STSCE_第04話

Last-modified: 2008-02-29 (金) 23:31:22

第4話「アスラン・ザラ機、出る!!」

 

しばらく経つとミネルバは問題の中域に到達していた。
砕かなければ大勢の命が失われる。だから、砕く。
そんな当たり前の考えを持つものがいれば、勿論、その逆に『落とそう』とするものが、そこにはいるかもしれないのだ。
「そういう人間がいたらメテオブレイカーを守るのが俺たちの任務だ。
 Rキャリバーは出られるか?」
「ごめん、宇宙は全般無理なんだ……。」
「そうか。
 ならばザクで……。」
「ごめんなさい。
 それも無理、かな」
レイがシンを除くパイロットに作戦の概要を伝えていると、妙な事実に打ち当たった。
スバルがRキャリバー以外の機体には乗れない、という事だ。
が、レイはそのことには特に触れず、「シンにも話をしてくる」と、その場を立ち去った。
ルナマリアも「機体見てくるわね」と、その場を後にしたから、残ったのはスバルとティアナだけとなった。
「大丈夫?」
そのタイミングを見計らったように、ティアナはスバルに問いかけた。
「仕方ないよ。
 あたしは大丈夫だから、頑張ってね、ティア」
レイもルナマリアもスルーしてくれたのでそれほど心配をしていたわけではないが、ティアナは逆に励まされてしまう。
「せめて宇宙でも動けたらよかったのに、ね」
「言っても仕方ないよ」
「それなら、あんなもの始めからなければ……!!」
「ティ~ア?
 心配してくれてるのはうれしいけど、Rキャリバーがないとあたしはあたしのやりたいことだってできなかったんだよ?」
自分のために怒りをあらわにするティアナに、しかし、スバルは治めるように行った。
「でも……!」
ティアナはスバルのある秘密を知っていた。それは、Rキャリバーにしか乗れない事からなる、一連の事象。
そして、ティアナはその秘密のばれない為に気を使っている。
それはスバルにとってもうれしい事だったが、彼女は些か心配しすぎな傾向があった。
「あたしなら大丈夫。 ね?」
勿論、ティアナにだって秘密はあった。
そして二人のそんな秘密は、後にある重大な事件を引き起こす事になる。
そんな事は露も知らず、いや、そうなると知りつつも、スバルたちはしばらくの間普通の少女として話しをしていた。
 
 
「もう着替えていたのか」
男性用更衣室で、レイはシンの姿を見つけた。
そんなレイに、シンはつい目を取られてしまう。
「なんだ?」
「いや、別に……。」
言って、シンは目をそむけた。
しかし、レイはシンを咎めはしなかった。
「気にするな。 俺は気にしていない」
驚いて、シンは顔を上げた。
「お前の言った事も正しいんだ。 気にするな」
そこまで言われると、シンは驚きと喜びが溢れてくるような感覚に陥った。
レイはシンを慰めるでもなく、咎めるでもなく。
ただ、シンを『認めた』のだ。

 

二人が着替え終わり、途中でスバルたち3人と合流して機体の元へ向かおうとすると、そこにはカガリの側にいるはずのアレックスが機体の説明を受けていた。
「何であいつが」
シンが呟いたが、出撃前という事で何も言わずにコアスプレンダーの方へ向かった。
レイはもとより我関せず、ティアナも似たり寄ったりだったし、スバルはなぜかまたシンに付いていっていた。
ルナマリアは「ま、モビルスーツには乗れるもんね」と、彼女も呟いてザクへ向かった。
そして、それほど間を置かずに出撃の命令が下される。と、誰もが思っていたのだが、状況は少し変わった。
「事件の首謀者と思われる集団からメテオブレイカーが攻撃を受けています」という通信で、だ。
それを聞き、シンたちは気を引き締めたが、ルナマリアはアスランに通信をする。
「状況が変わりましたね。 危ないですよ、お止めになります?」
しかし、アスランはモニターに映った彼女の顔を睨み「馬鹿にするな」と、返した。
たとえ乗りなれてない機体だろうとも、相手がエースだろうとも、新人相手に遅れをとるつもりなど、アスランにはないのだ。
「アスラン・ザラ機、出る!!」
そして言いなれた、しかし、ここしばらく言っていなかった言葉とともに、アスランは漆黒の闇に抱かれた。
 
