R-18_Abe-SeedDestiny_安部高和_10

Last-modified: 2007-11-06 (火) 21:36:12

JPジョーンズ、学習室。
自習の時間という事で、ファントムペインはお勉強に励んでいた。
「鎌倉幕府成立は・・・へっ、楽勝だぜ!いいくに作ろう鎌倉幕府ってな!1192296年、と」
このように、スティングは真面目に勉強しているが、
「あはははは!」
アウルはソファーに寝そべって漫画を読んでいた。
「アウル!ちったぁ真面目に勉強しやがれ!!」
「そんな事よりスティング。なんで漫画の野球部って坊主じゃねぇんだろうな?」
「みんな坊主だったら書き分けに苦労するじゃねぇか!あ○ち充辺りがみんな坊主にしてみろ!?
ヒロとたっちゃんの区別なんて付きやしねぇ!」
「ふぅん。僕はみなみとひかりの区別も付かないけどね」
「んな事より早くドリルを終わらせやがれ!終わらねぇとプリンを食いっぱぐれるぞ!」
「そういう時のための『別冊:答え』ってね!」
「こういう時のためにネオはおまえのドリルから答えを抜いておいたんだぞ?」
「マジかよ!やっべぇ!!」
慌ててドリルに取り掛かるアウル。課題を終わらせなければおやつのプリンは貰えないのだ。
「時にアウル。ステラはどこ行った?」
「知らねーよ。便所じゃねぇ?」
ステラは20分ほど前にここを出てから、まだ戻ってなかった。
「ったく、あいつはどこで油を売ってやがる・・・!」
「・・・・・・噂をすれば影ってね」
学習室のドアが開き、ステラが部屋に入ってきた。
「おいステラ。どこ行ってた?」
「おなか・・・・・・いっぱい・・・・・・」
しかしスティングの問いには答えず、ステラはソファーにぼふっと突っ伏した。
「いいのかよステラ。これ終わんないとプリン貰えないんだぜ?」
「・・・・・・いや、ちょっと待て」
(L) ゆさぶる
「おいステラ。その口元に付いてる黒いのはなんだ?」
「黒いの・・・・・・?」
そう言ってステラはその黒いのを指でとり、ぺろっと舐めた。
「甘い・・・・・・」
「甘いだと・・・!?」
(L) ゆさぶる
「おいステラ。おまえ今までどこ行ってた?」
「・・・・・・食堂」
「・・・食堂って言やぁ、プリンが保管されてる冷蔵庫があったな・・・」

「なぁスティング。何がどーなってんだよ」
「ステラの口元に付いてたアレはな・・・・・・おそらくカラメルソースだ」
「なにィッ!?・・・って、からめるって何?」
「馬鹿野郎!カラメルってのはなぁ・・・・・・プリンの底にあるあの黒い野郎だ!」
「ってコトは・・・・・・あいつ、プリンを食ったってのか!?」
「ああ・・・間違いねぇ」
「んだよズリーなぁ!ドリル終わんなきゃプリンを食っちゃいけないんだぞ!!」
「いや、問題なのはそんなんじゃねぇ・・・・・・」
「どーゆーコトだよ」
「あいつ言ったよな・・・・・・『おなかいっぱい』って」
「・・・ああ、そう言えば・・・・・・って、まさか!?」
「まぁ待て。確かめてみる」
(L) ゆさぶる
「おいステラ。おまえプリン食べたな?」
「・・・・・・うん」
「・・・・・・何個食った?」
「・・・・・・みっつ」
「――!?」
三つ・・・・・・言うまでもなく、スティング、アウル、ステラの分である。
ちなみにネオは自室の冷蔵庫にて自分のプリンを保管している。
「てめぇ!僕のプリン食べやがったな!?」
「こいつ・・・・・・許しちゃおけねぇぜ!」
(R) ぶち殺す
「さぁ・・・パーティーの始まりだ!!」
そして、三人の取っ組み合いのケンカが始まった。

