SEED-IF_30years_21

Last-modified: 2009-10-27 (火) 03:25:58

翌日、司令部への出頭要請があった。
なんでも前任司令官との引き継ぎらしい
イザークに聞いたのだが、名前はレオンズ・グレイブスで、《ウォーサーフ》という二つ名の老成した傭兵……
以前にも司令官職を務めたということで再雇用されたナチュラルだという

 

こういう形式ばった行事に飽き飽きしていたアスランにとっては嫌な業務だった
豪奢な数々の料理を朝方まで喰うという支那式の持成し方はオーブの駐在武官時代に散々慣らされたのだが今一つ好きになれない
アイザックが起こしに来る前に一般兵の制服に赤い愛用のサングラスをして基地に出掛けた
一月ほど前に意気揚々とザフト軍に復帰したのは良いが、行き成り戦闘MS軍団という新設組織の長を任され、15万人近い部隊の面倒を見るしかなくなってしまった
いくら合同部隊とは言っても言葉の通じない東アジア(支那)人とロシア人の部隊だ。指揮系統も複雑らしい
変な坊主にメイリンの死の真相を教えら、黒人女の護衛がついた。
仲間からも信用されていないようでスパイみたいな男が張り付いている……

 

そんな憂鬱な気持ちになりながら基地を回っていると兵士たちの声が聞こえる。
英語で話してる……プラントの連中のようだ
親近感を持って近寄って行くと如何やら自分の話のようだ……目立たぬように近づいていって話を聞いてみることにした

 

「おい、なんでも今度来る《オヤジ》は、あのアスラン・ザラじゃねえって話だってな、ヒエロニムス」
缶コーヒーを持った白いツナギ服の男が答える
「そうらしいですね。でも彼はオーブに行ったって話じゃ?」
「知らねえけどよ、なんだか上の連中が決めた話じゃ、フェイスで、軍団長だってよ」
男は煙草の煙を吐き出しながら
「男のケツを追っ駆け回してりゃ、フェイスになれるのかね」
「ヒエロニムス、君は次の軍団長候補だってなったらどうする」
「え?」
「まず男のケツを追っ駆け回すことから始めなきゃな。」
一同に笑いがおこった
「……ダメだな。上の連中は完全に逝かれていますな」
一人の男が不意に立ち上って、髪を押し上げ額を見せ付ける様な仕草をし始めた
アスカ、おまえは本当に何が欲しいんだ、ってな」
数人の物が冷笑を浮かべて見ている
立ち上がった男はなおも続けた
お前は議長の計画が、何故、最終的に未来を抹殺し、最終的に自分も殺すことになぜ気がつかないんだ!
シン・アスカ!だから俺はお前を、ザフトを倒す!」

 

「ヒュー、最高」
その場は爆笑の渦に包まれた。腹を抱えて転がる者も居る
その兵士達の行為は、さすがにアスランの《臨界点》を超えてしまった
「貴様達!名誉ある自由条約黄道同盟の名を汚すつもりか!この痴れ者共が!」
虎刈りの大男が振り向いて来て、声を返した
「なんだオッサン、アンタには関係ねぇ―だろう。なにかい、あのホモの事尊敬してるのかい?」
「オヤジさん、不味いですよ。止めましょうや。マジキチっぽいし」
白いツナギ服の男が必死に静止する
「手前ら、気合を入れる。ハアアアアアア!」
サングラスを外して胸ポケットに入れると同時に相手の顔面に正拳突きを食らわせた
向かってくる大男の足に蹴りを入れ、突き倒すと鳩尾に張り手を入れ、周りの連中に頭突きを入れた
「なんぞ!此奴は」
そういって略帽を被った兵士がナイフを出した
折り畳みナイフか、あんな物
ナイフを持って突っ込んできたが逆にナイフの刃を圧し折ってやると片手で持ち上げて放り投げてやった
周りが騒がしいことに気付くと東アジア軍の憲兵隊が来て、野次馬を排除し始めていた……
不味いな。こりゃ
三十六計逃げるに如かずということで、その場から足早に立ち去ろうとしたがどういう風の吹きまわしか……
アイザックが数名の警備の物と風花を連れて駆けつけて来た。
「あいつが仕掛けて来た。俺は……」
そう虎刈りの男が叫ぶ
「本当ですか、アスラン・ザラ」
今にも泣きそうな顔でアイザックが聞いて来る
「ちょっと待ってくれ、良いから黙っていてくれ。子供じゃないんだから、出来るだろ」
数名の物が担架で運ばれていく姿を見ていると銃を担った兵士に声をかけられた
「後ほど、査問で伺いましょう、アスラン・ザラ軍団長」
サングラスを取り出して掛け直すと
「構わん。やってくれ」

 

 