 
「シン、あの艦も来てるって。
 ボギーワン、とか言うの」
「な……。」
シンがコアスプレンダーのチェックの間、スバルに通信機器を任せていると、彼女から驚くべき言葉を聞いた。
いや、予測が全く付かなかったわけではない。
騒ぎになれば近くの宙域にいる艦が来てもおかしくはないし、ダガーと使ってる事からある程度の予想もできていた。
「それでね、あそこにはジンがいるから、多分攻撃してくるかも、って艦長が」
「あ、あぁ。 分かった」
艦長も馬鹿ではない。
ボギーワンだの所属不明艦だのと言っても、それが地球軍のものである確立は高いと思っているし、そうと仮定した作戦を受けてもいる。
(何で来るんだ……。)
無論、地球を守る為であるのだが、シンにはその事がもどかしく感じた。
(このままじゃ本当に戦争になるかもしれないってのに!!)
このままズルズルと戦争状態になるか、ユニウスセブンが落ちるか。
その両方が、看過できる状況とは思えない。
「行ってくる」と、スバルに言ってコアスプレンダーを閉じた。
いってらっしゃいと聞こえた気がしたが、今はその事に気を向けていられる状況ではない。
スバルが安全なところまで下がり、姿が見えなくなってから発進シークエンスを開始する。
「シン・アスカ。 コアスプレンダー、行きます!!」
自分の手にしたものに、地球を守るだけの力があるのかを確かめるように、シンは無限の宇宙に身を投げ出した。

 

状況は目くるめくもので、シンたちが出撃するときには、ボギーワンも既に現れていた。
「シン、あれにあまり気を取られるなよ。
 ジンのハイマニューバ―が当面の標的だ。いいな?」
「わかってる!!」
ボギーワンから出てくるカオス、ガイア、アビス。
それらには散々辛酸を舐めさせられて来たが、人命を考えれば、メテオブレイカーに攻撃を加えられたりするまでは、やはり後回しが順当だろう。
しかし、状況はそうは行かせてくれないもので、姿を確認するや否や威嚇射撃を始めてきた。
ならばと、シンはレイたちにジンの掃討を頼み、自身とティアナで新型を相手する事にする。
一つだけ、戦いを回避できるかもしれない方法を、ミネルバの人間を始め、聡い人間は気づいていたが、それを認めることとここで2つの軍勢を相手にすることでは、精神的に認めることのほうを避けたくなる。
なぜならそれとは、『ボギーワンを地球軍艦として説得、又は協力を申し出る』というものだからだ。
そうなれば本当に戦争は避けられない。
レイが言うには、今回の作戦が失敗、又は中途半端なものとなればそれだけでも戦争になるだろうといっていたが、それではあんまりだ。
結局残された道は、全てを敵としてでも守りきるものしかなかった。
「許してね」
ザクの銃がダガーを撃った直後、ティアナの声が通信から聞こえてくる。
彼女が人の命についてどう思っているのかは知らないが、今回ばかりはシンも同調してしまう部分もある。
相手も地球を守ろうとしているだけの可能性があるから、である。
「こんなもの、落とそうってぇ!?」
通信越しに聞こえてくる、恐らくアビスのパイロットの声。
それと同時に、アビスの砲撃がインパルスに浴びせられる。
「落とされるのが嫌なら、こんなとこで戦ってる場合じゃないだろ!!」
「お前がそれを言うかねぇ、変色する奴!!」
盾で防ぎきるが、アビスはさらに連続放火を浴びせてくる。
また、ティアナもガイアの連続砲撃をかわすことで精一杯といった風であった。
そして、手が空いたとでも言いたいのか、カオスが特殊機構のポッドでそれらの支援射撃をしてくる。
一見して穴のない攻撃の上、数の暴力にもなりかねない状況なのだが、このまま押され続けるわけには行かない。
ならば、突破口を探すだけだ。
「もう一機の!!」
フォースインパルスならば、アビスの攻撃の合間を打って前に出ることは容易い。
また、支援に努めているカオスに迫る事で敵は一気に崩れるものである。
ビームサーベルを抜き、それを振り下ろすが、流石にそれは通らない。
盾ではなく手の下から伸びてきた剣に阻まれ、隙が両機に生じる。
「喰らうか、ガンダム!!」
逆に押し切ろうとしてくるカオスだが、
「またそれか!!」
シンも負けずに押す。
フォースシルエットの力も相まって、簡単には押し切られない。
「く、いい加減に!!」
「な、くそ!!」
鍔迫り合いのような状態で、ティアナの射撃による援護を受ける。
刹那、そのタイミングを見計らってアビスの武器を切りはじき、ガイアを蹴り飛ばす。
しかし、蹴りとは本当に有用かもしれない。
咄嗟の場合にもサーベルと蹴りなら2発叩き込めるし、有効打にもなりやすい。
そんな戦術を新たに咀嚼していると、ボギーワンからの光弾とミネルバからの通信で、戦闘はそこで打ち切られた。

