GUNDAM EXSEED_B_23

Last-modified: 2015-04-27 (月) 20:41:15

アレクサンダリアからハルド達が帰ってきて数日、クランマイヤー王国の暑さは本格的なものとなってきていた。
ハルドは暑さにウンザリしながら、マクバレル特製の冷却ボックスから缶ビールを取り出し、ふたを開けて一気に口の中に流し込んだ。
「つーか、あたまおかしいな、このコロニーの設計者。四季設定がマジ過ぎて、暑すぎだろ」
隣に座るアッシュも同じようにビールを飲みながらハルドの愚痴に付き合っていた。
「まぁ、こういうのもいいだろう」
アッシュが大人な意見を言うと、ハルドは面白くなさそうな表情でビールを飲むのだった。
現在、2人は第2農業コロニーにある海の砂浜の上にいた。
何故2人がそうしているかというと、クランマイヤー王国では海開きが行われ、第2農業コロニーの海に入ることができるようになったため、海に行きたいと言い出した姫の付き添い役として、連れ出されたからである。
海では姫とヴィクトリオ、セイン、ミシィ、メイ・リー、セーレ、クリス、ユイ・カトーが遊んでいた。ハルドとアッシュは、その輪に入って遊ぶ元気もなかったので、監視役である。
「ちなみに僕は泳げないぞ」
アッシュが2本目のビールを開けながら言う。
「俺は20kgの荷物を背負って、30kmなら泳げた」
ハルドも2本目のビールを取り出し、開ける。
「バケモノだな」
「昔は泳げたが、今は泳げるかわかんね」
二人は同時にゴクゴクと喉を鳴らしながらビールを胃に流し込んでいた。
「しかし、この間のロウマ・アンドーの話しはどう思う。プロメテウス機関がどうとかいう」
アッシュは良い機会だと思ってハルドに、この間の話しについて相談するつもりだった。
「多分マジだと思うが、少なくとも俺はEXSEEDを直接見てるからEXSEED周りの話しはホントだな」
「そうか……」
そう言うとアッシュは2本目のビールを空にし、3本目の缶に手をつけながら言う。
「結局、プロメテウス機関の話しを聞いたわけだが、僕らは何をすればいいと思う?」
「別にぃ、今まで通りにしてればいいんじゃねぇの。俺らには関係のない話しだしな」
ハルドのビールは2本目の途中であった。最近アッシュの酒のペースが速く、ついていけない時がハルドにはあった。
「まぁ関係はないがなぁ。秘密結社だの言われると、流石に気になるよ。単純な話し、このコロニーを守り切ればプロメテウス機関の人類統一計画を阻止できるだろ?」
ハルドはアッシュに遅れて3本目の缶ビールに手をつけていた。
「まぁそうだな。コロニー含めて全てをクライン公国が征服するのが前提の計画だからな。しかし、あのロウマ・アンドーが主導してんじゃ、たぶん計画は上手くいかないと思うぜ」
アッシュはビールを飲みながらハルドの話しを聞き、缶から口を離して尋ねる。

 
 

