Lnamaria-IF_赤き月の鷹_第17話

Last-modified: 2020-01-29 (水) 08:40:17

クレタ沖の死闘

あたしがミネルバに帰ろうとすると、なぜか出航したと言う。このヘリじゃ追えないし、休暇中と言う事になってる任務がばれる。
あたしはおとなしくミネルバの帰りを待つ事にした。

ミネルバが帰港してから、あたしはいかにもヘリでの飛行を楽しんできたかのように、ミネルバへ帰った。

「ショーン、なんなの? 何があったの? この暗い雰囲気」
「ああ、ルナか。見なくてよかったよ。ロドニアに連合が使ってたらしいラボがあったんだ。連合のエクステンデット、ルナも聞いているだろう。遺伝子操作を忌み嫌う連合、ブルーコスモスが薬やその他の様々な手段を使って作り上げている生きた兵器。戦うためだけの人間……そのラボはその実験、製造施設だったんだ。内乱があったらしくてな。子供の死体がごろごろしてた。レイも体調崩しちまったぐらいだ。ああ、今は復調したみたいだが」
「レイが!? でも、コーディネイターは自然に逆らった間違った存在とか言っておきながら、そう言うのはいいって言うの? 連合は? おかしくない?」
「確かにな。まさに人権蹂躙も極まれりだ。負けられないな。そんな相手には」
「ええ!」
「エクステンデットの実物も一人、保護されてる」
「え? ほんと?」
「ああ、今医務室で寝ているよ。アビスのパイロットだ。アビスも取り戻した」
「ロドニアのラボにいた訳?」
「いや、なんだか知らんがたった一機で来たんだ。施設を破壊する特殊な装備を持っていたかもしれなかったからな、シンとアスランでなんとか爆散させずに取り押さえた」
「よくできたわね。危なくないの?」
「それがなー。やっぱり記憶とか精神とかいじられてるぽいな。
意識を取り戻したら『母さんを守るんだ』とか言って暴れたが、艦長を見ると、『母さん!』とか言って抱きついてな。艦長があやしたら、おとなしくなってな」
「そうなんだ……艦長は今はどこに?」
「艦長室で休んでいるよ」
「ありがと」


「指示されたものです。ご報告が遅れて申し訳ありませんでした」
「いいのよ。騒ぎばかりあって、私もとてもそんな状況じゃなかったもの。悪かったわね、スパイみたいな真似をさせて」
「いえ、艦長もフェイスというお立場ですので。その辺りのことは理解しているつもりです」
「ふふ」
「でもあの……」
「え?」
「できましたら少し質問をお許しいただけますでしょうか?」
「当然の思いよね。いいわよ、答えられるものには答えましょう」
「ありがとうございます。アスラン・ザラが先の戦争終盤ではザフトを脱走し、やはり地球軍を脱走したアークエンジェルと共に両軍と戦ったというのは既に知られている話しです」
「ええそうね。本人もそのことを隠そうとはしないわ」
「しかし、そのことも承知の上でデュランダル議長自らが復隊を認め、フェイスとされたということも聞いています」
「ええ」
「ですが、今回のことは…あの、そんな彼に未だ何かの嫌疑がある、ということなのでしょうか? 私達はフェイスであること、また議長にも特に信任されている方ということでその指示にも従っています。ですがそれがもし……」
「そういうことではないわ、ルナマリア」
「ぇ……」
「貴女がそう思ってしまうのも無理はないけど、今回に関しては目的はおそらくアークエンジェルのことだけよ」
「ぁ……」
「彼が実に真面目で正義感溢れる良い人間だということは私も疑ってないわ。スパイであるとか裏切るとかそういうことはないでしょう。そんなふうには誰も思ってないでしょうし」
「はい! 会話を聞いた限りでは、そんな様子は一向に見られませんでした!」
「でも今のあの、アークエンジェルの方はどうかしらね」
「ぁ……」
「確かに前の大戦の時にはラクス・クラインと共に暴走する両軍と戦って戦争を止めた艦だけど。でも今は?オーブが連合の陣営に入ろうとしたら突然現れて国家元首を攫い、そして先日のあれでしょ?」
「はい」
「何を考えて何をしようとしているのか全く解らない。どうしたって今知りたいのはそれでしょう」
「はい」
「アスランもそう言って艦を離れたのだけれど。でも彼はまだあの艦のクルーのことを信じているわ。オーブのことも。ほんとは戦いたくはないんでしょう」
「ぁぁ……」
「だからそういうことだと思っておいてもらいたいんだけど。いい?」
「ぁはい。でしたら私もあの……」
「とにかくご苦労様。この件はこれで終了よ。いいわね?」
「はい」
「モニターしていた内容もこの部屋を出たら忘れてしまってちょうだい」
「了解しました。では、失礼します」

