Lnamaria-IF_第06話

Last-modified: 2013-10-28 (月) 02:17:49

 ユニウスセブンの破片は、大気圏突入の際の熱、そして途中までとはいえインパルスに打ち込まれたメテオブレイカーの影響で脆くなっていた。
ミネルバのタンホイザーに耐えきれず、砕かれていく。それは多くの人の命を助けることになるだろう。
しかし近くにいたルナマリア達は助かるどころか、次々と降ってくる岩の破片に手を焼く事になった。

「もう、少しは撃つのを待ってくれたってよかったのに!」
「命令を無視したのは……こっちさ……」

答えるシンの声は弱々しい。ジンHの自爆は装甲自体にはダメージを与えていないが、相当な衝撃をコックピット内に伝え、未だ治っていないシンの怪我を悪化させていた。
その上、モビルスーツ単体での大気圏突入という荒技もまた、彼に大きな負担を掛けている。
ルナマリアとしては本当に大丈夫なのか聞きたかったが、シンの性格からすればそういう言葉を言われるのは好まないだろう。何より聞いたところで、大丈夫だと言い張るに違いない。
だからその気持ちを押し殺し、無事に大気圏突入することに専念する。

「シン、どうすればいい!?」
「突入角度を……15°ほど上に。後は、廃熱システムが大丈夫かどうか確認していればいい……づっ!」
「シンッ!」
「気にすんな……」

そう言うシンの額には汗がにじんでいる。これで大丈夫だと判断する人間はまずいない。
ルナマリアにできるのはたった一つ、出来る限り上手く突入しシンの苦痛を和らげる事だけ……
そこで突然、シンの顔がモニターの右端を見つめて言った。

「おい、ルナ、あれ……」
「あ、アスランさんの!?」

つられて見たルナマリアは驚きの声を上げる。その先には左腕ごとシールドを失ったアスランのザクがいた。
ギリギリでサトーの自爆の爆風を防いだアスランだったが、インパルスの様な装甲がないザクでは完全に防ぎきることができなかったのだ。
シンは小さいながらも、はっきりとした声で言った。

「ルナ……インパルスをあっちに」
「……助けるのね?」

ルナマリアの問いに、シンは小さく肯いた。目の前で人が死ぬのはもう御免だ。
それを確認して、ルナマリアはペダルを強く踏み込む。フォースインパルスはブースターを吹かし、ザクへと向かいだした。

「インパルスの半分以上の大きさの破片は避けるか……破壊して、それより小さい破片は……」
「VPS装甲があるから大丈夫、ね?」
「……ああ」

もはやシンは喋っているだけで辛そうだ。それでもサポートしようとするあたり、どうしてここまで他人の死を恐れるんだろう―――
ルナマリアは不思議だったが、今はそんな事を気にしている場合ではない。

「シン、アスランさんとの通信は私がするわ。インパルスの計器はシンの方が詳しいでしょ、チェックお願い」
「……」

たまりかねてルナマリアが言った言葉にシンは渋々、と言った顔で肯いた。
姿勢制御などはルナマリアが行うのだから実質これは「休んでいろ」と言ったのに等しい。もっともそのつもりで彼女は言ったのだが。
シンの表情にため息を吐きつつ、ルナマリアはアスラン機に通信を繋いだ。

「アスランさん。ご無事ですか?」
『ちょっ……まずいか……も何とかしてみせ……』

途切れ途切れなザクからの通信に、ルナマリアは危機感を募らせた。
確かに大気圏突入時は通信が阻害されるが、ここまでにはならない。つまり、ザクはそこまで損傷を受けている。

「シン、どうする?」

おそらくシンも同じ事を考えたんのだろう、考え込む素振りを見せていた。
ルナマリアとしてはあまりシンに負担を掛けたくないが……悔しいことに、自分だけではいい案が思い浮かばない。
しばらくして、シンは口を開いた。

「シールドを……渡してやれ。その後こっちが先に突入して……ザクを、地面にぶつかる前に捕まえる」
「え、ええ!? そんな事して大丈夫なの?」
「フォースインパルスなら……な」

そっちじゃないわよ……そうルナマリアは心の中で呟いた。
シールドを渡せば、大気との摩擦を直接機体が受けるため自然に姿勢は不安定になり。
先に突入しようとスピードを上げれば……やはりインパルスは大気に揺さぶられる。
そして強烈なスピードで落ちてくるザクを捕まえれば、その際に強い衝撃を受ける。
それらは全て、シンの怪我を確実に悪化させる。
しかし……かといってこのままでは、確実にアスランは死ぬだろう。
二人とも無事に帰らせるには、方法はただ一つだ。

