Lnamaria-IF_LED GODDES_09

Last-modified: 2009-07-03 (金) 21:17:38

プラント――アプリリウス
エピデンス1(羽鯨の化石)の前でクライン評議会議長とザラ国防委員長が並んで話していた。
そこに、アスランがやってくる。
「アスラン」
シーゲルが笑みを浮かべながら声をかける。
「クライン議長閣下!」
「そう他人行儀な礼をしてくれるな」
「いえ、これは……」
「ようやく君が戻ったと思えば、今度はラクスが仕事でおらん。全く、君らはいつ会う時間が取れるのかな」
「はぁ、申し訳ありません」
「私に謝られてもな。しかし、また大変なことになりそうだ。君の父上の言うことも、わかるのだがな……」
その時、クルーゼが歩み寄ってきた。
「アスラン・ザラ! あの新造艦とモビルスーツを追う」
「……?」
「ラコーニとポルトの隊が、私の指揮下に入る。出港は72時間後だ」
「は!」
「失礼いたします、クライン議長閣下」
そう言うと、クルーゼはアスランと歩み去っていった。
「我々にはそう時間はないのだ。いたずらに戦火を拡大してどうする? オーストラリアと南アメリカを手にするだけで十分ではないか。ナチュラル共を使って出生率の回復をせねば我らに未来はないのだぞ」
今までの柔和な顔を変え、冷たいまなざしでシーゲルは言った。
そのまなざしに気づかす、エビデンス1を見つめながらザラは言う。
「だからこそ許せんのです。我々の、邪魔をするものは」

 
 

「後どのくらい?」
マリューはトノムラに聞いた。
「4時間ってとこですかね。弾薬の方は後1往復で終了ですが」
ユニウス7に残されている氷は順調にアークエンジェルに運び込まれている。

 

あれは、民間船?
護衛任務に就いているカズイは目を瞬かせた。
まだ真新しいような、残骸になって間もないような白い船が流れてきた。
――!
あれは! ザフトのジンじゃないか!? なんでこんなところに!
みんなが見つかりませんように……

 

その願いもむなしく、そのジンは作業ポッドを見つけると狙いを付ける!
守らなきゃ! 守らなきゃ! 落ち着いて! 落ち着いて……
カズイはフラガ少佐に拳銃を突き付けられた時の事を思い出す。
あの時の集中力を思い出せ!
心を沈め、狙いを定め、ジンを狙撃――ジンは爆発した。
「ふぅ……」
カズイはため息をついた。

 

「ありがとう、カズイ!」
「マ、マジ死ぬかと思ったぜ!」
トールとチャンドラII世が礼を言ってくる。
「はは……よかった……疲れたー。ん? レーダーに反応! 救命ポット……?」

 

「つくづく君は、落し物を拾うのが好きなようだな」
アークエンジェルのドックで、ナタルがあきれたように言う。カズイは結局、見つけた救命ポッドを拾ってきたのだった。
「開けますぜ」
マードック軍曹が言って、ポッドのハッチを解放する。
一斉に下士官達が銃を構える。
「ハロ! ハロ! ハロ、ラクス、ハロ!」
「なんだぁ?」
丸いボールのようなロボットが転がり出てきた。
次いで、ふわふわのレースのような服装をした少女がポッドから出てきた。
「ありがとう、ご苦労様です」
「……」
「……」
皆がぽかんとする中で、ルナマリアだけが、険しい顔をしていた。

 

「ラミアス大尉、ちょっと……」
私はラミアス大尉に声をかけ、皆から少し離れたところへ連れて行く。
「なぁに、怖い顔して」
「……あの女。ザフトのシーゲル・クライン評議会議長の娘、ラクス・クラインだ」
「ほんと!? ところであなた、ザフトって言うのね。プラントって言わずに」
「プラントは理事国が作った、文字通り工場と言う意味だろう。奴らなど、テロリストなど、ザフトで十分だ。何が世界の工場だ」
「まぁ、いいけど。どうしたものかしらねぇ」
「……これは、アークエンジェルはオーブの艦だと言う事を徹底して欲しい」
「何か、考えがあるのね?」
私は頷いた。
「もし、ザフトに襲われた場合、中立国の船を襲っているのだと言う事を奴らが信じなくてもいい、主張するんだ。その上で、あいつを人質に取る」
「あいつって……その、ラクス・クライン?」
ラミアス大尉は少し眉をひそめた。
「……甘いな。絶対にストライクとこの艦を地球に持ち帰らなきゃならんのだろう?」
「ええ……」
「ええー! ラクスクライン?」
その時、救命ポッドの周囲にいるトールが声を上げた。
「……軟禁しておいた方がいい。彼女は」
私はそっとラミアス大尉にささやいた。
「わかったわ」

