SEED DESTINY “M”_第2話

Last-modified: 2009-02-26 (木) 04:13:14

「あっちゃあ~」

 

 ザフト・レッドの少女──ただしプラントでは成人──、ルナマリア・ホークは、これから新造艦に搭載されるはずだった愛機が、ハンガーを破壊され、その瓦礫が降り積もった状態で仰向けに倒れているのを見て、思わず手で顔を覆った。
 歩哨の兵や整備員達が、その瓦礫を撤去している。
「急いで、乗り込めるだけで良いから」
 ルナマリアはそう言ってから、隣に同じように倒れているもう1機のMSに向かう。
「レイ、一体どうなってるの、これは」
 同じくザフト・レッドを着た金髪の、美形の少年、レイ・ザ・バレルに、問いただすように言う。
「俺にも解らん。だが、あまり良い状況ではないようだ」
 レイはそう答えた。

 

 その時。
『そんなに戦争がしたいの? アナタたちはっ!!』
 MSのスピーカー越しの声が、あたりに響く。
 ルナマリアとレイは、軽く驚いたように、音源の方を向いた。
 新型機2機に、やはり新型の1機がビームサーベルを構えて、対峙している。
「あの声……マユちゃん?」

 
 

機動戦士ガンダムSEED DESTINY “M”
 PHASE-02

 
 
 

「うそだろ、ステラの奴、やられちまったのかよ!」
 新型試作MSのうちの1機、アビスに乗り込んだアウル・ニーダは、そのコクピットで、目を円くして、そう言った。
『直ちに機体を停止させて投降しなさい! 今のうちなら、あなた方の生命の安全は保証します!』
「けっ、ふざけんなよ!」
 アビスはビームジャベリンを構え、ガイアに向かって突進してきた。
「くっ!!」
 マユはとっさにアンチビームコート・機動防盾を構えさせ、凌ぐ。
 バチバチバチバチッ
 穂先を機動防盾で受け止めつつ、ガイアとアビスが絡み合う。
 ────踏み込みが深すぎる、オートバランサーが!
 思った以上に沈み込んだガイアに、マユは憔悴する。
 ────でも、条件はあっちも同じはず!
「でやぁっ!!」
 思わず掛け声を発してしまいつつ、アビスを蹴飛ばして間合いを取る。
「しまった!!」
 マユは反射的に失敗を感じた。ガイアに蹴飛ばされたアビスは、そのまま別のMSハンガーに突っ込んだ。内部にあった、停止状態のジンともつれ合う。
「お、おい、アウル!」
 もう1機、カオスに乗り込んだスティングは、アウルに援護に入ろうと、飛び出しかけるが、
 バシュ、バシュ、バシュ、バシュ!!
 激しい火線が、カオスを掠める。
 保安部隊のディン数機が、上空からカオスめがけて射撃していた。
「鬱陶しいんだよ、雑魚が!」
 スティングはカオスの肩部に搭載されるビームポッドを向けると、ビームライフルとあわせて、ディンの群れに掃射する。
『やめなさいよぉっ!』
 外部スピーカー越しのマユの叫びと共に、ガイアがカオスをシールドタックルで突き飛ばした。
「!?」
 ロックオンアラート、咄嗟に4脚形態に変形させながら前転するように避ける。
「こいつ!!」
 アビスのフルバーストが、一瞬前までガイアのいた空間を凪ぐ。
 起き上がり様に、ガイアを2脚形態に戻す。
「この、踏ん張れ!」
 沈み込もうとする腰を、ペダルを踏み込み、マニュアル操作で踏ん張らせる。
『こちらLHM-BB01。ガイアの搭乗者はどなたですか!?』
 マユに聞き覚えのある声が聞こえてきた。
 カオスの射撃がガイアを狙う。4脚形態に転じて、前方に突っ込むことで射線を外す。
「ぬぅ!?」
 スティングが声を漏らす。
 ガイアは背中のグリフォン・ビームブレイドを展開し、左右に揺らしながらカオス、アビスに向かって突っ込んでいく。
「この!」
「こいつ!」
 ガイアとカオスが交錯する。カオスは射撃を直前で諦めて、ガイアをかわす。
 マユはガイアを振り返らせながら2脚形態に戻し、2機と対峙させた。
「こちらガイア、搭乗者はアーモリー軍管区MS教練隊マユ・アスカです」
 メインディスプレィ越しに2機を睨みながら、マユは『ミネルバ』からの通信に答える。
『マユちゃん!? マユちゃんが乗ってるの!?』
 無線の向こうで、マユがよく知る1人──メイリン・ホークは思わず、砕けた言葉で驚愕の声を出していた。
 だが、マユはそれどころではない。スティングは取り回しの悪いビームライフルを諦めると、ガイアと同型のヴァジュラ・ビームサーベルで斬りかかって来た。マユは無理に回避せず、機動防盾で受け止める。
 バチバチバチバチッ
 刀身ビームとアンチビームコートの間で激しい火花が散る。それを受け止めつつ、マユは自ら間合いを詰めてきたカオスに、天頂方向から斬撃を入れた。カオスは、遮二無二振り払って間合いを取り、斬撃から逃れる。
「あぁん!!」
 マユは不満げな声を上げる。オートバランサーの設定が出来ていれば逃さなかった。
「でもそれなら、奪った機体で、どうしてここまでできるの!?」

