SEED-IF_4-5氏_02

Last-modified: 2008-04-29 (火) 09:20:41

ふぅん。ずいぶんとハンガーが並んでいるな。カタログで見ただけの新型機も多い。
ユウナは周囲を見て感心しながら歩いた。
「姫は先の戦争でも自らモビルスーツに乗って戦われた勇敢な御方だ」
「……」
「また最後まで圧力に屈せず、自国の理念を貫かれたオーブの獅子、ウズミ様の後継者でもいらっしゃる。ならば今のこの世界情勢の中、我々はどうあるべきか、よくお解りの事と思いますが?」
「我等は自国の理念を守り抜く。それだけだ」
「他国を侵略せず、他国の侵略を許さず、他国の争いに介入しない?」
「そうだ」
「それは我々も無論同じです。そうであれたら一番良い。だが、力無くばそれは叶わない。それは姫とて、いや姫の方がよくお解りでしょう?」
「……」
「だからこそオーブも軍備は整えていらっしゃるのでしょう?」
「……その姫というのは止めて頂けないか?」
「これは失礼しました、アスハ代表。しかしならば何故、何を怖がってらっしゃるのです? あなたは」
「……」
カガリは無言でデュランダルを睨み返す。
「大西洋連邦の圧力ですか? オーブが我々に条約違反の軍事供与をしていると? だがそんな事実は無論ない。彼のオーブ防衛戦の折、難民となったオーブの同胞達を我等が温かく迎え入れたことはありましたが。その彼らが、此処で暮らしていくためにその持てる技術を活かそうとするのは仕方のないことではありませんか?」
「だが! 強すぎる力はまた争いを呼ぶ!」
とうとう感情が激したのか、カガリは声を大きくする。
まぁ、オーケー。だめ元。オーブ以外の力が減るなら大歓迎さ。
ユウナは見守る事にした。
「いいえ姫。争いが無くならぬから、力が必要なのです」
しかし、しれっとデキュランダルは切り替えした。


『ウヴィーン! ウヴィーン!』
突如として警報が鳴った。
あちこちで爆発音が!


「「うわぁ!」」
「カガリ!」
「ぁぅ」
「議長!」
ユウナはカガリを押し倒すと、かばうためにその上に身を伏せた。
こう言う時はまずは伏せるんだよな。爆発物を頭上に放り投げられでもしない限り立っている方が、あぶない。
辛い軍事教練だったが、こういう時に冷静に行動できるのは助かるな……。
ユウナは自分を厳しく鍛えてくれたヒサヨシ・ツゲ教官に心の中で感謝した。


とりあえず近くの爆風は過ぎ去ったようだ。ちらっと隣を見ると、カガリと同じようにSPに押し倒されていたデュランダルが立ち上がりかけていた。
ユウナは立ち上がると、カガリが立ち上がるのに手を貸す。


「発進急げ!」
「六番ハンガーの新型だ! 何者かに強奪された!」
「モビルスーツを出せ! 取り押さえるんだ!」
「なんだと!?」
デュランダルが作り物でない、驚いた顔を見せる。
ザフトめ。ざまぁみろ、と言いたい所だが、まずは安全にならないとな……。
ユウナは先の戦役時のヘリオポリスでのモビルスーツ強奪事件を思い起こしていた。
「あれは!」
「ガンダム!」
カガリとアレックスの二人が驚きの声を上げる。
「ほう?」
遠目に見える強奪されたらしい3機のモビルスーツの頭の形状は、通称ガンダムヘッドと呼ばれる、オーブのモビルスーツにも付けられている頭部の形状と似ていた。
しかし、ザフトが地球軍の真似をしてガンダムヘッドとはねぇ。実用的な何かが、あの形状にあるのかな?
ユウナはこのどこか現実感がない光景を眺めていた。


「姫をシェルターへ。エヴァンスは!?」
デュランダルが指示を飛ばす。
「ああ……」
カガリの脳裏を、ヘリオポリス崩壊の時の記憶が甦る。
「こちらへ」
ザフト兵から指し示されても、カガリは動けない。
「ぁ……」
「カガリ!」
ユウナは強引にカガリの手を握った。
「ぁ……ああ……」
「では、議長もご無事で!」
「ああ、ありがとう。……なんとしても抑えるんだ! ミネルバにも応援を頼め!」


「「はぁはぁはぁ……」」
――!
目の前で、強奪機にザフトのモビルスーツがやられた!
走るユウナ達に爆風が襲い掛かる!
「ぐっ!」
「うっ!」
「うわぁ!」
吹き飛ばされる彼ら。起き上がるが、案内のザフト兵が起き上がって来ない。見ると、首が妙な角度に曲がっている。
「おい、あんた! おい!」
ユウナは脈を取る。
「だ、大丈夫か?」
カガリが恐る恐る尋ねてくる。
ユウナは首を振った。
「だめだ。脈がない」
「ぁぁ……」
「どうする? アレックス君?」
ここは、戦場慣れした彼に任せるのが良いだろう。
ユウナはアレックスに指示を仰いだ。
「こっちだ!」
アレックスはさーっとあたりの様子を把握すると、方向を指示して駆け出す。
――!
前方に、黒い獣型のモビルスーツが行く手を塞ぐ。
どうする!? と思った時、空中からザフトのモビールスーツが現れる! だが……。
強奪犯は、やはり、並みの腕前じゃないな。
ユウナは思った。
空中のモビルスーツが次々にやられ、爆発する!
「伏せろー!」
「うっ!」
「あっ!」
軍用車の陰でやりすごす。
カガリはアレックスの腕の中だ。
くそったれ!
ユウナは心の中で悪態をついた。
「くっそー!」
「なんで……なんでこんな……」
「大丈夫だ、カガリ……」
アレックスがカガリに微笑む。
だから僕の前でいちゃつくんじゃないよ! くそったれ!
ユウナはまた、心の中で悪態をついた。


