SRW-SEED_11 ◆Qq8FjfPj1w氏_第08話

Last-modified: 2014-01-03 (金) 00:35:12

第8話「異形の者たちとの遭遇」

シン達を乗せたハガネが日本の伊豆基地に到着してからしばらくした頃、ユウ達はアーチボルドじきじきの指揮により中国大陸の古代遺跡へとやって来ていた。
先祖の代の因縁と非常識にしか聞こえはしない言い伝えに基づくものではあったが、既にDCの部隊は遺跡の包囲を完了しようとしている。発掘スタッフ達に困惑と衝撃が走り、混乱が場を支配する。

「今というタイミングで確認する必要はなかったのでは?」

まだ発掘もされていないし、それにこれでは民間人も巻き込みかねない、との言葉が続いて出て来そうになるのをなんとかこらえてユウが問いを発した。

「見つかってからでは遅いんです。動き出す前の超機人を押さえないと、面倒なんですよ」

指揮官の返答は遺跡の埋蔵物にしか興味がない、目の前にいる民間人は眼中にないということを言っていた。

「……ねえ、ユウ。何か変な感じがしない?」
「どんな?」
「何か寒気みたいなの。地面の下から漂ってきてない?」
(言われてみれば…)

たしかに意識の一部がカーラの言うとおり地面の下に引き寄せられている、そんな感覚を覚えていることは否定できない。
だがそれを根拠付ける科学的な根拠がない以上、信用できないというのがユウの性分である。
そしてその生真面目さ故に押しかけパートナーともいうべき相棒に振り回されてきたのも事実であった。

「もしかしてチョーキジンってやつのせいかな?」
「関連性があるとは思えん。それに俺はまだ超機人の存在を信じちゃいない」
「ユウはこの手の話、苦手だもんね」
「非常識だからな」

非常識。色々と伝わってくる話を否定するためにユウがこよなく愛する理由付けであった。

「…では敵の追撃隊が現れる前に仕事を済ませましょうか?」
「仕事?」
(ようやく口を開いたか)

さきほどまで一言も発することなく待機していたエキドナにユウの意識が向いた。

素性が知れない女。エキドナに対してユウが抱いている感想である。
先日もエキドナが伊豆基地の情報収集に赴いた際に2、3、言葉を交わしたが会話をしていて、根拠こそないが何か大きな違和感を感じていたからだ。
たしかにDCには目の前の元英国貴族の末裔だという上司にように元々素性が怪しげな者が少なくない。
しかし目の前にいるこのエキドナという女から感じる違和感はそのような怪しさとは異質のものであり、どことなくではあるが人工的というか無機質といった感じを胸だけではなく全体から受けるものであった。
例えるならゼオラ、エキドナともに素性が知れず、やや非常識なサイズの胸をしているものの、ゼオラの胸が産地不明ながらも天然栽培により身がパンパンに詰まった大型のグレープフルーツであるとするならばエキドナは同じように産地不明だが味覚・形を理想のものとすべく徹底的な管理の下に育てられた小型のスイカであろうか。
とはいえ今は任務中であり急いでユウは意識を目の前に戻す。

「まさか超機人とあたし達で発掘すんの!?」
「そうですよ、なんのためにここまで来たと思ってるんです?爆薬を使って一気に土砂を吹き飛ばしますよ」
「遺跡ごとですか?」
「ええ、必要なのは超機人だけですし、あれはそう簡単に壊れるものではありませんからね」
「発掘現場にいる人間は?」
「ああ、気にする必要はありませんよ」
「了解」
「ちょっと待ちなよ!相手は民間人だよ!?」
「何をいまさら。僕達は戦争をやってるんですよ?」
「でも相手は非武装なのに!」
「関係ありませんね」
「少佐、ここは彼らに退去勧告を出せば済むことだと思います。間もなく現れる敵を迎撃するためにも弾薬は節約するべきでは?」

発砲モーションに移ろうとするガーリオンを見てユウが口を挟んだ。
ブリットやシンとの問答の影響を受けたとは考えたくはなかったが、無関係な人間を巻き込みたくなかったのは確かだった。
ユウも元々卑怯な手や無関係な人間を巻き込むような手段を強く嫌悪するタイプの人間だったからである。
しかしアーチボルドのようなタイプの人間に情に訴えるなどの非理論的な進言が通ることはまずない、あくまでも理論的に、相手に合理的な反論を許さぬような進言をしなければならなかった。