 
 

「ルナマリアー」
 仰向けになった機体から、歩哨や整備員達と共に軍手をはめた手で瓦礫を撤去していたルナマリアを、その胸部あたりに取り付いていた者が呼ぶ。
 MSのコクピットハッチが開けられている。ルナマリアは反射的に手に持っていた瓦礫を地面に放ると、そこへ向かって駆けて行った。
「機体の状態がわからん、無理だと思ったらすぐに引き返せ」
ハッチの横に控えていた整備員が、そう言った。
「解ったわ、ありがとう。どいてて」
 整備員達に笑顔で例を言ってから、ルナマリアはハッチを閉めつつ、起動スイッチをいれる。ディスプレィにOSの起動画面が表示され、計器類のバックライトが点灯する。
『レイ! どいて』
 残っていた瓦礫をパラパラと降らせつつ、乗り込んだMSの上半身を起しながら、ルナマリアは外部スピーカーで言う。
 レイと、彼の機体に取り付いていた整備員や歩哨たちが、そのMSの上からわらわらと地面に降りる。
 ルナマリアは紅い愛機の右腕で、レイの灰白色の機体の胸部から、瓦礫を払った。
『先に行ってるわよ!』
 ルナマリアは自機を立ち上がらせると、静圧モードでスラスターを噴射してアシストさせつつ、3機のMSがもつれ合っている方へと駆けて行った。

 

『あー、あー、マユ・アスカ』
 マユが、ガイアでカオス、アビスと取っ組み合いつつ対峙を続けていると、今度は男性の声が、通信越しに響いてきた。呼出IDは先程と変わらずミネルバ。副長のアーサー・トラインだ。
『君に正式に与えられた任務を伝える。カオスとアビスの捕獲だ』
「捕獲ぅ!?」
 マユは思わず、あからさまに不愉快そうな声で反芻してしまう。
 その間も、カオスのビームポッドの射撃を受ける。シールドで耐えていると、そこへアビスが突っ込んできた。
「この」
 ざっ、とすり足の要領でわずかに下がると、ビームジャベリンをシールドで受け流しつつ、返す刀をアビスにいれる。アビスは、紙一重、つまり最小の動きでそれをかわした。
「やってみますが、相手の機体の保証はしかねます!」
『保証はしかねるって君、アレは我が軍の……』
 アーサーに女々しい言葉に、マユの怒りが爆発する。
「こっちは! OSの設定も終わってない機体で! しかも2対1の戦いをさせられているんです! その上生け捕りなんて、無茶だって、ちょっと考えればわかるでしょう!! このエロゲーム脳!!!!」
 直属の上官ではないことをいいことに、マシンガンのようにアーサーに怒鳴り返す。ドサクサ紛れに秘密も暴露する。
 そうしながらも、アビスの突撃をかわして4脚形態にさせ、ビームブレイドで突っ込む。
『アウル!!』
「あぶねぇっ!」
 アビスの身体を捻ってよけさせつつ、アウルは戦慄の声を漏らした。

 
 

