「フェイトちゃん?」
はやては、いきなりのフェイトの言葉に一瞬ぽかんとした。
いきなり何を……
「だから、今回のカナード・パルスの件、私に任せてもらえないかな?」
フェイトの言葉に、はやてだけではなくなのは達も驚いていた。
「彼とは…私が話をしたいんだ……」
それで、なのはは彼女の思いを感じた。
おそらく、フェイトは彼を昔の自分とどこか重ねているのだろう。
母に認めてもらおうと一生懸命プレシアに尽くしていた昔のフェイト。
だが、プレシアにとってはフェイトはただの人形、失敗作でしかなかった。
そして、キラ・ヤマトを倒して自分は失敗作なんかではないと証明しようとするカナード。
この二人には、どこか共通するところがある。
そう思ったからこそ、フェイトは彼をとめたいと思っているのだろう。
だが……
「それは無理や、わざわざ仲間を危険にさらす事は許可できん」
これが至極簡単なものならフェイと一人に任せても大丈夫だろうとはやては思う。
だが、今回の相手はフェイトとほぼ同等、もしかすればフェイト以上かもしれない実力を持つ相手に、
彼女一人で行かせるなどと言う危険な事を、部隊長として認めるわけにもいかなかった。
「お願い……」
だが、それでもフェイトは引き下がらない。
はやては少しため息をして、周囲を見る。
なのはたちも、仕方ないといった感じで苦笑いをする。
こういうとき、フェイトは意地でも下がらないだろう。
それは自分達もわかっていた。
なにせ、隊長陣がほぼこういったら引き下がらない性格をしているからだ。
まったく、自分を含めてこういう部下を持つといろいろ大変であると心の中で笑うはやて。
「しょうがないなあ……けど……」
はやてはある条件をだして、フェイトの申し出を許可した。
それは、自分達は外で待機、フェイトがする事はあくまで話であって、何かあればすぐに他の隊長、副隊長が助けに来る事。
フェイトも戦う意思はないので頷き、フェイトは一人で研究所へ入っていった。
ということがあって、フェイトは今カナードの前に立っている。
「管理局執務官、フェイト・T・ハラオウンです。カナード・パルス元執務官、話を聞かせてもらいます」
フェイトの言葉に、くくくと笑うカナード。
フェイトは何回か彼と面識があるが、彼のこのような顔をするのは始めてである。
「話はヴェロッサから聞いてるんだろう?なら知っているはずだ、俺の事も」
そして、カナードは全く関係のないところを向く。
「八神はやて、お前も外で待機しているのだろう?」
カナードはフェイトを見て、先ほど感じた外にいる魔術師の中に機動六課部隊長、八神はやてがいる事を予測して彼女に話しかける。
フェイトの驚いている顔を見て、あいつもいる事を確認したカナード。
カナードは奇怪な笑みを浮かべながら後ろを向き、ある通路へと向かっていく。
「こい、面白いものを見せてやる」
カナードは、まるでフェイトが襲ってこない事をわかっているのか、全然抵抗しようとは思わない。
カナードの思惑通り、フェイトはバリアジャケットを装着しないまま彼についていった。
「まさか、ここまでばれるとはな……」
はやては、カナードの勘の鋭さに参ったといわんばかりにため息を付く。
二人のやり取りを聞くために通信を開いていたのだが、すぐにばれてしまった。
「フェイトさん、大丈夫なんでしょうか……」
その中、エリオとキャロはたった一人でカナードの元へ行ったフェイトを案じて、先ほどからそわそわしていた。
「フェイト隊長なら大丈夫だよ。信じてあげて」
なのははフェイトの事を信頼し、エリオとキャロを落ち着かせようとする。
なのはの言葉に、はい、と二人は返事をする。
「それはどうでしょうか」
急に否定の声が聞こえ、一同はそっちのほうへ向く。
そこにはその声を発したレイがいた。
(おいレイ)
(なんだシン?)