「私が上手くやるしかないわね……」

ルナマリアは覚悟を決めてインパルスのシールドを手渡し、機体を地球へ向ける。
アスランの心配する声が聞こえたが、ルナマリアは無視した……というより、聞く余裕がない。
できるだけ機体を前傾姿勢にし、機体が受ける摩擦を減らす。

「自動制御じゃ駄目だわ、手動でしないと。シン、角度は?……シン!?」

返事がない事に慌てたルナマリアは後ろを振りむきかけて、慌てて顔を戻した。
少しでも注意を逸らせば、姿勢はあっという間に崩れる。ともかく、無事に投入するのが先だ。
はやる気持ちを押さえつけてペダルやレバーの微妙な調節を行っていると、突然摩擦が消え、視界が蒼く染まった。大気圏への突入が完了したのだ。

「後はザクのキャッチね……上手くやらないと」

落ちてくるザクを止まって受け止めれば、相当な衝撃を受けることになってしまう。今のシンがそれに耐えきれるとは思えない。
スピードを少しだけ減速させ、共に落下しながらザクを受け止め、その後減速する。それが一番衝撃を減らせる方法だ。

「よし……!」

レーダーに反応、アスラン機は無事に突入できたらしい。
もっとも貸したシールドでカバーできなかった両足は吹き飛んでいるし、シールドも飛んでいっているので、これを無事といえるかは疑わしいが。
多少減速しながら方向をアスランのザクに合わせる。レーダーが示す距離の数値が、少しずつ小さくなっていく。
そして、衝撃。

「っ……っと。ご無事ですか、アスランさん」
『ああ……すまない』

ボロボロになった分機体が軽くなっているからか、予想より衝撃は小さかった。後は減速するだけだ。
フォースの出力なら、地面もしくは海面に叩き付けられる事は避けられる。やっと安堵したルナマリアは、後ろを振り返った。

「大丈夫だよね……シン……」

見る限り息はしている様だが、意識は無い。
ノーマルスーツを脱がして何か処置をすべきなのだろうが、操縦しながらそんな事ができるほど彼女は器用ではない。
一刻も早くミネルバに戻るしかない―――そう思って顔を戻したルナマリアは、レーダーを見て息を呑んだ。
異変に気付いたのだろう、アスラン機から接触通信が届く。

『どうした? 何かあったのか?』
「ミネルバと……はぐれちゃったみたいです。代わりに……オーブのモビルスーツが」
『……何!?』

メインカメラが死んでいるアスランのザクでは見えなかったが……フォースインパルスのモニターにははっきり、
オーブの大地、そして銃を向けるこの国の正式採用機・M1アストレイが映っていた。
そう、ここはオーブ領土の、ちょうど真上だった。

『ザフト軍モビルスーツに告ぐ。貴殿はオーブ連合首長国の領空を侵犯している。いったんそこで止まりたまえ』

重々しい声で警告が入る。あまりにいきなりな警告に戸惑いながらも、ルナマリアは反論した。

「で、でも、怪我人がいるんです! それに母艦も見つからなくて、早くしないと!」
『……分かった。ともかくそこで待機していたまえ、今上層部が対応を検討している』
「だから、そんな時間の余裕はっ!」

あまりにものらりくらりとした対応に、ルナマリアは瞬間沸騰しかけた。だがその瞬間、ザクから鋭い声が走る。

『聞こえているか、オーブ軍! こちらはアレックス・ディノ!』
『あ、アレックス……だと!?』

既にザクの通信機は故障しているため、インパルスの通信機越しにアスランはオーブ軍に通信を入れた。
インパルスとは接触通信で繋がっているため、アスランのはっきりとした声は明瞭に響く。
相手が驚きの声を上げるのも構わずアスランは続ける。

『この機体はユニウスセブン破砕に参加した機体だ! カガリ・ユラ・アスハ代表も出来るだけ手厚い世話をするように、とおっしゃっていた。
 もしむざむざ死なせるような事があれば、代表はお怒りになるだろう。そこを考慮した対応を願う!』
『りょ、了解した! 今上層部にそう伝える!』

そう言うやいなや、M1は銃を下ろした。その後はあっという間である。
あっさりと許可が下り、フォースインパルスは軍施設に着陸を許される事となった。
ため息を吐いたルナマリアは、アスランに質問をした。