 
 

ザフト軍宿舎――
アスランはシャワーを浴びていた。みずみずしい肌を水滴が転がってゆく。
と、部屋に呼び出し音が響く。
「ん……?」
アスランはモニターを操作し、答える。
「アスラン・ザラです」
「認識番号285002、クルーゼ隊所属アスラン・ザラ。軍本部より通達です」
オペレーターは上半身裸のアスランを見て顔を赤らめながら伝達する。
「は!」
「ヴェサリウスは予定を35時間早め、明日18:00(ヒトハチマルマル)の発進となります」
「ん……?」
なにかあったのか?
アスランは疑問に思った。
「各員は1時間前に集合、乗艦のこと。復唱の後、通信受領の返信を」
「ヴェサリウスは明日、18:00(ヒトハチマルマル)発進。各員1時間前に集合、乗艦。アスラン・ザラ了解しました」
アスランはモニターを切った。オペレーターは名残惜しそうな顔をしていた。
テレビのニュースを付ける。
『この船には今回の追悼式代表を務める、ラクス・クライン譲も乗っており安否が気遣われています』
「ん……?」
『「繰り返しお伝えします。追悼式典慰霊団派遣準備のため、ユニウス7に向かっていた視察船、シルバーウィンドが昨夜消息を絶ちました』
「……!? ラクス……」
アスランは呆然とした。

 
 

「確認するわ。あなたはプラント評議会議長シーゲル・クラインの娘さんね?」
「ええ」
私達は、ラクス・クラインを呼び出して事情の説明を求めた。
もっともしゃべるのはラミアス大尉達に任せる。餅は餅屋だ。
「はぁ……そんな方が、どうしてこんな所に?」
「わたくしユニウス7の追悼慰霊のための事前調査に来ておりましたの。そうしましたら、地球軍の船とわたくしどもの船が出逢ってしまいまして……」
ラクスはため息をついた。
「拿捕するとおっしゃってたので、わたくしだけ救命ポッドで宇宙に出されたのですが……」
「それで、君の船はどうした?」
フラガが眉をひそめながら言った。
「わかりません……。あの後、地球軍の方々もお気を鎮めてくださっていればよいのですが……」
「わかりました。とにかく、部屋を用意しますので、休んでください」
「はい……」

 
 

プラントでは、『漂流していた所を発見されたシルバーウィンド号』の悲惨な状況がニュースで繰り返し流されていた。
大きく損壊していた船体。
そして――折り重なる乗客の死体の山。
プラントの世論は沸騰した。

 

「愚かなナチュラルに死を!」
「野蛮なナチュラルを膺懲せよ!」
人々は町に繰り出し、プラカードを持ってナチュラルへの復讐を叫んだ。

 