「おーいおまえら。はかどってるか?」
学習室のドアを開けるネオ。
その瞬間、ネオの額に鋭利なシャープペンシルが突き刺さった。
「おほっ!?お、おふぉっ!!?」
悶えつつネオはそれをスポンと引っこ抜き、部屋の中の様子を窺ったところ――
「な、何やってんだおまえ達は!?」
そこは戦場だった。文房具は散らばり、壁には穴が空き、まるでいつかのガストのようになっていた。
その中心に、くんずほぐれつな状態の緑、青、黄色の姿があった。
「おいやめろ!何があったんだ!!?」
「「ステラが俺らのプリンを食った!!」」
ステラを掴みつつ叫ぶ二人。ブロックワードを言ったため、ボコボコなのはスティングとアウルだけだった。
「プリンって・・・おいおい、そんな事でケンカしてんのか?器が小さいんじゃないか?」
――ギロリ×2
「に、睨むなよぅ!分かった、俺が買ってきてやるから!!」

JPジョーンズ、MSデッキ。
「おや?出撃かい?」
壊れたカオス、アビス、ガイアを修理しつつネオに声をかける阿部。壊れたのは昨日だが、三機の修理は
ほぼ完了していた。
これも自動車修理工の為せる業、である。
「いや、まぁちょっとな。ちょっくらオーブのコンビニ行ってくる」
そう言ってネオは、『調整中』のプレートを乗り越えて、紫色のウィンダムに乗り込んだ。
実は調整中でもなんでもないという事は、もはや周知の事実だろう。
「こんな時にかい?」
「まぁな。父親役ってのも、色々と大変なんだよ」
「よく分からんな。ついでにまるごとバナナを頼む」
「・・・・・・後で金払えよ?」
そして、紫のウィンダムはJPジョーンスから飛び立った。

オーブの艦からの砲撃を受けて、ぼろぼろになったウィンダムが帰ってきたのはすぐ後の事だった。

と、アットホームなJPジョーンズとはうって変わって、ミネルバ。
「ハイネ隊長は重傷、アスカ隊員も精神に深い傷を負いました・・・」
ミネルバの軍医が、隊員にそう告げた。
「隊長はともかく、シンは心配ね・・・・・・」
「くそっ、ハイネ隊長はどうでもいいとして、まさかマユ・アスカにあのような事があったとは・・・!」
「キラ・・・」
パイロット達は自身の思いを呟いた。
要約するとシン超心配、キラきゅん・・・である。ハイネは?
「それでハイネ隊長の事なのですが・・・・・・尿を尿瓶に取らなければならないのですが、
それをアスカ隊員にやってもらいたいと言っているのですが・・・」
「シンは・・・今はとても無理よね・・・」
「仕方ありませんね。自分が行きます」
「あ、ありがとうございますバレルさん・・・・・・って、なんでハサミを持っているんですか?」
「決まっています。・・・・・・獲りに行くんですよ」
「キラ・・・・・・って、レイ!」
ハサミをちょきちょきさせつつ医務室へ向かうレイを止めるアスラン。
「なんですかアスラン?止めるのですか?」
「そうじゃない!・・・・・・これを」
そしてアスランは、ずっしりと重いナイフをレイに渡した」
「玉ではなく・・・・・・命(タマ)を獲ってこい」
「アスラン・・・・・・誰が上手い事を言えと言いました?」

ミネルバ、シンの自室。
部屋の明かりを点けもせず、シンはベッドの上でうずくまっていた。
手にはピンクの携帯電話。鳴らない電話を握りしめ、シンは思いに沈んでいた。
「マユ・・・・・・マユ・・・・・・」
反芻されるマユの言葉。
――お兄ちゃんなんか大っ嫌い!
思い出すたび、シンの体がびくっと震えた。
「・・・・・・あの白い奴・・・・・・あのサッカー部・・・・・・」
そしてシンは、フリーダムに対する憎悪を深めていった。

