SDガンダム大外伝 伝説の再臨
第一章 ~混乱のラクロア~
2.
イージスは王都から脱出し、近郊にある森へと入る。
森を抜けた先には湖があった。そこで足を止め、一息をつく。
沈み始めた太陽の位置を見て、今のおおよその時間を確認しようとした所でクルーゼが姿を現した。
「遅かったじゃないか」
「少々追っ手を撒くのに時間がかかったもので」
王城から上がる煙に混乱する町の中を駆け回った事で、ルージュはこちらを見失ったはずだ。
「デュエル、バスター、ブリッツの3人は?」
「彼らには悪いが、早速次の仕事にあたってもらったよ。何事もなければ3日後には戻るように言ってある」
「そうなのですか……」
先の先まで読んでいる。この仮面の魔道士は、軍師としても優秀なようだ。
「君はこのまま一足先にお目通りをしてもらおうか」
「お目通り……?」
(騎士団のメインメンバーがほとんど引き抜かれたという事か……!)
ルージュは木の蔭から二人の様子を窺っていた。
町で一度はイージスを見失い、このまま王城に戻ろうかとも思ったが、外壁を越えようとしている所を偶然見つけた。
そこで門の方から先に出て、この近くで一番隠れるのに向いている森に入るだろうと予測して先回りした。この森はザフト帝国の方角にある点も大きい。
勘は当たり、イージスはやってきた。そこから誰が寝返ったのを確認するため、隠れたまま見ていたのだ。
(しかし、ほとんどが今いないのが幸いだ。あの魔道士の力は未知数だが、2人だけなら何とかできそうだ)
もしも魔法で操られているのなら、あの魔道士を倒せば皆元に戻るかも知れない。
しかも、今の状況は奇襲をかけるのに最適だ。
(一撃で仕留めてやる……!)
そう思って背負った槍に手を伸ばした、その時、
「ほう……ラクロアのガンダムか」
異様なまでの威圧感を持った気配が、背後に現れた。
◇ ◇ ◇
森の中より稲光が放たれ、ルージュが吹き飛ばされて出てくる。
「何!?」
突然の事にイージスが驚きの声を上げる。クルーゼはある程度予想していたのか、首をめぐらせるのみだった。
湖の畔まで飛ばされたルージュはすぐさま立ち上がり、構えを取る。
その後を追うように、森の中から一人のガンダム族が悠然とした態度で進み出る。
雨雲のように重く暗い灰色の鎧を身に纏い、その背には太陽を絵に描いたような、複数の突起を持つ黄金の輪を背負っている。
「おお、おつきになりましたか、天帝陛下……」
クルーゼが感嘆の声と共に、その名を呼んだ。
「ザフトの天帝……こいつが……ッ!」
ルージュはクルーゼの言葉を聞きながらも、目の前のガンダム族から目を離しはしなかった。
疑念を挟むつもりはない。この威圧感、そして先ほどの力。力でザフト帝国を纏め上げた実力者に相応しい。
「ガンダム族だったとはな……」
ガンダム属は基本、ユニオン族に属しているものだ。ザフトに味方する者の話を聞いた事はあるが、ジオン族に総大将として認められているとは思っていなかった。
「フン。遥か昔、このラクロアを襲ったジオン魔王もガンダム族であった。我をそのサタンガンダムの再来と呼ぶ者もいる」
そう言い放つと右手をルージュへと差し向ける。
「なればラクロアの騎士よ。貴様は我を倒し、伝説の騎士ガンダムの再来となることができるか?」
挑発するように差し出した手を握り拳へと変える。
「問われるまでもない! そもそも、貴様を討つのに伝説など関係は無い!」
槍を手に取り、突き出す。その先端から青白い光が放たれる。
天帝は左腕に装備した盾でその光を受け止めたが、盾ごと左腕が氷漬けになる。
「ほう……」
「我が家に伝わる魔法の武具、『氷壁の槍』! これだけではないぞ!」
今度は槍を下からすくい上げるように揮うと、冷気が吹き荒れ、周囲を凍らせる。天帝の鎧には無数の霜を貼り付いた。
ルージュは凍てついた天帝へと向かい、槍をかざして突撃する、だが、
「この程度で我が動きを封じたつもりか!?」
盾の先端から剣の刃が飛び出し、腕の氷を砕く。そのまま身を襲う冷気を意にも介さず、剣を振る。
「ぐぅッ!」
槍ごと弾き飛ばされ、ルージュはまた湖の近くまで下がる。
「フッ、非力よな」
「こう見えても馬鹿力だと言われている方なんだがな……」
余裕の笑みを浮かべる天帝。一方、ルージュは苦笑いを浮かべるのがやっとだった。
