Lnamaria-IF_LED GODDES_15

Last-modified: 2009-08-14 (金) 23:04:48

「なんですって? ビクトリア基地が陥落しそうですって!?」
「ああ。予定では、君達にはアラスカに行ってもらう予定だったがね」
先の会戦の戦勝で昇進したハルバートン少将は言った。
「そうも言っていられなくなった。アークエンジェルとG兵器のデータはいくらでも地球に送れるし、地球でも作れようが、ビクトリアは今、援軍を必要としている。そして、先の会戦に勝ったとは言え、宇宙軍にはすぐに地球に送れる援軍はないのだよ。頼む!」
ハルバートン少将は私に頭を下げた。
「……わかりました。ビクトリア基地救援、引き受けましょう!」
「ありがたい! 装備の方はしっかり補給させてもらうつもりだ。スカイグラスパー隊を貴下に加えよう。それからビクトリア周辺の山地を動き回る事になるからアークエンジェル自体の飛行可能高度もそれなりに高く改造しなくてはいかん。とにかく大車輪でやらせるゆえ、せめてその間ゆるりと過ごしてくれたまえ」
「はい。ありがとうございます」

 
 

「クルーゼ君、君には失望した」
冷たい眼差しでシーゲルは告げた。
「30隻だぞ。それだけ集めたのに、敗れるとは。我がプラントは人口では圧倒的に少ない。常に敵に対し数倍の損害を与え続けなければならんのだ」
「……処罰はいかようにも」
クルーゼは深く頭を下げた。
「クライン評議会議長、クルーゼ隊長はこれまで功あるもの。これまでの功に換えて御勘如の程を……」
ザラ国防委員長が口を出す。
「……いいだろう。クルーゼ君。君の新しい任務だ。地球連合から奪った新星――ボアズ要塞の移動の護衛だ」
しばしの沈黙の後、シーゲルは答えた。
「はっ」
左遷、とも言える任務であったが、クルーゼは直立不動で敬礼した。
シーゲルは、話は終わったと言うように手を振った。

 
 

「なぁ、オーブ近海には間違っても近づくなって、なんだ? またあらためて?」
カーペンタリアのザフト兵士が同僚に聞いた。
「ヘリオポリス崩壊にザフトが関わってるんだとさ」
「な、なんだってー!」
「だから、刺激するなって事だよ。まぁ、オーブはニュートロン・ジャマー散布時の『事故』の事もある。上の連中もオーブが中立だなんて思っちゃいない。ただ、今は緩衝地帯にしときたいだけだ」
「了解しました。……それにしても、最近船舶の未帰還が妙に、多くないっすか?」
「ああ、気にはなっているが……」
海洋戦力を大型潜水艦ボズゴロフ級に頼っているザフトにとっては、その右肩上がりの未帰還数は不気味にも感じられるものであった。

 
 

ニュートロン・ジャマーで一変した世界の戦術。その中で変わらない物もあった。
水中での戦いである。彼らは音に頼り、動き、攻撃するのだ。
変わった事と言えば、原子力潜水艦が無くなった事であろう。
その世界の中で大きなアドバンテージを持った者は、戦前から原子力潜水艦に頼っていなかった日本、そして日本の影響を強く受けているオーブである――

 
 

「なんだ!? こいつ!」
「振り切れん!」
ザフトの水陸両用モビルスーツ、グーンのパイロットは焦っていた。
ここはザフトにとって最近『魔の海域』と呼ばれているフィリピン近海である。
ザフトはカオシュン宇宙港のための補給地としてミンダナオ島のダバオを占領していた。
だが、最近そこへ向かう船舶の被害が大きく、最近では必ず護衛が付けられる様になっていたのであるが。

 

「うわぁ!」
「やられたか! うおぉ!」
破壊されたグーンのパイロットが最後に見たのは、ザフトのモビルスーツに良く似たモノアイのモビルスーツの姿であった――

 

「圧壊音確認」
オーブ潜水艦「ユニコーン」のクルーは報告する。
ユニコーン型潜水艦――オーブの海中戦力――そして海洋戦力の中核である。
「よくやった。今月でボズゴロフ級は2隻目だな」
うれしそうに板倉光馬艦長が笑う。
「ええ。スゴックEにハイゴックの共同運用はやはり有効であるようですね。ザフトのグーンなど物ともしません」
「スゴックEはすごくいーか」
「ははは」
「おかげでカオシュンへの兵力移動も滞りがちと聞く。ふふ。ザフトめ、この調子で沈め続けてやるぞ」
レシーバーには爆発音が聞こえ続けている。スゴックとハイゴックが、輸送船を沈め続けているのだ。
彼らは輸送船団を全滅させるまで手を緩める気は無かった。

 

「ふん。今月は……と。うん、なかなかいいね。しかし、少しは輸送に成功させてやるようにな」
オーブ国防省で、オーブ海軍司令、高野八十六は幕僚に言った。
まったく輸送路を潰してしまえば、敵は新たな輸送路を開拓してしまうだろう。
しかし、3割程度が成功すれば、やり方がうまかったのだ、下手だったのだと、その輸送路を維持する事に力を注ぐだろう。
ザフトに手加減できるくらい、今のオーブ潜水艦隊には余裕があった。