アークエンジェル、桃色の間。
資料を読みながら、ラクスは苦々しく呟いた。
「あのパイロット・・・情報とは違いますわね」
ラクスの入手したインパルスのパイロット――シンの情報は、別段取るに足らないものだった。
赤の名に恥じない優秀なパイロット・・・ただそれだけで、特別な何かを持っているという事ではなかった。
しかし先日のあの動き・・・・・・キラをも圧倒するあの動きは、ラクスはにわかには信じられなかった。
「やはり洗脳状態では力が出せないのでしょうか・・・?」
ラクスの施した洗脳により、キラはラクスの操り人形になっていた。ラクスの言葉にはサー、イエッサー、
逆らう意思など持たず、むしろ考える意思すら欠如していた。
「それじゃあ仕方ありませんわね・・・・・・」
そしてラクスはある結論を出した。
「今のでダメならもっと洗脳してしまいましょう♪」
そもそも勘違いでボコされた、不幸なキラ・ヤマト。
彼の悪夢はまだ終わらなかった・・・

どんな心理状態でも腹は減る。
シンはゾンビのような動きで食堂にやってきた。
「あ、シン!こっちよ!」
ルナマリアが手招きする。シンは聞いているのか聞いてないのか分からないような表情で、
しかしルナマリアの座るテーブルに着いた。
「シン・・・・・・あのさ、元気出してよね?」
「・・・・・・」
ぼけーっとしつつラーメンをすするシン。もはや味すら分からないような状態だった。
と、その時、食堂に設置されたテレビから声が聞こえてきた。
『ゴール!ゴルゴルゴーール!アプリリウス代表のレイ・ユウキ選手、ハットトリック達成です!』
「――!?」
するとシンはがたっと立ち上がり、次の瞬間テレビは破壊された。
「し、シン!ちょっと・・・!」
「サッカーなんて・・・サッカーなんて・・・」
テレビの画面には割り箸が突き刺さっていた。シンが投げたやつだ。
「ちっくしょぉぉぉぉぉぉぉ!!」
吠えるシン。食堂の誰もが言葉を失った。
と、そんな空気の中――
「ようシン!こんな所にいたのか!」
空気の読めないお人、ハイネ・ヴェステンフルスが食堂にやってきた。体中包帯だらけで、松葉杖なぞを
ついてらっしゃった。
「いやぁシン、聞いたぞ?大活躍だったんだってな!」
四行で阿部とステラに蹴散らされたため、ハイネは詳しい事情を知らなかった。

「もしかして、俺のため?はは、なんつってな、ははは!!」
ばしばしとシンの肩を叩くハイネ。食堂のみんなが避難を開始した。
「それより聞いてくれよシン。レイの奴がな、俺の息子を切ろうとしたんだぜ?はは、参っちゃうよなぁ!だって
俺の息子はさ、おまえのためにあるんだからな。・・・なんつってな、はは!」
ばしばし!
「・・・・・・」
コック達も避難を開始した。
「お、そうだシン!風呂入ろうぜ!ん、俺か?俺は大丈夫、ほらこの通り・・・・・・い、痛くもなんともないぜ?」
脂汗を流しながら言うハイネ。彼の執念がそうさせた。
「さ、何してんだ、早く行こうぜ?・・・・・・っと、そういやこの時間はサッカーをやってるはずだな。ありゃ?テレビ
が壊れてる・・・じゃあ仕方ない。シン、俺の部屋でサッカー見ようぜ?」
「――!!」
ハイネ隊長は地雷をお踏みになられました。どんな地雷かって言うと、N2地雷並。
「おまえも・・・・・・」
「ん、なんだ?聞こえないぞ?」
「おまえも・・・・・・サッカー部かぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「え、ちょ、何コレうわらば!!!??!?!?!?」
そして、ハイネの療養期間が延びた。

