SCA-Seed_SeedD After◆ライオン 氏_第04話

Last-modified: 2008-12-08 (月) 00:51:54

してやられた。
ゾロのパイロット、スズキは悪態をついた。
先ほどの一撃は完全に不意打ちだった。さらに着地の際に足場を踏み荒らしたせいで不安定になっていたこともあり、
性能がはるかに劣る旧式のMSに打ち倒されてしまった。
わき出る屈辱を理性で押さえつけ、スズキは機体を立ち上げる。
ゾロはしがみついたレイスタをものともせず立ち上がり、まるで猫目のようなカメラアイで一瞥した。

 

「そんなものでこの最新鋭の『ゾロ』に向かってくるとは……腕によほど自信があるのか? それともただのバカか?」

 

そこで安全装置を外したビームライフルの銃口を向ける。
だがそこでスズキは不審に思った。倒れこんだ後からレイスタは力なくうなだれており、一切の反応がないのだ。
スズキは駄々をこねる子供のようにしがみついているレイスタを力任せに引っぺがした。
すると機体は糸の切れた操り人形のように崩れ落ちた。胸部コックピットハッチが開いたまま。

 

「パイロットが……いない? フン。逃げ出したか。賢明な奴だ……」

 

そのときである。
「アンタか! こんなの乗って近所でブイブイ言わせてんのは!」

 

バシュウ、という空気の抜ける音ともにゾロのコックピットハッチが開いた。
そして、おもに工場で着るようなつなぎ姿の少女が入り込んできた。
不意の出来事にスズキは裏返った声を出してしまう。

 

「うぉ!? ハッチの故障か? というか貴様は誰だ!?」

 

驚きのあまりスズキは、外部レバーの存在を忘れていた。

 

「人がせっかく住んでいるのに、こんなとこで好き勝手やって!! とっとと帰れ!」

 

コックピット内の狭い空間でずい、とスズキに詰め寄る少女。燃え盛る炎のような怒りが紅玉の瞳に宿っていた。

 

「な、何を!! 貴様らナチュラルに神聖なるプラントを汚す資格はない!! 我々はそれを浄化するために……!」
「そんなたいそうな理由、知ったこっちゃないよ! そんなに暴れたいなら宇宙にいろ!!
 あたしはあんたを、ぶん殴りに来たんだ!」
「バカか、コイツ……!? ゲフッ!!」

 

その言葉に反応した少女はスズキの腹部に鉄拳を叩きこんだ。
そのとき、スズキは出撃前にシートベルトを締めすぎたことを後悔した。これでは避けようがない。

 

「バカって言うな!! お前らなんかがいるからぁぁ! 成敗!」
「下等な貴様ら何ぞに私が……はおっ!?」

 

少女の脚がスズキを蹴りつけた瞬間、素っ頓狂な声が上がった。
命中した個所は、股関節の間。つまり男性にとっては最大にして一生の弱点である。
よほど強く蹴られたのだろう。スズキは股間からのあまりの激痛に白目をむいて、がくりとうなだれた。

 

「どうだ! あたしのG・P・S(ゴールデン・プレイス・シュート)の威力! 参ったか!」

 

妙に勝ち誇った様子で少女は両手を腰に持っていき、高笑いを上げた。

 

(賢明な奴……? いや……こいつは……………ただのバカだ……)

 

かすんだ視界でそう罵ったのを最後に、スズキの意識は闇に堕ちて行った。

 
 
 

ガンダムSEED DESTENIY AFTER ~ライオン少女は星を目指す~
        第四話「G・P・Sとロケットパンチ」

 
 
 
 

「な、生身でMSに立ち向かうなんて……なんてやつだ!?」

 