 
 

「今月は……5割が未帰還か」
カーペンタリアのザフト軍の司令がつぶやいた。
航空消耗戦ならぬ艦艇消耗戦か……
司令は第二次大戦のガダルカナルの戦いを思い出した。
ガダルカナルを巡る戦いで、日本軍はミッドウェーを上回る航空戦力の損害を受けたのである。
「いっそ船団を組まずに単艦で独航させるか……」
そんな言葉まで口に出てしまう。しかし、それは軍の民間に対する義務放棄である。大洋州の国民感情を考えると取れる手段ではなかった。
「ふぅ。ともかく、船団にはより多くの護衛が必要だ。本国に増援を申請するよう」
「はっ」
「空路も考えねばならんか」
しかし、ニュートロン・ジャマーによりGPSが使えなくなったこの時代、長距離海上を飛ばす事のできるパイロットは数が少なかった。
ザフトにとっては自業自得であったが。

 
 

「本当はコペルニクスにも寄りたかったけどそうもいかないわね。まぁ、ゆっくりしましょう?」
私はカズイを誘ってプトレマイオス基地内の探索に出かけた。
「まぁ、と言ってもそれほど見る所もないのだけど……食事だけは艦内よりましな物が食べれるわよ」
「お、ちょっと君!」
「え?」
カズイは衣料品店の販売員に声をかけられた。
「怪我したようだねぇ」
「ええ、まぁ」
「これ着なよ!」
店員はカズイに一着の服を渡した。
「丈夫だよ! 怪我なんてへっちゃらさ。君に似合うと思うんだ!」
「ええと、『聖戦衣ヘッドロココ』? うわっ値段高い!」
「ふーん……いいじゃない。奢るわ」
「え、いいの?」
「ふふ。頑張ったごほうび!」
カズイに『聖戦衣ヘッドロココ』を買ってやって、衣料品店を後にした私達は一軒のレストランに入った。
「ステーキ、奢るわよ? どうせプレス肉だろうけどね」
しばらく経ち料理が運ばれてくる。ステーキは鉄板の上でジュージュー美味しそうな音を上げている。
「でも、さすがにすごいや!」
「ふふ。一杯食べてね」
「……? なんか、ルナ、いつもと違う?」
「そう? ふふ。言葉遣いを変えただけよ?」
「あ、そうか!」
「本当は、いつもこんな言葉遣いなんだけどね」
「いつもは気を張ってるんだ?」
「って言うか、自己暗示ね。自分は戦士なんだって。そうすると力が出せる気がするの――」
その時、店のテレビニュースが緊迫した声を発した。
「なんだって?」
「しーっ」
『……勇戦虚しく、ビクトリア基地はザフトの手に落ちました!』
「なんだって!?」

 
 

「やった!」
「これでナチュラル共も我らの力を……」
ザフト軍はオペレーション・ウロボロスがまた一歩進んだ事に歓喜した。
オペレーション・ウロボロス――その目的は「地上での支援戦力を得るための軍事拠点を確保」「宇宙港やマスドライバー基地制圧による地球連合軍を地上に封じ込める」「核兵器、核分裂エネルギーの供給抑止となるニュートロンジャマーの散布」の三つである。
先の第8艦隊との会戦――プラントではバレンタイン・イブ会戦と呼称された――での敗戦を隠すかのように、ビクトリア基地陥落は連日大きなニュースとして取り上げられた。

 

「やったな、おい」
「ええ!」
久々に明るい顔で、士官学校2期上の先輩のミゲル・アイマンの言葉にアスランが答える。
ミゲルは緑服ではあるが、『黄昏の魔弾』の異名を持つエースである。
「しかし、ヴェサリウスにお前ら5人が集結か。まるで同窓会だな」
「ははは、そうですね」
今、ヴェサリウスのモビルスーツパイロットは、アスラン、イザーク、ディアッカ、ニコル、ラスティ、ミゲルの6人である。ミゲルを除けば、同じ卒業時の成績上位の証の赤服同士、である。
なお、基本的に艦長職はモビルスーツ戦闘に出る事はない。クルーゼが予備機を自分用のシグーにして、戦闘に出る気満々なのは例外である。
「次はいよいよパナマですね」
ニコルが言った。
「ああ、パナマを押さえりゃ、頑迷なナチュラル共も根を上げるだろう! 早くこんなボアズ要塞の移動の護衛なんて任務終わらせてそっちに参加したいもんだ!」
イザークが答える。
「パナマを墜としても、オーブが残るよなぁ、どうする? あいつらもやっちゃうか?」
ディアッカが自分では狡猾で残忍と思っている笑みを浮かべて言う。
「ふん、あいつらは、敵だ! すでに!」
イザークが答える。
ザフトは一貫してオーブ国内で地球軍艦とモビルスーツが作られていたと主張してい、ヘリオポリス崩壊の責任は地球軍にありとの立場を崩す事はなかった。
もっとも――参戦国が中立国で兵器の開発を行う事はよくある事で、それ自体にはなんの問題もないと言う事はザフトは等閑に伏していた。
無理もない。彼らは民兵であり、国際法などに詳しい者はごくわずかしかいなかったのだから――

