GUNDAM EXSEED_B_61

Last-modified: 2015-12-31 (木) 14:32:05

夢を見ていた。もういない少女と、その少女と手を繋ぎ、自分のもとから去って行く姫の姿。夢の中の自分は追いかけることもせず、立ち尽くすだけだった。
ハルドはつくづく自分を情けない男だと思い、自分の手からこぼれ落ちていった全てに思いを馳せながら、自嘲の笑みを浮かべた。そんなに大切なら握り潰すくらいの力で持っていればよかったものを、と。
「グレンの大将、時間ですって、起きてたんですか?」
起こしに来たのがコナーズとは、何ともサービス精神に欠けるなぁと思いつつ、ハルド起き上がると、コナーズの肩を軽く叩き、その先を歩く。
歩いて到着した先には、格納庫と推進システムを増設したシルヴァーナ改があった。そして、ハルドを待つように、数名のパイロットたちが、乗艦をせずに待機していた。その中にはアッシュとセインの姿もある。
「じゃ、行くか」
多分ろくでもないことになるだろうが、まぁ仕方ない。全ては自分たちで選んだ道だ。ハルドがパイロットたちの真ん中を歩くとパイロットたちはハルドの後に続いて歩き出す。
悪くねぇな。ハルドは今の仲間たちを思い、つくづく、そう感じながら、シルヴァーナへと乗り込むのだった。

 

「きみも災難だな、コナーズ。ハルドに関わってしまったばかりに」
シルヴァーナの艦長が、よほど性に合っていたのかベンジャミンは極めてリラックスした表情を浮かべながら、コナーズに言う。
ハルドを起こしに行ったばかりに、僅かに準備に手間取るコナーズも気づいたらシルヴァーナ操舵手が板についていた。
「まぁ、グレンの大将との付き合いはそれなりに長くなるんで、ここからは腹をくくって最後までついていきますよ」
コナーズは多少、カッコつけたつもりで言ったが、その言葉にベンジャミンは可哀想なものを見るような目で返しながら言うのだった。
「あれと、最後まで関わるということは、底の見えない谷底へとロープ無しでバンジージャンプをするようなものだぞ」
そう言われた瞬間にコナーズは、すぐに宗旨替えをして、それなりに付き合うと言い出したのだった。
ベンジャミンは呆れるようなことはせずに、それがいいと思った。ただ、同時にハルドを寂しくも思った。アレには、共に駆け抜けるパートナーが必要だと。
自分は、そうはなれなかったし、アッシュもセインも、友人としてはハルドには珍しく良好な関係を築けているが、それでも真の意味ではパートナーとなりえなかった。
ハルドに必要なのは、それこそ、目的のためなら、底の見えない谷底へと一切の躊躇なく飛び込むような人間だが、そんな輩がいるはずはない。ベンジャミンは僅かにハルドの心配をしながらも、艦の出港準備を整えるように、クルーに指示を出した。

 

改造され、増設されたシルヴァーナ格納庫。その中にはヤキン・ドゥーエ攻略戦に備え、カスタマイズされた機体が複数並んでいた。
最初に立つ機体はEX・キャリヴァー。アッシュ専用機として、火力と機動性を限界まで高めたキャリヴァーがそこにあった。
両肩にはシールドに見えるが、実際には開放式のバレルを採用したメガビームキャノン。腰アーマーにも折り畳み式のリニアガンを装備。バックパックのミサイルは装弾数と、装備数を増加している。
機体の各所にウイングを設置し、変形機構にも対応。ウイングはそれ自体にスラスター機能が内蔵されており、機動性の向上に貢献している。
そして、ヴァリアントガンダムFA(フルアーマー)、ミサイルと高出力の推進システムを内蔵した増加装甲に加え、バックパックを大型化し大容量ジェネレータを三基搭載。
バックパックには固定装備として、プラズマキャノンとスナイパーキャノンが装備され、両肩には高出力ハイパーレールガンをマウント。手持ち武器は開放式バレルを採用したメガビームライフルを右手に、左手には三連装広角稼働型ガトリングガンを装備。
それ以外にも、通常時のヴァリアントガンダムの武装がマウントされている。1G環境下では重すぎて、動くこともままならないが、宇宙空間では最高のパフォーマンスを発揮するとマクバレルは自信を持っていた。

 
 

