Lnamaria-IF_523第46話

Last-modified: 2008-03-27 (木) 18:00:09

『私かね。プラント評議会議長、シーゲル・クラインさ』
「――!? そんな人がなぜ!」
「ザフトが予想外に不甲斐なかったからね。このままじゃあ地球を撃つ前にジェネシスを壊されてしまうじゃぁないかね』
「なぜ! なぜ地球を、人類を滅ぼそうとするのよ!? あなたは人間……」
人間でしょう、と問う言葉が、口の中に消える。だって、こいつは……こいつは、違う!
『くっくっく。わかるか。君には。――一緒にするな! 貴様らのような奇形人類と! 異常なのだよ! 危険なのだよ、狂った進化時計の上を歩き続けるお前達は! 私達が数億年も掛かった進化を多く見積もっても700万年でやってのける! ――猿人! 原人! 新人! 君らは進化の袋小路に辿り付くと、どうすればいいかわかっているかのように、その種として最高度に進化した、新たな環境に過剰適応した人類が突然現れる! 私達はそれをジャンプ進化と名づけた。このままでは次のジャンプ進化で宇宙に過剰適応した人類が現れるのは確実だ! 私はそれを数世紀後と結論した。だが戦争で滅ぼそうとしても君達はその活力を活性化させるだけだった。だから私は直接君ら人類を滅ぼす事にした。コーディネイターを生み出しナチュラルと争わせたのはそのためさ。おかげで無事にジェネシスを作る事が出来た。さあ、かわいい野蛮人種よ、君達奇形人類が宇宙に……太陽系外に進出する前に、私が自ら滅ぼしてやる!』
「……馬鹿ね……」
半壊したドレッドノートの中で私はつぶやいた。
プレア、フラガさん、シュバリエ大尉、また、ラウ・ル・クルーゼ……そして私が持っている他者への過剰な共感。それこそが、人類が宇宙に適応していく形なのではないだろうか?
「あなたは……人類を滅ぼそうとして、その進化を早めてしまったのよ!」
『なにい!』
フリーダムがビーム砲を、レールガンを、一斉にこちらに向け攻撃モーションに入る。
これで……終わりかな……いやだな。
私が最後を覚悟した時だった。
『な!? 邪魔を、するな!』
……フリーダムが、突然現れた赤いモビルスーツ――ジャスティスに組み付かれていた。
『一体誰だ! ジャスティス2号機を……』
『おわかりになりませんの? お父様?』
――この声は!?
『貴様、ラクス! ……いや! ラクスではない! 一体何者だ!』
「ふふふ。私の本当の名前はあなたには発音できませんわ。呼びたければミス・クトゥルーとでも呼んでくださいな、魂を持たぬ者よ。魂を持たないあなたには、地球人類の進化のパターンなど理解できはしないでしょう。魂の力と言う物を――』
……ラクスじゃ、ないの!?
『ルナマリアさん』
ラクスの声をした何者かは、私に話しかけた。
『私達は、地球の深海の奥底から、はるか昔からあなた達人類を見守ってきました。このシーゲル・クラインの姿を盗み取り、彼に入れ替わった者は、遠い宇宙からやって来た、この星の人類を滅ぼそうとする悪しき物。私が押さえている間に滅しなさい』
「……でも、そうしたらラクス? はどうなるの……?」
『大丈夫。この体は仮の体です。私の本体は、あなた達の認識では鯨のような姿をして深海に住んでいます。心配はいりませんよ』
「鯨? まさか、あなたが……羽クジラ!?」
『ふふふ。宇宙に旅立った仲間達もおりますわ。さあ! 私ごと撃ちなさい!』
『くぉのおぉぉぉぉれぇぇぇ!』
『さあ、早く!』
私は覚悟を決めて、ビームリーマーでジャスティスの核エンジンを貫いた。そして、爆発――
――!
「消えて、ない!」
傷ついてはいるものの、フリーダムだけが、そこにいた。
『WRRRRYYYY!!!  私はぁぁぁ! 絶対に諦めない! 私は何度も不可能を可能にしてきた! 真の正義は砕けない! なぜなら! 私は! 聖なるアヌンナキ地球総司令官エンリルだからだ!』
フリーダムはジャスティスに組み付かれていたため、咄嗟にレールガンを三つ折りにし、その状態から無理やりレールガンを撃ち反動でジャスティスから離れたのだ。
『Yeahhhh!!! hahaha! 私の勝ちだ! とどめだ……宇宙の平和のために、滅びろ地球人類! パワー!!!!  無限のパワーを、食らぇぇぇーー!!!  闇魔超大爆撃(エヴィルナイト・ビッグバーン)!!!!』
やられる!
――その時、何かがフリーダムに組み付いた。
「姉ちゃん!」
「クロト!?」
「早く! 俺達が組み付いてる間に!」
「オルガ!」
「へへへ、三方から組み付かれちゃ、さっきの様に逃げられないだろう?」
「シャニ!」
「早く! 姉ちゃん!」
「……だめよ、だめ!」
「いいから早く! 俺達知ってるんだ! もう俺達には精神崩壊して死んじまうしかないんだよ!」
「そうだ! 今更治療されたって多少それが遅れるだけだ!」
「早く俺達が抑えているうちに!」
「今までありがとよ! 姉ちゃんのおかげで嬉しかった! 楽しかったぜ!」
……さあ、僕達が抑えていますから早く! ……
――プレア!?
「――!」
私は覚悟を決めた。
「――あなた達の事、絶対忘れない――!」
たった一つ残ったビームリーマーをフリーダムに突き立てる!
――フリーダムはその中にシーゲル・クラインの姿をした者を宿したまま、宇宙に四散した。クロト達と共に……


