「ありがとうございましたー!」
シンは今レコード店に来ている。
目的は簡単。ヨウランとヴィーノの土産に、ミッドチルダではまだ発売されていないラクス・クラインの新作のアルバムを買いにきたのだ。
「しっかし、やっぱり人気者なんだな、ラクス・クラインって……」
暇なのでいろいろ回ってみたが、なんとか二人分の初回産を手に入れることが出来た。
「確か発売日って今日だったよな……」
とりあえず、当日でほとんど売り切れという事態に、ラクスの人気のすさまじさを物語ったシン。
さて、土産も買ったし、言われたとおりに海水浴の準備もしたし、さてこれからどうしようか、とシンは思った。
「まだ時間あるしなあ……」
今は午後二時過ぎ
今ミッドチルダに戻っても大体朝の5時。
それだったら帰っても仕方がない。
さて、それまでどうするか。
そう思っていたとき、シンは盛大にあくびをした。
(やっぱ眠い……)
ずっとミドチルダの時間帯で過ごしていたシン。
それで、昨日の夜はあまり寝れなかったのだ。
(前言撤回、戻って寝る)
一応トダカには別れの言葉を入れてある。
そう思い、管理局へとつながっている転送場所へと向かうシン。
もう一度、シンは盛大にあくびをするのだった。
「こんなのどうかな?」
「似合ってると思うけど、ちょっと派手じゃない?」
「シグナムはこんなのがいいんじゃない?」
「やめてくれ///自分のは自分で選ぶ……」
「えー、似合ってると思うけど、ねえはやてちゃん」
「うん、にあっとるよシグナム」
「主がそういうのでしたら……」
なのはたちも、明日の海水浴のためデパートで買い物をしていた。
この日はヴォルケン達も一緒だ。
その中で、エリオは待っているといって店の前でなのは達を待っていた。
最初、なのはたちはエリオも連れて行こうと思っていたのだが、エリオは全力で断り、自分で自分の水着を選んでいた。
ちなみに、エリオが去ったあと、なのははそんなエリオを見てかわいいと言っていた。
既に水着を買い終わったエリオは、待つために店の前にいる。
「遅いなあ……」
エリオはため息を付きながら待つ。
大勢だから仕方ないのだろうが、やけに時間がかかってるなあと思っているエリオ。
(女とはそういうものだ)
その横で、ザフィーラはあくびをしながら言う。
この世界では犬(実際は狼なのだが……)はしゃべらないため、念話で話しかける。
どうやらこういうことはよく起こっているらしい。
そしてザフィーラはそういう事態に馴れている。
(女性と買い物に行くときはくれぐれも注意しろ。特にプライベートな買い物にはな)
(わかりました)
ありがたい先輩の言葉をしっかりと胸に刻み込んだエリオ。
「エリオ君、ザフィーラ。ずいぶん待たせてごめんなあ」
ようやく買い物が終わり、はやてたちはうれしそうに店から出てきた。
気に入ったものでも買えたのだろうか。
「明日の海、楽しみだね」
「そうだね。結局、六課のフォワード陣が全員参加することになったし」
そんな事を話していて、一旦アリサたちと別れ、なのは達は一時的にミッドチルダの世界へと戻る。
「意外と寝たけど、まだ昼過ぎかあ……」
シンは目がさめて時計を見る。
戻った後、シンはちょっと眠ろうと思ったが熟睡してしまい、目が覚めたのは昼の2時過ぎ。
なんか、得したのか損したのか微妙な感じになるシン。
部屋には目が覚めると既にレイがいて、少し話をしてその後簡単な眠気覚ましにそこらへんを散歩しようと思っていたら、
「あ、戻ってきてたんですね」
誰かに呼ばれ、後ろを向くとそこにはリィンフォースがいた。
「あんたは……八神部隊長と一緒じゃないのか?」
シンの言葉に、むっとしながら答える。
「私はデバイスだから今日まで調整をうけていたんですよ」
なるほど、それではやてを待っているのだろうか。
「それよりも、別に上官だからってそこまで敬語を言わなくてもいいですけど、せめて名前で呼んでくださいです!」
リィンは怒りながらいうがあまり迫力はなく、はいはいと簡単にあしらうシン。