「なぜだ。奴は頭もキレるし行動力も何もかも揃ってるように見える。計画の障害などなさそうだが」
ハルドはビールのふたを開け、一口ビールを飲んでから答える。
「あいつの部屋で俺がアイツの気に障ること言ったろ?それが原因」
「夢の話しか」
そうだ、と答えハルドはもう一口ビールを飲む。
「ロウマ・アンドーについて、何を気づいたか教えてくれないか」
アッシュは空になったビールの缶を持ったまま尋ねる。
「別にたいしたことじゃねぇよ、あいつが田舎者で成り上がり者だってだけの話しで、あの野郎はそれに対して異常なコンプレックスを抱いてる」
「そうなのか」
ハルドとアッシュは互いに新しいビールを取り出して開ける。
「あの野郎の部屋みた瞬間にピンときたよ。あ、コイツ成り上がり者だ。ってな」
「僕はそんな風に思わなかったがなぁ」
ハルドは新しいビールを一口飲むとアッシュの疑問に答える。
「そりゃ、クライン家の坊ちゃんじゃ下々の人間とは感覚が違いすぎてわかりゃしませんよ」
ハルドの言い方にアッシュは多少ムッとしたが、ビールを飲んでその気持ちと共に胃に流し込んだ。
「まぁロウマの野郎が田舎者で成り上がり者、なおかつ上昇志向が高いのは間違いない。そして野郎が手段を選ぶタイプじゃないとすると」
「僕の考えでは、ギリギリになって反公国に回る気がするな。そして公国を打倒して後釜に座る」
「俺も同意見。ロウマの夢ってのは案外、クライン公国公王とかかもしれねぇな」
ありえそうな気がしてくるのが、なんともと言ったところだとアッシュは飲みながら思う。
「ま、ロウマの野郎に俺は恨みがあるわけじゃないからどうでも良いけど」
「僕は恨みがあるので奴が幸せになるのはやだな」
我ながら子どもっぽい言い方で変だと思ったが、まぁ気に入らないものは気に入らないのだ。これは仕方ないとアッシュは思った。
「とにもかくにも、このコロニー守ってりゃ、奴の野望もプロメテウス機関とかいうわけのわかんねぇのも止められんだ。頑張ってくださいよ、防衛大臣殿」
ハルドは気楽な調子でビールを飲むのだった。ハルドはアッシュの苦労は特に気にしてなかった。
アッシュはそういうハルドの態度も気に食わなかったが言ってもしょうがない男だと理解はしているので、諦めて今日はビールを飲んで全てを忘れようと思ったのだった。

 

男2人が保護者の役割を忘れて、酒を飲んでいると3人組がハルドとアッシュの元にやって来た。
「今日は呼んでいただいてありがとうございます!」
そう言ったのはハルドが以前に第2農業コロニーの森であったジェイコブとい若者であった。弟のペテロも隣にいるが、もう1人知らない顔の女がいた。
「妹のマリアです。腹違いの妹でペテロとは同い年です」
ジェイコブがハルドに説明した。
ジェイコブにペテロにマリアか、親はクリスチャンだろうなとハルドは思った。
「3人とも、いつも訓練を頑張っているからな今日は楽しんでくれ」
アッシュがそう言うと、3人は「はい」と言い、海の方へ駆け出して行った。
「あの3人は?」
ハルドはアッシュに聞いてみた。
「義勇兵の訓練を人一倍熱心にやってる3兄弟だよ。試しにMSのシミュレーターを使わせたら、3人ともパイロットの素質がありそうだった。セイン君には悪いが、僕はセイン君より才能がある3人だと思う」
そりゃセインも可哀想に、ハルドは他人事のように思いながらビールを飲んだ。

 
 

次にやって来たのはレビーとマクバレルの技術屋コンピである。
「昼間から飲み過ぎですよ」
レビーが言うが2人は無視した。レビーとマクバレルも海で遊ぶ気はないらしく、ビールを冷却ボックスの中から取り出し、ふたを開けて一気に口の中に流し込んだ。
「昼も放っておけば夜になるんだから、昼も夜も同じもんだ」
ハルドが訳の分からないことを言いだす。ハルドもアッシュもかなりできあがっていた。
「まぁいいんですけど、とりあえず朗報です」
「工業コロニーに宇宙港があることを発見した」
レビーとマクバレルは順番に話した。
工業コロニーに宇宙港かハルドとアッシュは酒に酔った頭で考え結論を出す。
「工業製品搬出用でそんなに大規模じゃないんだろう?」
「だが、使用するには充分すぎる大きさだと」
酔っ払いに言おうとしたことを言われ、レビーとマクバレルは何とも言えない表情になる。
「了解した利用法はこちらで考えるから、きみ達には、その宇宙港の点検と整備を頼むよ」
アッシュが出した指示は特に問題がなかったので、レビーとマクバレルは了解と言ってビールを手に持ち、帰って行った。

 