そして最後に、オーバーブレイズガンダム・3B(ブレード・ブラスター・バースト)
とりあえず、オーバーブレイズガンダムに今まで装備させてきた武装を全て取り付けた機体である。
つまりはバックパックにはドラグーンに大型ビーム砲、肩に大型ビームブレードとそれに接続した広角稼働ビームキャノン、腰にはリニアキャノン、両脚には広角稼働ビームキャノンという、徹底的に重装備の機体である。
各武装はコード:ブレイズを必要としないように調整されたものであるが、全体としての機体バランスは極めて悪いとマクバレルも思っていたが、口には出さなかった。
「凄いですね!」
セインはカスタマイズされた機体を見た瞬間、そう言った、ハルドとアッシュは閉口しながら、マクバレルを見た。マクバレルはこっちを見るんじゃないと、視線を逸らしながら、そそくさと去って行ったのだった。

 

「これより、本艦はアービルを抜け、ヤキン・ドゥーエへの最短ルートを通る」
ベンジャミンが艦内放送で言うのを聞きながら、ハルドはこの最短ルートはクリスが見つけたものであり、クライン公国のロウマが使ったルートでもあることを思い出す。
やたらとデブリが多いせいで、通るのは困難を極めるがコナーズの操船技術なら大丈夫だろうとハルドは、ノンビリとヤキン・ドゥーエへの到着を待つのだった。

 

「敵が多いな」
その頃、ユリアス・ヒビキはフリーダムガンダム・センチネルを操り、敵を軽々と一掃していた。青い翼の機体は、敵からの弾を一発も食らわずに、凄まじい速さで戦場を移動しながら、バックパックの中心にマウントされた武器を抜き放つ。
それは、剣のように先端が鋭利な、巨大な銃だった。フリーダムガンダム・センチネルはそれを構えると、剣が割れ、銃身の形を作る。
「陽電子バスターライフル発射」
ユリアスは軽く言いながら、敵艦隊に狙いを定めて、巨大な銃の引き金を引いた。その瞬間に防御不可能なエネルギーの奔流が走り、敵の艦隊を飲み込み、消滅させる。
ユリアスは消えた敵艦隊を見ながら思う。こういう武装ばかりだから、この機体は全力を出させてもらえないんだよなぁ、と。しかし、今は大きな戦場だ、力を使いすぎたところで誰も咎める者はいないだろう。そう思い、ユリアスは乗機の全力を発揮し続けるのだった。

 

けっこう押されているか?ロウマはそう思いながらも、そこまで大きな心配はしていなかった。前面の防御に関してはユリアスとフリーダムガンダム・センチネルがいる。戦うためだけに生み出された人間なのだから働いてもらわないと困る。
前面は押されているように見えるが、実際はトントンといったところだろう。MS部隊の損耗率が大きい地球連合は、慎重にだが確実に攻め上がっているだけで、こちらを突破する力はないと思った。
「迂回してくる形跡がないってことは、後方から主力級の部隊がくるってことかな」
前面を突破できないなら、要塞に対して様々な方向から攻撃を仕掛けてきてもおかしくはないが、それがない。ならば増援がくるのだろうとロウマは予測していた。
おそらくはアービルを経由してくる部隊。ロウマは自分に予知能力はないが、地球連合が使える最強の手札として、クランマイヤー王国がいる。コロニー同盟に関しての問題を条件にすれば、奴らは動くとロウマは思った。
「ガルム機兵隊、構えとけ」
ロウマは、なりふり構わずプロメテウス機関に頼んでプロメテウス機関製の機体をガルム機兵隊に貸し与えていた。
そして、それを補佐するようにプログラミングしたEXSEED兵だ。バルドレンのものより攻撃効率は落ちるが、ガルム機兵隊を守るには最適に調整し直してある。
ロウマは思う。どこからでもかかって来い、ぶち殺してやるからよ、と心の中で毒を吐くのだった。

 
 