よかった。もしそう思われていても、盗聴した会話を聞けば、きっとわかってくれるはず!
アークエンジェルか……カガリさんの幸運を祈ろう。


ミネルバはディオキアを出航、ボスポラス海峡を抜けマルマラ海を南下、ダーダネルス海峡を抜けエーゲ海に出、ジブラルタルに向かう。

食堂を見ると、アスランとシンが深刻な顔をしていた。
やっぱりオーブ軍とは戦いたくない物ね。

『コンディションレッド発令!コンディションレッド発令!パイロットは搭乗機にて待機せよ。繰り替えす、パイロットは搭乗機にて待機せよ』

あ、振り向いたアスランと目が合っちゃった。見つめてたのばれちゃった? ちょっと恥ずかしい!

「聞いてくれ! まだ確認されていないが地球軍の空母がいるはずだ! そいつを潰せばオーブ軍は退くかも知れない! カオスかウィンダムが出てきたら、可能なら手負いにして後を付けるんだ!」
「「了解」」

さすがアスラン! 策を考えていたのね!

『ハイネ機、ルナマリア機、インパルス、セイバー、発進願います』

さあ、行くわよ!
気負いこんだところにメイリンが言ってきた。

『モビルスーツ、発進停止してください!』

あらら、なに? ――! 衝撃が走る! 被弾した!?

『2時方向上空にオーブ軍ムラサメ9! ハイネ機、ルナマリア機、インパルス、セイバー、改めて発進願います!』

今度こそ! あたしたちは大空に飛び立った!

2時方向のムラサメ9機をあっという間に駆逐する!

『右舷後方、上空よりムラサメ12!』

ミネルバも危ない! さっさと連合軍空母を見つけないと――!

「アスラン! カオスをこちらに追い込んでください!」
「わかった!」

あたしはカオスの死角へ死角へと移動する!
アスラン、それにシンも加わりカオスがこちらにやってくる!
今だ! 急上昇してカオスに正対! スレイヤーウィップを機動兵装ポッドに叩き込む! 爆発! 強力な推進力を失ったカオスは下に落ちて行く。

「シン! カオスの後をつけて! 連合軍の空母を叩くのは任せるわ!」
「……サンキュー!」

「さあ、俺たちはひたすら防衛すっぞ!」

すでに右舷からのムラサメ数機を落としたハイネさんが言う。

「了解!」

「行くぞ! 今度こそ! はあぁぁぁッ!!」

あぶない! 一機のムラサメに突破される! ミネルバのブリッジに向かってる!

「させるかーーー!」

盾を構えて上空から突っ込む! ムラサメは盾のスパイクに貫かれ爆散する!

ふぅ、危なかった!
さあ、次!

その時、ミネルバに向かうオーブのMS隊が頭上からの光に貫かれた。

『オーブ軍!ただちに戦闘を停止して軍を退け! オーブはこんな戦いをしてはいけない! これでは何も守れはしない!地球軍の言いなりになるな! オーブの理念を思い出せ!それなくして何のための軍か!』

またあのお姫様か! アスランに説得されたんじゃなかったの!?

オーブ軍からも通信が流れる。

『お前たちの戦う意味を思い出せ! 理念か! ならどうして理念を守る! 愛するもののためじゃないのか! 
僕はオーブが、あの国が、あの家族の暮らす国が好きだから此処にいる! 理念はそれを守るための物だ! 国が守れないなら肥溜めに捨ててしまえ!」

『こちらに敵対する確たる意志はなくとも本艦は前回あの艦の介入によって甚大なる被害を被った。敵艦と認識して対応!』
「ちょっと待ってください! 艦長! 手を出されない限りこの状況で敵を増やす事もない!」

アスランが叫ぶとフリーダムに向かっていく!