「しかし胸部装甲が薄いな」
男2人、どちらともなく、海で遊んでいる集団を見ながら、なんとなく言った。
「バルカンでコックピットまで貫通レベルだぞ」
そう言ったのもどちらかは定かではない。
「子どもは仕方ないが、セーレとユイ・カトーは終わってるな」
「フェチ受けはしそうだけどな、哀れビキニコンビで」
男2人は酒を飲みながら、品評会を開いていた。
「20代が10代に負けるとか哀れビキニコンビはあの水着で恥ずかしくないのか」
「恥ずかしいという感情があったら、10代に交じってはしゃいで遊ばないだろ。あの中で20代は哀れビキニコンビだけだぞ」
「つーかスタイル悪いな哀れビキニコンビ。尻のラインも綺麗じゃないぞ」
「パイロットのセーレは鍛えるせいでケツデカくなるのはわかるが、ユイ・カトーは下半身太りか?」
「しかし、それに比べると10代チームの尻のラインは綺麗だな」
「胸部装甲も改善の余地があるしな、ウエストもみんな締まってる」
「気を使ってるんだろ。若いし。いや、みんな若いか」
なんだか哀れになって来たので男2人の品評会は中断となった。
後の時間は冷たいビールを暑い中で飲みながら、のんびりとしつつ保護者らしく、子どもの遊びを見守って過ごした。
のんびりと過ごす日がないわけではないが、今日は特にのんびりした日だとハルドとアッシュは思うのだった。

 
 

「私掠船しましょう!」
ある日、クリスがそんな提案をした。その提案を聞かされたのは、ハルド、アッシュ、ユイ・カトーであった。
「私掠船てなんですか?」
ユイ・カトーがハルドに聞く。ハルドは端的に答えた。
「国家公認の海賊」
そう言われてもユイ・カトーはピンとこないようだったので、アッシュが追加で説明する。
「私掠船というのは大昔にあった制度で国が、敵国の船が相手だったら海賊行為をしても罰しないという許可を出した船のことを私掠船と呼んだんだ」
アッシュの説明もそこまで詳しくはなかったがユイ・カトーは都合の良いように解釈した。
「つまり、強盗しても良い権利ってことですね」
それでいいかとアッシュは疑問だったが、とりあえずクリスの話しの続きが気になったのでユイ・カトーは無視することにした。
クリスは端整な顔の前で拳を握りながら苦渋の表情をしている。
「僕だって、こういう行為を勧めるのは良心が咎めるんです。ですがこの世は所詮ゼロサムゲーム。富は皆に行きわたるようには出来ていない、もてる者から分けてもらわなければ、僕たちは永久に貧しいままです!」
「良く言ったクリス君!奪おう金持ちから、金は待ってもやってこない、こっちから取りに行かなければ、金は来ないんだ!」
クリスとユイ・カトーは固い握手をした。
アッシュは色々言いたいことがあった。あったが、もういいやと思った。短い付き合いだが、クリスもユイ・カトーも下衆でクズだ、自分が何を言っても聞きやしないだろうと諦めた。
「とりあえず、民間船を襲うのは良くないので軍艦だけを狙いましょう」
そう言うと、クリスは宙域図を机の上に広げた。宙域図には軍艦が通りそうなルートが書き込まれていた。
「クライン公国と地球連合軍の軍艦が通りそうなルートを書き込んでおきました。まずは、クランマイヤー王国から離れ過ぎないようにしながら、クライン公国軍の輸送船を狙いましょう。我が国に足りないMSとか武器とかが手に入る可能性が高いので」
宙域図を見るといけそうな気がしてくるが、アッシュはよくよく考え、気づいたことを言う。
「これ、普通に戦争行為だぞ。クランマイヤー王国は独立国家で、独立国家の人間が、他国の軍を攻撃するって普通に戦争だぞ」
そう言われても、クリスは平然としていた。その様子を見てアッシュは何か名案があるのかと思った。
「ばれなければ良いんです。私掠船部隊は偽装して、クランマイヤー王国だとばれないようにすれば問題なしです」
「そうです、世の中、ばれなければ、なにやっても良いんですよ」
こいつら、思考が完全に犯罪者なんだよなぁとアッシュは呆れる思いだった。ここはハルドに何とかしてもらいたい。そう思いハルドを見るが、ハルドは目を輝かせていた。
「いいじゃん。楽しそうじゃねぇか」
アッシュは、もう駄目だと理解した。そしてアッシュはとりあえず頭の中に思いつく限りの偽装工作を思い浮かべることにした。もはや反論しても無意味な以上、少しでも無事に物事が済むように考えることの方が生産的だからだ。
それからクランマイヤー王国は私掠船作戦、別名、海賊作戦に向けて準備をすることにした。
まずは船が無ければ始まらない、ハルド達は取り敢えず、月の強制収容所から奪ってきた輸送船を使うことにし、髑髏のマークを船体に描き、海賊船らしい髑髏マークの旗を立てた。
海賊船の乗組員も重要である。とりあえず義勇兵の訓練をしている者たちの中からやる気のある若者を選び乗組員として、その他に虎(フー)とそのもとに熱心に通っている門弟たちを仲間に引き入れた。