 

そうなれば、シンとティアナの向かう先はユニウスセブン接近部、メテオブレイカーの護衛である。
一機二機と引き剥がされかけているそれを見ると、それの保全をしたり、ジンを切ったり、インパルスはやはりそこらのモビルスーツとは違った。
しかし、それでも完全に破砕を成功させるには至らないまま、限界領域に達してしまう。
限界を超えるなど、口で言うほど容易くはないことなので、ティアナには先に離脱してももらった。
しかし、何かが気になる。
そんな違和感の部分をアップにしてみると、やはり違和感の違和感たるものが垣間見えた。
それは、一機のザクであった。
(って、何処の馬鹿だよ!?)
あんたと同じ艦の馬鹿だよ、と突っ込みたくなるほど、それはアスラン・ザラだった。
「何やってるんですか、帰艦命令が出たでしょう!?」
「これだけでもやっておけば、それだけで被害は最小限ですむ……。」
そこにあったのは外れかけのメテオブレイカー。
確かに、一つ効果を発揮するだけで面積は増え、大気圏突入時の熱で焼ける量も増えるだろう。
「なんで、あんたみたいな人がオーブに……。」
シンはしぶしぶそれを手伝う。
この人はもしかしたら、オーブという安全圏に逃げたのではないのかもしれない、という思いを抱きながら……。
 
 
急げばまだ起動できるメテオブレイカーはあった。
しかし、それは思わぬ形で、いや、思わぬ闖入で果たせぬものとなる。
それも、ジンのカスタム機の生き残りの手によって、である。
突如の銃撃にはシンが対応、これを防いだ。
だが、相手は先ほどまで相手にしていたジンとは一味違った。
ビームライフルを防いだ後、接近から近接攻撃を仕掛けようとしたが、避けられ、逆に切りかかられてしまう。
そのジンをアスランは援護射撃で止まらせ、「何をやっている!!」と通信までよこした。
腹は立ったが、それどころではない。
今まで新型相手にも何とかやっていたシンが、圧倒的な戦力差で劣る相手に死角を取られたのだ。
(経験の差か、かける思いの強さか……。
 だが、そんなもので)
アスランはそれをしっかりと見極める。
自分のかける物は、地球の生命の未来。 それはシンも同じである。
相手のかける物は、同じ物を真逆のベクトル、だ。
「そんなものに、負けるわけにはいくか!!」
「黙れ、貴様等の様な者が!!
 我らコーディネーターにとって、パトリック・ザラの取った道こそが正しいと、何故わからん!?」
持ち直したシンは、アスランのザクの動きが鈍ったのを察知した。
そして、何事かを問答する前に、自分の前に居るザクの片腕を切り払っていた。
「ここで無惨に散った命の嘆き忘れて、撃った者らと偽りの世界で笑うかっ、貴様らは!!」
「くっ、いつまでもそんな事を!!」
残った腕で撃ってきたビームライフルを、シンは盾で弾き、今度こそ、戦闘を終えるにはうってつけの場所を切り払った。

 