「アスランさん、さっきのって……」
『嘘に決まっているだろう。こういう時に後先考えずに動いてしまう悪い癖があって、いつも後悔してる』

アスランの言葉には、どこか自嘲する様子がある。
ルナマリアはふと思った。アスランは意外と、シンと似た性格なのかもしれないと。

 インパルスが降り立つと、すぐに兵士がシンを医務室に搬送しルナマリアには一室があてがわれた。
テレビもベッドもあり、あまり不自由はしない。名目上の監視としてアスランもいるため、退屈もしそうには無い。

「シンは大丈夫だと思います?」
「多分な。医者の話だと二、三日眠っていれば大丈夫だそうだ。まぁ当分はモビルスーツに乗るべきではないだろうな」
「……そうですか」

ルナマリアはほっとしたような声を出した。シンが望んだ事とは言え、命令を無視してユニウスセブンにインパルスを残らせたのは彼女だ。
再びため息を吐いたルナマリアだったが、その瞬間いきなり扉が開く音がした。
見ると、青紫の髪をした長身の優男が立っている。ルナマリアが反応するより先に、アスランが声を上げた。

「こんな所に何の用だ、ユウナ」
「何の用だとはつれないねぇ~、アレックス。
 よりにもよってザフトがこの国にやってくるんだ、けっこうこっちは困ってるのさ。で、僕が直々に来ることとなったわけだ」

傍目に見ていても、この二人の仲はいいとは思えない口調だ。事情を知らないルナマリアも、黙っているのが賢明だと悟った。

「よりにもよって、とかやって『くる』、とはどういう意味だ?」
「おや、テレビを見てなかったのかい?そうだね、まずは2chだ」

眉をつり上げながらも、アスランはテレビの電源を付けた。
その途端に映ったのは―――ジンと戦うダガーLの姿『だけ』。

『……ブンにはフレアモーターが設置されており、また現場に急行した部隊がザフト軍で使用されているモビルスーツを確認しています。
 連合各国はプラントに対し厳重な対応を求める方針で……』
「インパルスやザクが……映ってない!?」
「馬鹿な、なんだこれは! まるでザフトがこれを落としたようじゃないか!」

ルナマリアやアスランが驚きや怒りをにじませたが、対するユウナは平然としたものだ。

「要するに君たちは―――テロリストも含めて、連合の手の上で踊らされていたのさ。
 これの効果は絶大だ。ほら」

そう言ってユウナはチャンネルを変えていく。アンケートの結果らしき円グラフが映っているチャンネルに変わった所でまた喋りだした。

「オーブでさえこれさ。聞く話では、先の大戦でプラントの味方だった大洋州連合も反プラントの声が大きいとか。
 いやぁ、大西洋連邦の情報操作は見事だねぇ?」

まるでユウナの話し方は下らない世間話をするかのようだった。
しかし、テレビに映る物はまったく下らないでは済まない物―――アンケートに答えたうちの半分以上が、プラントに何らかの制裁を下すべきだと答えたという結果。
今までできるだけ抑えていたアスランも、とうとう立ち上がって大声を出した。

「馬鹿な! 情報操作だと分かっているのならなぜ真実を公表しない!
 大西洋連邦の下らない手に乗る気なのか!?」
「確かに……『ザフトが』落としたのは嘘だ。だけど『コーディネイターが』落としたのは事実なのさ。
 落としたのも現実、被害が出たのも、現実。
 そして、コーディネイター全てが悪だと考えるのは、コーディネイターの一部が悪だと考えるより単純で、簡単なんだよ。
 特に、ユニウスセブンで被害を被った人々には、ね。
 なんで真実を公表しないかって? 地球にいる人全ての非難に耐えきれる自信は無いんでね、僕は。君にはあるのかい?
 オーブでさえ、耐えきれるとは思えないけど?」

ユウナの言葉に、アスランは思わず歯を噛みしめていた。
かなり嫌味に満ちた口調だったが、だからといってその口調に言葉の説得力が失われるわけでもない。
脇で困惑したような表情を見せているルナマリアを一瞥した後、ユウナは後ろを向いた。

「それと、幸いにもカガリは無事に地球に来ていた事を軍は確認したよ。ザフトの艦もね。
 カガリ曰く、手厚い世話をするようになんて言った覚えはないそうだ。
 アレックス、君には後々処罰が下されるからそのつもりで」

