STSCE_第03話

Last-modified: 2008-02-29 (金) 23:19:00

敵影は7~10、ボギーワンと認識名が名づけられた艦も、二度連続の戦いとなればMSも底を付いてくるのであろう。
「ティアナ、前みたいな機影は?」
「ないわ。 でも、新型は出てきてるわね」
確かに、ダガータイプとは明らかに違うタイプの機影がレーダーに見られる。
「足を止めたということは、本格的な戦闘になる。
 俺はミネルバの近くで戦うから、シンはルナマリアたちと前へ出ろ」
「わかった、任せる」
レイならばシンも安心して任せられる。
それだけ、彼らの付き合いは長いのだ。
「会敵予測地点にはデブリがある。
 ルナマリアは陰使って援護してくれ」
了解を得るとシンはさらに加速をつける。
今回はフォースシルエット、多勢な敵を掻き回すには御誂え向きだ。
因みにティアナは変わらず中距離を保つ事になっている。
彼女の機体は速度も力も、インパルスとルナのザクを足して2で割った程度にあるのだ。
「居た、黒いの!!」
前の大戦の後期で量産されたといわれるダガータイプ、その強化型だ。
牽制の射撃を2発ほど撃って、回避に重点を置いている隙にすれ違いざまに斬って、まずは一機。
(ボギーワンの反応が消えてるな……。
 レイに任せるしかない、か)
気づいた瞬間にはシンの周りには奪われた機体が居た。
(ダガータイプはミネルバに向かうのか!?
 挟み撃ちにする気か!?)
4発のビームライフルで2機ほど落としたが、残りは多い。
ルナマリアもティアナもカオス等を見ているため、それ以上の戦果は望めない。
そして戦艦も、よもや奪った機体を犠牲にして逃げるとは思えなかった。
「でも、ここを突破しなきゃ戻れるものも!!」
ビームサーベルを引き抜き、カオスに攻撃を仕掛ける。
「喰らうかよ!ガンダム!!」
「公の通信で、人の機体に変な名前を付けるな!!」
シールドで弾かれるが、一瞬で持ち直し足蹴にした。
レーダー上では他の2機同士も戦闘を始めている。
そんな確認の最中にも、カオスは攻撃を仕掛けてくる。
インパルス同様、カオスも多少の攻撃ならば持ち直すのに時間はかからないのだ。
緑色の有線がインパルスの左右に現れる。
「そら、喰らえよ!!」
盾は一つしかない、左手にしか。
「だったら!!」
迫る、カオスの本体に。
そしてもう一度蹴りを浴びせる。
「今度はこれで終わりじゃない!!」
そのままビームサーベルの餌食にしようとするが、背後からの攻撃にインパルスも怯んでしまう。
その攻撃は、先ほどの有線の先からのものだ。
(機体の中も揺れてただろうに……。)
それでも、自分の命を護るための行動が出来たのだ。
回数も乗ってない機体で。
「なんて奴らだ。
 奪った機体で、こうまで!!」
だから、素直に賞賛の言葉が口をついて出た。
目の前に居るのは、ただの『奪われた機体』では済まないのかもしれない。
事実、援護を頼んだはずのルナマリアも一対一をやる事態になるほどに、シンはカオスを振り切る事も押し切る事も出来ない状況にあったのだ。
ティアナも奮戦敵わず、アビスに半ば押し切られているように見える。
(ここまでか……。)
これ以上功を焦ってはならない。
エネルギーも危険域を示している以上、ミネルバに近づく必要がある。
しかし、この敵に後ろは見せられない。
(奮戦を装って耐え凌ぐしか……。)
思いをそちらに寄せた瞬間、盾が前に出る。
(こんな事じゃ、すぐにばれる……!!)
ティアナもルナマリアも、インパルスほど攻撃に重点を置いていなかったとはいえ、エネルギーは危険域のようだ。
「長々と動かせたのはこのためか、クソッ!!」
ミネルバから遠ざかるのとエネルギーを消費させる事は等しい行動で出来る事。
だからわざわざ艦の動けないデブリ宙域を選択して、ボギーワンは戦闘の意思を見せたのだろう。
しかし、ビームサーベルで切り払うとともに、転機が訪れる。
「シン、帰艦信号」
見ると、ミネルバではなく敵艦のものだ。
「追うなよ、分かってるだろうけど……。」
戦うだけのものが、あらゆる点でかけていた。
「わかってるわよ」
ルナはそういってミネルバからの帰艦信号を見つけた。
ティアナはその事に一言だけ返事をすると、後は黙って付いて来る形になった。
(無理もない、か。
 俺も、しばらくは話したくもないからな……。)
特に、宇宙は疲れる。
もう宇宙で暮らす事が基本の軍に入ると決めてから何年も経つと言うのに、頭にはそんな感情が残っていた。
 