率直な感想だった。
二機が市街中央の自然公園に滑り込んだ後、アレックスは見た。
倒れたレイスタの胸部から少女が飛び出し、そのままゾロのコックピットまでよじ登っていったのを。
慣れた手つきで外部レバーを操作し、少女がするりと入っていったのを。
確かに、あれだけのことをしたレイスタはもう使い物にならないだろう。その証拠に、レイスタの細い体躯の節々からは火花が瞬いている。
だがそれはあんな無茶をしてもいい理由にはならない。

 

『下等な貴様ら何ぞに私が……はおっ!?』

 

不意に外部に漏れた男性の奇怪な叫びを最後に、ゾロは沈黙した。がくりと垂れ下がるたくましい両腕。
最後の叫び声が少々気になるが、どうやら少女がゾロのパイロットを無力化したらしい。
いろいろ言いたいことはあったが、アレックスは素直に感謝した。

 

『坊ちゃん! ザラ坊ちゃん! 応答できますか!?』

 

突然スピーカーから飛び込んできた男の声にアレックスは反応した。
その声は心配でたまらないと言った声色だった。

 

「! 無事だったのか! そちらの状況は?」
『はい、今ミネルバの『鷹』が基地を襲撃している敵と交戦中です! 通信も今やっと回復しました!』

 

男の声には爆発音も交じっていた。どうやら戦闘がまだ続いているようだ。

 

「ミネルバの鷹……? おば――ルナマリア・ホークさんか!」

 

アレックスはふいに幼少期に『おばさん』と言って、ルナマリアにグリグリされたことを思い出した。

 

『はい、避難は日ごろの訓練のたまもので、ほとんど完了しています! 坊ちゃん!』
「なら俺は戦闘テストも兼ねて、こちらで敵と応戦する! チェストフライヤーとレッグフライヤーを!」
『そういうと思い、既に両方とも武装を施して射出しています!』
「了解した! 感謝する!」
『坊ちゃんもお気をつけて!』

 

そのとき、アレックスの視界に二機の飛翔体が映った。Uの字型の奇妙な形の物体と、MSの脚部のようなユニットである。
「チェストフライヤー……軸合わせ……よしっ」

 

それを確認したアレックスは機体を傾け、一度上空へ舞い上がらせた。そこへ基地から射出されたU字型の飛翔体がコアスプレンダーⅢに追いつく。
アレックスはそれらと相対速度を合わせ、この機体特有のシステムを起動させる。
コアスプレンダーⅢの機首が翼が折りたたまれる。
同一軸に並んだユニットからレーザービーコンが発せられ、アレックスはレバーを引いた。
一つのユニットに変形したコアスプレンダーⅢが他のユニットと接近し、ドッキングをした。
ジョイントの噛み合う音と振動が、操縦桿を持つ手にも伝わる。
はたから見ると、今のこの機体は『腕の生えた戦闘機』に見えるだろう。
そう、このコアスプレンダーⅢはただの戦闘機ではない。他の飛翔体も合わせて、モビルスーツのパーツの一つだったのだ。

 

「よし、チェストフライヤーとドッキング完了。次はレッグと……」

 

そのときだった。
つんざくような爆音がキャノピー内に充満した。
後部のレッグフライヤーが長射程のビームで撃ち抜かれたのがわかった。積み込んでいた推進剤に引火し、爆音が唸りを上げる。
視界の隅には背部ビームキャノンを構えたゾロが見える。

 

『そのタイプのMSは知っている! ドッキングなどさせん!』
「敵!? クッ、策敵が甘かったか……」

 

合体に気を取られすぎた己の失態を恥じながら、アレックスは墜落するコアスプレンダーⅢ
――今の半身が合体した形態はトップフライヤーと呼ばれる――を、市街中央の自然公園の森林区域に向けた。

 

地面と激突寸前に操縦桿を引きランディングギアを出すと、機体は激しくバウンドしながら大木の枝をことごとくへし折り、
森林区域にアレックスは不時着に成功させた。驚いた鳥たちが、木々の間から飛び立つ。
緊張した空気を逃がすためキャノピーを開き、嘆息して辺りを見回す。
すると、先ほど沈黙したゾロとレイスタが横たわっているのが見えた。