嫌味な口調のままユウナは言い放つ。
今にも後ろから殴りかかりそうな目つきでその背中を見つめていたアスランだったが、ユウナが部屋を出ていった所で結局腰を下ろした。
下ろすしか、無かった。

 ユウナが部屋を出た後、沈黙に耐えきれなかったルナマリアは多少ためらいながらも質問した。

「あの……今の人、誰なんですか?」
「ユウマ・ロマ・セイラン。前大戦後新たに五大氏族に昇格したセイラン家の嫡男さ。
 もとが新興企業の社長の一族だからか、ともかく金とか資本の面での発展を優先しがちでね。
 理念を大切にしてるカガリとは対立してる」

ふぅ、とアスランはため息を吐いた。それにつられてか、ルナマリアも暗い顔になる。

「……私達を連合に売り渡したり、しませんよね?」
「ないさ。カガリはそういう事が大ッ嫌いだからな」

アスランはそう言ったものの、ルナマリアの暗い表情は変わらない。
しばらく考え込んだ後、アスランは明るい調子で軽い笑みを浮かべて言った。

「心配するな。シンだったか? 彼が言ってただろ、綺麗事はアスハのお家芸だってさ」

もちろん、ちょっとした冗談なのは言うまでもない。
効果はあったようで、思わずルナマリアも笑みを見せていた。

 ジブリール家が保有する、とある邸宅の一室。そこにジブリールは立っていた。
その部屋には100を越える画像を同時に映し出す特殊端末が設置されており、同じ設備を持つ人間が多数いれば距離に関係なくリアルタイムでの会議すら行う事が可能である。

『ふむ……ひどい有様だ』
『君にも責任の一端はありそうじゃの、ジブリール?』
「何をおっしゃいます。混乱している他企業の者をよそに、あなた方の企業は既に復興作業の権益を確保していると聞きます。
 私のやったことで利益こそ出ても、損害が出ているとは思えませんな?」

ワイングラス片手に、ジブリールは悠然たる様子で言った。
そう―――ユウナの言うとおり、何もかも、この損害すら彼らの手の内。
あらかじめ情報を得ていた彼らは、それを止めることよりもそれを利用する事を選んだ。

「むしろやりすぎなのは皆様の方でしょう。
 大企業が揃ってシェルターの準備をしたり、重要データや機材のバックアップを取ったり……
 いくら情報統制しても、この不自然さはいずれ気付かれるでしょうな?」
『……何が言いたいのかの?』
「なぁに、簡単な話です。
 万一気付かれた場合、おそらくデュランダルは民衆全てが我々を敵視するようにし向けるでしょう。
 奴の動きは早い。今回も既に、甘い言葉を吐きながらなんだかんだと手を出してきていますからね。
 不安材料は消しておくべきです……敵がいなくなってからなら、例え露見したところでいくらでも対応しおうがある」

最後は呟くように言った後、ジブリールは立ち上がって呼びかけた。
 
「開戦許可。それを頂けますかな?」

 ミネルバはオーブの港に入港した。オーブの国家元首を伴っての物である以上、それなりに歓迎を受けるのが当然ではある。しかし……

「予想以上に警戒されてるわね……」
「……すまない、タリア艦長。本来ならミネルバには出来るだけの便宜を図るつもりでいたが、この情勢下では」
「代表が謝る事ではありませんわ」

オーブに入国許可を求めたミネルバだったが、随伴にオーブ艦が付くことになった。
それだけなら好意的なエスコートと見ることもできるが、ミネルバに随伴するオーブ艦の甲板にはモビルスーツがいた。
武器は持っていないが、準備はしているだろう。とても友好的な態度とは言い難い。
何事もなく平和に入港はしたものの、この先もそうなるかは怪しいところだ。
頭を悩ませながらも、今後の動きを話し合うためタリアはカガリを伴ってタラップを降りた。
目の前には宰相ウナト・エマ・セイラン以下官僚達が並んでいる。

「オーブ連合首長国宰相、ウナト・エマ・セイランだ。この度は代表の帰国に尽力いただき感謝する」
「ザフト軍ミネルバ艦長、タリア・グラディスであります。
 不測の事態とはいえアスハ代表にまで多大なご迷惑をおかけし、大変遺憾に思っております。また、この度の災害につきましても、お見舞い申し上げます」
「うむ。まずはゆっくりと休まれよ。
 何かご入り用の物があったら、後ほど言ってくれるとありがたい。できる限り善処する」
「ありがとうございます。それと、こちらに我が部隊のパイロットがいるとのお話ですが」
「その件については後ほど詳しく話を。正確に言えば……そのパイロットの乗っている機体か」
「……了解いたしました」