査問は、30分ほどで終わった。
軽食を食べながら聞いて来ると云うだけの内容でゴリゴリ質問攻めされることもなかった
後で知らされ、何より驚いたのは、査問の最中に警備隊に電話がかかってきて捜査終了という命令が来たというのだ
不安になった。フェイスとは評議会を飛び越えた権限ではあるが、一定期間は軍法会議も免除されるとは……

 

そうこうしている内に、引き継ぎ式に呼ばれていることを思い出して引き継ぎに行った
流石に汚れた服では不味いということで、地上軍の緑服に着替えていった
部屋に入ってみると、兵士達が直立不動の姿で待っている。
思った以上に教育は行き届いているように見える。悪い方向に……

 

「全体、倣え。立銃」
ラッパが鳴り響き、司令官と思しき男が寄ってくる。年の頃は60代前半であろうか……
裾の長い緑服の男は無帽で、片眼鏡をかけている
小さなテーブルの前に来ると、止まって敬礼をして来た
「司令官引き継ぎお願いします。新司令官殿」
脇に抱えていた分厚い書類(引継書)を渡して来て、最後のページに署名する様に言ってきた
英語で署名し、 書類をテーブルに置くと、敬礼を返す
「確かに引き継ぎました。前任司令官殿」
儀仗隊が動く
「全軍、敬礼!」
サーベルを持った儀仗兵の声が響く
「捧銃!」
地球の軍隊とは形式が若干違うようだが、これは追々俺の方で修正すればいいか
駐在武官勤務経験が無ければ気がつかなかったろう……そんなことを考えていたら声をかけられた
「お話があります、別室で宜しければ」
「差し支えなど有りましょうか、こちらで構いません」
眼鏡を上にあげながら訪ねて来た
「まず地球連合の先鋒を務める大西洋連邦第7艦隊は非常に脅威です。
が、方策があると言いますのでその事を尋ねるのは最早愚問でしょう。
オーブの連中は良くご存じでしょうから敢て聞きますまい。
日本軍ですが、旧式装備ですが練度は非常に高く士気も高く侮れません。
半端な気持ちで取りかかると火傷しますぞ。」
「ほう。失敗為さったお方の仰れることですかな?」
一瞬にして場の空気が変化した
「何、我等を愚弄する気か!もう一度言ってみろ、ザラ!」
若い黒服が喰って掛って来た
「まあ良い。遣らせて見ようではないか。その言葉、結果で示せるであろうな」
緑服の男が咄嗟に止めに入った
「そう怒らんで下さい、ギンズブルグ隊長、スミス君、おお、ガルナハン以来だね」
そう言って握手を求めて来た白髪の初老の男は、後で判ったのだがマハムール基地司令官のヨアヒム・ラドルだった
「お久しぶりです、司令」
「今は副司令官だ。アスラン・ザラ君。ミネルバでの活躍は伺ってます、そう、奥様と義兄弟の話は聞いていますよ」
「どうも」サングラスを取って正面を見つめた
「なんで中東の専門家の貴方がここに?」
「東トルキスタン(新疆ウイグル)の政務官(大使)としてきたのですが、彼に引き抜かれたのですよ」
そう言って片眼鏡の男を指差した
「まあそれなら納得です。が、しかしこの人材の欠乏振りは何ですか!
ざっと見た限りでは兵隊たちの教育もなってませんな!」
「な!」「はあ?」「ナント!」
「グフやザクに色を塗ることしかやっていないようで、仏像の如く金色に染めた物もありましたが悪趣味ですな」
「なんだと貴様!」長髪の男が野次を飛ばしてきた
「煩い!人が話してるんだ、馬鹿者!
話を戻しましょう。ということは、つまり貴方の目は何ですか、グレイブス司令官殿、その目はビー玉でも入れてらっしゃるんですか
この様を見る限りでは!」
彼は運が悪いことにグレイブスの義眼に気がつかなかった。見る見る顔が赤くなって行くのを見て不安になった
人間的にも粗末な人のようだな
「ということですから、私に一任されてる気持ちもわかりますが、それでご自分の失策を押し付けるのは如何かと思いますが……」
吹っ切れたような顔でこっちを向くと
「判りました。この老々の身に任務は重すぎたようですな。私が退職するに当たって一つ希望を聞いて頂けませんか」
「差し支えなければ、どうぞ」
「私の関わった業務に関する資料や道具を持ち出したいのです。傭兵です。
業績が無ければ食っていけませんし、恩給も有りませんので老後の小遣い稼ぎとして回顧録でも自費出版して食い繋ぐしかないのですが」
「構いません。ただし全部印刷やプリントアウトしたものだけです。良いですかな」
「ありがとうございます。ザラ軍団長、いや東アジア方面軍最高司令官殿」皮肉たっぷりに言ったのが判る
そういってグレイブスはその場から居なくなる姿を横目に
「ラドル副司令、現在の状況報告からお願いします」
「は!」
敬礼の姿勢を解くと、すぐさま指示を出した
「諸君!仕事だ。」
「戦闘準備、かかるぞ!」「実戦配備用意!」「全体解散!」

 

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