SCA-Seed_19◆rz6mtVgNCI 氏_Episode ”S & R”_第04話分岐

Last-modified: 2009-03-11 (水) 21:09:53

第03話からの分岐バージョン
別名、ママン生存ルート

 
 

その日はごく普通の日であった。

 

ごく普通に勤めに出て、赤服として評議会に報告を行った。
航路の安全の重要性を訴えたが、現場を知らない高官が嫌な顔をしたのもいつものことだ。
そのあと同僚と部下の訓練計画を練って、友人と雑談をして帰路に付いた
世話になっている婦人の家に帰り、共に夕食を食べ、今日あったことを話し、ピアノを教わった。

 

そう、ごく平凡な日だったはずだ。

 

「畜生、あいつらは何だって言うんだよ」

 

少年は小さくぼやくと、黒スーツから奪った拳銃を確認する。弾丸はまだあるが……、
相手が何人いるのかわからない以上は無茶は出来ない。
あいつらは確実に、特殊部隊の連中だ。狙われる理由なら山のように思いつく。
ラクス・クラインやキラ・ヤマト、アスラン・ザラ。あるいはイザーク・ジュールは
こんな事を命じないだろうが、その周囲の人間は必ずしも聖人君子ではない。
それこそ、知り合いを自分に殺されたものも多いはずだ。
狙われるには十分な理由だろう。
MS偏重主義の蔓延したプラントの特殊部隊の質はお粗末も良いところだが、
それにしたって逃げるのにも限度はある。
頼りになりそうな知り合いのいる場所は確実に押さえられているだろう。
いや、自分ひとりなら何とかできる自信はあるのだが……。

 

「大丈夫ですか?」
少年はちらりと共に逃げている婦人を見る。
顔色は真っ青で、両手で身体を抱えるようにして震えている。
無理も無い、訓練された軍人ですら戦闘の緊張は精神を蝕むと言うのに、
いかにコーディネーターだとしても何の訓練も受けていない女性には辛いだろう。
とりあえず、安全なところに移動しなきゃならない……。
とはいえ、赤服とはいえパイロットに過ぎない自分では。
戦闘は何とかなっても逃げたり護衛をしたりは専門外だ。

 

そんな悩む少年をよそに、婦人は一つの決断を下した。

 

「貴方だけでも逃げて」

 

震えるような小声で、でもはっきりと婦人は少年にそういった。

 
 

コーディネーターが理性的で合理的というのは実は嘘だと、婦人も少年もよく知っていた。
むしろプラントにいるものの大半は、年長者との付き合いの経験が少なく、
どうしても我慢を知らない者やすぐに感情的になる者が多い。
だが、この時の婦人の判断は実に合理的な判断だった。

 

「シンくん、一人だけで逃げて」

 

そう、素人の自分を連れてはシンは逃げられない。
ただでさえ、閉鎖された空間であるプラントでの逃亡は難しいのだ。
ならば、二人死ぬよりシン一人で生き延びた方がよい。
なにより、これ以上大切な人を失う事に耐えられそうもなかった。

 

「何を言っているんだ、あんたは!!」

 

だが、合理的な思考が必ずしも正しいわけではない。
隠れているのにもかかわらず、少年は声を荒げる。言って良い事と悪い事があるのだ。

 

「だめよ、このままじゃ二人とも殺されるわ。せめて、貴方だけでも逃げて……」
「そんなこと出来るかっ!」

 

婦人がどう考えてるのか、少年だってわかっている。
たしかにこのままでは逃げられないかもしれない。

 

でも、だからといって婦人を見捨てられるか。

 

もうこれ以上大切な人を失ってたまるか!

 

「あんたは俺が守る! もう、俺の大切な人は奪わせない!」

 

少年は悲鳴を上げる。
なに一つ守れず、すべてを奪われた少年の悲痛な叫びに、同じくすべてを奪われた女は押し黙る。

 

わかるのだ、わかってしまうのだ。
自分も同じだから……。

 

だが、そんな二人はここが街中だということを失念していた。
路地裏にいた二人のもとに、その赤ら顔の男が近づいてきたのは偶然か、それとも必然か。
まるで場違いな暢気な声がその路地裏に響いた。

 

「おや、シンじゃないか。こんなところでなにやってるんだぁ!?」

 

その男、アーサー・トラインはやや酒臭い息を吐きなが現れたのだった。
ふと、少年の耳に、少し離れた場所で銃声が聞こえたような気がしたのは、気のせいだろうか……。

 
 
 
 

プラントにおいてシン・アスカは死亡扱いとなり、アスラン・ザラとメイリン・ホークを除く
旧ミネルバクルーにより葬儀が行なわれた。
ルナマリアなど同年代の旧クルーは彼の死を悲しんだが、その後は彼の名前を聞くことは無くなった。

 

そう、2年後に地球圏すらも巻き込む“シン・アスカの反乱”が起きるその日までは……。