「ならばラクロアの騎士そのものが非力、か。つまらんな」
そんな余裕を見せるに相応しい力を持っている。まともに戦って勝てるかどうか、ルージュに自信は無かった。
しかも、まだ手出しはしてきてないが、イージスと魔道士がいる。今戦い続けても勝ち目はほぼ無いだろう。
(ならば……)
「これで終わりにしてくれよう!」
天帝の背負う輪の突起部分から雷が放たれた。先にルージュを森の中より弾き出した一撃と同じもの。
ルージュは後ろを向きながら跳んで、雷撃をかわす。
雷が地面に突き刺さる音と水音、激しい音が二つ同時に鳴る。ルージュはただ跳んだのではなく、背後にあった湖に潜ったのだ。
「ふむ……なかなか思い切りがいいな」
天帝は湖の淵へと歩み寄る。いつ相手が飛び出してきてもいいように隙は見せなかった。
「だが、水中に逃げ込んだのは失敗だぞ……!」
雷撃を水の中へ流しこうもうとする。だが、湖面に広がっていた波紋がその形を保って固まりはじめた。
「む? これは……」
湖の水がどんどん凍りついていく。ルージュの氷壁の槍によるものだ。
天帝は氷に剣を突き刺してみるが、思いのほか固く、分厚い。
「なるほど。本当に思い切った真似をする……」
下手をすれば自身が閉じ込められ、凍死しかねない危険な手だ。退くにしても無傷ではいかないと覚悟しての行動だろう。
「いかがいたしますか、陛下?」
クルーゼが湖の氷を眺めながら尋ねる。氷を解かすにしても、ルージュが凍死したかを確認するにしても、時間がかかる。
「捨て置け。いつまでもこんな所にいるわけにはいかん」
そう宣言すると、湖に背を向けた。
「それよりも、ラクロア国王と奴に関係はありそうだったか?」
クルーゼにそう尋ねる。
「いえ……特には感じられませんでした。かの者が姿を現す様子もない。王の子か、あるいはアルガスの方に関係しているのかもしれません」
「ふむ……そうか」
答えるクルーゼに対し、顔は向けないまま。しかし、後ろにいる彼の方に意識を向けた目線は、疑惑に満ちたものだった。
(かの者、とは一体……?)
疑問を持つイージスの方を天帝が見やる。
「お前が此度我らの仲間となった者か。予がザフト帝国の天帝、魔竜皇帝プロヴィデンスだ」
天帝――プロヴィデンスが名乗る。その威厳に満ちた声を前に、イージスは意識せぬうちにかしずいていた。
「彼はジオン族の血が半分流れているのだとか……」
クルーゼがイージスについて説明する。
「ほう、そうか。心狭きユニオン族の者どもの間では、様々な苦しみがあったであろう。我が帝国はいかような力であっても、その力を受け入れる。お前の残り半分の血がユニオンものであろうと気にはせぬ」
その言葉は、イージスの心のうちに潜んでいたものを刺激した。特に、魔術の影響で増幅されている今においては、強い衝撃となって駆け抜けた。
「はッ! 私の力、ただ今よりザフト帝国のために使わせていただきます!」
そう宣言し、その場を立ち去るプロヴィデンスとクルーゼの後に続く。
後にはただ、しばらくの間は解けそうもない凍れる湖が残された。
◇ ◇ ◇
ラクロア城の玉座の間には重苦しい雰囲気が流れていた。
「闘士デュエル、戦士バスター、騎士イージスの3名が味方を襲った後、逃亡。イージスを追跡した紅騎士ルージュが未帰還。火事が起きる少し前より、隠密剣士ブリッツの姿を誰も見ていない……騎士団の主力メンバーのほとんどが一気にいなくなっちまった」
ムウ王子が暗い声でそう告げる。この場に集まった者達はその声に呼応するかのごとく、表情を暗くする。
「しかも、親父がやられちまった。物理的な戦力はもちろんだが、それ以上に士気の低下が痛い。今ザフト帝国に攻撃されたらまず勝ち目はない……」
いつもは態度に余裕を見せる彼も、今回ばかりはそうはいかなかった。
「この状況を何とかする方法はただ一つだ。アルガス王国に援軍を要請する」
広間を見渡しながら、そう宣言する。
「おお、アルガスに……」
「盟友の手をわずわせまいとして来ましたが、流石にこうなってはそうも言ってられませんからな」
アルガスはノア地方に存在する国で、遥か昔のジオン族との戦いの頃から長きにわたって同盟を結んでいた。
かつては隣国のムンゾ帝国が取り入ろうとした事でジオン族との戦いになったが、今はそのムンゾは併合されており、ザフト帝国の手は延びておらず、平和を保っていた。
