SRW-SEED_11 ◆Qq8FjfPj1w氏_第07話

Last-modified: 2014-01-03 (金) 00:33:46

第7話「SEEDを持つ者達の行方」

新型機ランドグリーズを駆るユウキが率いたDC残党部隊を撃退したイルムガルド・カザハラ、リュウセイ・ダテ、ヴィレッタ・プリスケンはレイカーの命によりヴィレッタを除いてシンを含めたATXチーム、新生教導隊を乗せたハガネに配属されることとなった。
そのため現在彼らの機体はハガネに搬入されることとなり、シン達はその搬入現場に居合わせていた。

「あれが…特機か…」

紅い瞳に映っているのは、キャリアーに乗せられてハガネに搬入されている全体が青と黄色のカラーリングを持ち搬入作業で騒がしい声が格納庫内に響き渡る中でも一際力強い存在感を示し続けている、
超闘志との異名をとる特機、テスラライヒ研究所所長ジョナサン・カザハラが作り出したグルンガストである。
星型の頭部や背部に必殺技用の剣を備え、戦車と飛行機に変形する、というロボットアニメに出てくるスーパーロボットをそのまま本物のロボットとして作ってしまったような機体で、シンも童心に帰って目の前にそびえ立つスーパーロボットに心を奪われていたが、同時にその巨体は彼の心にしまわれた機体のことを思い出させてしまっていた。
デストロイガンダム。連合軍製の可変型の機体でザフト軍を幾度となく苦しめただけでなく、自分が守ると約束した少女、ステラ・ルーシェがその真意に反して搭乗することを強いられていた機体である。

(もしこいつがあればステラを助けられたかもな…いや、やめよう)
「特機を見るのは初めてか?」

聞きなれない声がした方向に目をやると、青く長い髪を背中のあたりまで伸ばした男が笑みを浮かべながら近付いてきていた。
ちなみにイルムの言うとおりシンが特機、つまりスーパーロボットを見るのはアンジュルグを除けば初めてである。
運悪くゼンガーの零式はシンが意識を取り戻す直前にテスラ研に送られてしまっていたのであった。

「お前さん、シン・アスカだろ。ビルトシュバインの」
「は、はあ…あなたは?」
「俺はイルムガルド・カザハラ。あのグルンガストのパイロットだ。またハガネに世話になることになったんでよろしくな」
「はい、よろしくお願いします、イルム中尉」
「どうだい、特機を見た感想は?」
「こう…なんかすごそうって感じです」
「ハハハ!確かに威圧感はあるからな。グルンと回ってガスッと変形ってのはダテじゃない」
「ガスッと変形って…ところであの人もハガネに来るっていう人ですか?」

シンが指さした先にはアンジュルグの脚部にしがみつき、凄まじい頬擦りをしながら恍惚とした顔をしている1人の男がいた。
イルムはその男を見ると掌で顔を覆い、大きなため息をつく。
そしてその男は自分に視線が集まっていることに気付くとイルムにむけて大声をあげて話しかけてきた。

「悪りいイルム中尉、こいつとのツーショット写真撮ってくれよ!」
「相変わらず守備範囲広いな、あいつ…」

イルムは呟くように言うとアンジュルグに全身を絡みつかせている男の方へ行き、その男をアンジュルグから引き剥がしてシンの下に連れてきた。

「シン、紹介する。こいつはアルブレードのパイロットで、本来はライと同じSRXチームのリュウセイ・ダテだ」
「ビルトシュバインのテストしてるんだって?ライから聞いてるぜ。リュウセイ・ダテだ、よろしく!」
「シン・アスカです。これからよろしくお願いします、リュウセイ少尉」
「リュウセイでいいぜ。年も近いみたいだしな」
「じ、じゃあ、よろしく、リュウセイ」
「ところでシン、お前さんマオ・インダストリーのテストパイロットだろ。リンは元気にしてたか?」
「リン?」

イルムの問いにシンの言葉が詰まった。それと同時にイルムの目つきが一瞬鋭く輝いた。

「あぁ、知らんならいいぜ。すまんな」
「いえ、こっちこそすいません」
「それよりあのアンジュルグって機体のパイロットって誰かわかるか?なんとしてもあれと並んでツーショット写真か撮りたいんだよ。
 できれば背中の羽を広げさせて手の上に乗って『降臨、満を持して…』って…」
「はいはい、残念ながらありゃイスルギの機体らしいから多分難しいぜ」
「そこを何とかなら…ねえよな、やっぱし」

