Lnamaria-IF_LED GODDES_08

Last-modified: 2009-06-26 (金) 21:37:32

デブリ帯からの補給は順調に続いた。
弾薬、燃料等は辺りに漂っている戦艦から大量に補充できた。衣服も……漂っている船から補充できた。
でも、どうしても水が足りない。なにしろ細かい最終艤装も済ませないまま、最低限の物資を積んだままで出航したのだ。水リサイクル装置が能力を発揮するにも、ある程度の量の水が必要なのだった。

 

「あそこの水を!?」
「ユニウス7には、一億トン近い水が凍り付いている」
フラガ少佐が言った。
「……でも! あのプラントは何十万人もの人が亡くなった場所で……それを……」
キラが、なにか気色ばんで言う。
「私は賛成だ。物は生きる人に使われてこそ、だよ。それに、第二次世界大戦で原爆を落とされたヒロシマもナガサキも別にそのまま聖地として放置するわけじゃなく、復興させてるぞ」
私はそう言った。
「水は、あれしか見つかっていないの」
ラミアス大尉が言った。
「……僕は、賛成だ。生きる人が優先だ。それに、ユニウス7がなんだよ。地球じゃニュートロン・ジャマー打ち込まれて、10億人くらい餓死とか凍死とかしてんだろ? コロニー生まれの僕だってそんな事くらい知ってる」
カズイが言った。
「キラ、お前まさかコーディネーターだからって……」
「カズイ」
私は口を挟んだ。
「言い過ぎだ。オーブにとってナチュラルもコーディネーターも同様に価値が……ある物だ。いたずらに排斥する空気が強い他国とは違う。コーディネイターを作出する事こそ他国と同様に禁止してはいるがな。謝罪しろ、キラに」
「あ、はい。すまん、キラ」
「あ、ああ。うん」
「うん、よし、この事はこれまでだ」
カトーがキラとカズイ、二人の肩に手をかける。
「まぁ、まだ片付けもされていない、あそこに踏み込みたくは、実は私もあまり気が進まないがね。はは。キラの気持ちもわかるよ。だが、しょうがない。僕らは生きてるんだ。死んだ人に遠慮して渇き死になんて莫迦らしいだろう」
「そうだな。しょうがないよな」
「だな」

 
 

「なんだ、あれ?」
地球軍艦のクルーはつぶやいた。
視認できる。白い船だ。客船のようである。
「ん……。地球の船ではないな。スカンジナビアもオーブも、そんな船がこの時間通るとは連絡がない」
「ザフトか!」
「こんな場所を単艦で……怪しいな」
「ザフト……テロリストかよ!」
「まだ決まった訳じゃない。とりあえず臨検だ」
「こんな所をのこのこ……拿捕しろ」
「テロリストなら撃沈しちまった方がいいんじゃないですかい?」
「莫迦言うな。俺らはザフトのような人でなしとは違うんだ!」
艦長はクルー達をたしなめた。

 
 

避難民達がうるさい。うるさい、と言うのとは少し違うか。ざわついている。
さすがに逃避行を続けている、と言うのは人の神経をささくれ立たせるのだろう。
「ヘリオポリスに残っていれば良かった」
「こんなことなら……」
「いつまでこんな生活続けるのよ……!」
「そう言ったってお前……」
「あの時外に出たがったのはお前だろう!」
ざわめきが、言い争いに変わる。
フレイは、ダンっとテーブルを叩いた。
周囲が静まりかえる。
フレイは、立ち上がると儀礼用の笑顔を作った。
「皆さん、私はフレイ・アルスター。大西洋連邦事務次官ジョージ・アルスターの娘です」
「なんだって……?」
「まさか」
再びざわめきが戻る。
「皆さん」
フレイは笑顔を崩さず続けた。
「私が乗っているこの艦を、大西洋連邦も、オーブも。決して見捨てません。心を静めて、待ってください」
そうよ、サイだって頑張ってるんだ。自分も……。自分にできる事を……。

 
 

「停戦せよ! しからざれば攻撃す!」
大西洋連邦ドレイク級護衛艦グッド・ホープは不審船に警告を発した。
『こちら、プラントのシルバーウィンド。停戦する。攻撃を思いとどまられたし』
返信が返ってきた。
「ビンゴだ!」
「テロリストか!」
「ようし、陸戦隊に命令だ! テロリスト艦シルーバーウィンドに乗り込み、これを制圧せよ」
「イエッサー!」
グッド・ホープは僚艦キング・アルフレッドと共にシルバーウィンドを挟むように操艦する。
更に、両艦よりメビウスが発進し、シルバーウィンドを包囲する。
ランチに陸戦隊が乗り込み、シルバーウィンドに接舷する。
「貴艦の航海の目的は何か?」
『我々は、ユニウス7追悼式に行く途中でして』
「ははは」
「ユニウス7の!」
艦橋に飢えた狼の様な笑い声が起こる。
「すまんが、これより貴艦を拿捕させていただく! 乗員・乗客は一カ所に集めろ!」

 
 

「どうする、この船にはラクス様が乗っているのだぞ?」
シルバーウィンドのクルーは焦る。
「我々をどうする気だ? 我々は民間人だ。手荒な真似は……」
『いいからハッチを開けろ。プラントを占拠したテロリスト共! 開けない場合強制的に進入する事になる』
返ってきたのは、にべもない返事だった。
「……開けるしかないか。副長、搭載してあるジンの出撃用意をしてくれ。後、ミサイルの用意を……都合がいい事に接近してくれているからな」
「艦長!」
「ラクス様を逃がすためだ。合図があれば出撃できるように。護衛のザフトの諸君にも戦ってもらわねばならん」
「彼らでありますか……」
シルバーウィンドに乗っている護衛のザフトは、特別志操堅固な者が集められていた。
「……それから、地球軍艦を撃破した後は……乗客を集めた大広間を青い空気で満たすように」
「はっ」
「君も……いいね? ザフトの名を辱める事の無いように」
「……はっ」
「では、皆、例の物を取り出せ。水杯を交わす」
クルーは各自、厳重に封がされたカプセルを取り出した。
「では、ザフトに栄光あれ!」
「栄光あれ!」
クルー達は一斉にカプセルを飲み込んだ。