シーゲルは暗い笑みを浮かべてその様子を眺めると、モニターのスイッチを切ると振り返った。
そこにはシーゲル直属の特殊任務部隊『ダーク・クロウ』隊長、緋射(ヒーロー)・寅沼(住民票に登録された本名である)が居た。
「ラクス様の事は、なんともお気の毒で……」
「おべんちゃらはいい」
シーゲルは手を振った。
「もしや生き残りは、証人は居ないだろうな?」
「もちろんでございますとも。我々『ダーク・クロウ』が何回も念入りに掃除致しましてございます」
「用意は出来ているだろうな?」
「はっ。ラクス様が救出されても、死亡していても、それなりに」
「このまま行方不明、と言うのが、馬鹿らしい結果だな。パトリックのやっておるジェネシスとやらの進捗状況は?」
「はっ。かなりのところまで進んでいたのですが、地球軍よりPS装甲の技術を手に入れたため、それを全面に張り巡らそうとして、資金と人手が……」
緋射(ヒーロー)はにやっと笑った。
「遅れていると言うわけか。はっ。まったくパトリックの近視眼めが!」
シーゲルはパトリックを罵った。
「なにがコーディーネーターだっ。得られたのは結局努力なくしては達成できないオリンピック級の肉体能力に、幼くして大学生並みの知識を覚えられる。それだけの事だ。生殖能力も無くして、遺伝子に縛られた愚か者共め! ナチュラルとの混血も結構! 何が悪いか! 我々をコーディネーターだと意識される事、敵をコーディネータだと認識される事こそがプラントに害であるとわからんのか! わしが理事国対非理事国の対立に持ち込もうとしているというのに! 我々は大洋州連合と 南アメリカ合衆国を使って勢力を拡大すればいいのだ。そしていずれは世界を……!」
「それでこそ我が君」
緋射(ヒーロー)はひざまづいた。
「遺伝子を信奉する奴らなぞ、滅びればよいのです」
憎しみのこもった声で緋射(ヒーロー)は言った。
緋射(ヒーロー)は、髪の毛の色が違うと言う理由でDQN親から捨てられていたのだった。

 

プラント、アプリリウス港湾部――
『ヴェサリウス発進は定刻通り。搭乗員は12番ゲートより、速やかに乗艦』
アナウンスが流れる。
「あ……」
ヴェサリウスに乗り込もうとするアスランは、通り道に父とクルーゼがいるのに気づき、敬礼する。
「アスラン」
「はい」
父から呼びかけられ、アスランは立ち止まる。
「ラクス嬢の事は聞いておろうな」
「はい……。しかし隊長、まさかヴェサリウスは……」
「おいおい、冷たい男だな君は」
クルーゼはからかうように言った。
「無論我々は彼女の捜索に向かうのさ」
「でも、まだなにかあったと決まったわけでは……。民間船ですし……」
「公表はされていないが、地球軍艦艇とシルバーウィンドの護衛隊との間で戦闘があったという事だ」
「なんですって!?」
「ひどい有様だったそうだよ。シルバーウィンドは護衛隊の一部を除いて、全員生死が絶望視されている」
「そんな!」
「そのうち公表されるだろうがね」
「地球軍艦艇を撃破してラクス嬢の捜索に向かった護衛隊のジンが1機行方不明になってもいる」
「……!」
「ユニウス7は地球の引力に引かれ、今はデブリ帯の中にある。嫌な位置なのだよ。ヘリオポリスで逃した足つきがアルテミスに向かっていないとしたら、デブリ帯を目指したとも考えられるのだ」
「まさか……!」
ここでザラが口を挟んだ。
「ラクス嬢とお前が、定められた者同士だということはプラント中が知っておる。なのにお前のいるクルーゼ隊がここで休暇というわけにもいくまい」
「あ、ですが……」
「彼女はアイドルなのだ。頼むぞ、クルーゼ、アスラン」
「「はっ」」
クルーゼとアスランはザラに敬礼をした。
「……彼女を助けてヒーローのように戻れという事ですか」
「もしくはその亡骸を号泣しながら抱いて戻れ、かな」
「!?」
「どちらにしろ、君が行かなくては話しにならないとお考えなのさ、ザラ委員長は」
「……」
「君は……何か気乗りがしない感じだね」
「はっ、いえ、そんな事は」
「君の心には、ラクス嬢ではない誰かが住んでいるのかな?」
「まさか!」
「はは、冗談だ。ではな」
クルーゼは立ち去っていった。
「……キラ……」
アスランはつぶやいた。
「キラっ!」
涙が滲んだ。もう二度とその手を取れないのだと思うと……

 
 

「どうだ? 反応はあるか?」
「いえ、レーダー、通信共にありません」
「ふうむ」
フラガは顎をつまんだ。
「ラクス・クラインの話からすれば、友軍がデブリ帯の近くに居るはずなんだが……いや、すまん、ありがとう」

 
 
 

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