 

「あれは……さっきの……」
エメラルド・グリーンの目でそれを見たアレックスがそう思ったのもつかの間、通信機を手に取った。

 

「こちらアレックス。レッグフライヤーが撃墜された! 至急もう一機射出してくれ!」
『了解です! レッグフライヤー、スタンバイ!』

 

プツンと通信を切った後、機体後部でなにやらドスッ、となにやらのしかかったような鈍い音がした。
振り返ると、そこには、
「はじめまして。あたし、ステラっていうの! よろしく!」

 

短い金髪に紅玉の瞳、薄汚れたつなぎは、女性特有の体のラインを強調していた。
さきほどゾロに向かって行った『バカ』が、コックピットの後部サブシートに乗り込んでいたのである。
よくみるとシートベルトを締め、ヤル気マンマンといった様子だ。
あまりの出来事に彼には数本、自分の前髪がはらはらと舞い落ちるのがわからなかった。

 

――(ちなみに、コアスプレンダーⅢは練習機も兼ねているため、複座である。)

 

「何だ何だ、何なんだ!? なんでお前がこんなとこに座ってるんだ!? 」
「いや~、あいつに制裁を加えた後、な~んか目の前に落ちてきたと思ったら丁度いい乗り物を見つけてね。
 あたし、あいつらにひと泡吹かせたいんだ。邪魔するよっと」
「じ、邪魔するなら帰れ! 子供の遊びじゃないんだ……うっ……!」 

 

『バカ』の態度に怒り心頭といった様子でアレックスが立ち上がった時、彼は膝に痛みを覚えた。体がよろめく。
(さっきの無理な不時着で、か……)
足首をくじいていた。これでは機体の操縦ができない……ということはないにしても、厳しいものになる……。

 

「だ、大丈夫? ……やっぱりさっきので?」
『そこか! こそこそと逃げ回るな!』

 

アレックスの体を慮る声を、怒気を孕んだ声がかき消した。敵が接近してきたのだ。
「クソっ、こんなときに!」
最悪のタイミングに悪態をつく。
アレックスは『バカ』と機体を迷うように何度も見比べた。

 

(ここで一人外に放り出すよりは、ここの中ほうが安全だ。とりあえずこの民間人を死なせるわけにはいかない――)

 

「おい、そこの! 発進するぞ!」
「え? 何? 飛ぶって――」

 

そして意を決したように、キャノピーを閉じアレックスは機体を急発進させた。
急な発進による加速度が、二人の体をシートへ押し付けた。

 

一瞬のうちに視界が全方位に開け、目を細めた先に、先ほど注文したと思わしき『MSの脚』が飛び込んでくる。

 

「レッグフライヤーか! 軸合わせ……よし!」

 

そうはさせまい、と敵がビームを放つが、それは装甲をかすめ、機体周囲の空気をイオン化するだけに終わった。

 

再び、機体後方に配置されたユニットが接合する。
トップフライヤーの機首が水平に収納され、機体中央から4本角の生えた頭部がせり上がった。
後方ユニットがスライドして両足になり、その足で地上に降り立つ。
焼け焦げた大地を踏みしめて立った機体は、他の機体に比べて明らかに小柄だった。
脚部に収納された小型のビームガンを取り出し、両手で構える。
『グロリアス』――栄光。それがこのインパルスの流れをくむ機体の名前だった。機体に施されたトリコロールカラーが荒れ果てた市街では目立っている。

 

『ほぉ……見事』

 

敵は頭部の猫目でこちらを見据えていた。
そのふとましい両足は、警戒するように数歩後ずさる。

 

「す、すごい……合体した!? アニメみたい……」

 

少女のこみあげるような感激に、すぐさま横やりが入る。

 

