ある愛の物語(アンディ&アイシャ編)・第1話
~喫茶店「砂漠の虎」にて~
しん 「う~んやはりこの香り、たまりませんな~」
アンディ「しんちゃんはまだ牛乳しか飲まないだろう」
しん 「けどオラは香りは好きだぞ、飲むは苦くて無理だぞ~」
アンディ「その年でこの香りの良さがわかるとは…中々筋がいいぞ」
しん 「いや~~それほどでも~」
珈琲豆の香りが程よく充満する店内で、しんのすけとアンディはカウンター越しに当たり障りのない会話をしていた。
店内はいつものように数人の顔見知りが珈琲片手に新聞を読んだり雑誌を読んだりして、各々の時間を過ごしていた。
そんな時だ。しんのすけは珈琲豆の硝子の棚にひっそり鎮座する、とあるものに気づいた。
しん 「お、ね~アンディ、あれは何?」
アンディ「ん?」
しん 「ほら~、棚の真ん中にある~」
その場所に目をやると、昔のモノなのか、少し古ぼけた写真が写真立ての中に大事に納めてあり、そこには若かりし頃のアンディーと隣には素敵な女性が寄り添っていた。
しん 「綺麗な人だぞ~誰?アンディーの恋人?」
アンディ「そんなんじゃないよ…う~ん、大切な人かな?」
しん 「そう言うのを恋人と言うんだゾ。もう、てれちゃって~」
アンディ「こいつ~大人をからかうな」
しん 「ね~ね~それ、いつ撮ったの?場所は?」
しんのすけはアンディーに言う事を聞かないまま、どんどん彼に思ったことを質問していた。
アンディーは仕方なく答えることにする。
アンディ「彼女はアイシャと言ってな。オレがまだ若い頃に会ったんだよ」
しん 「それで?それで?」
アンディ「えっ?…話すと長くなるが…いいのか?」
しん 「うん!今日はアクション仮面もやらないし、アンディーにとことん付き合うゾ」
しんのすけにそう促され、アンディーはしんのすけ空になった牛乳カップに新しい牛乳を注ぐと話を始めた。
その顔は何だか、懐かしさと切なさが入り混じった顔だった…
見渡す限り一面に広がる砂漠の世界の中、あるところに目をやると、石で作られた建造物が半壊しながらも尚その原型を留めていた。
側には発掘キャンプらしきものがいくつか点々と存在し、周りには石の支柱などが所々に倒れていた…
その一本に一人の青年が座っていた。
彼は立膝で座り片手には鉄のカップを持ち、そこからは珈琲の香りがしていた。
アンディ「う~ん今日もいい感じだ…って!!」
珈琲の香りを堪能している最中、後ろから小さな石が彼の頭に当たる。
後ろを振り返ると、一人の女性が少しため息をついて立っていた。
女性 「アンディ~。またあなた…」
アンディ「アイシャ、また君か。何度も僕の一時の休息を邪魔しないでくれるかな?」
アイシャ「何が【一時の休息】よ、あなたいつも珈琲ばっかり飲んでるじゃない。ちゃんと仕事してよ」
アンディ「ムッ…僕はいつもしてるだろ!?」
アイシャ「はいはい、もういいから早くしましょ」
アンディは少し納得できない様子だったが、仕方なさそうに二人は発掘現場へと向かった。
アンディ「けど、まだ何も見つからないんだろ?もういいじゃないのか」
アイシャ「何言ってるのよ。私はここの主任よ?何も見つけられないまま帰るなんてありえないわよ!
珈琲ばっかり飲んでる誰かさんとは違うのよ」
アンディ「アイシャ…君は僕の珈琲を馬鹿にするのか?」
アイシャ「さ~て発掘、発掘と♪」
アンディ「自分はサボテン馬鹿のくせに…」
アイシャ「ん?何か言った?」
アンディ「いや~何も~」
~遠方から~
ミゲル 「いつもあんな感じなんですか?あの二人」
モラシム「あ~、そうそう。早く付き合えばいいのにな」
しん 「もう~アンディも隅におけないな、この~」
アンディ「ほっとけ。
彼女はそんな感じでオレたち二人はお互いに茶化したり、一緒に発掘したりして時間を過ごしてた。
僕もこの時間がずっと続くものだと思ってたけどな…」
そう言うとアンディーは話を続ける。
アイシャ「アンディ!」
アンディーがいつもの場所で珈琲の香りでくつろいでいると、後ろから急いで走って彼の名前を呼ぶアイシャの姿があった。
アンディ「どうしたアイシャ?今日はオレに石を投げないのか?」
アイシャ「そんなのはいいのよ!それより、見つかったのよ!!」
アンディ「見つかったって?まさか!?」
アイシャ「そう、探してたあの機体が見つかったのよ!!」
~発掘現場にて~
アンディ「やったじゃないかアイシャ!!、これで君も有名人…あれ?どうした?」
アイシャ「……」
アイシャはうれしいことのはずなのに、少し元気がないようだった…
アンディ「どうした?感動して声がでないのか?」
アイシャ「アンディー…貴方、国に帰るの?」
アンディ「えっ?…まぁ、ここの仕事も終わりだし…」
アイシャ「そっか…まぁ仕方ないわよね…仕事もないのにここにいてもね…私はこれから大変になるけど…」
アンディ「あぁ…」
アンディもアイシャの気持ちを察したのか、少しつらそうな顔をして一言だけ言った。
アイシャ「…見つかんなきゃよかったのに…」
アンディ「ん?なんか言ったか?」
アイシャ「ううん、何でもないの…ね~アンディ…写真撮ろう?」
アンディ「えっ?また急だな」
アイシャ「いいから、いいから。あ、モラシムさ~ん。ちょっとお願いします」
モラシム「ん? あ~はいはい」
写真を取るため、二人はそっと肩を寄り合わせた。
アイシャ「アンディ…」
アンディ「何?」
アイシャ「また、会いに来てね…」
アイシャの一言に少しビクっとしたが、優しく笑って一言呟いた。
アンディ「…あぁ」
しん 「ほ~ほ~。で、それがその時の写真ということですな」
アンディ「ああ、もうずいぶん…かれこれ10年も前の話だ…」
その写真を手にとって見るアンディの顔は、少し微笑を浮かべて懐かしそうだった…
しん 「で、アンディはその後で、その人に会ったの?」
アンディ「あれ以来会ってないんだ…何度か行こうとは思ったんだが…その、折り合いが付かなくてね…」
しん 「アンディはその人と会いたくないの?」
アンディ「…会いたいけどな…」
しん 「怖いの?…その人に会うのが?」
アンディ「……」
アンディはそうしんのすけに言われると黙ってしまった…どうやら図星だったようである。
しん 「アンディのいくじなし!!」
突然しんのすけは無言の中に一石を投じてそのまま続けた。
しん 「アンディはその人好きなんでしょ?じゃあ何で会わないの?
そんなアンディ、オラの知ってるアンディじゃないゾ!!」
アンディ「…しんちゃん」
しん 「オラの知ってるアンディはそんな弱虫じゃないゾ! 今のアンディなんて見たくないゾ!!」
しんのすけはそう言い残すと、カップに残っている牛乳を飲み干して「砂漠の虎」をあとにした…
日はもう傾いていて、店には茫然と立ちつくすアンディの姿だけがあった…
戻る 次