。
この世界には時空管理局という次元世界を管理するための司法機関があり、
自分たちはそれに所属していて、世界の治安維持に勤めていること。
アスランはそれを警察と同じようなものと解釈した。
そして、アスランは自分が違う世界のC.Eから、
このミッドチルダに転移されたことも伝えられる。

 

「っとまあ、こんなとこだな」

 

だいたいの説明を終え、一息を着く3人。
だがその一人、アスランの雰囲気だけはどうも暗い。
しかしそれは、あたり前のことかもしれない。
目が覚めたら、自分はまったく知らない世界にいて、
おとぎ話のような概念を聞かされたのだ。
明るくなれるわけがない。

 

「…大丈夫ですか?」

 

その様子を見てギンガが気遣う、

 

「まだ少し混乱してる……」
「まあ、当然そうなるよな。これからゆっくり自分の中で整理して、
 とりあえず休め。お前さんまだ体調悪いんだろ?」
「はい…わかりました」
「よしっ話の続きはまた明日だ。十分休め!」

 

ゲンヤはそう言ってアスランの肩を叩き、立ち上がる。

 

「…あっ!そういえば!」
「ん?」

 

アスランが突然なにかを思い出したかのように言う。
自分の愛機のことを聞くのをすっかり忘れていたのだ。

 

「ジャスティ…俺の乗っていた機体はどうなったんですか?」
「ん…ああ、あのデカブツのことか?」
「はい…」
「言っただろ、話の続きはまた明日だ。」
「えっ!?しかし…」
「この話をするとまた長くなる。だから明日だ。」
「……わかりました」

 

しかたないと思いアスラン再度、了解の返事をして頭を下げた。
それを見てゲンヤは笑うと医務室を出て行き、ギンガだけが残る。

 

「アスランさん。今は不安があるかもしれないけど、
 とりあえず休養をとってください。また明日話せますよ」

 

ギンガが明るく声をかける。

 

「多分、寝れないと思う…」
「じゃあ、お薬飲みます?副作用はないし、ぐっすり眠れますよ?」
「…ああ、それじゃあ頼むよ」

 

戸棚に向かいそこから、睡眠薬を出し、水をコップについで、
アスランに渡す。それをグイっと一飲みしてアスランは横になる。
数分したら効果がでてきたのか、段々と瞼が重くなっていった。

 

「じゃあ私、仕事に戻りますので、ゆっくり休んでくださいね」
「…わかった。…すまない、…迷惑をかけて…」
「いいえ、私は人助けが大好きだから、迷惑だなんて思っていませんよ」
「ありがとう…」
「はいっ!じゃあお休みなさいアスランさん」

 

そう言って彼女は立ち上がる。しかし、まだアスランは言葉を紡いでいたようだった。

 

「…ギンガ…」
「なんですか?」
「俺のことは…アスランでいいから…それと敬語もいらない…」
「えっ?でも…」

 

戸惑う彼女にアスランは微笑んで言う。

 

「同じ年頃だろ…?」
「……うん、じゃあアスラン、お休みね」
「ああ……お休み…」

 

アスランは完全に目を閉じ、しばらくすると安定した寝息が聞こえてくる。
ギンガは掛け布団を整えて、病室を後にした。

 
 

新たなる世界へときたアスラン。驚きの連続だったが、彼は次の日に
さらに驚きの運命になることを知らない。