「戦闘は始まっている。MS隊はすぐに出られるな」
ベンジャミンは艦内放送をしつつ思う。自分の戦争経験からすれば戦闘開始直後が最も恐ろしい、両軍が大威力の砲撃を後先考えずに、とにかくぶっ放すからだ。それを避けられただけでも充分に幸運。その幸運だけで、この戦場を生き延びれる気がしたのだった。
「行くぞ、クランマイヤー王国軍!」
アッシュの呼びかけと、先んじて出撃するEX・キャリヴァーの後を追うように、続々とMSが出撃する。そんな中、ハルドは予感に近いものを得て、オペレーターをしているミシィに尋ねた。地球連合で、被害が大きいのはどこかと。ミシィは僅かに戸惑ったが答えを返す。
「ヤキン・ドゥーエ、前面の右舷側すごくやられてます」
だったら、自分はそちらをやるか。ハルドはヴァリアントガンダムFAを発進させながら、アッシュに言う。
「俺は地球連合側に行ってヤバい奴を止める。要塞の防衛線突破と侵入は任せる」
随分勝手だと思ったが、アッシュはハルドの言葉に違和感を覚えた。普段なら殺るとか言うが、今回は止めるか。相当に相手がヤバいのだろうとアッシュは思い、許可した。
「なるべく地球連合に恩を売っておいてくれ」
「了解」
ハルドのヴァリアントガンダムFAはアッシュらとは別の方向に飛び去って行く。それを見ながらセインはボンヤリと考えた。
ずいぶん遠くに来たなぁ、と。最初は地球連合に入隊するつもりが気づいたら、こんな状況だ。本当に人生は分からない。分からないこそ楽しいのかもしれないと思いながら。
「セイン。出撃!聞いてる!?」
ミシィが怒鳴る。これ以上怒らせたら大変だと思い、セインはオーバーブレイズガンダム3Bの発進準備を整える。
「あのね、この間はノーカンだからノーカン。分かってる!?」
うん、分かってるよ。男女の勝負に不意打ちは禁物。だから――
「無事に帰ったら、ちゃんとキスするよ」
セインは味方の全員に届く通信で、そう言った。冷やかす声が大量に聞こえ、ミシィが赤くなり、だんまりとするのを見届けてから、オーバーブレイズガンダム3Bを漆黒の宇宙へと舞い上がらせた。必ず帰ろう。そういう決意を胸にセインは戦いに赴く。

 

確かに勢いが弱いなと思いながら、ハルドはヴァリアントガンダムFAの右手に装備されたメガビームライフルを敵の集団に向けて発射する。ビームライフルと言う名前が偽りとしか思えないビームが二本のレールを銃身とした大型の武装から発射された。
撃ちだされた巨大なビームは一気に敵の集団を飲み込み、ハルドのヴァリアントガンダムFAはさらに左腕の前腕を完全に覆う形で装備された、三連装大口径広角稼働ガトリングをを掃射し、敵の群れを薙ぎ払った。
直後に連合の司令官から司令官から通信が入る。
「貴官は何者だ!」
突然現れてきて、圧倒的な戦闘力で敵を薙ぎ払う謎の存在。司令官でなくとも疑問に思うだろう。それに対してハルドはこう答えた。
コロニー同盟クランマイヤー王国所属、名は……ネームレスでいい」
ネームレス――名無しと言う意味だが、これでいいとハルドは思った。そう言った、瞬間に地球連合の識別コードにヴァリアントガンダム――クランマイヤー王国所属――パイロット:ネームレスが登録されたのだった。
この後、地球連合兵はクランマイヤー王国に対して拭えぬ恐れを抱くことになる。それはネームレス・ヒーロー――無名の英雄の伝説。クランマイヤー王国が危機に陥れば名無しの悪魔が現れクランマイヤー王国に敵対する全てを薙ぎ払うという噂話が蔓延するのだった。
そしてハルドのヴァリアントガンダムFAは、後にその伝説となる活躍をしていた。バックパックの高出力プラズマキャノンで敵艦を撃ち貫き。
そのまま敵陣で追加装甲内に内蔵されたミサイルを乱射しつつ、左手のガトリングガンを動かし続け、ひたすらに敵を撃破していった。そしてメガビームライフルが戦艦を一気に二隻貫くと、地球連合の士気は否が応でも高まった。
ユリアスは自分が担当している要塞側から見て、左側は弱っているのに対して右側が明らかに勢いづいているのを感じ取り、不意にある人物を思い浮かべた。
「来ているか、ハルドさん」
ユリアスは、ハルドが戦場にいるのを感じ取った。そうでなければ、敵のあの勢いは説明できない。ユリアスは本気のハルドと戦ってみたいという本音に、要塞の防衛という建前を薄くコーティングし、ハルドのいる戦域に向かうのだった。
ハルドは来るなという直感があった。もともと、こちらのやられ方が異常な速さなのだ、向こうにアレがいることは間違いないと思い、ヴァリアントガンダムFAに即座にスナイパーキャノンを構えさせ狙いをつける。

 
 