「なるほど。ユウキ君、君は無駄な血を流したくないと?」
「少なくとも、今という状況では」
「そうですか。でも僕は無駄な血を流すのが好きなんですよ。特に民間人のね」

アーチボルドの陰湿な笑みとともにガーリオンが携行火器を、退避行動中のスタッフらであふれる遺跡に打ち込んだ。
大きな爆発音が現場に響き渡った。
そして慌てふためく者、爆発に巻き込まれ倒れ込む者、それでもなお冷静に退避せんとする者らを見たアーチボルドの笑みはさらに大きくなり、そして笑いがあふれ出した。

「ふふふふ………はははは」
「!?」
「あ~っははははははは!!この感覚たまりませんねぇぇぇ!!格別、格別です!無抵抗の人間を相手にするのは!あはははは!
 いやまったく!昔を思い出しますよ!」
「くっ!」

力なき者、無抵抗の者、自分よりも圧倒的に弱い者に加えられる、圧倒的な力の差を示した上で加えられる暴力にアーチボルドは酔いしれる。
他方でエアロゲイターの無差別攻撃により弟を失ったカーラは当時の記憶を思い出さざるをえなくなり、その気持ちを抑えるべく歯を食いしばる。

「あァ、これは失敬。僕としたことが、つい興奮してしまいました。それに、君の過去を思い出させてしまったようですねぇ。
 カーラ君、どうですか?君も狩りを楽しまれては?」
「じょ、冗談じゃないよ!!」
「まあいいでしょう。無駄強いしません。予想以上に早く追っ手が来たことですしね」
「!ハガネ…!もう追いついてきた!?」

さらなる凶行が行なわれる直前、ハガネが戦闘区域へと突入してきた。
それと同時にパーソナルとルーパー各機及びグルンガスト、アンジュルグがハガネから飛び出していく。
ブリットのヒュッケバインMK-Ⅱに続きシンのビルトシュバインも出撃を完了してDC残党軍を睨みつけた。
無抵抗の民間人をも巻き込む攻撃はシンにベルリンなどの都市を焼き払った連合を思い出させるに十分であったのだ。

「ねえキョウスケ。何なのここ?」
「LTR機構の発掘現場だ。説明を聞いていなかったのか?」
「そうじゃなくって何か変な感じがしない?」
「変だと?」
「うん」
「特に何も感じないがな。リュウセイ、お前はどうだ?」
「ああ。足の下から冷気みたいなものを感じる。地下に何かあるのか?」
「言われてみれば空気が妙によどんでいるような…」
「ん~そういう感じ方とは違うんだけど」

ブリットから、リュウセイとブリットには念動力という特殊な一種の感応能力があることを聞いていたシンは遺跡から漂ってくる気配というものに自分は無関係だなと感じていた。
しかし念動力がなければ使えない機体・兵装があるとの話もあったことから、シンにはドラグーンの使用に必要とされてきた空間認識能力のようなものだという程度にしか思っていなかったのであるが。

「ほう、あれはSRX計画のR-2…ならパイロットはブランシュタイン家の次男、ライディース…ふふ、因縁ですね」

ユウは新たに溢れてきたアーチボルドの邪悪な笑みに気付くも、R-2とアーチボルドの関係について問おうとはしなかった。

(あのヒュッケバイン…そしてビルトシュバイン…ならばあいつらか)

メキシコ高原、ハワイと自分の前に立ちはだかり奇麗事をぶつけてきたシンやブリットをユウは忘れてはいない。
もし自分が今までのようにガーリオンに乗っていたならば、躊躇なしに民間人を巻き込んだアーチボルドの下にいる自分に対して、彼らはその信念を口に出した上でぶつけてきたであろう。
そしてそれに対して割り切った反論をできる自信はなく、自分がこの戦場にいると彼らに認識されずに済むことにわずかながら安心すると同時に、安心する自分への怒りもまたこみ上げてきていた。

「では僕達は遺跡の発掘に専念しますから他の皆さんは…」

そうアーチボルドが言いかけたときであった。

「!?」

エクセレンが何かを感じ取った。それと時を同じくしてラミアの脳裏にはとある技術のことが浮かぶ。

「これは空間転移だ!警戒しろ!」

ラミアの口から発せられた言葉にL5戦役を潜り抜けてきたパイロット達はエアロゲイターの出現方法を思い出し、招かれざる客の登場を警戒する。
そして遺跡の周りに次々と見慣れぬものが現れ始めたのだった。