(なんだ、じゃない、レイ、今回ばかりは空気嫁)
シンはエリオとキャロを見てレイを念話でたしなめる。
二人はかなり悲しそうな眼をしながらレイを見る。
「レイさん、どういうことなんですか?」
「キャ、キャロ。おちついて」
今にも掴みかかりそうな勢いでキャロはレイに尋ねる。
エリオはキャロを止めるが、エリオにも同様の顔が浮かんでいる。
「どういうことか教えてもらえるよね?」
なにはにもいわれ、レイとシンはカナードの事を話す。
「彼は普通の魔術師としてもSランク相当といわれている事は知っているとは思いますが、彼はそれだけではないという事です」
そう、カナードはフェイト同等かそれ以上と言う事は知っている。
「俺も聞いた話だけど、以前特務隊Xの先輩が教えくれたんです」
それは今より3年ほど前になる。
特務隊Xはある時空犯罪者を追っていた。
その犯罪者はかなりの重犯罪者で、それと同時に魔術師としての能力もかなりのものだったらしい。
「そのランクはSランクほどといわれていました」
Sランク、なのはたちとほぼ同じ魔力を持っている犯罪者。
カナードはその犯罪者が隠れているところを突き止めると、彼はなんと一人でその場所へと向かっていった。
最初はどの隊員も自分もついてく、とか応援を呼ぶ、等ごく普通の事をいっていたが、
Sランク相手にお前達では邪魔なだけだし待つ時間もない、といって彼は一人でその場所へと向かっていたという。
「それで、どうなったの?」
はやてはレイに尋ね、レイは当たり前のように言う。
「どうなったもなにも、あの人はたった一人でその犯人を捕まえましたよ」
さらに、カナード自身はそれほどの傷も負っていなかったという。
Sランク相手にほぼ余裕の勝利。
二人は彼と古くからいる魔術師に尋ねたのだが、何でも彼は特殊なレアスキルを持っているらしい。
それを聞いて、エリオとキャロの顔がさあっと轢くのを感じた。
なおさらフェイトのことが心配になってきた。
「じゃあ、何でその事を言わなかったのよ!」
ティアナはレイに尋ねる。
だが、答えたのはシンだった。
「いわないも何も、決めたのはフェイト隊長だろ?俺だって隊長が独りで行くなんて知ったのはついさっきだったし、いう暇もなかったんだよ」
シンの言葉に確かに、とはやてが言う。
その問い、フェイトから通信が入ってきた。
それもモニターつきで着たため、そのモニターを空ける。
「なんやの、これ……」
そこには大量の用具と、その中に同じ数の赤ん坊があったのだった。
「こ、これは……」
フェイトは唖然としながら周りを見る。
そこには、さまざまなデータと主に赤ん坊が実験用具に入っているのだ。
「この中に入っているものは既に死んでいる」
カナードの言葉にさらに衝撃を覚える。
だが、既に廃棄されているコロニーに、生きている赤ん坊が置かれているはずがない。
「こいつらは全員あるプロジェクトを研究していたときに使用されたやつらだ」
カナードはコンソールを動かし、様々なデータや映像がフェイト、そしてはやてたちに送られる。
そこには様々な遺伝子情報、研究者達。
そして、失敗だといっては帰される瞬間等、人としてどうかと思う行動が記されていた。
「その研究って……」
フェイトの言葉に、ああとカナードは頷く。
「こいつらは全員スーパーコーディネーターを作るための実験体の一部だ。
そしてそのほとんど…いや、俺と成功作、キラ・ヤマトを除くすべてのものは排除させられた」
自分が一人の研究者によって逃がされたとはなす。
フェイトはその非道な事を知って唖然とするだけだった。
だが、それと同時に怒りを覚える。
外でそれを見ているエリオとキャロはかなり気分を悪くしていた。
あまり子供に見せるものではない。
だが、カナードはかまわず言葉を続ける。
「たかが研究を完成させるために、数百とも言える人間が殺されているんだ。
こんな世界、ふざけているとは思わないか」
だが、それには少し疑問が浮かぶ。
何故管理局はその事を問題視していなかったのか。
そのことがわかっていたようにカナードは話す。
「だが、管理局に嗅ぎ付け、問題視される前にその実験はブルーコスモスによってすべて関係者はすべて殺された。
さらにこのコロニーもバイオハザード事件で人っ子一人いない場所となってしまい、管理局も捜査を打ち切ったんだ」
だから、管理局でスーパーコーディネータの事を知っているのはほとんど少ない。
知っていてもかなりの高官のものばかりであろう。
「それで、あなたは残った人たちに復讐して、キラ・ヤマトを倒して自分が本物になるつもりですか?」
フェイトの言葉にふん、と機嫌を悪くするカナード。
「確かに俺を生み出したこの世界は憎いが、復讐なんぞしても、何も始まらない。
俺がキラ・ヤマトを狙うのも、俺はやつを越えて俺という存在を認識させるためだ」
そう、自分は失敗作ではないと証明するために……