まあ、初めて会ったときの怒りは意外と怖かったけど……
そこに……
「やめといたほうがいいですよリィンさん。こいつ、あまり知らない人は名前で呼ばないから」
今度は休憩に入ったヨウランとヴィーノがいた。
「そうそう。名前で呼んでもらうにはコイツに認めてもらわないと」
何だよそれ、ってシンは言うが、そのとおりなのであまり言わない。
そこで、ちょうど土産を渡そうと思うシン。
「ヨウラン、ヴィーノ。ほらよ、例のやつ」
そういってシンは二人にあのCDを渡す。
「さんきゅって、もう発売してたのか?」
ヨウランは不思議そうに受け取る。
「ああ、向こうの世界じゃ発売日当日だったから、ちょうど初回産見つけたんだよ」
ヨウラン達とシンがした約束は、もし何かでコズミック・イラの世界へ戻るのだったら、ついでにラクス・クラインのCDを買ってきてくれ、というものだった。
こっちでは品薄でなかなか手に入らないのだ。
だから、インパルスにあのライフルを組み込むのこと条件にそのことを頼んだのだ。
「あ、俺達そろそろ戻らなきゃ。じゃあな、シン」
そういって二人は仕事場へと戻っていく。
「あ、もう戻ってたんだ」
そこにはなのは達がいて、なにやらたくさん買い物袋を持っていた。
「もう寮には全員いるの?」
なのはに言われ、シンはえっと……と思い出す。
男子部屋にはレイがいたが、女性部屋はまだ見てないのでわからない。
「レイはいたけど、ずっと寝てたんで残りは知りません」
シンの言葉にわかった、と言って何かメールを入れるなのは。
おそらく他のメンバーに
「ちょっと早いけど、そろったらすぐに明日の説明するから。私たちは荷物を置きに行って遅れるから先に訓練所に行っててね」
そういって自分達の部屋へ戻っていくなのは達。
シンも言われたとおりに訓練所に向かう。
そこには、既に3人(と1匹)がいた。
確か、シグナムとシャマル。それと、このちっこいのはヴィータだったか。
犬のほうは……まだ名前が知らないが、誰かの使い魔だろうか?
そのあと、六課のフォワードと八神家全員がそろう。
「ごめんね、いきなり呼び出しちゃって」
なのはは皆にわびながら説明する。
「昨日、メールで私達機動六課のこのメンバーと、私の友達を誘って、この世界の海で海水浴に行くことになったのは知ってるよね?」
なのはの言葉に皆は頷く。
「用事がある人は別にいいって送ったけど、まさか全員が参加できるとは思っても見なかったよ」
まあ、急に明日から休みといわれても、確かに何をすればいいのか困るのは確かだ。
「それで、詳しい打ち合わせを決めるから、ちゃんとメモしておいてね」
どこの遠足だよ、とおもったが、意外とそれっぽいので口では言わないことにしたシン。
それでなのはは皆に紙を渡す。
集合時間はミッドチルダ時間の朝9時半(遅刻厳禁。遅れたらそれ相応の罰を与える)
昼食は各自で用意。
おやつは……(消されている)
バナナはおやつに……(上におなじ)
他人に迷惑をかけない、常識ある行動を取ること。
沖に出るのは自由だが、己の限界を把握し無理をしないこと。
なにか、一部妙なものが入っていたが、大まかに言えばこんな感じだ。
「とりあえずこれで解散。皆、遅れないでね」
了解、と皆が言って、その時なのはが何かを取り出す。
「それと、これはお土産。私の実家が喫茶店やってて、そのお勧めメニューのシュークリーム。後で食べてね」
そういって皆にわたすなのは。
「すみません」
皆がそれぞれ礼を言って、自分達の寮へ帰っていく。
「しっかし、ほんとに特務隊Xとは大違いだな」
シンは帰る途中にふと思う。
それにはレイも頷いて肯定するしかない。
まあ、あの上司と今回の上司。比べたら比べるだけかわいそうな気もするが
ジェラードは地位は高いものの。あまり周囲から好かれていない。
ふと、毎日あの提督にこき使われていて、いかにも胃薬とお友達のような上司を思い出す。
だが、彼がいないと特務隊Xは到底動かないだろうし、空気もとてつもないものになるだろう。