「あ、あれは…」

現れたのは一言で現せば骨と草。それがそびえ立ちながらも呼吸するかのように動いている。
骨のような物体は、2足歩行の動物の骨に黄色の爪と角、赤い球状の目を持ち、草のような物体は、中が空洞のようになった生物の胴体のいたるところから蔦が伸びている。
それらの動きはロボットのような無機質的なものではなく、まるで生き物のようであった。
目の前で起こっている自分の理解を遥かに超えたところで起きている事態にシンも驚きを隠せない。

「何なんだ、こいつらは!?これがエアロゲイターなのか?」
「いいえ。あのアンノウンはエアロゲイターの機体とは違う。機体の構造や仕様に共通点がない」

誰に対して言ったのでもない問いにラトゥーニが冷静に答える。そして、

「まるで特撮物に出てくる怪獣みたいだぜ」
「まるで特撮物に出てくる怪獣みたいじゃないか!?」

シンとリュウセイの言葉がハモった。
だがそんなやり取りはアンノウンには関係なく、アンノウンは遺跡の方を向いて攻撃を開始する。

「各機、アンノウンを撃破して遺跡を死守しろ!」

カイの指示が飛び、ハガネの各機が戦闘を開始した。

「じゃ、皆さん。ここは撤退しますよ」
「……いいのですか?」
「超機人はそう簡単に壊れはしません。あとで発掘したところをいただくとします」
「了解です」

レールガンで骨のアンノウン、アインストクノッヘンを撃ち抜き、下がったメガネを直すアーチボルド、目の前で起きている非常識極まりない事態の理解を放棄し、民間人が残っている遺跡を攻撃しようとするアインストグリートの集団をマトリクスミサイルとリニアカノンで殲滅し終えたユウの両者は目の前で起こっている事態に関して論ずることなく淡々と言葉を交わした。2人とも今は議論をしても何も始まらないことを認識しているからである。

「カーラ、エキドナ、アンノウンに向けてミサイル発射。その後、撤退するぞ。遺跡は絶対巻き込むなよ」
「わかったよ!」
「了解」

ランドグリーズ3機が一斉に残りのマトリクスミサイル、ファランクスミサイルをアインストに向けて放ち、アーチボルドのガーリオンに続いて戦場を後にした。

「お前達は一体何なんだあぁぁぁぁ!?」

そう言いながらも答えは聞いてない。何者であろうとも避難が完了していない遺跡を攻撃するアインストを放置するわけにはいかなかったからだ。
シンは、上から振り下ろされるエレガントアルムを、機体を左に飛ばして回避しするとサークルザンバーを起動させた。
そして、続いて伸びてきた蔦ごとザンバーでグリートを横一文字に切り裂いた。
だがまだ切り離された上下半身は動きを止めていない。

「はあぁぁぁ!!」

次こそ息の根を止めるべくシンはビルトシュバインのザンバーをグリートの頭部から下半身に向けて振り下した。
蔦を除けば上下左右に4分割されたグリートはようやく動きを止めて崩れ落ちる。
しかし息つく暇もなく機体がアラートを鳴らし、警戒を促した。
後ろを振り向くと3体のクノッヘンがビルトシュバインに飛びかかろうとしている。
ビルトシュバインは1体から放たれた黄色い爪をくぐりぬけ、今度は正面から斬りかかった。
そのまますれ違いざまにザンバーを振り上げてクノッヘンの右腕と頭部を切り落とす。

「くそ!仕留め損ねた!?」

だがシンが振り返ると残った体はすでにワイヤーによって巻き取られていた。
そしてワイヤーの先にあるチャクラムが容赦なくクノッヘンの残った体を切り刻む。

「ニの太刀に頼るな!」
「ブリットか?助かった!だがあと2匹…」
「いやもう零だ」

遠く離れた場所から発射された二条の高エネルギーが2体のクノッヘンを呑み込んでいた。
シンはその隙にいったんヒュッケバインMK-Ⅱと合流し次の敵を探す。

「今のは?」
「R-2のハイゾルランチャーだ。射撃精度はラミアさんのアンジュルグにも劣らない」
「そうじゃなくて二の太刀って…」

エルザムらの下にいた頃、リハビリと訓練を兼ねてゼンガーに剣術の指導を受けていたときに言われたことをシンは思い出していた。

「俺の師匠の教えだ。分かりやすく言えば次の太刀があると思わず、その一撃で仕留めろ、ということだ」
「…知ってるよ」
「そうなのか?」
「ああ」

シンはわずかに笑みを浮かべた。同じ人間から教えてもらったんだからな、と言いそうになってしまったのだ。
その頃、最後の1体となったクノッヘンの胸部をリボルビングステークが貫き、その活動を止めていた。