 
「シン!!」
戻って部屋への道を歩いていると、スバルが駆け寄ってくる。
「どうしたんだ?」
出て行くときに言った言葉について何か言われるかとも思ったが、そうではなかった。
スバルが言うには、彼女は特別にブリッジに居させてもらったそうだ。
「いや、特別にしてもおかし過ぎないか?それ」
「まぁまぁ、それはいいからさ」
そういって、スバルはシンの隣を歩く形に直った。
「最初の戦闘でやられてたザク、居たでしょ?」
「あぁ、覚えてる」
新型相手に何のオプションも付いていないザクで相当な立ち回りを見せていた。
「あれのコックピットに居たの、オーブの2人なんだって」
「なっ!?」
つい、立ち止まってしまう。
ザフトの機密の一部を外国の人間に見せたということにもなりかねない。 というか、なるだろう。
「あはは、驚いた?」
「あ、あぁ。
 それで、それがどうしたんだ?」
スバルの前置きだと、その二人が何かをやったのだろうとは推測できたが、シンには到底推測できない。
「それがね。その付き人のほうが、さっきすごい作戦を考えて、それを実行したんだよ」
「ちょっと待て、ブリッジに入れたのか?」
シンの質問は、スバルからしたら今更のものだったが、確かに説明を忘れていたと思い直して、頷いた。
そして、「戦闘が始まる前に議長が案内したみたい」と付け足した。
(議長が? 一体、何で?)
シンには理解できない事が続く。
ブリッジに招いた事も、戦闘に入っても居続けさせたことも、発言を許し、それを実行した事も。
「そしたらあのボギーワンって言うのが逃げていったんだよ?」
スバルは「すごいでしょ」とでも言いたげ視線をシンに向けてくる。
しかし、ならばあの絶体絶命の状況を救ったのはあの付き人という事になる。
「そういえば……。」
先ほどレイと話す前にルナマリアに聞いた話を思い出す。
「ん?」
スバルの疑問符に触発され、シンは話し出した。
「アスランかもしれないって、言ってた」
「アスラン?」
誰でも知っているであろう名前を出したのに、帰ってきたのは疑問符を伴った名前のみ。
「知らないのか?」
「うん」
つい、シンはため息を漏らした。
そこに篭っていたのは、スバルの無知に対する呆れだけでは、断じてなかっただろうが……。
 
 
「お疲れ」
ザクを降りてきたティアナに声をかけたのは、先ほど共闘したルナマリアだ。
「あぁ、はい。 そちらこそ」
そういって、周囲を見渡す。
「あれ、他のお二人は?」
「シンが一番で出てって、レイがそれを追いかけてたわ。
 男は着替えるのが楽で良いわよね」
後半はもうため息交じりといった感じだ。
慣れぬ戦いを終え、コックピットで休んでたティアナと違って、ルナマリアはもう元の赤服に着替えていた。
「それじゃ、あたしもここで」
「あ、ちょっと待って」
「何でしょうか?」
礼をして立ち去ろうとするティアナだが、ルナマリアがまだ声をかけた。
「別にかしこまらなくても良いわよ。
 これから長い事この艦で生活もしていくんだから、友達とかそんな感じで、ね?」
「そうですね。
 ゆっくり馴染んでいきます」
今度こそ、ティアナは立ち去った。
 