同盟を結んでいるとはいえ国同士の距離は意外とあり、これまでラクロアの戦力でザフトと戦えていた事から協力は要請していなかった。
向こうからは必要あれば援軍を送ると言われている。今が、その時だろう。
「防戦に回れば援軍が来るまでの時間を稼ぐ事くらいはできるだろう。だが、その時は決して長くない。事の重大さをハッキリとアルガスに伝え、速やかに援軍を派遣してもらわなけりゃならない」
そう言うと、ムウはフレイ姫の方を向く。
「だからこの援軍要請の急使をフレイ、お前に頼みたい」
「えっ? ……!」
突然水を向けられたフレイは戸惑ったが、その真意にすぐに気付く。
「待って、お兄様! それはまさか――」
「それぐらい切羽詰まってるんだって所を見せるだけだ。お前が考えてるようなことじゃない。俺は不可能を可能にする男だぜ? 大丈夫だ」
有無を言わさぬ口調で妹の言葉を切る。
「ストライク、フレイの護衛を頼む」
「了解しました」
騎士団主力最後の一角であるストライクまで抜けるのは痛手ではあるが、こういう役目の方が少数の精鋭に向いているので致し方の無い所だ。
「よし、早速出発の準備に取り掛かってくれ! 残る俺達は籠城まで考えに入れた防衛戦の準備だ! 町の人達を必要に応じて脱出させられる体制を整えるのを忘れるなよ! 親父の葬式はザフトの攻勢を凌いでからだ!」
王子の号令のもと、玉座の間にいる者達は一斉に動き出した。
◇ ◇ ◇
「姫様、馬車の御用意ができました」
出立の準備を整え、城門前にやって来たフレイ達の元に一頭立ての馬車がやって来た。
小さいが、その分スピードを出して走る事ができるタイプだ。御者台には一人の少年が座り、手綱を握っている。
「こいつはキラって言うんだ。まだ若いが、馬の扱いに関してはなかなかのもんだ」
ムウがストライクに御者の少年を紹介する。
「よろしくお願いします」
「こちらこそ。すでに聞いているとは思うが、少し馬には無理をしてもらう事になる。管理をしっかり頼む」
緊張している様子のキラにストライクそう言い、自らは単独で自分用に用意された馬にまたがった。
「そうよ、急がないと。早く出発しましょう。間に合わなかったら許さないんだから!」
フレイは言いながら馬車に乗り込む。
「ではお兄様、行ってまいります。馬車を出して!」
「はいっ!」
キラが鞭を入れ、馬車が走りだす。
「では、私も出発いたします」
「ああ、二人をよろしく頼むぞ」
ストライクも馬を走らせ、馬車に並んだ。
「マジで頼むぜ、3人とも……。さて、俺も準備を進めなきゃな」
3人の姿が見えなくなるまで見送ると、ムウは踵を返して場内へと戻った。
――彼らは気付いてはいなかった。出発する所を遠くから盗み見ている者がいる事に。
「クルーゼ殿の予測通り、援軍要請の使者を出したか。しかもフレイ姫とは。デュエル殿とバスター殿にこの事を報告。我々は予定通りクルーゼ殿の所へ報告、及び合流のために向かおう」
隠密剣士ブリッツは伝令に命令を発すると、ラクロアの王都から離れて行った。
◇ ◇ ◇
ラクロアを出てより数日。馬を急がせた甲斐はあり、すでにノア地方に入っていた。辺りは森が多くなってきている。
ストライク達は見つけた小川の近くで休息をとっていた。馬と、そして馬車に酔ったフレイを休ませる必要があるからだ。
沢にある大きな石に腰をかけて休むフレイの様子を窺いつつ、キラはストライクに声をかけた。
「フレイ姫は元々酔いやすい方なのに、ずいぶん我慢して……ムウ王子もどうしてこんな無茶をさせるんだろう?」
ストライクもフレイの方へ視線を走らせる。
「……これがただの援軍要請ならば、私一人が密書を持ってアルガスへ行けばいいだけの事だ。問題は、この任務がラクロアの奪還に変わる可能性がある事だ」
その答えを聞いて、キラはすぐにその意味を理解した。
「そ、それって……僕たちが戻るまでにラクロアが陥落しているかもしれないって事ですか!?」
そうなった場合、姫であるフレイはラクロア奪還の旗印となり、そこに協力するアルガスはラクロアを占拠するザフト帝国を攻撃する大義名分を得るわけだ。
「姫が問おうとした時は否定していたが、王子が最悪の事態を想定していないはずがない」
ノリは軽いが、そう言う所は抜かりがないのがムウ王子だ。
