GUNDAM EXSEED_10

Last-modified: 2015-02-26 (木) 22:56:29

【要塞攻略編】

 

[カリフォルニア基地近くの公園]
ベンチには銀髪の巨女が座っていた。威圧感からだれも視線を合わそうとしない。しかし、やがて、1人のナンパ師らしき男が飄々と巨女に声をかけた。
「お暇ですか、おねぇさん」
答えるのはエルザ・リーバスの声であった。
「ロウマか。座れ」
言われ、ナンパ師の風体を装うロウマはエルザの隣に座る。
「宇宙が戦場となるのにずいぶんヒマそうだな」
エルザは威圧感を崩さずに言うが、ロウマ・アンドーは別にどうということもない様子だった。地球連合軍の軍人とクライン公国軍の軍人。敵対する国同士の軍人が出会っているというのにも関わらず、状況は穏やかだった。
「俺、本業は軽くやるって決めてるんで。まぁ、すぐに宇宙には上がりますがね」
言いながらロウマは。とあるモニターが録画した映像を保存したモニターをエルザに渡す。
「お望みのものだと思って」
ロウマが言うが、エルザの視線はモニターに釘付けである。途中で隠せないほど、凶悪な笑みを浮かべていたが、最後には冷静な表情だった。
「まぁまぁだな」
エルザの感想は淡白である。対してロウマはというと、
「だったら下さいよ。最高クラスのイカレっぷりに冷静さ、最高のイヌじゃないですか!」
モニターの人物に執心している様子だった。
「あれは、私のイヌだ。だれにもやらん」
「くっそ、いいなぁ。俺のイヌはデクでなんも出来ないってのに」
ベンチに座ったまま、ロウマは身もだえするが、すぐに収まり、エルザに言う。
「アレは育てすぎです。喰われますよ」
真剣な表情でロウマはエルザの目を見据え言った。だがエルザは相手にしていない様子だ。
「イヌに喰われる腕はしとらんよ」
だといいですが、と呟きロウマはベンチを立つ。
「もういいのか?」
「悲しいことに忙しい身なんです。ではアネさん、失礼を」
言うと、ロウマは恭しくお辞儀をし、呟く。
「では、人の道に新たなる火を」
応じるエルザも呟くようであった。
「ああ、人の道に新たなる火を」
呟いたエルザは、再びモニターの映像に目をやっていた。その顔には狂気の表情があった。
「少しはよくなってきたかな、ハルドよ……」

 

マスクド・ハウンドは、カリフォルニア基地に戻り、ハルドは任務の報告のためにエルザ・リーバスの部屋に向かうところだった。その途中、会いたくない連中に出会った。
特徴的な4人組である。1人はモヒカン頭に顔中刺青だらけの男、名前はジャックである。そしてサングラスを外さない壮年の髭面男、名前はレオ、そして禿頭に眉無しの双子で名前は分からないがジェミニと呼ばれている2人。
この4人組はハルドらと同じエルザの子飼いの特殊部隊、スティール・ハウンドの面々である。
「おやぁ、仔犬がいるぜぇ」
スティール・ハウンドの面々もハルドの存在を確認したのだ。モヒカン頭のジャックが挑戦的な態度でハルドに歩み寄る。
「口が臭いんだよ。よるなヤク中」
ハルドも喧嘩腰に相手をする。
「ああ!?てめぇ、なんつった、おい!」
ジャックという名の男が躊躇わずナイフを抜き放つ。
「昔から、てめぇのツラは気に喰わなかったんだ。いまここで刻んでやるよ!」
ジャックという男は想像以上に好戦的な人物であったようで、ナイフをハルドの顔の前に突きつける。だが、それを止める男が脇にいたレオという男である。
「やめろ、ジャック。基地内だぞ」
レオがジャックの肩を抑えつけると、ジャックはチッと舌打ちをしながらナイフをしまい捨て台詞として、
「いつか刻んでやるからな……」
そう言い残し、去っていった。この騒ぎの間、ジェミニという双子は微動だにせずまばたきすらしていなかった。スティール・ハウンドの面々の中で唯一話が通じそうなレオという男は、ハルドに伝える。
「准将なら留守だ。任務には勝手に行けだそうだ。准将も色々とお忙しいらしい」
レオはそれだけハルドに伝えるとジェミニたちを連れて去って行った。
「気持ちの悪い奴らだ……」腕は立つが気色の悪い部隊。それがハルドのスティール・ハウンドに対する認識だった。

 