 
 

虎は海賊行為に難色を示していたがクリスが騙すことに成功したのだった。
そして次はMSである。ハルドは直接レビーとマクバレルのもとに向かい機体の偽装について相談した。
「一応、フレイドは現在6機まで量産出来てるんで4機くらいなら改造して、その作戦に回せますけど」
レビーは困った顔をしていたが、マクバレルは乗り気だった。
「海賊らしくだな、任せておけ!武器はあれか、クラシックな見た目が良いんだろう!?」
ハルドも乗り気だったため、悪乗りした男2人により、フレイドは大幅なカスタマイズが施されることとなった。
そして問題は船長である。海賊をやる以上は船長が必要不可欠だ。ハルドは船長と言われ、思い当たる男は1人しかいなかった。
ベンジャミン・グレイソン。ハルドの戦友でハルドが昔乗っていた艦の艦長だった男である。今は勘を沈めたことの失意から戦意を失っているが、ハルドは荒療治を施すことに決めた。だが、それを実行に移すにはまだ早かった。
そして半月、王国の人々の努力の甲斐あって、私掠船もとい海賊船は完成した。
「いやー悪そうな船になりましたね」
クリスは他人事のように言うが、アッシュは気が気でなかった。この船がクランマイヤー王国のものだとばれたらと思うと夜も眠れなかった。
「とりあえず、船は工業コロニー側に一旦移すぞ。コナーズ、操舵は任せた」
ハルドに命令され、コナーズは船を操舵する。いつの間にかコナーズも片棒を担がされていた。
「なんで海賊船の操舵手に……」
そう言いながらもコナーズはハルドに逆らえないので、船を一旦工業コロニーの宇宙港に入港させる作業を行った。
工業コロニーの宇宙港はMS製造区画に隣接していたため、MSの積み込みも簡単だった。
そして肝心のMSであるが。マクバレルの自信作が完成していた。
「フレイド・プライベーティアだ」
そう言って、マクバレルに見せられたフレイドは姿が一変していた。
まず頭部の前へと突き出した四角い角部分が無くなっている。その代わりにトサカが付けられていた。
「あの部分はセンサー系だったので、形を変えるにしてもこうなってしまいました」
レビーが申し訳なく言うが、ハルドは別に気にしていなかった。
次に背中のスラスターユニットだが無くなっており代わりにバックパックが大型化されていた、変更されたバックパックにはスラスター噴射口が複数の方向に向けてついている。
「直線的な機動性能はかなり落ちましたが、多方向スラスターで小回りは前の機体より効くようになってます」
他に特徴的なところと言えば……特にないかとハルドが思ったが、なにか違うと腰の辺りを見て気づいた。腰はサーベルの鞘とビームガンのホルスターになっているのだ。
「ヒートサーベルは海賊っぽい形にしておいたぞ!」
マクバレルが言うのを見て気づいたが腰のヒートサーベルはナックルガードの付いた細身の片刃剣である。
「細さと硬度を両立するのに苦労したが、MSは問題なく切れる。そしてビームガンを見ろ!」
ハルドは言われた通りビームガンを見て、若干感動した。フリントロックピストルにも見えるような形のビームガンである。
「いいな、これ!」
「そうだろう!」
男2人が楽しそうにしている横でレビーは解説を始めた。

 
 