青い翼が見えたが、速いなとハルドは思う。おそらく、こちらが狙いをつけていると見越してノンビリとは動かないということだろうとハルドは思った。
自分もロックオンサイトが出ていない遠距離の敵に勘で弾を当てたりしているので不思議には思わない。絶対に安全な距離など無いと知っている動きだ。ハルドはスナイパーキャノンでの狙撃は諦めた相手が悪い。
ここからはスナイパーキャノンは手を使わずに運用できる高初速の実体弾として使おうと思いながら、自らも、青い翼のガンダムに迫る。
「こいよ、ユリアス君」
「行きますよ、ハルドさん」
二機のガンダムタイプの戦いが始まる。その戦いは、後世全てのパイロットの教育の礎となることを、当然二人は知る由もなかった。
二機のガンダムタイプは恐れを知らないのか、真っ直ぐに相手に突っ込んでいく。当然フリーダムガンダム・センチネルはビームサーベルを抜くが、ヴァリアントガンダムFAは両手の重武装でそれもままならない。だが、それでも突っ込んでいった。
どういうつもりかと、ユリアスは思ったが、躊躇せずにビームサーベルを振るうと、ヴァリアントガンダムは、極めて不規則な機動で、ビームサーベルを持つフリーダムの腕を抑えつけ、蹴り飛ばすと直後に、機体の全身からミサイルランチャーを発射する。
至近距離で発射された大量のミサイルを回避しながら、フリーダムはビームライフルを相手に向けるが、その相手はより強力なメガビームライフルをフリーダムに向けていた。
撃ちながら回避、ユリアスはそれが甘い考えだと思い知らされた、全て計算された上で誘われ、自分は撃たされたのだと理解しながら、止めようもなくビームライフルのトリガーを引き、そして同時に強大なビームの奔流を受ける。
ユリアスが超人的だったのは、その状態でも、ダメージを最低限に抑えたことだった。ユリアスのフリーダムは。装甲の表面が焦げ付き泡立ちながらも機体には全く問題が無かった。対してヴァリアントガンダムはというと。
レール部分を貫き破壊されたメガビームライフルを捨てていた。ハルドは強いなぁ、と思い、腰アーマーにマウントしてあったブレイドライフルを引き抜き、右手に持つ。
「多分だが、俺たちが最強だ。どっちが上か決めるのも悪くないかもな」
「それは、大変栄誉ですね」
ユリアスはハルドの言葉を軽く返しながら、その言葉が事実だという確信を抱いていた。誰が自分に戦場で勝てるというのかと、ユリアスは絶対の自信を持っていたが、ここに来てそれを揺るがす相手が現れた。
ユリアスはこのことを喜びを持って迎えていた。何しろ退屈で仕方なかったのだ。ユリアスは歓喜を持って、目の前の相手を前に舌なめずりをするのだった。真の最強の名を手にするために。
二機のガンダムタイプが同時に動き出す。二機は凄まじい加速を発揮する。ハルドは良い機体に仕上げてくれたとレビーとマクバレルに感謝するのだった。
ただのヴァリアントガンダムならば、敵のガンダムにはついていけなかったが、追加装甲に内蔵されたスラスターによって、ついていけるだけの速度は得られている。後は腕の問題だ。
二機のガンダムは同時に動く。ハルドは一瞬の判断で、前進の追加装甲のミサイルをフリーダムに向けて発射する。対して、ユリアスはハルドより、0.1秒未満遅れて、バックパックにマウントされた収束プラズマビーム砲“バラエーナXX”を前方に向け掃射する。
ユリアスが極めて短い間であったが、遅く武装を展開したのは、ヴァリアントガンダムの装甲のハッチがミリ単位で動いたため、それに合わせて武装を選んだためだった。
バラエーナから発射されたビームを照射し、フリーダムは薙ぎ払うようにミサイルを全て消し飛ばしたが、ハルドはそれも想定済みで、ミサイルの中に煙幕を混ぜていた。
ミサイルがビームによって焼き払われる瞬間に煙幕が拡散し、ヴァリアントガンダムとフリーダムの間に、煙の壁を作る。
だが、ユリアスは構わず、フリーダムの腰に折りたたまれマウントされているレールガンを展開し、発射する。電磁力によって物体を高速で撃ちだす兵器であるレールガンであるが、この時代では、MSが宇宙空間で使用できる最強の兵器となっていた。
大量の電力を供給すれば、それだけ加速度を増すレールガンはMSが大量のエネルギーを持つこの時代になって、脚光を浴びていた。現在、MSに搭載されるレールガンの威力は一発で、戦艦の破壊も可能なレベルになっていた。

 
 