「無事に……勝ったようね、ルナマリアさんは」
「ああ、遠くから見てても、すごい戦いだったぜ! しかし、ドレッドノートも壊されちまった……死んだ奴らも……いっぱいだ……」
ロウ達は必死に流れ弾の飛び交う中をルナマリアに付いて来ていた。
「……しょうがないわよ。戦争だもの」
突き放したようにプロフェッサーがつぶやく。
「……しかし、シーゲル・クラインが異星人だったっての、ありゃ本当か?」
「さぁ? どうなんでしょ? 赤いモビルスーツで組み付いたの、ラクスとかラクスじゃないとか言ってたわね。ラクス・クラインが、この後、戦後、この事を何も知らずに現れたら、それがひとつの答えになるかもね」
『………………』
8(ハチ)のモニターに、ただ、「……」が並ぶ。
「ん? どうしたんだ? 8(ハチ)?」
『おかしいんだ……まるで古くから、ずうっと遥か昔の古くから知っていた人が、亡くなってしまったような、そんな気分なんだ……』
「……おい! まさか、お前、シーゲル・クラインの!?」
『思い出せないんだ……思い出せない事が悲しい……』
「8(ハチ)……」
『…………。――嗚呼! 思い出した! 遥かなる母星ニビル! 偉大なるアヌンナキ評議会! エンリル博士……私はあなたと、この星の人類を滅ぼしに長い、長い旅を……長い時間を……二人で一緒に……。こうなったら……残された全てのエネルギーを使い、ドヴァ帝国の作り出した史上最悪の兵器――絶氷のリンギオ――ガットゥーゾを起動させれば……』
8(ハチ)のモニターが赤く不気味に光り出す――!
『……だめだ、私は地球人類と親しくなり過ぎてしまった……。私には、出来ない……消去を――――――』
8(ハチ)からビーっと言う音がしばらく続き、そして止む。
「8(ハチ)? おい、8(ハチ)!?」
返事が無い。ただの箱のようだ。
――その後8(ハチ)と呼ばれた物が目覚める事は、二度と無かった。




『こちら本部、邪魔者を片付ける。敵部隊を全て殲滅せよ!』
ドミニオンのローエングラムが放たれる。
開いた間隙にモビルスーツが突入していく。
地球軍の士気は、異常なまでに高まっていた。
「O.M.N.I.Enforcer! O.M.N.I.Enforcer!」
「自分は絶対に……敵を許しません!」
「周囲を警戒しろぉ!」
「びびるなよぉー!」
「来たぞ! 敵に教えてやれ! 楽に勝てはしないとなぁぁ!」
「隊長! 俺達は……勝つんです!」
「そうだな! 勝つぞ!」
地球軍とザフトの部隊が接敵し、乱戦が始まる。