「正確にはビームライフルなんですけどね。とにかくバレルを切り詰めてピストルに見える形にしただけです。あと教授の妙なこだわりで、『連射できるのはおかしいし、なんかやだ』で押し通されて連射性能は極めて低いです。
あとバレルが短くなったせいかは分からないし、調べる気も起きませんが、普通のビームライフルより射程が短いです。ですが威力は普通のビームライフルの数倍はあるのでうまく使ってください」
レビーは仕方なしの説明を終えた。するとマクバレルが熱のこもった説明を始めるのだった。
「一発撃ったら、ホルスターに納めろ。そして後ろの腰にもう一丁装備させてあるから、次にはそっちを使え。古き良き時代の二丁拳銃の戦い方だ」
ロマンがあっていいなとハルドが思いながら機体を眺めると次に目についたのは左腕である。以前のフレイドではビームガンの発射口となっていた部分に鉤爪――フックがついていた。
「海賊と言ったらフックいや鉤爪か、名前はどうでもいいが武器名はスタンフックだ。フックにはワイヤーがついており投擲可能だ、ワイヤーには電流が流れる仕掛けがあり、ワイヤーがMSに巻き付いた時に電流を流せばパイロットの意識を飛ばすことが出来る。
フック自体もヒート刃を付けておいたから、問題なくMSを攻撃できるぞ。」
マクバレルの熱のこもった説明にハルドは若干感激を覚えた。
MSは好きの部類に入るハルドとしても、ここまで趣味に走ったMSを造れる人間がいるとは思わなかったからだ。
「あんた、やっぱりすげぇな」
ハルドは心からそう言った。しかしマクバレルはまだまだ見せ足りなかったのである。
「褒めるのはもっと後だ。貴様用にさらにカスタムした機体を用意してある」
そう言うとマクバレルはハルドを案内する。その後ろをレビーが仕方なしについていった。男の趣味に付き合わされるのは、レビーはウンザリだった。
「これが貴様の専用機だ」
案内した先、マクバレルが見せた機体にハルドは驚愕した。フレイドはフレイドだが、先ほどのフレイドより更に見た目が変わっていた。
頭部のトサカは膨らみ海賊帽のようにも見える。その上、メインカメラの半分には眼帯が付けられていた。
これじゃメインカメラ半分しか使えないんじゃ、とハルドが思った、その時レビーが仕方なしに説明した。
「眼帯部分は高精度カメラですからメインカメラよりも性能が上ですので心配なく」
レビーの説明を聞いてハルドはなるほどと思ったそして、視線を下に下げていくすると、フレイドの胸にはホルスターが4つあり、それぞれにビームガンが収まっている。
「次々と銃を変えながら撃ちまくるかっこいいだろう?」
マクバレルが言った言葉にハルドは頷いた。そしてフレイドの両腰には一本ずつサーベルである。
「二刀流も有りかと思ってな」
マクバレルの言葉に再度ハルドは頷く、そしてさらに下を見ると、右脚の膝から少し下の部分が棒に変わっていた。
「海賊と言ったら義足だからな。ビームサーベルを内蔵してるから武器としても使えるぞ」
ハルドは改めて全体を見た。すると肩のビーム砲が取り外され、肩当てに変わっていた。
「私はやめろって言ったんですよ。武装少なくなるから隊長キレるって」
レビーはマクバレルの身を心配して言う。できればマクバレルを殺さないで欲しいと願ったが、その心配は必要なかった。

 
 

ハルドとマクバレルは抱き合った。
「アンタ最高にイカレてるよ」
「ありがとう、最高の褒め言葉だ」
ハルドは感激だった。ここまで趣味に走ったMSに乗れるというのは幸せだ。そしてその趣味が自分に合うとなれば尚更だ。ハルドはマクバレルを強く抱きしめた。
レビーには訳が分からなかったが、ハルドが気に入ってくれたのでよしとすることにした。
そしてレビーは最後の説明をする。
「基本的に隊長の専用機以外は、武装周りはそこまで変わってません。
隊長の機体は肩のビーム砲が無いですけど他のフレイド・プライベーティアは肩のビーム砲はありますし、全部の機体にふくらはぎのミサイルと、右腕にビームガンが内蔵されてるので戦闘に支障はないはずです」
「オーケー、わかったわかった」
適当な返事をするとハルドは機体を船へと積み込んだ。
さて問題は、船長だが。なんとかなるだろうとハルドは思った。ハルドは取り敢えず荒療治が一番だと思っていた。

 