「エロゲーム脳って……」
 一方、ミネルバブリッジでは、アーサーが、メイリンをはじめとするブリッジクルーに白い目で見られている。
 白服の女性、艦長のタリア・グラディスが、眉間にしわを寄せて頭を抱えた。
『本気で生け捕りしろって言うんなら、まともな応援をください! ディンやジンじゃ、足手まといなだけです!』
「い、いや……しかし」
 アーサーが、答えるべき方策を見つけられず、戸惑っていると、
「失礼するよ」
 ブリッジ後方の出入り口で、リニアモーター式の自動ドアが開き、黒い長髪の痩躯の男性が入ってきた。
「ぎ、議長」
 アーサーは素っ頓狂な声を上げる。
「議長!」
 タリアも驚いて振り返り、立ち上がりかけた。
 プラント評議会議長、ギルバート・デュランダルは、立ち上がって敬礼しようとするブリッジクルーを、手で制してから、
「状況はどうなっているかね、タリア」
 と、険しい表情で訊ねた。

 
 

「一体、何がどうなっているんだ!」
 オーブ連合首長国代表、カガリ・ユラ・アスハは、デュランダル議長との非公式会談を申し入れ、その最中にこの事件に巻き込まれた。
 プラント側のSP、それに護衛の随員と共に避難中だったが、着弾の爆風で押し返され、はぐれてしまった。
振り返れば、3機のMSが取っ組み合いを続けている。
「ああ、あぁぁ……」
 ツインアイを持つ3機のMSの戦いに、カガリはデジャヴを覚えると、言葉にならない声を漏らしながら、一瞬、呆然と立ち尽くしてしまった。
「カガリ!」
 直後、1人のサングラスをかけた若い男性が、背後からカガリを庇うように抱き寄せる。
「死にたいのか!?」
 オーブから同行している随員、アレックス・ディノは、カガリを叱責するように言った。
「す、すまない」
 カガリは顔を僅かに赤らめつつ、申し訳なさそうに言った。
「いや、はぐれてしまったこっちも悪い。すまん」
 アレックスは言いつつ、カガリを庇うようにしながら、周囲を見渡した。
 流れ弾や瓦礫が断続的に降り注ぎ、生身の人間が無事に歩いていけるような状況ではない。
 しかし、そのうちに、視界に比較的無傷な状態で横たわっている、青緑がかった灰色のMSが目に入った。
「あれだ!」
 アレックスはカガリを抱えたまま、そのMSに向かって駆け出した。胸部に向かって飛び乗る。
 コクピットハッチのドアロックはかかっていなかった。
「ど、どうする気だ?」
 問いただしてくるカガリをコクピットのシートの脇に押込めると、アレックス自らはそのシートに納まる。イグニッションスイッチのキーは差したままになっていた。起動スイッチを入れる。
「ゲイツRの改修機か……?」
 アレックスはOSの起動画面を見つつ、呟く。表示された形式号はZGMF-601F『GuAIZ-F』。
 計器類のバックライトが点灯し、メインディスプレィにメインカメラの画像が出た。
「こんなところで、君を喪うわけには行かないんだ!」
 アレックスは言い、ゲイツFを立ち上がらせた。

 
 

