GUNDAM EXSEED_EB_5

Last-modified: 2016-01-12 (火) 20:12:58

リヒトは一応、夜目が利く方だし、月明かりもあるので図書館内を見るのに不都合はなかったが、全く面白味のない図書館でありデザインも何も考えておらず、取り敢えず作ったというのが丸わかりだった。
リヒトはアサルトライフルを構え、周囲を見回すが、人影はなさそうだった。しかし、その瞬間である。上の方から声が聞こえてきた。
「くっくっく、ワシらの他にここに忍び込んでくる人間がいると思えば、奴のガキか」
携帯ライトの光がリヒトを照らすと同時に、リヒトは図書館の二階に老人の姿を見た、なんというか醜悪そのものといった容姿に禿頭のコートをきたしっかりとした体格の老人だった。
「お爺さんは、誰だい?僕は知らねぇんだけど」
携帯ライトを持つ老人は何も言わず、その後ろの影から見知った姿がリヒトの前に現れる。
「おひさーってほど、久しぶりでもないか、リヒト」
影から現れたのはイーシャだった。リヒトはあれまぁ、と思いながらとりあえず銃の引き金を引いた。その瞬間、老人とイーシャは素早い動きで逃れる。
「姐さん、何やってんの?」
リヒトはノンビリと聞いてみた、右目のコンタクトレンズがイーシャを赤いマークで捉えており、銃撃をしながら聞く。
「聖杯が手に入りそうな雰囲気だったから、抜け駆けをしようと思ったのよ」
イーシャは恐ろしく速い動きでリヒトの銃の狙いから避ける。
「リヒト、気をつけて!」
イーシャがそう言った瞬間、コートを着た禿頭の老人が、中華包丁と牛刀を叩きつけてきたので、リヒトはライフルで防ぐが凄まじい勢いで銃が軋む音が聞こえた。
何で中華包丁とリヒトは思ったが、昔チャイナに連れられて行った時や、日本の豚骨ラーメン屋にて中華包丁で豚の骨を叩き切っていた光景を思い出し、結構ヤバい武器かもしれないとリヒトは思うのだった。
「こら、蛇娘!どっちの味方だ!」
「心情的にはリヒトの味方、利益的にはアンタの味方よ!」
リヒトはアサルトライフルで、包丁の一撃を受け流すと、アサルトライフルを捨て全力で老人を蹴り飛ばした。
老人が吹き飛んでいくのを見届けた瞬間、スローイングナイフが飛んでくる。間違いなくイーシャの物だとリヒトは理解した。
「この暗さだと、ゴーストムーブは使えないでしょう」
その通りだと思い、リヒトは避けきれず、太ももをスローイングナイフがかすめる。幸い問題の無い傷だ。
「ミーちゃんさぁ、今度から刃物を持っている人間も検索にかけようよ」
「検索にかけたが、無理だった。そいつらの刃物の反応は今出たばかりだ!」
それもそうか、素人じゃないんだし、武器は隠すよな。リヒトは言っても仕方ないことを言ったと反省した。
「昔から、食ってみたかったんじゃよなぁ、お前さんの肉。タイミングが無くてここまで長引いたがいい具合にしまって美味そうだ」
リヒトに蹴り飛ばされた老人は、全くの無傷で立ち上がりコートの前を開ける。するとコートの中にはありとあらゆる包丁や肉を捌くための道具が吊るされていた。
「マンイーター!リヒトに手を出すのは無し」
マンイーター?名前を聞いてリヒトは思い出した。
「ああ、僕にナイフを教えてくれたお爺ちゃん?うわっ、スゲー懐かしい!」
そうリヒトが言うとマンイーターと呼ばれた老人も何だか嬉しくなってきた。
「そうそう、そうじゃ、その頃から。おまえさんは旨そうでなぁ、食欲を抑えるのに苦労したんじゃ」
ここまでの話しで分かる人間は分かるかもしれないが、マンイーターという老人は食人嗜好を持っていた。