ウナトの最後の言葉に多少苛立ったものの、タリアは表情を変えずに敬礼した。
その「話」とやらがまともな物では無いことは見え透いていたが、この状況下では従うしかない。
しかし、意外な所から反論が来た。

「どういうつもりだウナト! 私はミネルバをちゃんともてなせと言ったはず!
 入港する時といい、その態度はなんだ!」

そう声を上げたのはカガリである。しかし続きを言う前に、ユウナがカガリとは対照的な静かな声で遮った。

「カガリ、場をわきまえてくれると助かるね。艦長殿がいるんだ」
「ユウナ! しかし!」
「続きは行政府でやろうか。アレックスの処罰も決めなくちゃいけない」
「待て! 確かにアス……アレックスは嘘を言っていたが、私がそう思っていたのは事実だ!」
「だから、それも行政府でだ。艦長、見苦しい所を見せて申し訳ない」
「いえ」

タリアの返事を聞いて、ウナト達官僚は一斉に歩き出した。カガリも渋々ながら従っていく。
タリアは思わず、未来のオーブの姿をそれを重ねていた。

「結局は当分待機、って事ですか? まだミネルバには戻れないんですか」
「らしいな」

廊下を歩きながらアスランとルナマリアは話し込んでいた。
そう連絡を受けた二人は、とりあえずシンにも伝える事にしたのである。
しかし、ルナマリアだけではなくアスランにもこの連絡は疑問だった。
多少引っかかりを感じながらも、アスランは医務室のカード端末にカードキーを入れた。
部屋の中では、シンが身を起こして所在なげにテレビを見ている。

「あ、シン。起きてて大丈夫なの?」
「別に大したことないさ、あれくらい」

ルナマリアの質問に、シンはいつも通りに答えた。
もっとも片腕を固定し、点滴をうっている姿を大したことないと言えるかは疑問である。
ルナマリアはため息を吐きつつ、シンに連絡内容を伝えた。最後に一言付け足して。

「なんで艦に戻れないんだろうね、私達」
「さあな。パイロットを隔離して抵抗できなくして、連合に売り渡すんじゃないか?」
「ちょっと、物騒な事言わないでよ!」

ルナマリアがアスランを気にしながら非難したが、アスランはため息を吐いただけだ。

「俺はちょっと席を外すよ。二人きりの方が何かと話しやすいだろうし……」
「あなたはまた働くんですか?オーブで」
「……何?」
「シン?」

部屋を出ようと後ろを向いたアスランだったが、シンの突然の質問に振り向いた。
ルナマリアの視線にも構わずシンは続ける。

「オーブは力を否定する国だ……少なくともアスハは。
 あなたはそんなに力があるのに、そんな所で何をしてるんです?」
「……何が言いたい?」
「力があるのに使えない、認められない……それじゃあ意味がない、そういう事をです」

そう言うシンの視線は鋭い。シンの言葉の意味同様に―――アスランに返事を躊躇わせる程に。

オロファト、オーブ行政府。その一室では氏族会議が行われていた。
もっとも今回の氏族会議は事前にすり合わせなどの裏工作が行われ、ただ規定事項を通らせるのみの形式化した会議となっていた。
ただし―――唯一、その裏工作の対象となっていなかった者がいたが。

「なんだと!一体何を言ってるんだこんな時に!」
「こんな時だからこそですよ代表。約定の中には無論、被災地への救助、救援も盛り込まれておりますし」

声を張り上げるカガリに、五大氏族の一人、タツキ・マシマが諭すような表情で言った。
もっとも―――その表情はカガリを除くこの部屋の氏族全てが持っていたが。
後を引き継ぐようにウナトが続ける。

「地球が被った被害はそれは酷いものです。今あの画像を見せられ、怒らぬ者などこの地上に居るはずもありません」
「だが……大西洋連邦は明らかに情報操作をしているんだぞ!」
「それも解ってはいます。だが実際に被災した何千万という人々にそれが言えますか?」
「くぅっ……!」

ウナトの表情にカガリは悟った。
既に他の氏族にこの内容に同意するように、裏で工作していたのだと。全員が賛同すれば、いかにアスハ家の力でも抗うのは難しい。
カガリが黙り込んだのを見て、ウナトは静かに告げた。

「さて、大西洋連邦との新たなる同盟条約の締結―――まだご反論がありますかな?」

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