EDGE_第06話

Last-modified: 2008-01-22 (火) 23:52:33

【陸士訓練校-射撃練習場】

 

新しい銃型アームドデバイスを腰に掛け、練習場に立つアスラン。
後ろではギンガが平静な表情で見ている。
遥か前方には的がいくつも設置されており、上下に動く種類もあった。
その的をアスランは目でしっかりと捉え、デバイスに手をもっていく。
アスランはその時にさっきまでの会話を振り返る。

 

数分前……。

 

銃をギンガから渡され、よく観察するアスラン。
そして、はっきりと確信する。

 

「これは……ザフトで使われていた制式拳銃じゃないか!」
「えっ!?アスランこれの事知ってるの?」

 

彼が関係していたことにとても驚くギンガ。

 

「ああ、…俺のいた軍がこれを使用してる。
 間違いないが……なぜこれがここに…?」

 

ザフト軍が白兵戦用や訓練規定用に制定されていた拳銃。
アスランも嫌というほど、これを使っていたので見間違うはずがなかった。
ちゃんと銃底にもザフトのマークが付いている。
だが問題は、なぜ自分の世界の物を管理局が所持していたのかだ。
ジャスティスがデバイスに変化した時に、コックピットに備えてあった銃が
そのまま外に放り出され、拾われた可能性を推理するがそれは違う。
あれはオーブ仕様の銃だからだ。
ならこれは一体誰が何処で手に入れたものだろう。
幾つもの疑問がアスランの脳裏を駆け巡る。
その時、

 

「あれ?これってもしかして……あの時の?」
「知ってるのか?」

 

ギンガが見覚えのあるように言う。
彼女はこの間の強盗事件の事を話し、犯人の言い分の中に不可解なのがあったのも語った。

 

「どこからか降ってきたって……それって俺と同じなんじゃないか?」
「そうね、多分アスランと同じで何らかの理由で、
 ミッドチルダに転移してきたのかもしれない」

 

おおよその推理ができ、アスランも不安だが納得はしていた。

 

「とりあえず、この事は父さんに伝えておくけど……どうするの?」
「…え?」
「使うか、使わないかってこと」

 

ギンガの問いにアスランは戸惑う。
質量兵器が禁止されているこの世界で、これを手にするのは二度とないと思っていた。
だが、実際に自分の元に回ってきてしまっている。
兵士であった自分への因縁のように。

 

(逃れないってことなのか……この輪廻から…)

 

悩むアスランに察したのかギンガが口を挟む

 

「アスラン、何も人を撃てって言ってるんじゃないよ?
 それにデバイスに改造されて、非殺傷設定にもなってるから」
「そんなことは…わかってはいるが…」
「じゃあ、アスランはこれを何に使いたいと思う?」
「何に…?」

 

自分の目を見て、話す彼女にアスランははっとなる。
そして思い出す、あの言葉。

 

『何であれ、望む心があなたですわ』

 

自分が望むこと、したいこと、今できること、それはなんだ。
ジャスティスとの約束が思い出されるが、それは結果だ。
その答えに辿りつくには……この力の使い方しだい。

 

(俺はこの力を……)

 

数秒の沈黙のあとアスランが銃を見つめ、
自分の中で導きだされた答えを出すかのように握りしめる。
その苦悩の表情が変わったのを見て、ギンガが再び問う。

 

「…答えは見つかった?」
「ああ…」
「そう、よかった」

 

追求もせず、一つの難問を乗り越えた彼にギンガは優しく笑顔を送った。

 

思想の海から帰り、アスランは気づく

 

(まったく…俺はいつも助けられてばかりだな。情けない…)

 

C.Eで自分が悩んでいると必ず、助けて動かしてくれた親友、歌姫、大切な人。
その人達がいないこの世界では迷惑をかけないと誓ったのに、
また同じことを繰り返してしまっている。そして、また助けられた。
いつも優しい笑顔で話し、自分を気遣ってくれるギンガ。
その笑顔に自分は幾度となく救われただろうか。
感謝しきれないほどの恩を胸の内にしまい、アスランは後ろを振り返りギンガに笑みを見せる。
『ありがとう』の意味を込めて。

 

そして本来の目的にもどり、銃をホルダーから外す。
体が覚えていたのか自然に構えをとり、眼前の的に狙いを定める。
まずは、試しに中央の的を撃ってみる。
バラ色の紅い魔力弾が銃口に形成され、それを放つ。
弾は微遅の速さで的に向かっていき、中央よりすこし左に当たった。
少し違和感を感じながらも続けてアスランは撃つ。
それぞれの的に次々と当たるが、彼が満足になる気配はなかった。
一通り撃ち終え、それを見たギンガが近寄ってくる。

 

「すごいねアスラン!全弾命中だよ!」

 

興奮しながら褒めの言葉をだすが、近くにいる訓練生達はそんな程度かと見ている。
あれぐらいなら自分でもできるといった感じだ。
アスラン自身は不思議そうな顔でデバイスを見る。

 

「どうしたの?」
「…これ、もう少し設定とか変えれませんか?」
「へ?」

 

アスランはこの設定が不満らしく、それの所為だと言う。
一応ベストな設定で合わせてあるのだが、彼には合わないらしい。

 

「簡単なことなら、今でも構えるけど?」
「じゃあ、お願いします」

 

そう言ってデバイスをギンガに渡す。
彼女はモニターを出し、デバイス設定画面につないだ。

 

「どんなのがいいの?」
「えっと…重量をもう少し重くしてほしいのと、連射が効くように魔力弾の大きさを
 もっと小さくしてください。えっと、あとは誘導性もいりません」
「え!そんなんじゃさっきよりも悪くなるよ?」
「それでいいですから」