 
 

「爺さん、食い気がすぎるよ」
リヒトは躊躇いなく拳銃を連射するが、マンイーターは恐ろしいほどの速さで闇に溶け込む。良くないな。光が足りなさ過ぎてゴーストムーブは使えないから左目頼りかと思い、左目をつぶり周囲を見渡すと、血塗れのバレリーナと巨大なカマキリが見えた。
バレリーナはイーシャだとしてカマキリはマンイーターかそう思い、リヒトはナイフを抜いて、闇から襲い掛かってくるマンイーターの一撃を躱しながら、カウンターでかする程度だが一太刀を入れた。
「良い才能だな」
マンイーターは再び闇に溶け込むが、その瞬間、血塗れのバレリーナが襲い掛かってくる。リストブレードを最大まで伸ばし、リヒトめがけて突いてくるが、リヒトは躱しながらイーシャの頭部を掴み、押し倒しながら、リストブレードを撃ちだす準備を整える。
「あら?」
「姐さん、手抜きすぎ」
リヒトは呆れた表情で、イーシャの頭を掴む手を離す。
別に抜け駆けで聖杯を手に入れようとしたり、勝手に“ギフト”を盗む行為はプロメテウス機関にとっては悪ではない。ただまぁ、プロメテウス機関にその後、狙われたりする人生が待っているだけで機関自体は禁止していない。
イーシャほどの腕前なら、聖杯を手に入れれば、一生プロメテウス機関の追跡から逃れることは出来るが、リスクが大きいのも事実だ。
イーシャもちょっと魔が差したという所だろうとリヒトは思うことにした。
「けっこう本気だったんだけど、リヒトが来るまでは」
「それよりも僕と限りある人生を楽しむ方が気持ち良いと思うけどなぁ」
そう言ってリヒトは、イーシャの唇に軽くキスをした。
「おい、なんじゃ、良い雰囲気か、ワシ、邪魔か!」
闇にまぎれていたマンイーターが姿を現す。
「契約は終了。状況的に理解してよ」
イーシャは両手を上げる。
「そうみたいじゃなぁ、まぁ大学生を美味しく食うのも悪くないかの」
マンイーターは中華包丁を片手に言う。
「変態が多いと大変だ」
リヒトは肩にかけていたカービンを手に持つと、周囲を見渡す。周囲には黒フードの一団。今では夜警隊と正体が割れている集団がいた。
「じゃ、それぞれ勝手に。とにかく目的のものに先にタッチした人間が勝ちで、遅れた奴は文句を言わない。お爺さんも姐さんも、それでオッケー?」
文句なし!その返事が聞こえると同時にフードの一団が発砲するが、リヒトたちは問題なしに銃弾を避けながら、リヒトは自分の弾だけを当てていく。
イーシャは暗闇に紛れる蛇のように近付き、リストブレードで夜警隊を始末していく。圧巻だったのはマンイーターの爺さんだった。包丁で軽く銃弾を弾くと、そのまま相手に近寄り、包丁で首をはね飛ばし、頭の肉を生で食いながら、別の夜警隊に襲い掛かっていた。
「こえぇ」
「昔はもっとヤバかったらしいけど。若さが欲しいから、聖杯が欲しかったみたい」
若い時はもっとヤバいとなると関わりたくないなと、リヒトは思った。多分すぐに美味しく腹の中に入れられてしまうような気がした。
「まっずー!まずまずまっずー!」
マンイーターは人間を包丁で叩き斬り、ついでにその肉を口に入れながら、そんな風に叫ぶ。
「あの爺さん何歳?」
「70は超えているそうよ」
怪物だな、本物の。そう思いながらリヒトは夜警隊を片づけつつ、図書館の奥。目的のものがありそうな場所を探す。夜警隊の人間はそれほど夜目が利くわけではないのか、リヒトたちを探しあぐねている様子に、リヒトは見えた。
だが、その瞬間だった、右側から突然の蹴りがリヒトを襲う。間違いなくイーシャだと思った。
「くそ」
リヒトはカービンを撃ち、夜警隊を撃ち殺しながら、イーシャを追う。
「ゴーストムーブがマトモに使えないと、そこまで怖くないね、リヒト」
くそ、ほとんど弱点を読まれているとリヒトは思った。ゴーストムーブに関しては暗闇が絶対的な弱点であること、そして、右側からの不意打ちに対処できないことをイーシャは知っている。