「何をする……やめろ」
ハルドはベンジャミン・グレイソンを無理矢理、船の船長席に座らせた。座らせた瞬間。板ジャミンは「ひぃっ!」と言って逃げ出そうとするのでハルドは、縄でベンジャミンを船長席にくくりつけた。
「おい、ベン、お前は何だ?」
「なんでもない、たのむ、私を放っておいてくれ」
そう言った瞬間ハルドはベンジャミンの頬を叩いた。
「何か勘違いしてないか、お前は誰だ、ベンジャミン」
そう言ってハルドはベンジャミンの口にウィスキーの瓶を突っ込み、無理やり飲ませる。
「グレンの大将、それはヤバいんじゃ……」
操舵手の席でハルドの凶行を目の当たりしているコナーズが弱気にたしなめる。だが、ハルドが聞くわけがない。
「うう、俺は俺は、駄目な男だ」
そう言った瞬間、ハルドは再びベンジャミンの頬を叩く。
「いいや、ダメな男じゃない。お前は男の中の男だ」
「男の中の男……?」
そうベンジャミンが言った直後、ハルドは再びウィスキーの瓶を口に突っ込む。
「いいな、ベンジャミン・グレイソンは死んだ。いいなベンジャミン・グレイソンは死んで、もうこの世にはいない。死んだ奴を誰も恨んだりしない」
ハルドはウィスキーの瓶を口から離す。
「ほら言ってみろ、お前は誰だ?」
「ベンジャミン・グレイソン……」
そう言った瞬間、ハルドは頬を叩いた。
「今、言ったろ。ベンジャミン・グレイソンは死んだ」
ハルドは、そう言ってウィスキーの瓶を口に突っ込む。
「ベンジャミン・グレイソンは死んだ。ベンジャミン・グレイソンは死んだ!いいな死んだぞ!ベンジャミン・グレイソンは死んだからな!」
ハルドはウィスキーの瓶を口から離す。

 
 

「よし、お前はだれだ?」
「……わからない。俺は誰だ?ベンジャミン・グレイソンが死んだなら俺は何なんだ?」
ベンジャミンはアルコールの効果でフラフラとしていた。
「お前はベンジャミン・ドレイク。キャプテン、ベンジャミン・ドレイクだ」
「ベンジャミン・ドレイク……」
「そう、ベンジャミン・ドレイクだ。そしてベンジャミン・ドレイクはこの船の船長だ。船長の仕事は分かるな」
ハルドがそう言うとベンジャミンの目がキリッとする。
「ああ、分かるとも。このベンジャミン・ドレイクを誰だと思っている?」
よし成功したと、ハルドは思った。洗脳成功である。これからベンジャミンは、ベンジャミン・グレイソンではなく、ベンジャミン・ドレイクとして生きるのだ。
ベンジャミンは艦を沈めたことで多くのクルーを死なせたことに自責の念を感じていた。だから、ハルドはアルコールとアルコールに混ぜたちょっとヤバい薬で過去を忘れた状態にさせたのだ。
そして薬には思い込みを強くさせる成分も入っている。ベンジャミンは自分が死んだと思っている。そして自分を誤魔化しているのだ。
もうベンジャミンは別人となった、これで何か月かすれば自責の念など無くなる。というかどうでも良くなるだろうとハルドは思った。人間は忘れることが出来る生き物なのだ、賢く嫌なことを忘れる機能が生物として備わっている。
ハルドはベンジャミンに忘れやすくなる環境を用意してやったのだ。
「この船の名前はなんだ!?」
ドレイク船長がハルドを呼ぶ。ハルドはそう言えば名前は考えてなかったなと思い出した。
「亡者の箱舟号でいいんじゃね、なんかそれっぽいし」
ハルドは適当に言った。興味が無かったからだ。
「よし、それでは、亡者の箱舟号!発進!」
生まれ変わったベンジャミン。ベンジャミン・ドレイクは意気揚々と声上げ、発進の号令を発した。
「アイ・サー」
コナーズはヤケクソで船を発進させた。たった今、人間が1人洗脳された場面を見て、あろうことか船長はその洗脳された人間だ。コナーズはもう訳が分からずヤケクソにならざるを得なかった
そして、ハルド命名の亡者の箱舟号は漆黒の宇宙へと船出したのだった。

 
 

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