ミネルバ、アスランの部屋。
彼もまた、思いに沈んでいた。
「キラ・・・・・・」
それはもちろんキラの事。昨日のフリーダム介入事件で、アスランのある決意が固まりつつあった。
「・・・・・・なら脱走するしかないじゃないか!」
アスランのお家芸、脱走。脱走とはもちろん悪い事であり、もしまたザフトを脱走したら今度こそデュランダル
議長に身柄を拘束されてしまうだろう。
「仕方がないんだ!・・・・・・だってキラがいるんだもん」
恋するアスランは切なくてキラを想うとすぐ脱走しちゃうのだ。
「よし、そうと決まれば善は急げだ!アスラン・ザラ、ガズウート出るっ!」
そしてアスランは、整備クルーの目を盗んでガズウートでミネルバを発った。
そして数時間後――
「・・・・・・どこ?」

ベルリン市街を走る、迷子の迷子のガズウートが市民の目に晒された。

某国、ジブリール邸。
『しっかしまぁ・・・よくもこんなトンデモナイ物を用意しましたね・・・』
モニターには仮面を被った男、ネオ・ロアノークの姿。
ジブリールは、ネオとお仕事の話をしていた。
「いやいや、ロゴス脅威のメカニズム、だよキミ」
そう言ってジブリールはニヤっと笑った。
彼はいつまで経ってもうだつの上がらないファントムペインのために、あるMSを用意させていた。
『ですがねぇ・・・・・・コレ、ヘタすると町一つが吹き飛びますよ?』
「戦争と犠牲は切っても切れぬ仲・・・・・・分かるかね?」
『まぁ、一応は軍人ですから・・・』
「ならば話は早い。コレを使ってザフトの犬共を駆逐するのだ!!」
ジブリールは、逮捕されたムルタに代わってブルーコスモスを纏め上げるお人だった。
故に彼も、コーディネーターが憎くて憎くて仕方がなかった。
「そう・・・・・・思い出すのも忌まわしい、ツナギを着た少年。彼のおかげで私は・・・・・・くくっ」
『あれっ?どこかで聞いた事があるようなその境遇・・・』
「とにかく!貴様はこれを使ってザフトの犬畜生共をデストロイするのだ!!」
『了解しました。ザフトの子猫ちゃん達を可愛がってしんぜます』
「バカモノ!コーディネーターを猫に例えるでない!!貴様のそのネコっぽい仮面は偽りか!?」
『す、すいませんっした!それでは失礼しまっす!』
ネオの顔がモニターから消えた。
「くっくっく・・・・・・目にモノを見せてやるわ、犬共め!」
黒ぬこを撫でつつ、別の画面に映ったMSの姿を見遣る。
GFAS-X1 デストロイガンダム
連合の切り札とも呼べるその悪魔のMSが、ベルリン市街に光臨する。
――ちなみに、足の裏には『MADE IN PINK』と書かれていた。

ベルリン市街。
そこには、通常のMSを遥かに上回る大きさのMSが鎮座していた。
『あーあー、てすてす。ザフト軍のみなさん、至急降伏してください』
その横、紫色のウィンダムは、ザフト軍に向かってそう通告した。
現場で指揮を執るべく、ネオはMSに乗っていた。JPジョーンズとは距離が離れすぎているため、
これも仕方のない事だった。
デストロイの周囲には、お馴染みとなった大多数のウィンダム、それにインモラル、カオス、アビスの
姿があった。それぞれには阿部、スティング、アウルが搭乗している。
そしてステラはどうしているかと言うと――
『うぇ~いぱりぱりぱり』
デストロイ様に乗っていた。ステラは暇そうに、さっきそこのコンビニで買ったポテチを食べている。
そして手を拭かずに操縦桿をべたべた触るモンだから、操縦桿は油でぬるぬるしていた。
ポテチを食べた手で人の家のコントローラーを触る奴は頭を丸めた方がいいと思うの。
ネオの通告に、ザフト軍基地の司令官はこう返した。