 
 

教えたつもりはないし、僕に“ギフト”を用意した研究員にも喋るなと言った。おそらく自分が過剰に、右側をかばうような動きをしているのと暗闇になりそうなミッションを避けているので、悟られたのだとリヒトは考えた。
あんまり姐さんとは喧嘩したくないんだけどなぁ、とりあえず銃撃は無しだし、刃物で斬りつけるのも無し腹とか胸を殴るのも抵抗あるし顔などもってのほかだ。
どうすっかなぁとリヒトが思っていると、夜警隊の一人がフードが脱げているのにも関わらず、鈍器を持ってリヒトに突っ込んでくる。その顔は明らかに女性だったが、リヒトは拳銃で即座に、殺害する。
リヒトは女性に暴力を振るうのが出来ないのではなく、“気に入っている女性”に暴力を振るうのが嫌なだけだった。
「うっとうしい」
リヒトはそう言うと、夜警隊の死体をわざと踏んで、走り出す。イーシャにこちらを殺害する意図は無いようだが、マンイーターの爺さんはどうにかしないといけないとリヒトは思うのだった。
リヒトが走っていると、暗闇から牛刀が何本も飛来してくる。そっちは大学生だけ食ってろよ。リヒトはそう思いながら、カービンを右手一本で連射しながら、近寄ってくる夜警隊は拳銃で撃ち殺していた。
「ミーちゃん。地下行けそうな所、そっちからわかんない?」
リヒトは、弾切れとなったカービンと拳銃を物陰に隠れながらリロードしつつ言う。しかし、そのタイミングでイーシャが襲ってくる。
イーシャはリストブレードを伸ばしながら、闇の中からリヒトに襲い掛かると、その首脇にリストブレードを突き立てる。殺そうと思えば、殺せた。しかし、そうせずイーシャは優しい顔で言う。
「別に独占しようってわけじゃないんだから。聖杯を使って二人で一緒に永遠を生きようよ?」
イーシャは顔を近づけながら、リヒトに言う。対してリヒトはその唇をキスでふさぎ、すぐに離すと否定の言葉を述べる。
「僕はこの身体で、その身体の姐さんを愛でるのが大好きだから、遠慮したいね」
そう、イーシャはそう言うとリヒトの唇を奪い、リストブレードを戻し、闇の中に消える。
女心は難しい。そう思いながら、リヒトは左右から襲ってくる夜警隊を右手のカービンと左手の拳銃で撃ち殺す。
「もういいよ、ミーちゃん。図書館の電気を復旧して」
こちらは夜目が利くので問題なく見えていたため、夜警隊に対して視覚的には圧倒的なアドバンテージを有していたが。それが無くなるが、イーシャやマンイーターの爺さんに不意を突かれないためには、そちらの方がいいとリヒトは判断した。
すぐに図書館内の照明が点灯され、図書館内が明るくなると同時にリヒトは走り出し、捨てたアサルトライフルを拾いあげ、夜警隊を撃ちながら、図書館内にあると考えられる秘密の部屋への道を探すのだった。
「小僧っ!」
マンイーターの爺さんが図書館の二階から飛び降りながら、襲い掛かってくる。一体、何歳だよ。そんなことを思いながら、リヒトは落下してくるマンイーターにアサルトライフルを連射するが。着ている服が特別なのか、ダメージを与えられている感が全くなかった。
「食わせろ」
マンイーターの中華包丁がリヒトを襲うが、刃がリヒトに触れようとした瞬間にリヒトは霞のように姿を消し、マンイーターの背後に突如現れると、マンイーターの頭部に全力の蹴りを叩きこんだ。
マンイーターは声をあげることもなく崩れ落ちるが、リヒトはそれをゆっくりと見届けている余裕はなかった。明かりが戻ったことで夜警隊も銃を使い始めていたからである。
「全部、クソジジイのせいだな」
そう思いながら、リヒトは霞のように消えながら、銃弾の雨の中を走る。そんな時、ミリアムから連絡が入る。
「一度三回まで上って、屋上に出る。屋上から別のドアを使って、三階にもう一度入って二階に降りると地下へ行く階段がある場所が隠されているフロアみたい」
サンクス、マイシスター。リヒトは返事をしている余裕が無かったので、心のなかでそう思いながら、夜警隊を撃ち殺し、蹴り殺しながら、二階へ上り、更に三回まで登り、屋上へと出る。その瞬間、リヒトは胸に鈍い痛みを感じた。