「キラ! なんでまた来た! 来るなと言ったろう!」
「でもカガリは、今泣いているんだ!」
「え!?」
「こんなことになるのが嫌で、今泣いているんだぞ!何故君はそれが分からない! なのにこの戦闘もこの犠牲も仕方がないことだって、全てオーブとカガリのせいだって、そう言って君は討つのか! 今カガリが守ろうとしているものを!」
「討つって何をだ! 勝手に俺が言った言葉を変えるんじゃない! 攻撃されてるのを守ってるだけだと言っているだろうが! よし、そうまで言うなら、ミネルバはここを突破したいだけだ! これから防御のみに徹する! お前らがオーブ軍を止めて見せろ!」

――! インパルスが帰投してきた!

「シン! 地球軍空母は!」
「やりました! 沈めましたよ、アスラン!」
「ミネルバ! シンが地球軍空母を沈めた!」

『よくやったわ! シン!』

『オーブ軍に告ぐ! 地球軍空母は沈めた。軍を退かれたし!』

あたしたちの誰もがオーブ軍が退く事を期待した。

だけど返って来たのは――

『オーブ全軍はミネルバとアークエンジェルを攻撃せよ。繰り返す、オーブ全軍はミネルバとアークエンジェルを攻撃せよ!』

非情な言葉だった。

『やめろ!あの艦を討つ理由がオーブのどこにある! 討ってはならない! 自身の敵ではないものを! オーブは討ってはならない!!』

『理由はある! 連合の敵はオーブの敵だ! なら、あの艦はオーブの敵だ! たとえかつてオーブを蹂躙したとてオーブを復興させたのは連合だ! だったらその借りは此処で返さなきゃならない! ミネルバを撃沈しなければ、連合は到底納得しない! コーディネイターを受け入れようとする勢力に対して牙を剥きその武力は内側――オーブに向かって暴走するだろう。我が国でその恐ろしさを最も知る人間は――この僕だ! だから今はミネルバを討て! オーブの明日の為に!』

「ちくしょー! ここまでやってもだめなのかよ! ミネルバ! フォースシルエットを!」

『了解しました。フォースシルエット、射出! デュートリオンビーム、照射!』

「シン、露払いするわ! オーブ軍空母に降伏を勧告して!」
「わかってる!」

すでにオーブ軍のモビルスーツはミネルバ上空から駆逐されていた。それでもオーブ軍は戦い続けていた。

あたしたちはオーブ空母を守っているモビルスーツを叩き落した!
シンが空母に降り、ブリッジに対艦刀を突きつける!

「降伏しろ! でなければ退け!」

『私はオーブ代表代行、ユウナ・ロマ・セイランだ。申し出に感謝する。だが! 我々はオーブ軍人だ。我々は諦めない。友軍を見捨てない。国民は我々を信じている。ならばその信頼に応えなければならない。そう誓ったのだ!
ここでおめおめ言いなりになってオーブ国民の、そして諸国からの信頼を失うわけには行かない! 殺りたければ殺りたまえ! 君は君の義務を果たせ!』

凛とした声が告げる。同時に空母が増速して未だミサイルを放ちながらミネルバを目指す!

「シン、もう十分だ。俺が沈める!」
「いや、アスラン、俺が! うあぁぁぁぁーーー!」

シンが泣きながら甲板に対艦刀を突き刺して切り裂く!
オーブ空母は、ようやく動きを止めた。甲板から爆発と炎と煙を上げながら、沈んで行く。

――ミネルバは突破に成功した。オーブ軍を引き離してゆく。それを見た残りのオーブ軍は、軍をまとめて救助作業に移った。アークエンジェルもいつの間にか消えていた。
帰艦したあたしたちは、まだ煙が立ち上る、オーブ軍の空母が沈んだ方角へ向かって敬礼をした。
あたしの頬に、皆の頬に、涙が流れていた。

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