「いそげよ、宇宙戦準備だ」
エルザへの用事が空振りに終わった直後、ハルドはマスクド・ハウンドの面々に叫んでいた。総員が慌ただしく、動いていく。その中で、リーザだけはポツンとしていた。
「なんだか大変そうだね?」
リーザはのんびり言い、ハルドは急ぎながら答える。
「そりゃ、忙しいよ。艦の乗り換えだからな」
え?という表情をリーザは浮かべていた。
「だって、ベルゲミールは陸及び海上艦だ。宇宙には行けんよ」
「じゃあ、私たちは何に乗るの?」
リーザの質問に待っていたとい表情を浮かべ、ハルドは指を指す。
「メリアルージだ」
指さした先には一隻の戦艦があった、四角錐に羽と余計な物がついたような船である。見た感じ甲板らしきものは付いているがリーザの感覚では楽しくなさそうな船である。
「悪い艦じゃないぞ」
ハルドがフォローを入れるがリーザは好きになれなさそうだった。
「リーザもなんか必要なもんがあるなら、積み込みな」
そう言うのはサマーである。
サマーは段ボールに物を詰め込みメリアルージに運び込んでいる。
「女の子は必要なものが多いから」
そう言うのはライナスであるが、実際に荷物は少ない。
「そうすよ女の子は荷物が……」
最後に言うのはギークであるが彼は段ボール箱いっぱいの荷物を持っている。
自分は何があるかと、リーザは考える。
「私物の積み込みはあと、1時間以内だぞ、忘れんな!」
改めて考えると自分は荷物がないと思い、リーザはハルド一緒に積み込み風景をながめているだけだった。
「思い出になるものがないって寂しいことかな?」
「まぁ、楽でいいと思えば」
「そう思っていいものかな」
「そう思っていいもんだよ」ろくな思い出がないよりは楽だとハルドは思う。宇宙へと行く準備は着々と進んでいた。

 

「やはり、メリアルージの方が落ち着くな」
ベンジャミン艦長は艦長席に座り込み感慨にふけっていた。
「艦長は宇宙部隊出身でしたっけ?」
「そうだ」
オペレーターのユイ・カトーが表面的な話題だけを訪ねて終わる。余計なことを聞かれないのはありがたいとベンジャミン艦長は思う。
「こっちの準備は終わった。発進よろしく」
ハルドから連絡が入る。ベンジャミン艦長は艦を移動させ、マスドライバーに設置させるように、操舵手のリック・リーに指示する。
「では、これより、我が艦は打ち上げ態勢に入る」
マスドライバーに設置されたメリアルージが角度を微調整され、艦内のクルーは皆、シートベルト有りの席に座る。

 
 

ベルト有りの席に座る。
「艦内用意、再確認!」
ユイ・カトーが艦内にトラブルが無いかを確認する。
「艦内問題なし、発射準備問題なし」
では、とベンジャミン艦長は一呼吸を置き、そして言う。
「メリアルージ、発進!」
直後、マスドライバーの打ち上げにより艦船は天高く舞い上がっていった。

 

無重力は慣れないと難しい。そう言う点ではリーザには宇宙は厳しい場所だった。
「ぼんやりしてないで、どこかにつかまりな!」
そう言ったのはサマーである。ふわふわと浮いて所在ないリーザに向けて言ったのだ。
「こりゃ、しばらく鉤付きだな」
そう言ったのはハルドであり、直後にハルドはリーザのそばによると腰のベルトにフック付きのロープを付け、近くにあった手すりに接続した。
「とりあえず、手すりに捕まれ、あれは素人のためにもあるんだ」
ハルドは言うと、無重力を苦にしない様子で、リーザの元から離れる。
「艦内では食堂が1Gを保っている。どうにもならんなら、食堂で暮らせ」
ハルドはそれだけをリーザに伝えるとブリッジに向かうのだった。

 