 
 

ここに来るまでに排除していなかった夜警隊が屋外でアサルトライフルにスコープを装備したもので屋上へ出てくる者を狙い撃ちしていた。突然すぎて、ゴーストムーブの発動準備をしていなかった。
明らかにミスだが、リヒトの着ている服はプロメテウス機関特製の最高の防弾コートなので、痛みは感じるが絶対に貫通しないという安心感はあった。
リヒトは即座に反撃、狙撃してきた夜警隊を逆に狙撃しながら、屋上を進んでいた時だった。不意に物陰から人が現れ刃でリヒトのわき腹を刺そうする。しかし、刃はリヒトに届かない。刃が触れる瞬間、リヒトは霞のように消えたからだ。
「ゴーストムーブ……」
「イエス!」
リヒトは離れた距離から、アサルトライフルを連射する。自分を刺そうとしたのはイーシャだった。イーシャは腕を盾にするように構えると、銃弾をそのまま受ける。
イーシャのパンツスーツも特殊な防弾繊維が使われた特注品だ。並の銃では絶対に貫通しない上、衝撃もほぼ軽減できる。自分のコートは特殊機能を入れたせいで耐衝撃性能が劣っているが、イーシャの服は衝撃に関しても防御性能は高い。
リヒトはアサルトライフルを捨てると、胸元に右手を突っ込み、巨大なリボルバーを抜き放つ。全長40cm近く、重量は2kgを超える。口径は50口径。
リヒトはそんなバケモノじみた拳銃を躊躇いなく、イーシャに向けて撃った。確証はないが、イーシャなら大丈夫だろうと、装弾数五発全てをイーシャに向けて撃つ。四発目までイーシャは耐えたが、五発目になってイーシャが吹き飛ぶ。
しかし、吹き飛ばされたイーシャは華麗に受け身を取り、リヒトの視界から逃れる。うん、全然、余裕そうだ。そう思いながら、リヒトはリボルバーに弾丸を装填しながら、別のドアから再び三階に入ると、突然、ナイフがリヒトの目の前の壁に突き刺さる。
「ジジイ、死んでろよ!」
リヒトはそう言いながら、自分とイーシャが戦っている最中に先回りをしていたマンイーターに向かって叫ぶ。
マンイータは左手に中華包丁、右手にクレーバーナイフ――全長50cmはある肉を骨ごと叩き斬る包丁を手に立っていた。
リヒトも全長40cmの拳銃を持っているので何とも言えないが、そんな包丁を携帯している時点で頭がおかしいとしか思えなかった。現実的な視点で言えば、リヒトの方がおかしいのだが。
リヒトの使ったリボルバーは西暦に市販された当時、使用者の健康や安全に責任は持てませんと注意書きされた上で発売されたもので、屈強な男性でも連射すれば、手が痺れ、数日間マトモに字が書けなくなるようなシロモノであったがリヒトは何の問題も無かった。
リヒトは左手にとりあえず持っていた拳銃をホルスターに収めると、リボルバーを左手に持ち替え、背中に紐で斜め掛けしていたカービンを右手に持つと、その先端に銃剣を装着する。
とりあえず最大火力。それで老い先短いジジイの人生を縮めてやる。リヒトが、そう思った瞬間、マンイーターが動く。
老人とは思えない。それどころか人間とは思えない速度で、リヒトに襲い掛かるが、リヒトはイーシャの時と同様、霞のように消え、マンイーターの背後に突然現れると、左手のリボルバーを撃つ。
しかし、マンイーターは超人的な反応速度でリヒトの動きに追いつき、銃弾を紙一重で躱しながら、右手の巨大なナイフを振るう。だが、リヒトは当然のように消え、マンイーターの斜め後ろに立つと、カービンの銃剣を突き刺そうとするが、マンイーターは速かった。
即座にリヒトに追いつき、銃剣に対し中華包丁を振り下ろすと、銃剣を叩き折り、もう一本のナイフでリヒトの首を狙う。しかし、その刃はやはり届かず、リヒトは再び、マンイーターの斜め後ろ、至近距離に現れると、その肩に左手のリボルバーを撃つ。
凄まじい威力の銃は直撃すると老人の左腕を千切り飛ばす。傷を追ってもマンイーターは奇妙な声を漏らしながら、叫ぶでもなく、獣のような速さで逃げるだけだった。