ドミニオンは最前線に立って突進を続ける。
ジェネシスの前面にはザフトが分厚く陣を敷いている。
『こちら本部。指示に変わりは無い。敵を殲滅しろ』
再び、ドミニオンから、そしてアークエンジェル、イズモからもローエングリンが放たれる。
「ひゃっほう! 敵を丸裸にしてやれ!」
「この! この! このっっっ!」
「お前らのせいでみんな死んだんだ!」
「どうせ帰る場所なんてないんだ! この命、くれてやる!」
「人類が生き残るには、倒すしかない!」
「後ろにも注意しろ! わかったかぁ!」
「「イエッサー!!」」
「人類に降伏は無い!」
「最後まで戦ええぇぇぇ!!」
「イエッサー!」
「イヤッホー! 敵戦艦をやったぜ!」
「弾切れだ! 援護し……ぐぁぁぁぁっ!」
「隊長!」
「なんてこった!」
「地球を……頼むぞ……」
「これより我ら、ストーム2の指揮下に入ります!」
「ついてこい!」
「「イエッサー!」」
「後ろに注意しろ!」
「敵を撃破!」
「うまいぞー!」
「こっちも負けられねぇぜ! やった!」
「いいぞ!」


全体として地球軍が押している。しかし、一部ではザフトの果敢な反撃により押し戻されてもいた。
ドミニオンを中心とする先端部はザフトの多大なる反撃を受け止めつつ、なおも進軍する。
「本部、応答願います!」
「みんな敵にやられた……」
「動けるのは自分だけです」
「敵の攻撃で、チームの大半がやられ……」
「レンジャー5、レンジャー6は全滅!」
「やった! 見たか! やったぞ! ざまぁ……」
「本部! 本部!」
「もう、駄目だぁ!」
「うぁぁぁぁぁぁぁ!」
「本部!応答願います!」
「敵の攻撃は苛烈、死傷者多数!」
「本部! 本部! このままでは全滅を待つだけです!」
『こちら本部。撤退は許可できない』
「ちくしょう! 報酬は上乗せだ!」
「くそっ、総員! 敵戦艦を破壊せよ!」
「最後まで諦めるな!」
あちこちから悲鳴のように伝えられてくる救援要請。
ハルバートンは冷静さを保つよう心がけ、手持ちに持つ予備兵力を慎重に小分けにしながら増援を送り込む。
「もうすぐザフトの陣を突破できるぞ! みんな! 気張れ!」


「増援に来たぜ! 感謝しろよ!」
「後ろの敵はまかせろ!」
「今助けるぞ! 最後まであきらめるな!!」
「隊長……もう駄目です……」
「弾が無い……弾をくれぇ!」
「隊長……どうか、御武運を……」
「お前ら!」
「なんとか目の前の敵艦を破壊するんだ!」


強固な反撃を続けるザフト。その中に一回り大きな変わったモビルスーツがあった。
――リジェネレイトである。
リジェネレイトはその大推力による一撃離脱戦法で次々と地球軍のモビルスーツを片付けていく。
「くっそおぉぉぉ!」
一機の爆発寸前のストライクダガーが道連れ、とばかりにリジェネレイトにしがみ付く。
アッシュ・グレイは鼻で笑った。
すばやくコア・ブロックを切り離して後ろに退避し、近くのコンテナから人型パーツを呼び出し、合体する。
――爆発。
『……トゥモロートゥモロー♪ アイラブヤァトゥモロー♪ 明日はしあ~わ~せ~♪』
戦場に似つかわしくない、子供向けミュージカルの明るい調子の歌を口ずさむ声が聞こえて来る。
爆炎が晴れた時、地球軍のパイロット達が見た者は、まったく変わらない姿のリジェネレイトであった。






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