 
「シン」
今日は呼び止められてばかりだなと思いながらも、スバルとともに声の方を向く。
「レイ。どうしたんだ?」
「どうした、ではないだろう。
 議長が巧く言ってくれたようだから良かったが、もし議長が居なかったり、現場主義の議長でなかったらお前は今すぐ艦の外に投げられてもおかしくはない立場だ」
「怖いこと言うなよ」
「しかし、事実だ」
「そうだけど……。」
言い返そうとするが、レイは少しスバルのほうを向いていたので止まった。
「スバル、といったな。
 先ほどはありがとう、止めてなかったら本当に死んでてもおかしくない場面だ」
「い、いえ。 必死だっただけですから」
レイが驚く事に頭を下げたので、スバルもかしこまってしまう。
「レイ!!」
「お前はもう少し危機感を持て。
 元国民といえど、相手は各国のトップと顔を並べる人間なんだぞ」
(なんか変な感じ。
 二人とも全く敬ったりしてないみたい……。)
などと考えてるスバルも、そんな気持ちは持っていなかった。
案外国のトップとは、そういうものなのかもしれない。
(そういえば、アスハに殺された、って……。)
彼女の悩みは募る一方だった。
 
時は決して止まらない。
一度欠落した平和のピースは、時を追うごとに欠番を増していく。
だから、なにか変革が起こらなければ、事は全てが戦いへの加速剤になる。
戦いへの加速剤とは、例えば……。
 
『落ちる過去』破壊作戦、とかが起こったりすること。
 
取り敢えずクルーの憩の場になりつつある、休憩所。
休憩所、即ち憩の場ではあるが、突然の環境の変化にそれが顕著に現れてきていた。
その場にはシンやレイと同世代の人間が集まっていた。
シンはそこにレイに連れられ、やって来たのだが、どうにも様子がおかしかった。
「どうしたんだ、ルナ?」
シンと同じくパイロットである、ルナマリアに話しかけると、それに伴い全員がシンとレイ、スバルを見る。
その中からティアナが出てきて、向かってくる。
「あ、スバル。探してたのよ?」
「ごめんね、ティア。 ちょっと色々話してて」
「ふ~ん……。」
うねりながらティアナは横目でシンをみる。
「な、なんだよ?」
「別に?」
「まぁ、いいけど。
 それで、ルナ。 本当に何があったんだ?」
流されては堪らないので、再度ルナマリアを促す。
「そうそう、大変なのよ。
 ユニウスセブンの軌道が地球に向かってるって」
「馬鹿な!?
 あれは100年単位で安定軌道を取っていたはずだぞ!?」
流石のレイでもそれには衝撃を受ける。
ユニウスセブンは、核の使用の誡めのような存在になりつつもあったもので、多数のコーディネーターが核の火に焼かれた場所でもある。
そして、数多の墓や慰霊碑の向けられている場所でもある。
「シン、地球に向かってる、って?」
スバルが心配そうな顔を向ける。
「落ちるって事、だろうな、多分」
「そんな!それって大変だよ!?」
「大きさがどんなものかは知らないけど、どうなるか……。」
スバルの驚きに、ティアナも悲痛そうな表情をする。
それに反して、ルナマリアが元の輪に戻っていく。
話は終わったので、それを止める気は無かったが、明らかな温度差を感じた。
(しかたない、か。
 ヨウランたちは地球生まれでもないし、ここまで命がけだったわけだからな……。)
今回の一件は任務にされても艦内にいる限り命が危険に曝される事はないと踏んでもいい。
「で、今度はそのユニウスセブンをどうすればいいの?」
「砕くしかないな。
 あれが本当に地球に落ちれば、それを理由に宣戦されかねない」
ルナの言葉に、レイがいたって真面目に答える。
「宣戦って、地球もそこまで馬鹿じゃないだろ?」
シンも気になってついに口を出した。が、
「どうだろうな。
 俺は今回の強奪に関する一件を連合のものと考えている。
 ならば、奪ったあれには使われるべき『戦場』が用意されるはずだ」
「その口実になる、って言うのか?」
「それだけならいいがな」
言い、レイは端にある椅子に座った。
 