ブリッジを訪れると、ハルドは雰囲気の違いを感じた。ベンジャミンが、ご機嫌なのだ。
「久しぶりの宇宙は気分がいいか?」
「そうだな」
ハルドが尋ねるとベンジャミンは、そう返した。本当にご機嫌のようだった。
「それで、作戦だが」
ハルドが切り出すと、ベンジャミンは作戦図をだした。
ハルドに見て分かるのは、大型艦が最前列に立ち、中型艦がその後ろ、そして遊撃に小型艦があるという図だけだ。
「我々は、小型艦と同じ動きをさせてもらう」
ベンジャミンはこともなげに言った。
「メリアルージは中型艦だが、戦列艦の働きなどできんからな、遊撃艦として動かせてもらう」
ハルドは疑問に思った。
「艦隊の上の方の承諾は?」
「ない。が、敵の砲撃を受けて、ばらけたとでも言えば良いだろう」
この男は、とハルドは思う。宇宙戦しかも艦隊戦になれば、ハルドよりもはるかに悪辣なのを今、思い出した。
「作戦は敵の要塞攻略だが、どうだ?」
ベンジャミンはハルドに訪ねる。艦隊戦闘は専門だが要塞攻略になると別だからだ。
「正直、楽だな。もともと防衛に適したわけでもなく、公国が見栄で連合の真ん前に建造した要塞だ。
衛星自体が硬すぎて加工できず、基本的に前方にしか防衛手段を設置出来なかったという馬鹿要塞。
相手にするのも面倒だって、放っておいた要塞のはずなんだが。なんで今更って感じだ」
そこまで言って、ハルドは区切った。
「まぁ、やることは簡単でMS隊は侵入口を確保。その後、要塞内に侵入し司令部を制圧するって流れだ」
「その間、艦船は?」
「基本的に、侵入口の確保を援護しつつ待機って感じだな。個人的に見たことあるパターンだと、侵入口から逆に敵が出てきて艦が撃墜されるってやつだな」
ハルドはこともなげに言うが、最後の言葉にベンジャミンは考え込んでしまう。
「まぁ、近寄りすぎないで適当な距離で援護してりゃいいよ。艦の護衛に最低でも1機はMSを置いていくからよ」
それだけ言うとハルドはブリッジから去って行く。
「それじゃ、艦隊運動よろしく」
「任せておけ」
ベンジャミンはそう言うとメリアルージを発進させるのだった。

 
 

「敵が来ると聞きましたが」
アッシュ・クラインはパイロット用のノーマルスーツに着替え、準備をしていた。
話しかけた相手はロウマ・アンドー大佐である。
「そうだね」
ロウマはノーマルスーツを着ておらず、制服のままだった。わざわざ自分が戦闘に出る必要もないと思っていたのでロウマは着ていなかった。
何より、地球から急いで戻ってきて疲れているから、余計なことはしたくないのだ。
「まぁ、落ちる要塞に肩肘張ってもしかたないしね。適当に働いて帰るよ」
ロウマの言葉にアッシュは驚きの表情を浮かべ、言う。
「落ちるとはどういうことですか!?」
面倒だなと思ったロウマは適当に話しを合わせることにした。
「いや、兵の士気が低い要塞は落ちるということさ。ただ、キミの活躍で兵の士気を高めてくれればあるいはと思うが」
ロウマがそう言うと、アッシュはパッと表情を変え、明るい表情を浮かべ敬礼してその場を去って行った。
「やっぱり、ありゃ駄目だな」
「クライン中尉は優秀で士気も高いパイロットですが」
「そうだね」
ロウマは、失敗かなと思っていた。無理を言って小隊ごと地球から借りてきたが、何とも面白くない人材である。
そう考えていた時である、要塞が揺れだしたのは。
「まぁ、こういうタイミングか」
ロウマは言って、しばらく自分の足元が揺れる感触を楽しんでいた。

 

「艦隊の攻撃か?早いな」
アッシュ・クラインはイージス・パラディンのコックピットに乗り込んでいた。
「クライン小隊出るぞ!MSの相手はせず、艦船に注意しろ」
アッシュがそう言うと同時に、イージス・パラディンはヘクター要塞から出撃していた。
「地球でもなく、人質もいないなら!」
イージス・パラディンは砲撃形態に変形し、陽電子砲「メギド」を手近な大型艦に照射した、直撃を受けた大型艦は、撃沈や轟沈といった言葉では済まずに、その存在を消滅させた。
「再チャージだ!時間を稼いでくれ」
イージス・パラディンはMS形態に変形し、ビームライフルを向ってくるMS隊に連射しながら、アッシュは小隊仲間に命令する。
「了解です。坊ちゃん」
「命令すんな!」
「シーエル、相手は隊長だぞ」
3機のゼクゥド・パラディンが舞う。
ニコラスの機体はMSのコックピットをヒートスピアで貫き、
シーエルの機体はライフルの連射で的確な支援をし、
リチャードは支援によって出来たスキを突き、ビームサーベルで敵機を切り裂く。
向かってきたMSの正体は撃破できた。そして、その間にチャージが完了する。
「よし、チャージ完了。もう一発だ!」
再度、砲撃形態に変形したイージス・パラディンがさらに大型艦を消滅させる。

 
 

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