 
 

「関わりたくねぇ……」
リヒトはそう言いながら、とにかく先を急ぐことにした。結局、共闘という感じで話しが進むと思ったが、そう上手くいかなかった。まぁ、そんなもんだろうという思いもあるので気にはしなかった。
プロメテウスPMCに関しては違うが、秘密結社であるプロメテウス機関は基本的に味方同士の出し抜き合いは許可というか黙認している。オジサンが、そっちの方が能率が上がるだろうという考えだからだ。
なので、プロメテウス機関のメンバーが自分用に“ギフト”を隠し持っていることは多い。自分のように、持っていることを公言している人間の方が機関では珍しいくらいだ。まぁ、勝手をしてもいいのがプロメテウス機関だが、勝手にも限度がある。
限度を超えると。父さんが殺しに行くというのがだいたいのパターンだ。今回の聖杯を私物化しようとしている姐さんの行動も限度を超えている。バレたら、父さんが出てくる。そして、だいたい殺して終わりだ。
姐さんがそうなるのは、ちょっと嫌かも、そう思いリヒトは、二階へ降り、地下へと向かう通路を発見する。
リヒトは、とりあえず自分が一番先だということ確信しながら、背後を警戒しつつ、地下へと一気に進んでいく。
リヒトが降りたった地下は、一種異様な雰囲気だった。岩石を綺麗にくりぬいた壁、昔に連れて行ってもらった鍾乳洞に似た雰囲気だった。
リヒトはミリアムに通信し、安全なルートを出してもらおうと思ったが、それは無理だった。
「通信圏外か……今時、そんな場所あるんだなぁ」
リヒトは変なところに感心しながら、左目を閉じ、周囲に人間がいるかイメージ探索を行うことにしたが、人のイメージは一つも見えなかった。大丈夫か。リヒトは僅かに警戒を解き歩きはじめる。
歩き続けていると、部屋のような場所に出る。そこにはユウキ・クラインの写真や過去の夜警隊の写真、そして夜警隊の過去の活動が新聞に掲載されていた時の活躍の記事が切り抜かれて壁に貼られていた。
リヒトは、部屋に何かユウキ・クラインの足跡に関してのヒントになりそうなものを探していると、妙に頑丈そうなケースが見つかった。鍵がかかっていたので、リヒトはピックを使い、ケースを開けると、手帳と古いリボルバーが入っていた。
「手帳は……」
ユウキ・クラインのニューヨーク大学在籍時の日誌みたいなものだと、リヒトは理解した。そしてリボルバーはピースメーカーの通称で呼ばれる銃だと思い出した。よく手入れしてあり、実際に使用したと分かるような何かが、この銃には宿っていた。
「ユウキ・クラインの銃か」
リヒトとりあえず、二つを背中にかけているボディバッグの中にしまうのだった。
とりあえずこの場所は休憩所ということで、そこまで重要そうなものはなさそうだと思い、リヒトは更に奥へと進む。
ニューヨークの地下にこんな場所があったというのがリヒトは、想像できず、おそらくこういう形に形成された場所なのだろうなと思い、歩いていくと、想像以上のものを目の当たりにするのだった。それは、巨大なドーム上の空間。
リヒトはドームの中心を見るとそこには目当てのものがあった。
巨大な羽クジラの化石である。リヒトはゆっくりと、そこまで歩いていく、不意にそれを咎める声がした。
「やめなさい!」
リヒトが振り返ると、そこにはフードを被った人間がいた。声からして、おそらく男だろうとリヒトは予測する。
「それは、我々のシンボルです。無暗に手を触れることは許しません!」
シンボルねぇ……。さっきのユウキ・クラインの手帳には最初のほうに「私は偶像を求めない。人を幸福へと導くのは、人の行動だ」ってはっきり書いていた人間がシンボルなんかを作るのかどうか、リヒトには疑問だった。
「まぁ、どうでもいいんだけどさ、アンタら普通の大学生でしょ?なにやっての」
リヒトはシンボルと男がいう物に伸ばした手をひっこめると、疑問に思っていたことを尋ねた。
「確かに私たちは、ただの大学生ですが、この世にはびこる悪を見逃せないのです。しかし、力がなかった。だが、ある日、あの方が現れ、このシンボルと戦うための武器を我々に授けてくれたのです!」
随分とハイなやつだが、多分夜警隊のリーダーか何かかとリヒトは思い。その発言の中に無視できないものがあるのを聞きとった。
「アンタたちに化石を渡した人間がいるってことか」
そりゃぜひとも詳しく、お話しをうかがいたいねぇと思った瞬間だった。フードの男の首がすっ飛んでいった。崩れ落ちた男の死体の後ろには巨大なナイフを持つマンイーターが立っていた。