「アサルト1より各機へ。アンノウンの殲滅が完了した。民間人の安全を確保しつつ帰還してくれ」
「了解。アサルト5、これより帰艦します」

ブリットの問いにそっけなく答えてシンはビルトシュバインをハガネに向けた。
自分の素性やエルザムの下にいたことはトップシークレットなのだから。

「体の調子はどうじゃな?アスラン・ザラ」
「はい。アギラ様のおかげで良好です」
「そうか、では近くに命令を出す。それまで待機しておれ」
「了解しました」

大地の奥底のアースクレイドルのさらに奥、アギラ・セトメの研究スペースをアスラン・ザラが歩いていく。
その後ろ姿を見るアギラの口は、アーチボルドが浮かべていた快楽による笑みとは異なる、研究者としての興味が全面に出た笑みを浮かべていた。
例えるのであれば新しい玩具を手に入れた子供のような笑みであろうか。

「調整は完了したようだな」
「なんじゃ、用があるのならノックくらいせんか」

振り向きもせずにアギラは声の主に答えた。だが爬虫類のような顔をした声の主はアギラのクレームを意に介さず言葉を続ける。

「フッフッフ、そう言うな。あれを拾ってきて貴様にくれてやったのは私だぞ」
「よく言うわ。わしが奴を研究した成果はしっかりと聞いてくるくせに」
「ふん。『面白い、面白い』といいながら年甲斐もなく張り切って研究した成果だったな」
「人間の精神的な揺らぎが実力以上の力も実力以下の力も出す、というワシの持論を体現したような奴じゃったからな」
「一定の条件の下でしか力を発揮しきれない、というやつか?」
「そうじゃ。あやつはある条件を充たさない限り全ての力を出し切れん。じゃがこれはなかなか便利なものでな。
 万が一、人形が自分に牙を向いたときには安全に裏切り者を処分できるんじゃよ。
 アードラーの奴もこの枷をかけておればくたばらずにすんだかもしれんのう」
「あのジジイがどうなろうが知ったことか。とはいえ、そうだとすればあのアスランとやらはその条件を満たした状態にしてあるのか?」
「いや、その条件が大体何なのかはわかったがそれをわしが充たすことはできん。
 だから条件が充たされている、という暗示を掛けておいた。割とこまめな調整は必要じゃがコストはそんなにかからん。
 それに遺伝子レベルでの調整もされておって色々と弄くり甲斐があったわ。ヒッヒッヒ…」
「ゲイムシステムも完成間近だしな」
「一番面白いのはあやつが別の世界とやらから来たということじゃよ。そこには奴を枷で縛った奴がいるはずじゃ。
 なんともいい趣味とセンスをしておるよ。是非そやつに会ってみたいのう。話が合いそうじゃ、ヒィッヒッヒッヒヒ…」

デスティニーの自爆に巻き込まれたアスラン・ザラが新西暦の世界に来たのはシンがこちらの世界にやってくるずっと前、アードラー・コッホとヴァルシオン改が敗れ去り、アースクレイドルがいったん地中に潜る直前であった。
たまたまクレイドルにボロボロになったインフィニットジャスティスごと収容されたアスランはソフィア・ネートと異なりまだ冷凍睡眠に入っていなかったイーグレット・フェフのもとに運び込まれた。
だがマシンナリーチルドレンとマシンセルの研究をするイーグレットも、生身の人間の研究に関してはそこまで長じているわけではない。
そこで彼はアスランを特脳研にいたことのあるアギラに引渡したのであった。

「シャドウミラーといい、あのアスランとか言う奴といい、何かが起きる前触れかもしれんな。
 早くマシンナリーチルドレンを完成させねばな」

イーグレットにはすでに何かが起こり始めている、そんな予感がしていた。

一方、いったん伊豆に戻ったハガネは次のDCの攻撃に備えることとなり、間もなく入ったDC残党の出現の報を受けてそこへ向かうのだった。