しかし、並のMSにそれだけのエネルギーをレールガンに供給することは不可能。だが、ユリアスの乗るフリーダムガンダム・センチネルはそれが可能な並ではない機体である。
「後ろ!巻き込まれんなよ!」
ハルドは言いながら、ヴァリアントガンダムの両肩にマウントされたハイパーレールガンを前方に向けて構えながら突進する。突進する先は煙幕の中。弾が飛んでくるのは自分でも直撃ギリギリにならないとわからないが、それでもハルドは突っ込んでいった。
フリーダムが両腰のレールガンを撃つ。その速度によって、煙幕が切り裂かれるが同時に、煙幕自体も、自ら散っていった。それはヴァリアントガンダムのレールガンによるものだった。
撃ちながら突っ込んでくるのか?ユリアスは正気じゃないと思ったが、それも正しいような気がした。ユリアスの経験上、弾は当たる奴にしか当たらないのだ。当たらない人間ならば、いくら無理をしても良い。
ユリアスは、ヴァリアントガンダムが迫ってきていることを感じながら、自身の機体も煙幕へと突進させた。
飛んできているのはレールガンかとハルドは煙幕の中を突っ切りながら思った。音速の数倍では済まない速度で飛んでくる弾丸を避けたり、防ぐ手段などない。こうなったら、結局は度胸などだと思いながら、両肩のレールガンを撃ち合う。
そして、刹那の瞬間だった。煙幕の中、二機のガンダムが交錯する。ユリアスは取った。そう思った。対してハルドは位置が悪いと思わざるをえなかった。
そして、二機は交錯の瞬間にレールガンの銃身を相手に向け、撃つ。
二機は凄まじい速度のまま煙幕の中を交差し突き抜けた。そして、その結果は。
「あのタイミングで当てるんだ。すごいなぁ、えっと、レールガンは片方大破で腰アーマーにもそれなりのダメージ、無事な砲のレールガンも通電が怪しい感じで使えないだけで問題なし。ハッタリ、いや。フェイクに使うか」
ユリアスは人生で初めて受けたマトモな被弾にも関わらず、冷静に考え、今後を思考していた。ユリアスは、今、この瞬間人生で初めて生まれてきた意味を理解した気がした。エミル・クラインを守るなど仮初めの使命だ。自分は最強の敵を倒し続ける。
それこそが、自分の人生であり、その人生を生きるための傷など何ほどのこともないと思うのだった。
対してハルドの方はというと、ヴァリアントガンダムは右肩のハイパーレールガンを追加装甲ごとパージしていた。
「武装は問題なし、スラスターのバランスが崩れるのは嫌だが、こうするほかなし。だって機能停止してるし、それに残弾や残りのエネルギーを考えると左肩のハイパーレールガンも使用は無理だな」
ハルドの方も危機感などは全くなかった。強い相手が当然に強いのだから驚くこともない。そう思い、機体の残り武装を確認する。
ブレイドライフル、ビームライフル、ソリッドライフル、スナイパーライフル、ペネトレイターライフル、ビームショットガンに、左膝には、特殊弾頭を馬鹿みたいに詰め込んだ、ミサイルポッドが一基にバックパック搭載武装。
ハルドは余裕の笑みを浮かべた、相手をハメ殺すには充分すぎる武装だ。
二機のガンダムタイプは煙幕が散りきるのを待ちながら、相手を仕留める方法をひたすらに考えた。
地球連合もクライン公国も周囲の機体は、何もせずに二機を見ているしかできなかった。機体性能もそうだが、パイロットとしての能力が違いすぎることを、その場にいたものは実感していた。
そして、煙幕が完全に散った瞬間に二機のガンダムが動く。ヴァリアントガンダムは、左腕の三連装ガトリングを連射する。たいして、フリーダムは圧倒的な弾幕のガトリングをこともなげに回避しながらビームライフルを撃つ。
ヴァリアントガンダムは、僅かに機体をずらすだけで、その射撃を回避し、反撃にブレイドライフルからビームを撃つが、フリーダムは当然のように回避しながら、前へと出る。
ハルドもユリアスも遠距離の射撃では勝負がつかないことは分かりきっていた。お互いが完全に相手の攻撃を読みきれるからだ。
勝負をかけるならば、中距離から近距離、そして密着するような接近戦、それらのどこかで相手の裏をかくようなイレギュラーな動きをして、仕留める。ハルドもユリアスも、その考えでいたが、安易にその距離に入りたくはなかった。
仕留めの間合いに入るならば、自分が絶対的に有利な状態で入る。二人ともそう考えながら、牽制の射撃を続けていた。

 
 