フレイが立ち上がった。ストライクとキラもそれを見て立ち上がる。
「さて、そろそろ再出発のようだな。馬の方は大丈夫か?」
「はい、彼らも十分休めたはずです。今から夜営に入るまで走り続けられます」
それぞれ馬と馬車の元へと歩み寄って行く。
「む……?」
が、途中でストライクは足を止め、近くの繁みの方へ振り返った。
「どうしたんですか」
「急いで馬車を出発させるんだ。何か来る!」
言いながら自らも馬の元へと走る。
「そろそろ出るわ……って、何? どうしたの?」
御者台に飛び乗ったキラに、先に馬車の元に来ていたフレイが声をかける。
「何か来たそうです! すぐに出します!」
そう言われてフレイが慌てて馬車の中に入る。
馬が走り出すと同時に、繁みをかき分けてジオンモンスターのウルフバクゥが数匹飛び出してきた。
足の速いバクゥが馬と馬車に並走して走る。こちらをとり囲もうとしているようだ。そうなっては馬車の反対側はストライクには守れない。
「クッ……今から馬を少々興奮させる事になる! 上手く制御できるか!?」
キラにそう告げながら、左手で手綱を操り、右手で背負っていた大剣を引き抜く。
「は、はい! なんとかやってみます!」
キラの返事を聞くなり、剣をふるう。切っ先から炎がほとばしり、バクゥに襲いかかった。
炎帝の剣。ストライクの家に伝わる宝剣であり、ルージュの持つ氷壁の槍と対をなす。
突如生み出されて行く手を遮る炎の壁にバクゥ達は悲鳴を上げ、あるものは足を止め、あるものは逃げ出す。
火を見て興奮する馬をストライクとキラは上手く制御し、誘導する。自然と全力疾走になり、バクゥを引き離していった。
そうしてモンスターから逃げる事はできたものの、馬の限界がすぐにきてしまった。
「今のモンスターが我々を狙ってザフトが放ったものだとすると、このまま街道を進んでもまたすぐにザフトに襲撃されるやもしれません」
馬を下りながらストライクが深刻な表情で告げる。
「じゃあ、馬は捨てて森に分け入るしかないですね……」
キラは街道のすぐ横に広がる森を見る。敵が潜んでいる可能性は高いが、道を進むよりは見つかりにくいはずだ。
「行きましょう。今、足を止めるわけにはいかないもの」
フレイの言葉にうなずき、ストライクは警戒しながら森へと入る。二人がその後に続いた。
◇ ◇ ◇
先頭のストライクが時には茂みや枝を払いながら森の中を進む。
森に入ってからは幸い、ザフトとの遭遇は無かった。
だからといって先のバクゥが野良であったと判断はできない。油断は禁物だ。
「あれ? あれは民家、かな?」
そうやって進むうちに、キラがそんな事をつぶやいた。
「家? どこ?」
「あっちの方に……木々の隙間から少しだけ見えたんです」
彼の指す方角を見やるが、森林が濃く、それらしいものは見えない。 が、キラのいる位置に近づいて行くと、確かにそれらしきものが見えた。
「確かに民家みたいだな……いや、村か?」
「何でこんな所に村があるのかしら? でも、そろそろ日も暮れるし、行ってみましょう。休む場所を借りられるかもしれないわ」
3人は森をかき分け、村が見えた方を向かう。
突然森林が切れ、開けた空間が、そしてその空間に家々が点在する村が現れた。
「やっぱり、そんなに大きい村じゃないみたいですね」
村を見渡しながら、キラがそう言う。
日が大分西に傾いた時間であるためか、外を出歩いてる人の姿は見かけない。だが、すぐ近くの家の裏から薪を割る音が聞こえてきていた。回り込んでみると鉈で薪を割るMS族の後ろ姿が見えた。
「もし、申し訳ありませんが……」
「はい?」
声をかけられ、振り返ったその顔は、スリットのあるモノアイだった。つまり――
「ジ、ジオン族!?」
「う、うわわわッ!? ユニオンのガンダム!? た、助けてくれぇ~い!!」
ジオン族と思われる男は悲鳴をあげて逃げ出す。
「な、何でこんな所にジオン族の村があるのよ!?」
「僕達も早く逃げましょう!」
フレイとキラの言葉のうなずきかけたストライクだが、思いとどまる。
咄嗟の事であっても、こんな時こそ冷静に判断せねばならない。そんな姉の教えを思い出す。その姉をはじめとする騎士団のメインメンバーがいない今こそ、実践できるようにならねばならない。
