SCA-Seed傭兵 ◆WV8ZgR8.FM 氏_古城の傭兵(仮)_第10.5話

Last-modified: 2009-09-24 (木) 00:24:06

暗黒の宇宙空間。
星光が照らすその空間を、星よりも更に眩い光が駆け巡っていた。

 

『撃て! 撃ちまくれぇッ!』
『相手はたった一機なんだぞ! たった一機のモビルスーツとナチュラル一匹に……!』
『ゼノン撃沈! ゴルギアス航行不能! モビルスーツ隊、損耗率50パーセント突破!』

 

地上のとある基地への襲撃を切欠にして、三度起こった地球=プラント間の全面戦争。
開戦から数ヶ月が過ぎた現在、数度の壊滅的災害を受けた地球とプラントの戦力は拮抗し、
衛星軌道上や地上、旧オーブ周辺海域などの激戦区では膠着状態が続いている。
それを打破すべく提案されたザフトの作戦行動として、
地球連合軍の再建された月基地の攻撃に向かって進軍していたザフト軍艦隊。
その艦隊と急襲した機体とが交錯していた。
『こちらエピクロス! 敵機が、敵機がこっちに――』
悲鳴のような言葉を最後に、その機体の右手から放たれた巨大な光弾に艦橋を抉り取られたナスカ級が
つづけて放たれた十六条のレーザーの直撃を受け火球に変じる。
数秒で撃沈された母艦から蜘蛛の子を散らすように逃げ出したザクが、
再び放たれたレーザーに貫かれ四散した。

 

『ナスカ級撃破。残り4』
「よし、次だ」
縦横無尽に暴れまわるその黒い機体の股間といういささか如何わしい部分に配置されたコクピットで、
少女のような声とそれに対応するシン。
現行のモビルスーツの物とは大きく異なった内装の中、
シンの纏った地球連合軍のパイロットスーツが際立つ。
『敵母艦よりモビルスーツ出現。ザク、グフの混成です。数6。ホーミングミサイルの使用を提案
「了解。切り替えと制御を頼む」
『はい』
少女の言葉をシンが肯定し、一拍置いて黒い機体の後ろにミサイルが浮かび上がり、飛び出す。
少女――レプリカAI『DELPHI』の制御下に置かれているそれらは
シンの機体に向かってきていたザクとグフの混成部隊へと襲い掛かる。
先頭の一機が慌ててスラスターを噴射するが間に合わずに次々と直撃し、六つの光が輝いた。
シンの口元が吊り上るが、直後のDELPHIの言葉によって掻き消された。

 

『モビルスーツ撃破。敵母艦よりモビルスーツ出現。数23。きりがありません』
「数ばかりいたって!」
『戦いは数です
物量では現在私たちが圧倒的に不利ですと続けたDELPHIが、息継ぎをするように言葉を置いた。
何を言うのかとシンが身構えるが。

 

『ですが、圧倒的な戦闘能力を有した者の一は弱兵の千にも値します。
 今回の場合、むしろ不利なのは相手の方です』

 

急に柔らかくなった口調にシンが一瞬固まる。
思わず操縦の手を止めてしまうほどに。
シンの動揺を感知したのか、DELPHIが更に続けて言う。

 

『オリジナルアヌビスに搭載されていた「私」のことは判りませんし、
 レプリカ、つまり今の「私」にとって男性のランナーは貴方が初体験ですが、
 それでも貴方が私にとっては最高のパートナーであると理解できました。 
 最初に搭乗した年増もそれなりでしたが、戦闘機動の際喘ぐのが煩かったですし……
 貴方の単体での戦闘能力は最高クラスです。
 その貴方が、レプリカとはいえアヌビスと私を駆っているのですから負けるわけがありません』
柔らかな口調で紡がれ続ける言葉。
『それとも』
この私の貴方への評価は過大なものでしょうか、と少し気弱な調子で締める。

 

メインモニターを見つめていたシンの赤い瞳が輝いた。

 
 

それとほぼ同時、ナスカ級から出撃したモビルスーツ隊が、動きを止めたアヌビス=レプリカに近付いていた。
その先頭を進むドムのパイロットである男は憤っていた。
本来ならば今頃は衛星軌道やアルテミス周辺に戦力を集中させた為に無抵抗の月基地を蹂躙し、
その行動がプラントの勝利へと繋がって自分たちは英雄になっていたはずなのに、と。
だが、現実は未確認の機体の横槍を食らい、気がつけば艦隊の半数の艦が沈められ、
モビルスーツ隊も半分ほどまで減っている。
何よりも、ナチュラルが――少なくとも彼らの認識ではそうなっている――自分達の機体よりも
高性能な機体に乗っていることが腹立たしかった。
「……各機、警戒しつつ包囲しろ。何時動き出すかわからんからな……」
それなりに優秀だった彼は、現在のザフトにおける指揮のセオリーとなっている
『警戒しつつ云々』の指示を出してよりアヌビス=レプリカへと接近する。
もしも先ほどまでのありえない機動のGによってパイロットが気絶、またはショック死しているならば
捕獲して持ち帰ろうと考えたゆえに。
が、ギガランチャーを持っていない左手でその胸部に触れようとした瞬間、