「使える武装……、陽電子バスターライフル。いけるかな?」
ユリアスはコックピット内のチャージメーターを確認し、最大の威力の武装が使えることを確認しながら、乱射されるヴァリアントガンダムのガンダムガトリングをかいくぐり、高速で移動しながら、発射可能な位置を探りつつ、ビームライフルを撃つ。
バラエーナは射角が限定されるから、あの速さで動く敵には絶対当たらないんだよな。ユリアスはバックパックにマウントされた高出力のビーム砲が急に疎ましく思えてきたのだった。
すっげぇ、無駄弾撃ってる気がするが気にしねぇ方がいいか。ガトリングの弾幕を避けるために縦横無尽に動く敵機に合わせて、ヴァリアントガンダムも、加速してフリーダムを追って動きながら時折ブレイドライフルのビーム射撃を行う。
二機の戦闘機動は圧倒的なものだったが、やがて、僅かに追う側のヴァリアントガンダムが離され始める。
機体性能の差であるため、仕方ないと思いながら、ハルドは距離が離れた瞬間に、バックパックのスナイパーキャノンを撃つが、フリーダムは背を向けながらも、その射撃を回避して見せた。
そして即座に機体を反転させると、反撃だと言わんばかりの様子で、バックパックにマウントされていた、大型の武装を抜き放ち、構える。それは陽電子バスターライフル。おおよそMSが持ちうる最大の火力を有する武装だった。
ハルドは、最初その武装が何かは分からなかった。なぜなら、銃身から先端までまるで剣のような形状だからだった。だが、その剣身から先端にいたるまでが展開されレールとなった瞬間にハルドは銃であることを理解し、即座に機体を横方向に加速させる。
「それでも、遅いよ!」
ユリアスの言葉と共に全てを消し去るエネルギーの奔流が走る。ユリアスは陽電子バスターライフルを照射状態のまま、ヴァリアントガンダムを追うように振るう。ユリアスは相当無茶な使い方をしていることは自覚していた。
この戦闘では、使用できないことも承知の上で、無茶な使い方をした。こうでもしなければ、この敵を仕留めるチャンスはないと思ってだ。
ハルドのヴァリアントガンダムは背後から巨大なエネルギーの塊が追ってくることを理解し、機体を加速させるが、ヴァリアントガンダムを追うように振るわれる、それの速度はハルドの想像以上に速く。ハルドは直撃は免れられないと即座に判断し行動する。
「ミサイル、もったいねぇが、仕方ねぇよな」
ヴァリアントガンダムは逃げながら、追加装甲のミサイルの残りを全て、フリーダムに向けて発射する。
「同じ手を!」
フリーダムはバラエーナのビームで即座にミサイルを薙ぎ払うとユリアスは予想していた通り、煙幕が拡散された。だが、意味はない陽電子バスターライフルで薙ぎ払うからだ、フリーダムは陽電子バスターライフルをそのまま横薙ぎに振るう。
だが、その直後だった、煙幕の外、当然のように煙幕など関係なく、変わらぬ機動で陽電子バスターライフルから放たれるエネルギーの奔流から逃げている、ヴァリアントガンダムの姿があった。
では、煙幕の意味は?とユリアスが思った瞬間、煙幕の中で爆発が起き、無数の破片が、フリーダムに襲い掛かる。ユリアスはバスターライフルを振るっている都合上、回避は不可能と考え、シールドで防御する。
ユリアスは、向こうが何を爆発させたか、瞬時に気が付いた。今、ヴァリアントガンダムはガトリングガンを持っていなかった。おそらくガトリングガン爆発させ、攻撃してきたのだとユリアスは確信した。だが、防いだので問題ないと思った瞬間である
ヴァリアントガンダムは逃げながら、ライフルを構えて、フリーダムを狙っていた。別に問題はない。このままシールドで防ぐ。そうユリアスが思った直後、ヴァリアントガンダムのライフルの銃口から稲光が走り、シールドを貫き、フリーダムの右肩が貫かれた。

 
 