シンとイルムの顔を交互に見た後にトホホ、と言うような顔をしてリュウセイが肩をがっくりと落とす。

「元気出してくれよ、一応ラミアさんに答えは聞いてみるからさ」
「そういやそのラミアって子はどんな子なんだ?」

不要なまでに目つきをギラギラさせたイルムがシンに問い詰める。
さきほどまでのリュウセイと同じようにイルムのテンションが急上昇していくのがわかった。
シンはシンでラミアのことをどう説明しようか考えているが、どうしても頭に浮かぶのはその胸部にたわわに実り、極上の甘い蜜を蓄えていそうな2つのマスクメロンばかりであったのでなかなか説明の言葉が出てこない。

「えっと…言葉遣いが特徴的なお嬢様みたいな人ですかね?」
「ほほ~う、いいとこの令嬢タイプか。なかなか嫌いじゃないタイプだぜ」
「あらんイルム中尉にリュウセイ君、おっ久~」

対称的なテンションのイルムとリュウセイ、そしてシンがいる中にエクセレンが乱入してきて、

「ちょっと聞いてくださいよイルム中尉。ブリットくんったら…」

別れ際にハグやキスの1つもできなかったブリットに関する大人の会話を始めた。
リュウセイはその会話に耳を傾けることなく落ち込んだままであったが、シンは無意識のうちにその大人の会話に耳を傾ける。
そしてエクセレンの口から語られたブリットの不甲斐なさを知り、

(勝った!)

と内心で密かに思ったのだった。

「何!?追撃部隊が連絡を絶っただと!!!!!?」

ラングレー基地司令室にタコヘッドことケネスの怒声が響き渡る。
彼の怒りの理由は、少し前から連邦軍とDC残党とが交戦する場にどこからともなく現れて戦闘に介入する所属不明の部隊の存在が確認されたことから始まる。
その部隊は現れては両軍に戦闘の即時停止を要求し、それが通らないとなると両軍に襲い掛かる行為を繰り返していたため、ケネスはその部隊の調査及び場合によっては殲滅も含めていくつもの部隊を派遣していた。

その中にはこれ以上の失態を防ぐために、ようやく数が揃い始めた最新型の量産機である量産型ヒュッケバインMK-Ⅱの部隊も数多く含まれており、彼は、当然ヒュッケバインMK-Ⅱ達が無事に帰還するものだと思っていたのだが、結果としてその思惑は大きく外れてしまった。

「くそ!こんなことならあの厄介者どもを残しておくんだったわ!」

悪態をついてケネスは葉巻をくわえる。ヴァルシオンCF強奪、量産型ヒュッケバインMK-Ⅱ強奪、それに続いて謎の部隊による多数の最新型量産機の損失。自分の管轄区域内で発生するトラブルの数々は、まるで次から次へと災難がその輝かしい頭部を目掛けて降って来るようであった。

だがそれでもなお、ケネスはさらなる追撃部隊の派遣を即座に決定した。
これ以上、失態を重ねるわけにはいかないだけではない。
たかだか戦艦一隻が率いる部隊を仕留め切れなかったとあれば司令官としてのプライドが自分を許さない。

しかし、相手が悪かった。それがケネスの不幸だった。

「戦闘を停止してください!僕達はいつまでも戦っていてはいけないんです!」

アメリカのとある平原。
薄紅色というよりはピンク色に染め上げられて嫌が応にも目を引く戦艦が連邦軍とDC残党軍の部隊が戦うフィールドに乱入してきていた。
そしてその戦艦から出撃して行く幾つもの機影。
それらの先頭にいる黄金に輝く関節を持ったPTともAMとも言えない機体のパイロットが呼びかけていた。
戦艦の名はエターナル。
異世界においては救世主だと一部の人間達から崇め奉られてきたとある女の本拠地であり、その女の目的を達成するための、剣と言う名の戦力が蓄えられていた軍事的にも重要な戦艦である。
そしてその女の名はラクス・クライン。
彼女は異世界においてコーディネーターと呼ばれた者達からは歌姫と呼ばれつつも、それと同時に決断力と敵対者認定能力、現職の軍人すら寝返らせるほどの凄まじい影響力、戦況の悪化に備えて新型機の強奪等を指示するなどの極めて高い先見性と具体的実行力を持ち、世界の主となるべく幼少から教育を受けてきた、まさに乱世の覇王の卵である。
もし彼女たちが新西暦の世界に飛ばされてこなければ卵はそのまま孵化し、世界の全てをその手に掴んだ新たな覇王が異世界に生まれていたことはほぼ確実であった。