 
 

「なんじゃ、聖杯はなさそうじゃな」
左腕が無くなっても、この老人はピンピンとしていた。
「まぁ、化石があるならそれを貰っていくとするかの」
おいおいと思いながら、リヒトはカービンの銃口をマンイーターに向ける。
「邪魔する気か、小僧」
「そっちこそ、僕の邪魔してるって自覚を持てよ」
二人は向かい合い、今にも戦闘を始めそうな様相を呈していたが、突如、それは崩れる。なぜなら、急にドームが崩壊を始めたからだ。
「聖杯が無くても、聖杯のデータが入っている化石かもしれないから、私が貰っておくわ。リヒト!」
ここで、姐さんかよ。崩れるドームの天井からイーシャのMSの姿が僅かに見えた。
「アテネ、来い」
(了解です)
リヒトはジェネシスガンダムを呼び出し、そのコックピット内へと転送される。ジェネシスガンダムはニューヨークの市街地のど真ん中に着地すると、目の前にはイーシャの機体があった。
クノオロチ。血のように赤いMS、女性的なラインを持ちながら、その背中には、巨大な尾を持つ大蛇の系譜のMS。勿論、プロメテウス機関製の高性能機だ。
「ガチで戦闘やるなら、手加減は出来ないかもしれないぜ」
「どうぞ」
そうイーシャが言った瞬間、クノオロチの尻尾が伸び、ジェネシスガンダムに襲い掛かる。
「アテネ、俺の剣だ」
そうリヒトが言うと、ジェネシスガンダムの手に鍔の無い大剣が現れ、ジェネシスガンダムはそれを振るい、尻尾を弾くが弾いた尻尾は執拗にジェネシスガンダムに襲い掛かる。
大剣を盾のように構え、尻尾の一撃を防ぐ、ジェネシスガンダムに対し、イーシャのクノオロチは静かに、しかし、素早くジェネシスガンダムに近づくと、生身の時と同じようにリストブレードを伸ばしジェネシスガンダムを突き刺そうとする。
違ったのはその刃がビームであることである。あぶねぇな。リヒトはジェネシスガンダムの頭部だけを動かしリストブレード回避すると前蹴りを放つが、クノオロチは、驚異的な身軽さで、その脚に乗りながら、ジェネシスガンダムの顔面に蹴りを叩き込む。
視界が揺れ、メインカメラの位置が定まらなくなる。その隙に、クノオロチは跳躍しながら両足のつま先からビームサーベルを出力させると、機体を降下させながら尻尾と同時攻撃をジェネシスガンダムに叩き込む。
対してジェネシスガンダムは上方からの攻撃に対し、大剣を右手だけで持ちながら、クノオロチの尻尾を弾く。