 

『私に汚い手で触らないでください』

 

コクピットに少女の声が響き、アヌビス=レプリカのウアスロッド=レプリカを握っていた左手が一閃、
ドムの左手が肩口から切り落とされた。

 

突然のことに驚愕し動作を完全に停止させたドムに向かって放たれたゲイザーが直撃、
機体の駆動機関を麻痺させ、更にアヌビス=レプリカの背部に展開されていたウィスプが襲い掛かる。
パイロットの彼が意識を戻した瞬間ドムをウィスプが捉え、アヌビス=レプリカの右手へと引き寄せた。
「な、な……放せ! 放せぇっ!」
叫びを上げてスイッチやトリガーを操作するが、ドムは何の反応も示さない。
やがてドムのモノアイから光が消え、右手に握っていたギガランチャーがその手を離れ、漂う。
コクピットの照明や表示も次々と消え、メインモニターだけが残る。

 

『隊長? 応答を!』
『なにやってんだよあんたは。遊んでんのかぁ?』
左腕を切断された上に無抵抗で敵機の右手へと収まった隊長機に流石に異変を感じたのか、
周囲を囲んでいた彼の部下たちが集まり始める。
その通信が聞こえているのかいないのか、唯一残った光源であるメインモニターに映ったア
ヌビス=レプリカの犬に似た顔を見ていた彼が、悲鳴を上げた。背筋を悪寒が駆け抜ける。
「お前ら、すぐ離れろッ! こいつは何か――!」
その悪寒のままに指示を叫んだ瞬間、彼は激しい振動と凄まじいGの中に放り込まれた。

 

『お前ら、すぐ離れろッ! こいつは何か――!』
沈黙した隊長機から通信回線越しに絶叫が轟いた直後、
最も近付いていたガナーザクが横薙ぎに吹き飛ばされた。

 

紫と黒の鋼鉄――アヌビス=レプリカの右手に鷲掴みにされハンマーのように振り回されるドムに。

 

珍しく連携が取れていたのかすぐに横のスラッシュザクがフォローに回るも、
突っ込んできたアヌビス=レプリカのドムハンマーに両腕を叩き潰され沈黙した。
同時に、ドムの右手が圧し折れ明後日の方向に吹き飛んでいく。
格闘技のジャイアントスイングのようにドムを振り回しながら、アヌビス=レプリカが動き始める。
暴風のようなそれに巻き込まれ、次から次へとザクが、グフが破壊されていく。

 

「……なんで、ガキに、こんな動きが……」
『ガキじゃない! 俺はもう成人だ!』
「……もう一人!? 男女で二人乗りってお前!」
遺伝子操作で強化された三半規管さえ全く役に立たないほどの振動と衝撃に翻弄され続ける
ドムのパイロットの呻きに、シンが答える。
それによって更なる混乱を起こした彼に、DELPHIが追撃をかけた。
『だからなんですか? 複座なんて珍しいことでもないでしょう』
「な、なな……ふざけんな! 連合は何時からそんな羨ましい体制に……!」
『羨ましい、ですか……ええ、いいものですよ。運命の人と一緒に戦えるというのは』
『DELPHI?』
「……う、運命……畜生!」
絶望に染まったドムのパイロットが叫び、それと同時に最後の一機が下半身を横薙ぎにされて
あらぬ方向へと吹き飛ばされていった。

 

『敵モビルスーツ全滅。残存するナスカ級三隻ならびにエターナル級、後退するようです』
「逃がすかッ!」
ドムのパイロットが沈黙したのを良い事に冷徹な口調に戻ったDELPHIの言葉にシンが答え、
背部のウィスプを展開させて後退を始めたナスカ級とエターナル級に突進する。
エターナル級とナスカ級がそれぞれに装備された艦砲とミサイルで迎撃するが、
外れるものは無視し、当たりそうなものはドムで防ぎながら一直線に肉薄した。
「追いついた……食らえ!」
戦闘の余波を受けていたのか、一番足が遅かったエターナル級に追いつくと、
その後部ハッチにボロボロになったドムを叩き付けた。
レモンイエローに染められた装甲が大きく歪み、ドムがめり込む。

 