「持ってて良かったペネトレイターってな」
しかし、わりに合わないとハルドは思う。こちらは、ガトリングを捨てて、さらに虎の子特殊弾頭満載のミサイルポッドもガトリングガンの誘爆用に使ってしまった。そして与えた結果が、相手のシールドと右肩に損傷として良いのか判断に困る小さな風穴だけだ。
ユリアスはしくじったと思った。まさか、右肩を貫かれるとは思わなかった。損傷自体は極めて小さく、右腕を動かすこと自体は問題ないが、僅かに挙動速度に遅れが出ている。これではバスターライフルで、敵を薙ぎ払うようなマネをは無理だと思った。
その瞬間である、ヴァリアントガンダムはすでに、近接戦闘の構えで突っ込んできていた。
ユリアスは即座に陽電子バスターライフルを展開状態から通常状態に戻し、それを振るう。見た目の形状通り、剣としても使用が可能な調整を施してあるのが、この武装の特徴でもある。
ヴァリアントガンダムはブレイドライフルを躊躇いなく振るう。ユリアスはその武装に関してのデータは受け取っていたが、あえてバスターライフルで受け止めた。
ハルドは斬れるという確信があったが、それは果たされず、フリーダムのバスターライフルの剣部分はしっかりとブレイドライフルを受け止めていた。
ハルドはそういうこともあると、即座に距離を取ろうとしたが、その瞬間に、フリーダムのシールドでヴァリアントガンダムの顔面を殴り飛ばされた。
坊ちゃんかと思ったが、ラフファイトも好きかよ。ハルドがそんな感想を抱いた瞬間、フリーダムのバラエーナから放たれたビームがブレイドライフルを消し飛ばす。
「とどめをかける!」
「そりゃ無理だ」
ハルドはバスターライフルを振り上げるフリーダムを見て言う。そこで、ユリアスはようやく気づいた。自分の武装の陽電子バスターライフルに二本の実体刃のナイフが突き刺さっていることを。
「自慢じゃねぇが、この世で俺より早くMSの手指を動かせる人間はいないんでね」
ハルドは、ブレイドライフルとバスターライフルの剣身が衝突した瞬間に、両腰アーマーに内蔵されているソリッドナイフを、高速で抜き放ち、バスターライフルに突き刺していた。
ユリアスはすぐにバスターライフルを放り捨てた。その直後にバスターライフルは自爆した。バスターライフル自体に大量のエネルギーが蓄えられていたため、ソリッドナイフによって回路が破壊され爆発したのだった。
バスターライフルの爆発が間近であったため、コックピットのユリアスに僅かな衝撃が訪れた直後、別の大きな衝撃がユリアスを襲った。それはヴァリアントガンダムが僅かな隙を狙ってハイキックをフリーダムの顔面に叩き込んだためであった。
即座に、ユリアスのフリーダムは、一本だけ残っている足を蹴り払った。その直後、奇妙なことが起こった。目の前でヴァリアントガンダムが回転し、ヴァリアントガンダムの頭部がフリーダムの脚の前に、フリーダムの頭部の前にヴァリアントガンダムの脚があった。
普通はこうはならない、機体のバランサーが正常ならば、なるべく相手の機体と同じ目線上に立つようになるからだ。こうなるということは、故意にバランサーを切った証拠だ。そしてそうするには訳がある、そう思った瞬間だった。
ヴァリアントガンダムがバックパックにマウントされたビームサーベルを抜き放ち振り下ろす。
ユリアスのフリーダムの位置からすると真下からの切り上げになる。ユリアスは咄嗟にビームサーベル抜き放ちその一撃を防いだが、何かミスがある気がした。その瞬間である、再び、フリーダムの顔面に蹴りが叩き込まれた。
当然である。何せ顔面の前に足があるのだから、蹴るのは極めて容易だった。ユリアスもつられて蹴りを出すが、ヴァリアントガンダムの左腕が巧みに脚を防ぎ、その反対の腕は変わらずにビームサーベルを振り続けていた。
ユリアスは、この位置の戦いは気持ちが悪いと思わざるをえなかった、対応しなければいけないことが多すぎる上、何とも邪道のような気がしたのだ。そんなことを戦闘中に考えていれば、当然だが、僅かに動きが鈍る。その瞬間だった、
真下に頭が見えるヴァリアントガンダムが、左手でバックパックにマウントされたビームサーベルを抜き放ち不意打ちをかけようとしているのが見えた。それに応じて、フリーダムは左腕のビームサーベルも抜き放ったが、何も無かった。
有ったのは、フリーダムからは逆さまに見えるヴァリアントガンダムが左手に構えるライフル。そしてライフルから発射された弾丸だった。

 
 

発射された実体弾の弾丸が、フリーダムの顔面をえぐる。その瞬間、ユリアスは、がむしゃらに動き、ヴァリアントガンダムのふくらはぎをビームサーベルで斬りつけた。しかし、ふくらはぎは追加装甲によって、ほとんどダメージは与えられなかった。
その直後、ヴァリアントガンダムはフリーダムを思い切り蹴飛ばし、無理やり距離を取る。そして距離が離れると同時に、ヴァリアントガンダムは器用にその場で側転し、フリーダムと同じ目線に立つ。
「これが俺の全てだ」
そう言いながら、ハルドのヴァリアントガンダムは右手のビームサーベルを戻すと、右膝脇のビームショットガンに手を伸ばし、それを握る。
「ビームサーベルを持ったと思ったろ?でも実際は違ってた。ああいうフェイクも俺の得意技だ。それに、逆さま状態の戦闘も慣れてない奴をハメて仕留めるのに役立つ」
言いながら、ハルドのヴァリアントガンダムは両手に銃を持ったまま、困ったように手をあげる。
「誰にも言えないような、小手先の技のオンパレード。恥ずかしくて味方にも見せてねぇのが、ほとんどだ。でも、俺はアンタにそれを見せた。全力だからだ。さて、アンタの隠し玉には何があるのかね」
ユリアスは相手を舐めていたのかもしれないと、今更になって思った。多分向こうは死ぬような思いを何度もして生き残るために、小手先と自虐するような技術を磨いてきたのだ。ユリアスは生まれて初めて、尊敬という感情を覚えた。
「小手先なんて……」
ユリアスは、自分の機体につけられた傷が急に誇らしく思えてきた。これは、一人の人間が、ひたすらに強くなるために、編み出してきた技術の結晶だ。それを小手先と蔑むことをユリアスは間違っていると思った。
「小手先なんて、言わないで下さいよ。あなたは誰より強い。その技術だって、誇る物だ!」
ハルドは僅かに驚いた。ユリアスという人間はもう少し淡白な奴かと思っていたからだ。だが、熱いなら熱いで別に構わないとハルドは思い、言う。
「誰より強いかは、まだ決めようがねぇよ。お前がいるからな」
そう言って、ハルドのヴァリアントガンダムはゆっくりと前進しながら、速度を上げる。対するフリーダムも同様だった。前進しつつ速度を上げていく。そして、最高速に達した瞬間、二機は激突するのだった。
先手を打ったのはハルドのヴァリアントガンダム。右手のビームショットガンを真っ直ぐ向かってくるユリアスのフリーダムにぶつけようとするが、ユリアスのフリーダムはそれを躱し進んでいく。
ハルドは目つぶしにでもなれば、いいと思ったが、外れたならば仕方ないと考えを変え、バックパックに隠してマウントされていたソリッドナイフを抜く。
ユリアスはナイフでどうするのかと思いながらも、シールド防ごうとした瞬間だった
突然グレネードがシールドの前に現れた。そのグレネードはソリッドライフルのオプションとして装備されているグレネードだった。ハルドはユリアスの認識できないタイミングでグレネードを一発抜き出し、放り投げていたのだった。