改めて村全体を見渡す。やはり、小さな村だ。そして、ここはザフト帝国から離れた、ラクロアとアルガスの間にある地だ。
「……いえ、様子を見ましょう。兵力が駐留しているような場所には見えません。まずはこの村がザフト帝国の支配下にあるのか、関係ないただのジオン族の村なのか、それを見極めないと」
「関係があった時はどうするんですか?」
キラに尋ねられ、考える。村に兵力は無い。つまり、警戒するべき事は――
「戦えない者でも人数を以って私達の居場所を突き止め、ザフトに報告することはできる……それをさせないために……」
ストライクはうつむくが、すぐに顔を上げる。
「私がこの村にいる者を殲滅する」
毅然とした態度で宣言する。きっぱりと言い切られ、フレイとキラは絶句した。
そんな話をしている間に、MS族が一人姿を現し、こちらに近づいて来た。今度の男は、ガンダム族だ。軽量の鎧の隙間から青い色が覗いている。
「ラクロア王国の騎士か? いかなる理由でこの村に訪れた?」
静かな声で尋ねられる。
相手は真っ直ぐに立っているようで、隙が無い。その手は、いつでも両腰のナイフをすぐさまに取り出せるだろう。
ただ者では無い、とストライクは判断した。
「我々はただ、森に入って偶然ここに辿りついただけだ。お前は一体何者だ?」
ストライクが尋ね返すと、相手はフッ、と笑うと、クルクルゥ~ッとその場で回転する。
「俺は傭兵ブルーアストレイ……傭兵部隊《サーペントテール》のブルーアストレイだ!」
シュピン、と指を突きつけながら名乗る。
(何、今のポーズ?)
(さ、さあ? 何でしょう?)
呆気にとられるフレイ達をよそに、ストライクはサーペントテールの名前を思い出していた。凄腕の傭兵部隊として、ラクロアにもその名は伝わってきている。
とりあえず、相手に名乗らせた以上、こちらも名乗らないのは騎士の礼にもとる。
「私は騎士ストライク。お察しの通り、ラクロアの騎士。しかし、何故それが分かったのだ?」
ここからならアルガス王国の方が近いはずだ。
「ラクロアで起きた事件の事はすでに伝え聞いている。ならば、ここまでやって来る者がいても不思議では無い。それに、アルガスにいるガンダム族は全て把握している」
すでにそこでまで話が伝わっている事にストライクは驚く。この情報収集能力の高さも最強の傭兵部隊たる理由の一つだろうか。
「ちょっと! 兵力は無いんじゃなかったの!?」
「部隊規模以上ならばともかく、個人レベルでは流石に分かりません!」
フレイに問われ、慌てて答える。
「それに、サーペントテールはザフト帝国と関係ありません。彼らを雇っているなら、この村もザフトと関係はなさそうです」
ジオン族から仕事を受ける事はあるようだが、それはザフト帝国に属さない者からであって、ザフトとはどちらかと言えば敵対していることが多かったはずだ。
それにしても、何故に彼らがこんな辺鄙な所にある小さな村で仕事についているのか。
「お前達がここへ来た理由もおおよその察しはつく。しかし、何にせよこの村の存在をアルガスやラクロアに知られるわけにはいかない」
急速に殺気が高まる。
「この村の事を口外しないと誓ってもらいたい……さもなくば」
ナイフの柄に手をかける。ストライクも盾を構え、盾に納められている方の剣の柄に手をかける。
「クッ……サーペントテールほどのものがそこまでして守ろうとするこの村は一体……!」
そう言った時、ブルーアストレイの後方から今度は人間族の男がやって来た。
「それは今からご説明いたします。今は双方、殺気を収めてください」
「シ、シーゲル村長! できれば情報を与えないようにしている俺の立場は!?」
ブルーアストレイが冷静そうだった態度を崩し、問う。
「できれば、無益な争いは避けたたいのです。話せばきっと分かっていただけると、そう思いますので」
答えながら、シーゲルと呼ばれた男はストライク達の方を向く。
「私の家でこの村について詳しくお話したい。来ていただけますか?」
「どうします?」
キラが困惑し、尋ねる。
「ジオン族なんかと話なんかしたくないけど……ここはストライク、あなたに任せるわ」
「……誘いをお受けしましょう。我々の敵はザフト帝国であってジオン族そのものでは無い。アルガスに急ぐため、そのための休息を取るため、できれば穏便に済ませたい」
フレイに任せられ、ストライクは決断した。
<続く>