そして、左腕からビームトンファーを出力させ、クノオロチの足のサーベルの一本を弾き、更に右腕のビームトンファーを出力させると、もう一本の足サーベルも大剣を握ったまま拳を突き出すようにして弾く。
だが、その勢いを利用して、イーシャのクノオロチがジェネシスガンダムの背後に飛び降り、両手のリストブレードを伸ばす。
決まるだろう、そうイーシャが思った瞬間、ジェネシスガンダムは霞のように消え、クノオロチの前方に突如現れ、大剣を逆手に持ち替え、全力で投げつける。
「ゴーストムーブ!?」
イーシャはしくじったことを理解し、クノオロチの尻尾で大剣を弾くが、その隙に、ジェネシスガンダムは距離を詰め、両腕からビームトンファーを出力させていた。
「どうだ」
ジェネシスガンダムが、振るうビームトンファーに対してクノオロチは機体大きくのけぞらせ、回避し追撃の刃も、背後にひねりこみを加えた宙返りすることで全て躱し、ジェネシスガンダムに対して間合いを開ける。
恐るべき、身の軽さの機体だと思ったが、お互い本気で殺し合いをしているわけでもない。もう終わりにするのが、無難だとリヒトは思い、言葉を発する。

 
 

「落ちろ、四神剣」
そうリヒトが言った瞬間、クノオロチが確かに弾いたはずのジェネシスガンダムの大剣が凄まじい速度で落下し、クノオロチの尻尾を断ち切り、地面に突き刺さる。
何がとイーシャが背後を確認しようとした瞬間には、大剣は地面から消え、ジェネシスガンダムの手に再び現れる。
「それはまた、良く分からない武器を」
イーシャは苦笑いを浮かべながら、そろそろ限界かと思った。これ以上戦ってもいいことはないだろうと思い、言う。
「降参。私は消えるから」
そう言うと、イーシャのクノオロチは尻尾を持ち、その場を去るのだった。リヒトもすぐに機体から降りると、アテネに命令する。
「ニューヨークからだいぶ離れてくれ、軍が追ってくるから、厳しいかもしれないけど、頼む」
(了解しました)
リヒトは飛び立つジェネシスガンダムを見届け、すぐに図書館地下のドームの中に戻るが、そこには既に化石はなかった。状況的にイーシャには不可能。つまりはマンイーターのジジイが持っていったということだろうと予想し、リヒトはしてやられたと思うのだった。
「あの、ジジイ」
腕がないうえ、輸送手段がないだろうと高を括っていたせいで、気にもしてなかったが、あのジジイが一番の厄介だったということだ。もはや、リヒトはイラつきに任せ、地面を蹴り飛ばすしかできなかった。

 