「やれやれ、あいつらのおかげですっかり焼け野原だ。どうする?」
「くっ……」
アレックスは額に汗を浮かべてきょろきょろと周囲を見回す。
「来い!」
「え!? ぁぁ…・・・」
ユウナ達はアレックスの指示により、仰向けに倒れこんでいるザフトのモビルスーツまでやってきた。乗員は脱出したのだろうか? ハッチが開いている。
ユウナはこの緑色に塗装されたモビルスーツの名前を知っていた。ザクウォーリア――ユニウス条約締結後プラントで開発された次世代モビルスーツ群「ニューミレニアムシリーズ」に属する、ジンやゲイツに代わって今後ザフトの主力を担っていくであろうモビルスーツである。
「乗るんだ!」
「え?」
そうだ! ここで男を見せれば!
ユウナは決心した。
「僕が操縦する!」
ユウナは操縦席に飛び込んだ。
「え? あ!? くっそー! カガリ、早く!」
アレックスはカガリを抱えて、ユウナの後に続いてコクピットに入る。
ユウナはスイッチを入れていく。
「何考えてるんですか、あなたは!?」
「僕にだって、モビルスーツの操縦経験くらい、ある!」
「へぇ!?」
アレックスは、ちょっとユウナに感心した。
「うわ、うわわ! 立ち上がった! おい! 何よろついてんだ! ユウナ!」
「――! あっぶなーい! カガリ! ほら! よろめいたおかげで敵のビーム避けれたよ!」
「いいから! 今のうちに操縦替わってください! コーディネーター用なんですよ! これ!」
アレックスはユウナに感心した事を後悔した。
ユウナは操縦席の左に入り込んだアレックスによって強引にコーディネーターの馬鹿力で操縦席から下ろされた。
ユウナしょぼーん。
「ええぃ!」
突然機体が左側に飛ぶ!
「うわ!」
「うぶっ!」
ユウナの頬がアレックスの左肘にまともにぶつかった。ユウナの口の中に血の味が広がる。
「ぶつからないでください! 邪魔!」
ユウナはまたアレックスに怒られた。
ユウナ更にしょぼーん。
「こんなところで君を死なせるわけにいくか!」
アレックスはシールドを構えて突進した。
ふらふらした動きから急に機敏な動きを見せるアレックス達のモビルスーツに敵の黒いモビルスーツは一瞬虚を突かれ。吹っ飛ばされる。
敵は、ビームライフルでは避けられると見たのか、ビームサーベルを抜くと切りかかってくる。
アレックスもビームトマホークを抜いて応酬する。
カガリはアレックスの動きに合わせて、「はっ」とか「ふっ」とか言っている。しかし。
しょぼーんとしたユウナはどこか二人に取り残された思いで戦いを見ていた。
だからだろうか。ふと見回したスクリーンの端に、一機の緑のモビルスーツが降りて来るのを一番最初に見つけた。
強奪された奴だ!
「後ろにもう一機、敵だ! アレックス!」
ユウナは叫んだ。
アレックスは後ろに向かってシールドを向けた。
間に合った。もう一瞬遅ければ、左腕を落とされていたろう。
その時! 頭上から敵モビルスーツ目掛けてビームが降り注ぐ!
敵機は、軽くジャンプしてかわす。続けざまにビームが放たれる。その度に、緑色の敵機との距離が開いていく。
ありがたい!
ユウナは感謝の念を込めて頭上のスクリーンを見上げる。
そこには、赤い戦闘機が飛んでいた。


その赤い戦闘機は急降下してくると、モビルスーツに変化した。
モビルスーツだったのか!
ユウナは軽い驚きと共に、そのモビルスーツの行動を見守る。
『……』
通信機から音が聞こえて来る。若い女性の声だ。
『なんでこんな事……また戦争がしたいの!? あんた達は!! 』
そう叫ぶ声が聞こえると、その真紅のモビルスーツはビームサーベルを抜き、敵機に切りかかっていった――!




「いやに時間がかかったじゃないか」
お茶を運んで来たセトナにジブリールが声をかける。
「ふふ。特別な飲み方と言ったでしょう? 氷水でお茶を淹れましたのよ」
「ほう、氷水……器も、小さいな」
セトナが持ってきたのは小さなショットグラスだった。
「お待ち頂いた、だけの事はありますわ」
セトナが一滴一滴、ゆっくりとショットグラスにお茶を注いでゆく。
「さあ、どうぞ」
「うむ、頂こう」
ジブリールはその液体を口に含んだ。
「ほう、これは……!」
冷たい中に、爽やかな旨味と甘味が広がる。
「甘露だな。これは……」
ゆっくり舌の上を転がすようにお茶を楽しむジブリールを、セトナはにこにこと眺めていた。






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