「感動している場合じゃない! あんな無茶をやらかすくらいだから、MSは操縦できるだろうな!?」
「え? あ、……うん! コロニーの技術大会で優勝したこともあるし、自信はあるよ!」
「よし、俺の足はさっき見たとおりだから、君には操縦を頼む。そのかわり、OSの組み替えと補助はこちらでやる……痛っ……」

 

そう言うや否や、足首をかばうように脚を曲げ、アレックスはキーボードを取り出した。
コーディネーターの持ち味であるナチュラルとは一線を画す情報処理能力をフルに使い、せわしなく手を動かす。
すると操縦権が後部シートにわたり、後部モニターが明滅した。
機体のOSの頭文字『G・U・N・D・A・M』が映し出される。

 

「へ~、オーブ製なんだ、これ。レイスタと動きが似てるわ」

 

ステラは操縦桿を握ると、前後左右に傾けた。
そしてそのスティックの動きに機体が思う通りに追従するのを確認すると、にやりと不敵に笑って見せた。

 

「よ~し、なんか燃えてきた! 行くよ必殺――」

 

ぐん、とグロリアスが前傾姿勢をとる。
敵のゾロも、それに合わせて腰のビームサーベルに手をかけた。

 

『ぬぅ、かかってくるか。いい度胸だが……しかし、そんな小柄の機体では!!』

 

両者が低く構えまるで決闘のように相まみえた様子に、アレックスは慌てて後部座席へ向き直り、ステラを止めに入る。

 

「コ、コラ! あと数分で増援が来るまでの辛抱だから、ビームシールドを張りながら後退。そして弾幕を……」
「ふぇ? ビームシールド? 弾幕……って何? よくわかんないから……ええい、このスイッチだ!」
「……!? そのスイッチはやめ――」

 

時すでに遅し。
ステラがスイッチを押しこんだ次の瞬間……グロリアスの両腕はいきなり水平に構え、俗に言う前にならえのポーズを取った。
そして機体の上半身からブースト光が漏れ、爆音が咆哮し、両腕と胸装甲――チェストフライヤーの部分が分離して発射された。

 

『な、何ィィィ!? 腕を飛ばすだと!? し、しまっ……』

 

敵はグロリアスが放った奇天烈な攻撃の前にたじろぎ、踏み込みが崩れてしまう。
すると、その隙を突くように飛来するチェストフライヤー。その突き出た両腕により大きくはじき飛ばされる敵機。
その衝撃で散った火花がチェストフライヤーの推進剤に引火し、その爆音とともに、燃え盛る市街の中で黒煙が新しく一つ上がる。

 

その爆炎の中、両腕と前装甲を失ったグロリアスが茫然と立ち尽くしていた。
後部座席でグッと拳を握る少女。

 

「やった……必殺、ロケットパンチ――」
「何を考えてるんだ、このバカァァァァァァ!!」

 

アレックスは泣きそうな声で叫んだ。なりふり構ってなどいれない。

 

「あ、あれぇぇぇぇぇ!? ま、まずかった?」
「当たり前だ! 返せ! 今のショックで広がった俺の額を返せぇぇぇ!!」

 

――後に、この事件を振り返ってザフト軍のアレクシス・ザラ氏はこう語る。

 

「はい、あれがアイツと私の出会いでした。

 

 あの時は、恐ろしいことを平気でするただのバカだと思っていたんです。
 ……いや、今でもバカだと思ってるのだが。。
 だってMSの腕を飛ばすんだぞ!? しかも両方!! 絶対に頭のねじが数本どころか全部吹っ飛んでると思った!!
 あ、いえ……コホン。失礼しました。
 ですが……まさかこの事件をきっかけに、
 一介のテストパイロットだった私が、この一連の事件にかかわるとは、思いもよりませんでした。
 そして、前髪が毎日深刻なダメージを受ける様になったのも……この事件、あの女に関わってからのことです…………うぅ……」