 
 

「ふん、やっと開けたか」
ハッチが開いた。
だが、陸戦隊は慎重である。まず無人の小型戦車に機関銃がついたような物を送り込む。向こうの大気が安全かどうかも調べられる優れものだ。
「シルバーウィンド船長、出てきて案内をしろ」

 
 

「……ではな、副長。監視装置は働いているな? 合い言葉は、『ロシアンティーを一杯、ジャムではなくマーマレードでもなく、ハチミツで』だ」
「はい」
「ラクス様は?」
「脱出カプセルに、ご案内しております」
「よし。万が一にもラクス様の事が漏れては困る。大広間に例の物を……忘れずに……」
「はっ覚悟はできております」

 
 

「ようこそ、シルバーウィンドへ!」
船長はハッチの前に立って、両手を広げた。
「艦内図を見せてもらおう。艦橋へ案内しろ。乗員はどこに集めた!?」
陸戦隊は船長の愛想に応じる様子も見せず、命令する。
「はい、乗員は、この、大広間へ」
「よし」
グッド・ホープの陸戦隊はそれをスキャンし、反対舷側から進入したキング・アルフレッド陸戦隊にデータを送る。
「こちらは艦橋を押さえる」
『了解、こちらは大広間及び機関部を押さえる』
返答が返ってくる。
「では、艦橋に案内してもらおう」
「はい……」
シルバーウィンド船長は項垂れて歩き出した。

 

しばらくした時である。
『こちらキング・アルフレッド陸戦隊。艦内図が違う! でたらめだ!』
「なにぃ?」
グッド・ホープ陸戦隊は気色ばんだ。
「船長殿、どう言う事ですかな? これは?」
「まぁまぁ、落ち着いてください、皆さん。艦橋に着いたらロシアンティーを一杯いかがです? ジャムではなくマーマレードでもなく、ハチミツで」
「ふざけるな!」
その瞬間、床が衝撃で揺れた!

 

「なんだ! 何が起こった!?」
グッド・ホープ艦長は叫んだ。
「機関部応答ありません!」
「第10から15ブロック隔壁閉鎖!」
それはシルバーウィンドからの、至近距離でのミサイル攻撃だった。
「な……」
「偽装軍艦だったか!?」
「艦長!」
クルーが叫んだ。
「敵艦よりモビルスーツの発進を確認!」
「なんだとぅ!? こちらのメビウスは?」
「メビウスよりつうし……通信妨害です! ジャマー出力増大!」
次の瞬間、スクリーンにぬっとザフトのジンの姿が現れると、艦橋に向けて大型ミサイルを放った――!

 

「グッドホープとの通信途絶!」
「なんだ、なにが起こった? 何をした?」
グッド・ホープ陸戦隊はシルバーウィンド艦長を殴り倒す。
「さぁ、私にもさっぱり……」
「ふざけるな!」
「……くくく。愚かなナチュラル共め! くたばれ!」
「撃て!」
銃口がシルバーウィンド船長に向けられ、弾丸が放たれる!
だが、シルバーウィンド船長が手に握っていたスイッチを押すのが早かった。
次の瞬間、シルバーウィンド船長の腹に巻かれた爆薬に起爆信号が伝わり、船長の肉体は砕け散っていた。
少なくないグッド・ホープ陸戦隊のメンバーを道連れに……

 

その頃、キング・アルフレッド陸戦隊も災難に出会っていた。数こそ少ない物の、コーディネイターの戦闘部隊と出会い、戦闘が始まったのだ。
「こいつら、自分の船が壊れる事を何とも思っとらんのか!?」
陸戦隊隊長が嘆くように、敵は強力な武装で立ち向かってきた。
それでも……彼らをようやく倒し、艦内のコンピュータにアクセスして大広間の場所を掴んだ。
だが……キング・アルフレッド陸戦隊がその大広間に着いた時、彼らを出迎えたのは、折り重なる死体の山だった。
「な……」
陸戦隊員達は絶句した。
「初めまして、地球軍の諸君」
声がかかった。
「誰だ!」
「やだなぁ、そんなに警戒しなくても」
両手を上げて一人の男が出てきた。
「……確保しろ」
隊員達がその男に駆け寄っていく。
「そしてさようなら」
突然大広間は爆風に見舞われた。
大広間の内部に向けて指向性爆薬が仕掛けられていたのだった。
キング・アルフレッド陸戦隊は全滅した……

 

その頃グッド・ホープ陸戦隊は、ようやく艦橋へとなだれ込んだ。
「両手を上げろ! 抵抗するな!」
だが、たった一人座席に座っていた男は身じろぎもしなかった。
「おい、聞こえんのか!」
慎重に近づく隊員。その耳にかすかに声が聞こえた。
「私は怖くない、逃げちゃ駄目だ、ラクス様のため……」
次の瞬間、艦橋は爆発した!
グッド・ホープ陸戦隊員達は宇宙へと放り出され、散華した。

 

「そっちはどうだ、こっちの艦は片付いた」
「こちらも片付いた」
グッド・ホープ及びキング・アルフレッドを撃沈したシルバーウィンドのジンは通信を交わした。
「では、私はシルバーウィンドに戻らねばならない。地球軍の蛮行の証拠を集めねば」
「了解。こちらはラクス様捜索に移る」

 
 
 

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