結局メテオブレイカーを一つ起動させ、シンとアスランは帰艦する事になった。
スペック上、大気圏突入などと馬鹿げた芸当が出来ても、機体、パイロット共にかかる負担は桁違いである。
地球に降りたという事でクルーはどこか落ち着きが無い。
因みにアスランは相当疲れたらしく、挨拶もそこそこにハンガーから出て行った。
シンもある程度の疲労を感じていたので、取り合えず更衣室へと行くことにする。
そして、着替えを済ませそこから出ると、スバルが待っていた。
「どうしたんだ?」
「これ、あげる。
 お疲れ様」
そういって受け取らされたのは、無重力状態用の飲料。
疲れた体には、どんなときでもやはり有効なものだ。
「サンキュ。
 でも、どうしてここに?」
「たまたま通りかかったの」
「それで、これか?」
渡されたジュースを強調する。
因みに既に中身は半分以下になっている。
「半分嘘。
 入って行くのが見えたからね」
それで買ってきてくれたのだろう。
「ねぇ、シン。 どう思う?」
「どう、って?」
「戦争とか、なっちゃったりしないよね?」
スバルの懸念は、今誰もが感じている不安であった。
地球の人間が『今回の事はザフトがやった事だ』と言えば、恐らく宣戦されるだろう。
そして、痛みを背負ったり、それを見ていた人間は、往々にして責任の転嫁先を求める。
「地球に下りたのは、危険だったかもしれないな」
そう言うのが、シンにはやっとだった。
 
 
「でも、驚いたわよ。
 単機で大気圏突入、だなんて……。」
「そうだね」
ルナマリアは妹であるメイリンと休憩をしていた。
ルナマリアは兎も角、メイリンにも休みが入っているのは、やはり新兵という特別な配慮あってのことだろう。
そして、話しているのはシンのインパルスとアレックス、アスラン・ザラのザクが、ミネルバとは別で大気圏を突っ切り、降下した時のことだ。
ザクが使い物にならなくなったあたりは、やはりスペックを鵜呑みにしてはいけないという啓示だろう。
こういうものは無意識の内に溜まっていく、戦いにおけるカンにも繋がる。
だからこそ、レイはそれらを間近で見ていたいと言ったティアナに、無理強いはしなかった。
ミネルバに帰還した後、シンとアスランの無事を聞くまで、ティアナはMSの中から出てこなかったのだ。

 

「あれ?
 スバル、どうしたのよ?」
自室への廊下を歩いていると、前からスバルがやってきたので、ティアナは気になって声をかける。
スバルの歩いてきた方向が、スバルの部屋とは逆の方向だったからだ。
「あ、ティアナ。
 シンと色々話してたんだけど、眠いから、って」
それで部屋まで付いていってたのだろう。
「そう。 で、色々って、どんな事?
 まさか……。」
「ううん、あのことは話してないよ」
ティアナの言いかけた言葉を、スバルが深刻な顔で遮る。
その様子があまりにもおかしかったから、ティアナは噴出していた。
「もぅ、笑う事無いじゃん」
「ごめんごめん」
膨れたような顔も、今のティアナでは笑うための燃料に出来てしまう。
なので、涙ながらの謝罪(ちょっと語弊があるが)となる。
「まだそこまで話せるような勇気は無いし……。」
「すぐばれることになると思うわよ?
 あのルナマリアって人には、特にね」
「そう、だね」
秘密はばれるものだ。
事実、その時はすぐにやってくることとなる。
「とりあえず、それならシンと何を話したのか聞こうじゃないの?」
「この後の事を聞いてただけ。
 破片が落ちちゃったから、大丈夫かな?って」
スバルの言葉を聞き、ティアナも考える。
「確かに、危険かもしれないわね。
 一触即発、なんてのがここ何年間も続いてたわけだし、言ってみればいい火種、になるわよね」
「いやだな、そんな事になったら」
「そうね……。」
そんな二人の思いは、挫かれる事になるのだが、その時最も心を痛めることになるのは、シンだった。
それも、最悪の形で、である。

 

 
 
 
次回予告

地球に降りたミネルバ。
本来の運用から、大きく外れた艦の、そのクルー達に、少なからずの衝撃が走る。
 
オーブへカガリ達を送り届ける事を決定したミネルバが、そこで手に入れたもの。
それは、ささやかな休息と、激情であった。

 
NEXT「こんなだから、シンは嫌になったのかな……。」