一方、エターナルから出撃した機体はPTやAM、つまり新西暦の機体ではない。
それはMSと呼ばれるものでZGMF―X20Aストライクフリーダムという。
ストライクフリーダムは、異世界においてはそれを開発したクライン派から聖剣という扱いを受けている。
そのパイロットは人類の夢と業、最高のコーディネーターをつくるための計画の研究成果であり、異世界においてはまさに英雄と呼ばれるに相応しいほどの数の敵を屠ってきた男であった。
名前をキラ・ヤマトという。彼のパイロットとしての能力の高さは、敵対した機体のコックピットを狙わず、機体の頭部や四肢のみを破壊して戦闘継続能力を奪うことを可能にしていることからも明らかである。
自分の攻撃により直接的に相手の命を奪うことなく勝利を続けてきたことが、彼とストライクフリーダムが異世界において聖剣伝説と謳われたゆえんだった。

「怯むな!敵は1機だぞ、撃ち落せ!」

残存している量産型ヒュッケバインMK-Ⅱの小隊が一斉にフォトンライフルの引鉄を引く。
ストライクフリーダムはそれを軽々と回避してヒュッケバインMK-Ⅱに迫る。
急速な敵機の接近にヒュッケバインらは散開しようとするも、ビームサーベルを引き抜いてストライクフリーダムの方が早かった。
すれ違いざまに1機の頭部及び両腕が切り落とされるとヒュッケバインはバランスを失い落下していく。
既に、同様に戦闘能力を奪われたリオンやバレリオン、量産型ヒュッケバインが何機も大地に横たわっており、撃墜されたヒュッケバインもそこに加わる。
運良くパイロットが脱出して動かなかった機体、パイロットが乗ったまま機体ごと地面に叩きつけられたため動かなくなった機体、どちらもまだ使えそうな機体は、先頭の隙を見てクライン派と呼ばれていた者達によりパイロットを含めて回収されていく。

もともとストライクフリーダムは対多数戦を念頭に置いて作られた機体である。
パイロットであるスーパーコーディネーターのキラ・ヤマトはその与えられた能力によりストライクフリーダムに搭載された火気をフルに活用して新西暦の世界でも数多くの機体を撃ち落していた。

「各機!固まれば奴らの思う壺だ!取り囲んで一気に落とせ!」

部隊を指揮する量産型ヒュッケバインMK-Ⅱから残ったヒュッケバイン、リオン、バレリオンに指示が飛んだ。
指示に従い何機かが撃ち落されながらもストライクフリーダムの周囲を残った連邦軍の部隊が取り囲む。
その光景を見た指揮官は勝利を確信したが、それは一瞬で誤りであることを知ることとなる。
ストライクフリーダムの翼から青いパーツがパージされて、それぞれのパーツが意思を持っているように動き出す。
そのパーツはただのパーツではない。一つ一つが小型の砲台なのである。
ストライクフリーダムは一定時間内であれば大気圏内でも使用できるように改造されたドラグーンを展開すると、次の瞬間にはストライクフリーダムを取り囲んでいた機体は小さく青い死神たちにより撃ち落されていたのだった。

追撃部隊の全滅を確認するとキラはエターナルへと通信をつなぐ。

「終わったよ、ラクス」
「ご苦労様でした、こちらの方でも確認いたしましたわ。戻ってきてください」
「…ねえ、僕達はいつまでこんなことをすればいいの?」
「この世界では現在、異星人の侵略と戦いの準備がされているようです。私達にも何かできることがあるはずなのです。
 それを見つけるまでもう少し辛抱してください。連邦とDCとの戦争を今はこれ以上拡げるわけにはいかないのですから」
「うん…でも僕達が戦場に入っていって意味があるのかな…?」

キラの一言が発せられた次の瞬間、ピンク色の眉毛がピクリと動いた。

「あなたは疲れているのですわ。早く戻ってきて休んでください。どちらかの増援が来ないとも限りません」

そう言ってラクスは通信を切ると、ブリッジの席から立ち上がった。
そして後の指揮をバルトフェルドとダコスタに任せるとそのままブリッジを出て自室へと向かう。
幾重にも厳重にセキュリティーを通り抜けて彼女は自室に戻り、扉が閉まるとポツリと呟いた。

「『次』の準備が必要かもしれませんわね…」
一方、今は地中深くにもぐっている大地のゆりかご、アースクレイドルのさらに奥にある研究スペースでは1人の男が目を覚ました。
男は用意されている衣服を身に纏いながらやや薄くなりつつある毛髪を気にしつつ、自分が今まで眠っていたカプセルがある部屋の扉を開いた。

「目覚めたようじゃの、アスラン・ザラ」
「はい。おはようございます、アギラ様」