「まぁ、でも」
それについて行こうかと思うが、ヨウランが声を出したのでシンも足を止める。
「それもしょうがないっちゃ、しょうがないか?」
その発言はレイの宣戦の発言を受けてのものではなく、ユニウスセブンの落下についての事だ。
「不可抗力、だろ?
 けどいろんなゴタゴタもきれいになくなって、案外楽かも」
そんな簡単に済まして良い話ではないと思い、シンは口を慎むように言おうと一歩でた。
そして、それをスバルもティアナも見ていた。
しかし、そんな感情すらも、やはりとある一人の人物によってかき消されてしまう。
それをたまたま通路から聞く形になった、カガリのせいで、である。
「良くそんな事がいえるな、お前たち!!
 どれだけの人間が死ぬ事になるのか、分かっているのか!?」
いきなり入ってきてこの発言では、流石に場は静まり返った。
それだけで立ち去ってくれれば、シンは心の震えを両手だけで発散できただろうと、スバルは感じた。
「すみません」
ボソッと、ヨウランは呟いた。
軽はずみとはいえ出すぎた、言いすぎたという実感は、彼にも有ったからだ。
しかし、その謝罪は多分、どこかでカガリを優位に立たせたのだろう。
だから、カガリは止まらなかった。
「やはりそう言う考えなのか、お前らザフトは!
 デュランダル議長の指導で、変わったんじゃないのか!?」
そんな勝手な物言いに、幾ら国を束ねるものでも、あまりに人々を一色単にしてしまっている彼女の思想に、シンは耐えきれはしなかった。
「別に本気で言ってたわけじゃないさヨウランも。
 そんくらいのこともわかんないのかよ、アンタは!?」
そして怒りは一瞬でシンに言葉を与え、それを吐かせる。
「お前っ!?」
「シン!!」
カガリとスバルがそれぞれ別の意味合いで同じ人間を呼ぶ。
スバルに至っては喋ってる途中からシンの腕を押さえている始末である。
「シン、言葉に気を付けろ」
レイは今回は咎めるのでなく、そう一言言っただけだった。
彼が言い聞かせても聞かないのなら、気が済むまで、死なない程度にやらせるしかないと思ったからだ。
「あーそうでしたね、この人偉いんでした。オーブの代表でしたもんね」
そこにカガリの隣に居たアレックスが咎めるような目つきをしたので、スバルが割って入ろうとするが、それを止めた。
「君はオーブがだいぶ嫌いなようだが、何故なんだ?
 昔オーブにいたと聞いたが、下らない理由で関係のない代表に突っかかるようならただでは済まさないぞ」
なぜなら、その質問は先ほどスバルがしたものと、ほぼ同じ内容だったからだ。
そして、彼はもう一度あの一言を言った。
「俺の家族は、アスハに殺されたんだ!!」
そして、シンは歩き出した。
アレックスによって再び燃え出した怒りとともに……。
「下らない?関係ない?ふざけるな!!」
場は、さらに悪い方向へ凍りつく。
「国を、あんたたちの理想を……。
 そういうのを信じて、そしてオノゴロで殺された!」
侵略せず、許さず、そして争いへの介入をしない。
それらを理念として掲げた国の最後としては、それはあまりにもおざなりだった。
そしてその国は、その国の王は、何事もなかったかのようにオーブを再建した。
死んだ人間など放置して宇宙に出て、きちんと葬られたのは、結局その後だったとさえ聞く。
「奇麗事にすがって滅ぼされたくせに、まだ奇麗事を言う。
 それでまた、あんた達は国民を殺すんだ、俺の家族みたいに!!」
カガリもアレックスも、何も言い返さない。 いや、言い返せるわけがないのだ。
上に立ち人を動かしてきたものと、ただ敵と戦ってきたものに、その下に立つものの気持ちなど、分かるわけはない。
「どんなに正しくても、誰があんたたちを誉め、称えても、俺は絶対に許さない。
 あんたたちの事だって、信じられない……!!」
スバルもティアナもルナマリアも、事の発端のヨウラン、そしてレイでさえも、シンを止めはしなかった。
圧倒されたのだ、彼の言葉。ただ、それだけのものに。
「どれだけの人間が死ぬ事になるのかって、あんたたちだってあの時考えたりしたのかよ!!?」
ゆっくりと歩いていたのに、ついにカガリたちのいる、部屋の出口にたどり着く。
それでも歩み止まらず、わざと肩をぶつけ、「何も判ってないような奴が、解った様なこと言わないでほしいね!!」と、捨て台詞も残して出て行った。
 
 
 
次回予告
 
シン達は、地球を守るための行動にでる。
先の論争とて、誰も本音で言った言葉によるものではないのだから、その行動は彼らにとっても当然の事だった。
 
そこで、軍人ではない男が一人、戦場に立つ。
そして、その男は自分という存在の宿命をかみ締めることになる。

NEXT 「アスラン・ザラ機、出る!!」