「そんな事をしなくても、あなたはあなたなのに……」
「何?」
フェイトは悲しそうな目でカナードを見る。
それが、どこか同情されたような目に見えたため、カナードはフェイトを睨む。
「そのためにキラ・ヤマトと言う人を倒しても何もならない。あなたはあなた、カナード・パルスなんでしょう?」
フェイトは真っ直ぐカナードを見据える。
カナードは何とか落ち着きを取り戻し、コンソールを操作する。
「それで、俺がキラ・ヤマトと戦う前に俺を捕まえる気か……」
カナードの言葉に、フェイトは違うと首を振る。
「私は、ただあなたに投降してほしいだけです。出来ればそのまま付いてきてください」
「同じ意味じゃないか……」
そういうと、カナードは静かに何かのスイッチを起動させる。
それとほぼ同時に、プシュウ、と言う音が聞こえた後、この研究所内にあるすべての扉にロックがかかり、ドアを守るために、周囲にプロテクションがかけられた。
だがそれだけではない。
研究所の外にもいたる進入口にバリアが展開されていた。
それと同時にコロニーを守るように作られたのか、護衛用の魔道機械までもが出現したという。
「まって、早くそれを停止して。今ならまだあなたには弁解の余地はある」
だが、フェイトの言葉をカナードは全く聞き入れるつもりはない。
そのときだった、しゅうぅ…と、何かが抜けていく音が聞こえる。
睡眠ガスや毒ガスなどが発生しているわけではなさそうだ。
「まさか…」
フェイトはそれが何かにすぐに気付いた。
「今、研究所内の空気を外へ抜いている最中だ。10分もあればここの空気はすべてなくなる」
そういうと、カナードはハイペリオンのモビルジャケットを装着する。
そして、ザスタバ・スティグマドをフェイトに向ける。
「まんまと引っかかったな、空気を入れてほしければ俺を捕らえて見せろ。出来たらの話だがな!」
そういって、カナードはザスタバ・スティグマドのマシンガンが咆哮を上げフェイトへと真っ直ぐ直進する。
「これは、コロニー防衛用の魔道機械?」
現在、自分達の周囲を取り囲んでいる魔道兵器にシン達は相手をしていた。
「ここが地上なら本気で戦うんだけど、こんな老朽化が進んだコロニーじゃちょっとそれは危ないかな」
なのはとはやての本気の一撃を放てばそれくらいは余裕で倒せるのだが、いかんせん今は誰も住んでいない、まだ空気があるとはいえ、長年整備もされていないコロニーだ。
なのはほどの魔術師の砲撃にたえられるかどうかあやうい。
もしコロニーに穴を開けると、もちろんコロニーには穴が開き、すぐさまなのはたちは宇宙へ飛ばされるだろう。
宇宙で活動できるモビルジャケットを持っているシンやレイはともかく、生身であるなのはたちはすぐに死んでしまう。
だから、こうやって接近戦を挑むしかない。
幸いにも、この魔道兵器はそれほどの攻撃力を持った射撃魔法は持ってはいないようだった。
なのはは敵の攻撃を素手で受け止め、シューターを確実に当てていく。
そして、先に研究所の異変に気付いたのはレイジングハートであった。
『マスター、研究所内の酸素濃度が低下しています。このままでは後10分もしないうちにすべての空気がなくなってしまいます』
レイジングハートの言葉に驚くなのは。
おそらくカナードの仕業だろう。
カナードもモビルジャケットを持っているという。
だからこその手段だろう。
「このままじゃフェイトちゃんが……」
なのはたちはあせりだしていしまう。
今はまだ大丈夫だが、時間がたつにつれてフェイトが危うくなってしまう。
「早くしないとフェイトさんが……」
エリオとキャロも魔道機械を相手にしながら何とか助けようと考える。
そこでなのはは思いつく。
「レイ、シン。二人でフェイトちゃん救出をお願い」
カナードと同じようにモビルジャケットを持つこの二人ならあの研究所へ向かっても大丈夫だろう。
「だけど、カナード・パルスとの戦闘はなるべく控えて、あくまでフェイト隊長の救出が最優先だからね」
なのはの言葉に頷いて、二人はこの場を離れる。
こうして、シン、レイはフェイト救出作戦を開始する。
完全に空気が抜かれるまで、あと8分……
シ「カナードによって研究所の空気が抜かれていく」
エ「だが、その中でも自由に行動できるカナード」
ス「その絶望の中、必死で逃げるフェイト隊長」
ティ「果たして、シンとレイは間に合うのか」
な「次回、機動戦士まじかるしん、タイムリミット10分前」にテイクオフ」
フェ「なんか、どの原作でも私だけが一番危険な目にあってる気が……」
は「まあまあ、そういう役どころやとおもったら…目だたんよりええやろ?(にっこり)」
フェ「う…うん」
ヴィ「はやて、ほとんど出番なかったからな……」
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