 

彼の言う理想の設定に唖然とするギンガと、聞き耳を立てていた訓練生達。
なんでわざわざ重く?しかも、誘導性能もなしに?
疑問が飛び交うがアスランは自分が馴染んでいた本来の銃に近づけたいだけ。
デバイスに頼るよりも自分自身の力でやりたかった。
設定が終わり、彼にデバイスを返す。
重さの確認と、軽く一発試し撃ちをするが弾は明らかに速いし小さい。
ふむ、と今度は納得したようでもう一度、射撃位置に戻る。
いつのまにか周りの生徒達は静かになり、アスランに見入っていた。

 

そして一発の乾いた銃声が鳴り響く、その一発を合図に次々と放たれる魔力弾。
撃ち方はさっきよりもはきはきしていて、
目で順序よく的を見定め瞬後、既に的に当てている。
障害物に隠れている的も、その合間を縫って命中していた。
しばらくして、キィンと薬莢が音をたて転がりそれが終了の合図となった。
アスランは全部の的を撃ち終え、ふうと一息つきギンガの元に戻る。

 

「大分良くなりました。ありがとうございます。
 とりあえずこれで…ん?」

 

お礼を言ったのだが彼は気づく。ギンガはアスランを見ずポカーンと口を開け、
彼の後ろ、先程まで撃っていた的を見ている。
ギンガだけではなく、周りの訓練生も同じような顔だ。

 

「あ、あのギンガ陸曹殿?」
「ふえ?」

 

自分が何かいけない事をしたのではないかと心配するが、
返ってきたのはなんとも気の無い返事。

 

「えっと、何か問題でもありましたか?」
「へ?…いや、そんなことないよ?」

 

なぜ疑問系なのだろうと不思議に思うが、とりあえずは大丈夫なようだった。

 

「じゃあ、試し撃ちも終わりましたのでランチに行きませんか?
 空腹なのをすっかり忘れてました」
「え?……ああそうね、行きましょ!あははは…」

 

ぎこちない笑い方で隊舎に足を向けるギンガ。
アスランも微笑すると彼女の後を追う。

 

残された訓練生達は唖然と二人を見やり、次に的を見る。
どれもこれも、ど真ん中に命中した跡があった。

 

【食堂】

 

「えーー!じゃあアスランってトップで軍を卒業したの!?」
「…ま、まあ全部一位って訳じゃないけど…」
「それでも十分すごいよ!もしかしたら、ここでも首席で卒業できるかもしれないよ!」
「かいかぶりすぎだ。俺は魔法のことは未経験だし…」

 

あのすごい射撃能力の根源を聞き、ギンガはアスランを高評価する。
とうの本人はそんなことないと謙遜していた。

 

「射撃魔法であんなにすごいの久々に見たなぁ」
「そうなのか?」
「うん!私が見てきた中で、けっこう上位にランクインしたよ♪」

 

勝手に人を自分ランキングの中に当てはめられて苦笑するアスラン。
そして、ふと気になる。

 

「じゃあ一番って誰なんだ?」
「う~ん、私の知っている中ではやっぱりあの人かな」
「?」
「不屈のエース・オブ・エースと呼ばれる、高町なのは一等空尉」

 

その人の活躍の歴史を語るギンガ。
なんとなくウキウキもしている。

 

「…すごいんだなその人は」
「空隊の人達にとっては、憧れの的なんだ」

 

へえという感想で、そのエースと呼ばれる人を想像するアスラン。
なんとなく力強いイメージだ。
だが、この世界の人達のことをあまり知らない彼にとってはそんなに興味はなかった。

 

「アスランも会ってみればわかるよ、きっと」
「ああ、そうだな…」

 

曖昧な返事をしてコーヒーを口に含むが…

 

「私の妹もその人に憧れて局員になるって決めたの」
「ぶっっ!?」

 

彼女の思わぬ発言に驚いて吹き出す。
なんとかギンガには付かないようにしたみたいだ。
むせているアスランを不思議そうに彼女は見る。

 

「あれ?どしたの、大丈夫?」
「ごほっ、がは…ちょっとまて」
「はい?」
「妹…けほっ…いたのか?」
「あれ?言ってなかったけ?」
「初耳だ…」

 

ここにきてアスランは意外な事実を知る。
そもそも彼はナカジマ家の家族構成などよく聞いていなかったから、
ゲンヤとギンガだけだと思っていたらしい。
アスランにしてはエースの事よりそっちのほうが大切なので、
今度は妹の話を聞いた。

 
 

【隊舎-ロビー】

 

会話も終わり、ギンガは仕事に戻るらしいので途中まで送るアスラン。

 

「じゃあアスラン、訓練がんばってね」
「ああ、わざわざありがとう。君の方も気をつけて」
「うん、わかった。また今度!」

 

そう言って二人は背を向けそれぞれの役割に戻っていった。
ギンガはその途中、ある物が視界に入ったので近づき見てみる。

 

「どれどれ~。アスランは今どの変かな?」

 

そこにあったのは各訓練生の総合成績結果の掲示板。
彼も入隊している以上、この中に名前があるはずである。
そして、アスランの名前を発見し目を凝らす。

 

「……うそぉ」

 

今日で二度目の驚きの出来事に、彼女は溜め息をもらす。

 

「これはうかうかしてられないな…」

 

何か決意をしてギンガは掲示板を後にし、急いで部隊に戻るのであった。
アスランの名前の欄にはこう書かれていた。

 

【29号室-アスラン・ザラ-総合成績1位】