「!?」
 2機と対峙し、ヴァジュラ・ビームサーベルを構えて焦れていたガイアの背後で、別のMSが立ち上がる。ゲイツF。ゲイツRの既存機を、新シリーズのゲイツD相当に改修した機体。
「新手かよっ!」
 一瞬、気をとられた隙に、アビスがフルバーストする。
 だが、その狙いはガイアではない。
「危ない!」
 マユは瞬時に、ゲイツFを庇ってガイアを跳ねさせた。
「しまった!」
 ガクン、予想以上に腰が沈み込む。アビスの射撃はシールドで凌いだが、勢いあまってゲイツFを突き飛ばしてしまう。
「ぐぅっ!!」
 ゲイツFのコクピットで、自らの腕力だけでシートにしがみついていたカガリが、振り飛ばされて壁面に強かに打ちつけ、悲鳴を上げる。
「カガリ!」
 アレックスは驚いて、不安げにカガリを振り返る。
『ご、ごめんなさいっ!!』
 通信用ディスプレィに、自分達を庇ったと思われる新型機のパイロットが映し出された。
「! ……い、いや、助かった」
 アレックスは言いいつつも、
 ────いくらZAFTでも、こんな幼い子がMSに、しかも赤服だって?
 と、サングラスの下で、怪訝そうに表情を歪めた。
「もらったぁぁっ!!」
 ガイアのパイロットが背後の機体に気をとられたと認識したアウルは、ビームジャベリンを構え、ガイアに向かって突進する。
 が、
 ドガァンッ
 強烈なタックルが、アビスを突き飛ばした。
 そのまま、地面に倒れたアビスにのしかかる。
『ごめんマユちゃん、遅れた』
 通信用ディスプレィに、アビスを突き飛ばした紅いMSから通信が入る。
「ルナお姉ちゃん!」
 ほぼ孤立無援状態だったマユは、ルナマリアの乱入に表情を明るくする。
 ルナマリアはMSが左腕に装備するバックラーから、対装甲アキナスを抜いた。折りたたみ式のストックを延ばし、パルチザン形態にする。

 

 ZGMF-1600 ゲイツD。
 ゲイツRをベースにブラッシュアップした機体。使い勝手の悪い複合兵装防盾とポルクスIVレールガンに変わって、オーソドックスなビームマシンライフルと延長ストック付の対装甲アキナス(幅に比して刃渡りの大きい大形ナイフ)を装備し、PSではないものの増加装甲を胸部に取り付けた、格闘寄りの汎用MSである。
 また元々の高推力に可動補助翼をつけることで、簡易的ながらも大気圏内下での飛行・空中機動も可能にしている。
 外観上のゲイツRからの相違点は、増加装甲を被せた胸部が曲線を用いたラウンド状の胸筋が張り出したようなデザインになり、その右・やや下寄りに75mm短砲身ビームガンが覗いていることと、シールドが幾分小型になっている点だ。
 新規開発中だったZGMF-X1000とほぼ同格の性能とされ、しかも換装システムに頼らず、ZGMF-X2000並みの汎用性を持たせることに成功した為、コスト上の計算で有利になったことからこれらを抑えてZAFT主力MSの座を勝ち取った。

 

『この、神妙にしなさい』
 ルナマリアはパルチザンを構えさせたまま、アビスにのしかかって動きを封じようとする。
「アウル!」
 スティングは声をかけつつも、目の前ににじり寄ってくるガイアから離れることが出来ない。
「くそ!」
 スティングはカオスにビームサーベルを構えさせ、ガイアに斬りかかった。
「くっ」
 マユはガイアにシールドを構えさせ、斬撃を受け止めようとする。
「もらった!!」
「えっ!?」
 だが、カオスはビームサーベルを振り下ろさず、ガイアのシールドを蹴飛ばした。その反動で、カオスは飛び上がる。
「わ、私を踏み台にしたー!?」
 マユが驚いたように言う。
 カオスは肩部のドラグーン・ビームポッドを切り離し、ガイアにビームライフルを向けてけん制しつつ、ビームポッドでルナマリアのゲイツDを狙った。
「きゃっ!?」
 ビームポッドの射撃を、ゲイツDはかわす。
「アウル、これ以上は無理だ、離脱するぞ」
 スティングは、新型ゲイツがアビスから飛びのいたのを見ると、アビスのアウルに向かってそう言った。
『けど、スティング!』
 射撃でけん制しながら飛び上がりつつも、通信用ディスプレィに曇った表情を出したアウルは、不満げな声を出す。
「ステラのことは諦めろ、運が……なかったんだ」
 スティング自身も後ろ髪引かれるような様子で、しかしそう言った。
『ちくしょー、お前ら、後で皆殺しにしてやっかんなぁっ!!』
 カオスとアビスがフルバーストであたりを制圧射撃し、ガイアとゲイツDをけん制する。
 アウルが外部スピーカーで捨て台詞を吐いて、2機はコロニーの限定的な重力の中を、バーニアで上昇し始めた。
「この……ルナお姉ちゃん!」
『うんっ!』
 マユの言葉に、ルナマリアも険しい表情で頷く。
 2機のスラスターの輝点を追い、ガイアと紅いゲイツDは飛び上がった。