 
 

……ポンポン……ポンポン……
アフリカの大地を、通信用の太鼓の音が響いていく。
馬鹿にしたものではない。ニュートロン・ジャマーによって無線での通信距離が限られるようになった昨今では、アフリカではメジャーな通信手段である。

 

「なんだと!?」
サイーブ・アシュマンは驚きの声を上げた。
彼は元大学教授であり、オーブ代表首長ウズミ・ナラ・アスハの友人でもある。
そんな彼がなぜ対ザフトのレジスタンス活動に身を投じたか――
それは、ビクトリア基地のある地球連合所属の南アフリカ統一機構がザフトの攻撃を受けた事にはじまる。
CE.70年3月8日に行われた第一次ビクトリア攻防戦で、あえて穏当な言葉で言えば食糧確保のためを目的の一つとして地球に降下してきたザフトは、地上戦力の支援が無かったためにザフトの敗退に終わる。
それをもってオペレーション・ウロボロスが発動されるわけであるが、ビクトリア宇宙港制圧のために、ザフトは地上戦力を欲した。
C.E.70年5月2日、第一次カサブランカ沖海戦に勝利し、地中海の制海権を得ると、ザフトはジブラルタル基地を建設すると共に、ビクトリア基地攻略のため、地球連合加盟国でもプラント理事国でもない、ザフトとはまったくの無関係であったサイーブの祖国、アフリカ共同体の領土、北アフリカに侵攻してきたのである。
その時から、サイーブは武器を取り、反ザフトレジスタンス『明けの砂漠』を組織して戦ってきたのだった――

 

閑話休題。太鼓通信が伝えてきた事実は恐ろしい物であった。
C.E.71年2月13日のビクトリア宇宙港は陥落で終わった第二次ビクトリア攻防戦――
そこで、ザフトは投降した地球軍兵捕虜を整列させ銃殺していたと言うのである。皆殺しにしてしまったと言うのである。
サイーブの様な教養ある人物にとって、そんな事実はとうてい受け入れたくなかった。だが、ビクトリア宇宙港に派遣したサイーブの部下は不確かな情報を送ってくるような人物ではなかった。
「ルナマリア様……」
ふとサイーブはつぶやいた。
ザフトに対抗できる兵器を持ってくると言ってここを飛び出ていったオーブの姫君。
今頃どうしているだろうか?
サイーブはルナマリアが無事でいる事を祈った。

 
 

「状況は」
「はい。我々地球連合所属の南アフリカ統一機構が、ビクトリア基地を制圧されて、残存兵力は南アフリカ、ボツワナ、ナミビア方面へ撤退。ザフトはアフリカ東岸の港町ダル・エス・サラームを制圧、カーペンタリアと結ぶ拠点にしております。ダル・エス・サラームからビクトリア基地に道が通じており、ザフトの重要な宇宙との出入り口になっております。その際……信じたくはないのですが、ビクトリア基地の捕虜が皆殺しにされたと……及び周辺地域で食料の強制的な徴発も行われたようです」
「……にわかには信じられん話だ。ザフトは自分らだけの勢力で地球人類を敵に回す気か?」
兄部一佐が首を振りながら言った。
「で、我々はどうするのだ」
フラガ中佐が言った。
「はい。予定通り、アフリカに降下して頂きたいと」
「場所は? 南アフリカか? 南アフリカ統一機構の残存兵力と共同するのか」
「いえ……降下して頂きたい場所は、ここです」
プトレマイオス基地の司令は地図の一点を示した。
「リビア砂漠か!」
「はい。この近郊のバナディーヤには、かの『砂漠の虎』アンドリュー・バルトフェルドが地上戦艦とモビルスーツ『バクゥ』隊を以って拠点としております」
「勝算は」
「先のC.E.70年5月30日に起こった スエズ攻防戦において、ザウートを中心としたザフト地上戦力打撃を受けております。残った兵力の中で良質な物はビクトリア攻防戦に参加、そのまま現地に留まっております。バルトフェルド隊を破れば北アフリカは我らの手に奪回できましょう。北アフリカを奪回できれば、スエズを奪回する事はさして難しい事ではありません。ザフトの奴らの連絡線を断ち切る事ができます。そして、北アフリアを奪回した貴隊にはザフトが攻めあがった道をそのままそっくり」
「ビクトリアまで攻め上がると。了解した」
兄部一佐は頷いた。
「で、現地の協力勢力は……?」
「はい、 アフリカ共同体の勢力は西アフリアを保持、ジブラルタルと相対しております。リビア付近では『明けの砂漠』と言うレジスタンスが活動しておりますので、まず彼らと協力してもらう事になるでしょう」
私は笑みを浮かべた。
「彼らのリーダー、サイーブ・アシュマン氏は父の古い友人ですわ」
「おお!」
「なんと!」
「誓って、北アフリカからザフトを駆逐致しましょう。皆さん協力してくださいましね?」
「「はっ!」」

 
 
 

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