『ばっきゃろー!こっちだって遊びでやってんじゃねぇんだ!素直に「はいそうですか」と頷けるか!!』
彼らの意思は徹底抗戦だった。大方デストロイをエウティタのサイコと同じと思っているのだろう。
冗談ではない。コイツは化け物だ。故に俺はデストロイ様が二機出てくるステージでいつもやられるのだ。
『ったく、しょーがないねぇ・・・』
ネオは呆れつつも、MS部隊に命令を下した。
『んじゃ各員、戦闘開始だ。民間人の避難は完了してるから、まぁ慎ましく攻撃を開始してくれ』
そして、両軍のMSが互いに火花を散らした。

「シン・アスカ、コアスプレンダー行きます!!!!!!!!!!!!!!」
ミネルバからもMSが発進した。
メンツは初期のミネルバ隊・・・シン、レイ、ルナマリアである。
ハイネは重傷、アスランは脱走中である。
『今回は敵も味方も酷い数ね・・・』
『数など問題ではない。真に恐ろしいのはあのMSだ』
デストロイガンダム。巨体に相応しく火力も凄まじく、そしてその巨体をカバーすべく全身にバリアが張られていた。
少なくともバビじゃあ太刀打ち出来ません。
『俺達の任務はあのMSの無力化だ。他に目はくれるなよ』
『了解!ま、あれだけ大きかったら誤射なんてしないわよね!』
『そう願いたいものだな』
そしてルナマリアはオルトロスを放った。
ディンが落ちた。

「おまえもサッカー部かぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
『ぬわーーーーーー!』
ウィンダムを斬り裂くフォースインパルス。
「そしておまえもかぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
『ぬわーーーーーー!』
今のシンには、敵全てがサッカー部に見えていた。
「こいつらをみんな落とせば、俺のマユは!!」
最初からぱりーん状態のシンには、ウィンダムなどもはや物の数ではなかった。
「次!!」
そして次の獲物を探すシン。
「次はおまえだ肉色ぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
そしてシンは、次なる獲物――インモラルへと突進した。

「戦争なんてくだらねぇ!俺にシリを貸せぇぇぇぇぇぇぇ!!」
『ア ッ ー !』
肉色の彼も、シンに劣らぬ勢いでMSを次々と堕としていった。
インモラルのいる場所、即ち是ハッテン場也。高尚な僧侶が後に書いた言葉である。
『阿部てめぇ!人の獲物横取りしてんじゃねぇ!』
『そーだよ!僕なんてこの前瞬殺されたからしばらくMS落としてねぇんだからさぁ!』
『俺としちゃあ、ありがたいんだけどな』
カオス、アビス、紫ウィンダムも阿部に続いていた。デストロイの傍は色々と危険なためだ。
「獲物は与えられるモノじゃない・・・・・・奪い取るモノ、だぜ」
『・・・・・・。一理ある』
『納得してんじゃねーよ!』
『阿部。良かったら俺の獲物も奪ってくれていいぞ』
「そのつもりさ、ネオ――っと!?」
あり得ない角度からのビームライフル。
『サッカー部、死ねぇ!!』
そして、それを放ったMSが阿部の元へ接近してきた。
「ひゅう♪ようやくメインディッシュのお出ましだ!」
『させねぇぜ!獲物は奪い取るモノだったなぁ!?』
『おまえが言ったんだからな、阿部!』
『やばっ逃げよ・・・』
迎え撃つ構えの阿部を差し置き、そのMSに向かうカオス、アビス。そして背を向け逃げる紫ウィンダム。
『おまえ達も・・・・・・おまえ達もーーーッ!!!』
しかし相手はぱりーん状態のシン・アスカ。
『ぐわぁぁぁぁぁぁ!』
『なにィィィィィッ!!?』
まるでウィンダムさながらに、描写すらカットされて瞬殺されたカオスとアビス。逃げたネオは実に賢いと言えるだろう。
「ひゅう♪やるじゃないの」
『うおぉぉぉぉぉぉ!!』
インモラルに切りかかるインパルス。
かつての恩人は、今や憎きサッカー部員となっていた。