 
 

ユリアスは訳が分からすそのまま防御するが、グレネードの威力によりシールドが砕ける。だが、至近距離で受けたのは、ヴァリアントガンダムの右手も同じだと思った瞬間、ソリッドナイフを握ったヴァリアントガンダムの右手が、フリーダムの左手首を刺し貫いた。
ユリアスはどうやって、と思い、自機の左手首にナイフを突き刺す右手を見ると、かろうじて残った三本の指で、ナイフを握り突き刺していた。
そうか、人間とは違い、MSは三本指でも、充分以上の握力を確保できるのかとユリアスが感心したその瞬間、ヴァリアントガンダムが密着状態でソリッドライフルを連射するが。フリーダムは右手に内蔵されたビームシールドで、その全てを防ぐ。
ハルドは弾丸の選択を間違えたと思いながら、距離を離すためグレネードを起爆しないモードで撃ち、フリーダムが下がることを狙ったが、フリーダムはビームシールドの形状を変形させ、ソードのようにすると横薙ぎに振るい、グレネード弾を斬り裂く。
そして、下がろうとしたヴァリアントガンダムの左肩を貫いた。ハルドは即座に機体を真下に移動させる。向こうが腕を真下に振るった場合、腕が斬り飛ばされる位置であったため、先に動いてビーム刃を抜く必要があった。
だが、ヴァリアントガンダムの動きは間に合わず、フリーダムはビームシールドを変形させ刃とさせた武器で、ヴァリアントガンダムの肩を縦に切り裂き、その左腕も同時に斬り飛ばす。
ハルドはそれでも、何とか、ヴァリアントガンダムを後退させ、近接戦の間合いから離した。そして思いを口にするのだった。
「やっぱり、つえー」
ハルドは自機の状態を確認する。左腕は全損で、右腕は稼働可能な指が三本。それ以外は、顔面がボコボコぐらいで何の問題も無し。使える腕と指が限られているのが辛いが、バックパックの固定武装もあるし、まぁ何とかなるだろうとハルドは思う。
対して相手は、左手が使えないのと、右肩に何の支障もなさそうな風穴一つに、顔面がえぐれて不細工になっていること、そして固定武装を一つ潰したことぐらいだ。
まぁ、もともと生き残りたくて戦っているわけでもなし、とにかく全力を出して殺されるのなら別に構わないかとハルドは思いながら、バックパックのビームサーベルを抜き放つ。
「んじゃ、そろそろ決着いくか?」
「ええ」
そう言って、互いのMSが激突しようとした瞬間であった。不意にフリーダムが、ヴァリアントガンダムに背を向け、要塞側へと去って行く。ハルドはどういうことか分からなかったが地球連合からの通信で理解した。
「敵軍は要塞を放棄し、撤退を始めたようだ。こう呼ぶのは失礼かもしれないが、ネームレス殿、あなたが、あの機体を抑えてくれていたおかげです」
ハルドは応答もせずに、とりあえずシルヴァーナに帰ることにした。機体が傷ついたからだ。ユリアスと戦う機会がないのなら、もはや、この戦場になどハルドは興味がなかった。

 
 

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