『ま、待てよ! そんな動きが出来るってことはあんたら二人ともコーディネーターだろ?
 だったら俺からラクス様かキラ様に――』
「残念ながら交渉の余地は無い。そういう契約だからな」
『そういうことです。あと、正確に言うなら私はAIですが、何か?』

 

な、と今一度ドムのパイロットが息を呑み、アヌビス=レプリカがエターナル級から距離をとる。

 

『目標、一直線上に並んでいます。ベクターキャノンの使用を提案』
「よし、切り替えを頼む」
『――ベクターキャノンモードに移行 』
DELPHIの台詞と同時にウアスロッド=レプリカをベクタートラップに収納したアヌビス=レプリカの
背中から全身を覆うようにパーツが現れ結合し、巨大な砲身が姿を現した。
後部を映すモニターをみたエターナル級のブリッジが、恐怖の叫びに包まれる。
『エネルギーライン、全弾直結』
『待ってくれ! お前、まさかAIとそういう関係だってのか!?』
スラスター光を反射して禍々しい輝きを放つそれ――ベクターキャノンに、光が宿り始める。
もはや恐怖が麻痺しているのか、ドムのパイロットが上ずった声で呟いた。
『ランディングギア、アイゼン、ロック 』
アヌビス=レプリカの脚部からアンカーが伸び、手近にあった大型の残骸に固定された。
「だったら、どうした」
『へ?』
『チャンバー内、正常加圧中……ライフリング回転開始』
シンの冷淡な言葉とそれに対する疑問の声を遮って、 DELPHIの言葉が続く。
ベクターキャノンに展開したライフリングが回転を始め、段々と加速していく。
チャージされたエネルギーが、光となってあふれ出す。

 

『――撃てます』
「AI萌えのォ……何が悪いぃぃぃぃぃ!」

 

シンの魂の叫びと共に放たれた光の奔流が、エターナル級とその前方を最高速度で航行していた
ナスカ級三隻を呑み込んだ。
そのまま遥か彼方まで伸びていく光は、やがてぼやけt

 
 
 
 
 

「――ん?」
机に突っ伏して眠りこけていた男が、薄らと目を開く。
暗闇の中、二、三回の瞬きを経てその銀眼がしっかりと見開かれた。
「……今のは夢。なんだ、そういうことか」
んん、と伸びをした銀眼の男が残念そうに呟いた。
机の上に乗った照明のスイッチを入れ、今しがた見た夢を愛しい物のように思い返す。
「ふぅむ、やっぱり寝る前にあれいじってた影響か……残念だな……」
ち、と舌打ちをした男がパソコンの上に置いてあった銀縁の眼鏡を掛け、
座っていた椅子に掛けてあった新品の白衣に袖を通す。
いやぁ。本当に残念だな、と呟きかけた口が、途中で止まる。

 

「待て、今何時――?」
少し引き攣った声で呟きながら電子時計のディスプレイを見る。
結果――午前七時三十八分。
何時もならばとっくに朝日が昇っている時刻。

 

何故、こんなにも暗いのか。
と、妙な気配を察した白衣の男が窓へと振り向いた。
剣呑な目つきになって左のポケットに左腕を突っ込み、
中の物――愛用の大型拳銃のグリップを握って安全装置を解除。
そのままそろりそろりと窓へと近付き、意を決してカーテンを開いて銃を構える。

 

目が合った。
「……総帥?」

 

窓を覆うようにして部屋を覗き込み、朝日を遮っている虚ろな眼窩――ハンドレッドブリッツと。
赤いラインが通り過ぎたそのカメラアイから声がする。

 

『主任……気がつかないとでもおもったのですか?』
「な、何がですか総帥」
『……先日のスパイについての報告を確認しました。私のモバイルも経由していたようですね』
「は、はあ……まさか!」
『そのまさかです。私のモバイルにもしっかり閲覧記録が残っていました…
 …何ですか、アヌビス=レプリカにプレリュードブリッツって』
未知の素材による高性能機はわかりますが、衛星と同サイズってどういうことですか。
そう続け、ハンドレッドブリッツが一歩下がる。
機体と窓の間に隙間が出来、朝日が部屋の中に差し込む。

 

『答えなさい。これらの設計や検証を繰り返していたせいで
 ネロブリッツⅢとそのパックの開発やレクイエムⅡの設計が遅延していたんですか?』
「そ、それは――仕方が無いじゃありませんか! 兵器の設計に携わった以上一度はこういった熱血系スーパーロボットを開発しt」

 

白衣の男が言い終える前に、窓にハンドレッドブリッツの左拳が飛びこんだ。
防弾ガラスを突き破り、壁を二枚ぶち抜いて停止する。

 
 

粉々になった窓ガラスに混じって、砕けた銀縁の眼鏡が血塗れで転がっていた。

 
 

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