結論を言うと、デストロイ様は無敵だった。
相手の射撃武器は全て陽電子リフレクターに弾かれ、接近する者には容赦のないゲロビームが見舞われる。
『なんだ、こいつは!?』
『ちょっとコレ、冗談じゃないわよ・・・!』
ザフトの赤服二名も、デストロイに決定打どころか掠り傷すら与えられなかった。
「うぇ~い」
当のステラはお気楽極楽、ボタンをぽちっと押すだけでシャレにならないビームが敵機に向かって飛んでいく。
まさに押すだけ簡単操作。主婦の皆様も気軽に運用出来ます。
デストロイ量産のあかつきには、マジでザフトは終わるかもしれなかった。

そしてその他大勢。量産メカ達はぺちぺちと交戦していた。
『でゅくし!』
『いてっ!?てめぇこの、でゅくし!』
まるで紙芝居のような生温い戦局の中、またしても彼が舞い降りた。
「こちらはキラ・ヤマト。みなさん、戦闘を中止してください」
フリーダムに乗った少年、キラ・ヤマト。再洗脳のおかげで目は更にヤバくなっていた。
ある意味一番の戦争の被害者である。カワイソス。
しかしそれでも我らがキラ様、器用にMS達の武器を剥ぎ取っていった。
あっちゅー間にカタは付き、そしてキラはこの戦場で一番デストロイなされているMSへと機体を疾らせた。

アークエンジェル、ブリッジ。
「ローエングリンてー」
「しかし艦長!あのMSには一切の武器が通用しないのですよ!?」
「それでも撃つしかないっしょ。んでエネルギーが切れたらさっさと帰ればいいんだし」
「艦長!仮にも戦闘を指揮する者がその様子では士気に関わります!」
「士気でどうにかなるもんじゃないっしょ」
マリューの言うとおり、あのデストロイは士気云々でどうにかなるようなシロモノではなかった。
「ナタル様。砲撃の手を緩めてはなりません」
「ラクス嬢!しかし!」
「勝てないと理解しているからこそ、我々は撃たねばならないのです。あれを討てるのは我々だけなのですから」
「無謀過ぎます!ここは救援を待って――」
「いいえ。それでは遅いのです。あのような悪魔はすぐにでも葬り去らなければ、いずれ世界は滅びるでしょう」
「ま、まぁアレが量産されたら本当にそうなりそうですけど・・・」
「ですから撃ち続けるのです。きっと神が我々に光明を授けてくださいますわ」
神頼みの構えのラクス様。しかしもちろん、ラクス様が神になど頼るわけはなかった。
「無敵の無敵のデストロイ様。しかしそんな彼もあら不思議、このスイッチを押してしまうと――」
誰にも聞こえないように呟き、手元のスイッチをぽちっとな。
「――無敵の防壁が消えてしまいましたとさ、ですわ♪」

「ぐうっ!?なんだ――!?」
突如デストロイに異常が起こった。
今まで屁とも思わなかった敵機の砲撃が、デストロイ本体に当たるようになっていたのだ。
バリアを剥いでしまえばデストロイ本体にダメージが来る。いくら通常のMSよりも遥かに厚い装甲を持つデストロイでも、
数撃たれれば撃破されるのは明白だった。
『今だルナマリア!敵機は何かトラブルに見舞われたらしい!』
『OK!いくわよ!』
そしてデストロイに砲撃をかけるルナマリア。
『ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』
傍をうろついていたガズウートに直撃した。
『・・・ん?今の声、まさか・・・』
『・・・・・・アスラン先輩?』

――俺はキラを求めてここベルリンまで来たんだ。
――え?ここにキラがいるのかって?べ、別に迷ったワケじゃないんだからなっ!
――そしてしばらく彷徨っていると、何故か戦闘が始まったんだ。しかもなんかヤバイMSまで出てくる始末。
――だけど俺、そんな状況なのに思わずガッツポーズをとったんだ。
――何故かって?だってホラ、キラはいつも戦場に現れるじゃないか。
――だから俺はキラを探し求めて戦場を駆けていたのさ。
――だけどまさか、あんな事になるなんて・・・
『キラはどこだぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』
――ルナマリア・・・おまえは、俺の・・・!!