リヒトは装備を袋に隠し、くたびれた表情で帰り道を歩いていた。とりあえず、良かったことを考えよう。そう思い、良かったことを思い出そうとしても、バカを殺せて楽しかったです。などというくらいしか思い浮かばなかった。
リヒトが景気の悪い表情で、道を歩いていると、急に黒いスポーツカーがリヒトの隣に来て、そのまま、歩くリヒトの脇を徐行運転で進む。
リヒトがなんだ?と思う。場合によっては問答無用で殺すが、コイツ覚悟できてんのかと、リヒトは、すぐに武器を用いる準備が出来ていた。そんなリヒトに対して黒いスポーツカーは、何も気にせず、窓を下ろす。そして車の中から声がした。
「ハーイ、リヒトー♪」
リヒトが車の中を覗くと、運転席にはイーシャが座っていた。リヒトは大きくため息をつくと、イーシャの車に乗る。助手席に座ると、リヒトは言う。
「僕じゃなきゃ、ぶっ殺されてても文句言えない場面だからね」
「まぁまぁ、いいじゃない。こっちもジジイに出し抜かれてイラついてるんだから仲良くしましょうよ」
なんだ、そっちもかとリヒトは思った。結局は、あのクソジジイの一人勝ちというわけか、これは面白くないな、あのジジイはとりあえず殺そうとリヒトは思うのだった。
「どうしても怒りが収まらないって言うんだったら、なんでも言うこと聞いてあげるから、それで勘弁して?」

 
 

なんでもかぁ。とりあえず暴力に関する欲望は満たされてるんだよなぁ。あとは食欲と性欲くらいか。
「じゃあ、メシ食って、セッ○スしたい」
とりあえず腹が減っているので夜食。そしたらホテルでもモーテルでも、野外でもオッケーだが、欲望を放出したい。
リヒトがそう言うと、イーシャはウンウンと頷くと喜んで車を運転するのだった。
とりあえず、二人はロブスターをアホみたいに食い。支払いは全てイーシャ。その後、イーシャの車でモーテルまで行くと、受付に宿泊ということで支払いをして鍵を受け取り、部屋に入るなり、リヒトはイーシャをベッドにつき飛ばした。
「僕も怒っていないわけではないので、ちょっと乱暴に、まぁそれで許すということで」
イーシャは乱暴にされるという言葉に若干ワクワクした表情を浮かべていた。
どうしようもねぇな、この女と思いながら、リヒトはイーシャの服を布地が痛むなど気にせず、無理矢理脱がし、裸にすると、身体を縛ったり、目隠しに、猿ぐつわなど、の道具を使いつつも、イーシャの穴という穴に怒りと欲望を全て吐き出した。
意外だったのは、未開発だった穴があったことで、そこに色々と突っ込んだ際は死にそうな声をあげていた。だが、最終的に暴力的な行為でも悦びの声をあげていた。
七回ほど、何の回数かは不明だが、とにかく七回分、たっぷり時間をかけてイーシャを苛め抜いて、とりあえずの満足を得たリヒトは外が明るくなっていることに気づいた。
ベッドの上で意識朦朧といった様子の、男女の体液で全身を汚したイーシャをそのままに、自分だけ勝手に帰ることにした。イーシャの車のカギは迷惑料ということで頂いていくことにした。
リヒトはイーシャの車を運転しながら、とりあえず今回の収穫は、ユウキ・クラインの日誌とユウキ・クラインの銃、そしてイーシャの身体を思う存分弄べたことくらいかと思い、最終的には悪くはないかと思い、レイノルズ宅に帰るのだった。

 

C.E.2XX――本当に色々と適当な人間だったなと、エルヴィオはリヒトのことを思い出す。面倒がかけられたことも一度や二度では済まないし、その息子たちや孫たちも常に面倒をかけ続けてくる。
実際、エルヴィオの家にはグレン家の人間、つまりはリヒトの子孫が何故か現在、複数に膨れ上がり滞在していた。
「お前らは他に行くあてがないのか?」
エルヴィオはそう言ったのだが、全員がしれっとした表情で、「無い」と答えて居座っている始末だ。
ホントにこの一族はいつになったら真っ当になるのか、エルヴィオはそれだけが心配でならなかったが、とりあえず筆を進めることにした。

 
 

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