「あの、その特務隊Xってどんな部隊なんですか?」
エリオは以前シンがいた特務隊Xとはどういうところなのか知りたかった。
それはスバルたちも同じらしい。
そういわれ、二人は話す。
「簡単に言えば、魔術を使っての違法的な行為を取り締まることを専門とした部隊。部隊長はジェラード・ガルシア提督」
けど、と、シンは言葉を続ける。
「あいつはほとんど立て前だけの、単なるお飾りだけどな。実際のトップはあいつだしなあ」
あいつ?と不思議に思う皆。
それでレイがフォローする。
「カナード・パルス執務官のことです」
実際部隊を作り、動かしているのは一人の執務官だ。
名前はカナード・パルス。
執務官だけでなく、自身もかなり優秀な魔術師としてしられている。
それを聞いてああ、とフェイトが思い出す。
「ああ、パルス執務官のことか。私も少しだけ一緒に働いたこともあるよ」
フェイトは以前の仕事で、カナードと一緒に働いたことがある。
その時は簡単な仕事だったので、彼の魔術師としての能力を知ることは出来なかったが。
実は、部隊内でちょっと不思議に思っていることがあった。
彼は何が目的があってこの特務隊Xを作ったらしいが、その理由は誰も知らない。
その理由はいろいろと部隊内で噂になっていた。
正義感から、あるいは復讐、等様々な憶測が出ている。
ただ、それを知っているのは本人、それとジェラードだけなのかもしれない。
「あ、だいぶ話し込んじゃったね。それじゃ明日。遅れないようにね」
そういって皆はそれぞれの部屋へ戻っていった。
「にしても海ねえ……何年ぶりだ?」
そういってシンは数える。
少なくてもこの4年は行っていない。
家族と行ったっきりだった。
そこで、レイに少し聞きたいことはあった。
「プラントに海ってあるのか?」
プラントは宇宙に浮かんでいるので、海があるのかどうか気になった。
少し前から聞きたかったのだが、どうでもいい事なので今まで聞かなかったが、今回の件でちょっと聴いてみようと思ったシン。
「人工物ならレジャー施設としてある。俺は一度も行ったことはないけどな」
ということは、レイは今回海は初めてということになる。
「僕もプールは行った事はありますけど、海は初めてです」
エリオはそういいながら、どこか楽しそうにしている。
やっぱり子供だな、とシンは思った。
「もうこんな時間か、さっさと寝るか」
そういって、3人はそれぞれの布団にもぐり、電気を消す。
その頃、新人の女性部屋のメンバーたちも明日のことを話していた。
「え、キャロって一度も海に行ったことないの?」
スバルの言葉にキャロははい、と頷く。
「私がいた集落に海なんてなかったから……」
キャロはそういってフリードを見る。
だから明日の海は楽しみなのだ。
「海かあ、久しぶりだなあ」
スバルはずっと前に父と姉で行ったことを思い出す。
「よーし、明日はめいいっぱい泳ぐぞ!」
そういって無駄に張り切るスバル。
「スバルうっさい!少しは時間を考えなさい!」
ティアナは布団にもぐりながら言う。
時間は10時を回っている。
ごめ~ん、と申し訳なさそうに謝るスバル。
「じゃあ、私達もねようっか。キャロも早く寝ないとね」
はい、とキャロも返事をしてそれぞれの布団にもぐるのであった。
ここはある執務官が使う部屋。
「くそっ……」
そこにある男がいた。
黒く長い髪が特徴的で、周囲に殺気をを漂わせている。
周りに誰もいないのが救いだろうか。
その男は苛立っていた。
その理由は簡単だ。
彼は探し物をしている。だが、それがなかなか見つからないのだ。
その男はコンピュータを動かしその探し物を探す。
「やつは……やつはどこにいる……」
男は歯軋りしながらモニターを見る。
そこに移っているのはシンの住む世界、コズミック・イラだった。
「必ず、必ず探し出してやる!」
男は声を荒げながら言う。
「待っていろ!キラ・ヤマト!!」
男の名前はカナード・パルス。
特務隊Xを実質的に取りまとめている管理局本局の執務官である。
前 戻 次