「艦長!敵機のバリアが解かれました!!」
「おっけー。んじゃ、ロー――」
「ローエングリン、スタンバイですわ!!」
マリューを制し、命令を下すピンク様。
「わたくしの一撃で、あなたを葬り去って差し上げますわ!!」
全MSに回線を開き、ラクスはそう叫んだ。
――悪逆非道、傍若無人、無敵のデストロイを葬り去る桃色の女神の誕生ですわ♪

「あれは・・・!」
アークエンジェルの足の部分から突き出た砲身。
ネオがフラガだった頃に何度も見たあれは、AA必殺のローエングリンだった。
『ネオ!このMS、なんかおかしい!!』
ステラからの通信。デストロイの方を見ると、無敵のバリアが消失していた。
「こりゃヤバイ!阿部、ここは任せた!!」
インパルスと交戦する阿部に、ネオはそう告げた。
『了解、っと。しっかし大変だね、父親役ってのも』
「悪くはないと思ってるんだがねっ!」
そして、ネオの駆るウィンダムはデストロイの方へ向かった。

「うあっ!!?」
デストロイは、ついにその膝を地面につけた。
「くそっ、こいつ、動け!!」
がちゃがちゃと操縦桿を操作するも、既にデストロイの足はその機能を失わせていた。
『よーし、そろそろとどめよ!!』
『――!?退け、ルナマリア!!』
『なんでよ!?』
『戦艦の主砲だ!巻き込まれるぞ!!』
『ま、マジ!やばっ!』
白ザクを筆頭に、デストロイ周辺にいたMSは次々と退いていった。
「・・・・・・?」
退いていくMSを不審に思うステラ。
しかし次の瞬間、今まさに撃ち出されんとする戦艦の主砲が目に映った。
「――――」
そして声を上げる間もなく、その主砲はデストロイのコクピットに向けてレーザーを放った。
「・・・・・・!!」
目を固く閉じるステラ。おそらくあと刹那で自分の体は蒸発するだろう。
「・・・・・・?」
しかし、いくら待ってもその時は訪れなかった。
そしてステラが恐る恐る目を開いた時――
そこには、紫色のウィンダムの背中があった。

ネオの駆るウィンダムは、ネオ用にカスタムされているため通常のものよりもパワーアップしている。特に機動力は、
従来のものとは比べ物にならない。
しかしそれでも所詮はウィンダム。その装甲は脆く、むしろ機動力のためにいくらか装甲を犠牲にしてまでいた。
故に、このウィンダムは被弾が許されない。敵機のビームライフルは元より、ガズウートの機関砲でも致命傷を
貰ってしまうほどなのだ。
――しかし今。ネオのウィンダムは、それらを遥かに上回る威力を持つ戦艦の主砲を受け止めていた。
本来ならば瞬く間に蒸発させられるはずの、そしてステラに向けて撃たれたその主砲を、ネオはせき止めていた。
『ネオ!ネオ!!』
ステラの声が聞こえた。喉が枯れんばかりの、必死の叫びだった。
ウィンダムの体は既に崩壊しかけていた。あと数秒の後、ウィンダムは爆散するだろう。
しかしネオはそんな事は気にも留めずに軽く笑って、そして背中のステラにこう告げた。

「ステラ・・・知ってるか?俺はな・・・・・・不可能を可能にする・・・男なんだぜ・・・?」