Seed-NANOHA_神隠しStriker'S_第01話

Last-modified: 2007-11-19 (月) 14:31:01

はぁっはぁっはぁっ!
苦しそうな呼吸音が響く。「こっちだ!」
シンが先だって誘導し、そのあとを負傷したデュランダルに肩を貸すレイとアスラン。すぐ後ろにはタリア、最後尾にキラと言う順番で、崩壊を始めるメサイアから脱出をはかろうとしていた。
響く爆発音が平常心を揺るがし、舞う粉塵が視界を奪う。
デュランダルを担ぐレイとアスラン、先頭を行くシンのすぐ近くで爆発が起こった。
「「「シン!」」」
シンの姿は炎と粉塵で姿を確認できない。
だが、ここでいつまでも呆けているわけにもいかなかった。
事態は一刻を争う。
「このルートはもう駄目だ!こっち!早く!」
キラが手招きし、キラの方へ皆がむかう。
「グラディス艦長、他に脱出経路はないんですか?」走りながらキラが聞く。
「あるわ、塞がってないといいんだけど」
「じゃあ、案内を任せ…、グラディス艦長!」
キラが突然、タリアを突き飛ばした。
直後に爆発、炎が上がった。
「キラッ!!」
「アスラン、落ち着いてください、今は脱出を…あなたまで死ぬ気ですか?」
燃え上がる炎に駆け寄ろうとしたアスランをレイが引き留めた。

魔導試験Bランク試験場。
「スバル!あんた、停まること考えてんでしょーね?」
二人の少女が疾走していいた。
オレンジがかった髪をツインテールにしている少女ティアナは、ショートカットの青い髪に額に白いハチマキをしている少女の背中で顔を引きつらせていた。
「…と、停まる!?…うぁ、えっと…」
「この馬鹿ぁ!!」
今は魔導試験、CランクからBランクへのレベルアップ試験だ。
そして、受けているのはこの二人、青い髪の少女がスバル・ナカジマ。
オレンジがかった髪で、ツインテールにしているのがティアナ・ランスターである。
ティアナは試験中、足に怪我をしていて、スバルはティアナを背負い、ローラーブーツをフル稼働。
一目散にゴールを目指しているのだ。
残り時間は一分を切っている。
スバルは時間内にゴールを目指すことだけを考えていて、停まることを考えていなかった。
ゴール地点を過ぎれば、目の前には、瓦礫の山。
このスピードで突っ込めばただでは済まないだろう。ゴールラインを通過。
「は~い、お二人さん、お疲れ様ぁ、試験は…。あれ?」
何の生物か、もの凄く小さい人型の何かはゴールラインを通過してなお止まらない二人に呆気にとられ、見送るばかりだった。

そんな様子を上空からみている人影があった。
「…はぁ、アクティブシールドとホールディングネットも必要かな…」
『Master!!Caution!』
「えっ!?何?」
スバルとティアナの進行方向に突然閃光が走った。
刹那、暴風がティアナとスバルを襲い、そのおかげでなんとか二人は激突することなく停止する。
まぁこけることにはなったわけだが…。
「いたたたた…。」
「すぅばぁるぅ~!!!」
「ちょっと、ティアナ、ごめんって、あれは確に私が悪かったけど…。」
ティアナが自分のどこかしらを抓むと思ったスバルは目を瞑り、身構えるが、ティアナが何かしら危害を加える気配はなかった。
「あれ…ティアナ?」
「あれって人?」
二人の視線の先には二人の少年が倒れていた。
一人は赤いピッタリとした服に身を包んだ黒髪の少年。
もう一人は青いピッタリとした服に身を包んだ茶髪の少年だった。
二人の少年が着ている服は、所々破れており、あちこちに傷をおっていた。
地面を染めていく血の量が、その傷がどれ程深いものかを想像させた。
このまま呆っておけば二人は間違いなく死ぬだろう。
「ティ、ティアナ!どうしよう?」
「ど、どうしようって、あんた…。私に聞かれても…。」
すると上空から、降り立つ一人の少女が二人の元へと駆け付けた。
少年二人はうつ伏せで倒れている。
「これって?」
驚きながらもすぐに止血するため、応急処置に入った。
さらに上空からヘリが降りてくる。
中から姿を表したのはフェイト・T・ハラオウンと八神はやてだった。
はやてはリィンフォースにティアナの足の治療を頼み、なのは、フェイト、はやては突如として現れた少年二人の治療を優先する。
ある程度まで応急処置を施すと、二人をゆっくり、慎重にヘリにのせるため、仰向けにした。
そして、三人は言葉を失った。

それから二日後、管理局本部、医務室。
「シン、シン!!」
自分を呼ぶ声に、シンの意識は回復を促され、力なく、ゆっくりとまぶたを開いた。
「こ、ここは…。」
見慣れぬ景色、見慣れぬ人。聴きなれぬ声。
シンは慌てて体を起こし
ゴッ
頭をぶつけた。
「……ッ。」
被害者はフェイト。目尻に涙を浮かべ額を押さえる。しばらく、シンも痛みをこらえるようにして、額を押さえていたが、やがて
「ここは?議長は?レイは?」
とキョロキョロ周囲を伺うように見回す。
「シン、落ち着いて。ここは管理局本部の医療機関だよ!」
シンは動きを止め、フェイトを改めて見つめ、聞き返した。
「管理…局…?」

同じくして隣の部屋ではキラが目を醒ましていた。
「うっ、ここは…。僕は…確か…アスランと議長と…レイ君とグラディス艦長を…。」
キラの思考が停止した。何かが足りない。誰かが足りない気がした。
ゆっくりと体を起こすと、丁度、茶色の制服に身を包んだ女性が入ってくるところだった。
「よかったぁ、わりと早くに目ぇさめたんやなぁ。」
「えぇ、まぁ…はい。」
「魔導試験中に突然、大きな魔力反応があってな。」はやては湯飲みにお茶を入れながらキラがどのようにしてこっちの世界に現れたのかを説明する。
「そう…だったんですか…。ありがとうございます。」
湯飲みをもって片方をキラに差し出し、にっこり微笑んでキラに言った。
「おかえり…キラ君。」
「……あの…。」
「ん?何やぁ?」
「君は…誰?」
「あぁ、あれから十年経っとるしな、わからんでもしゃーないわ。
はやて、八神はやてや。」
「八神…はや…て?」
はやての表情が曇る。
「ひょっとして…覚えてへんの?」
はやての声のトーンが落ち、悲しげな表情をする。
「…ごめん。
僕は…君と会ったことがあるのかな?」
容赦のないキラの言葉に、はやては無言で部屋を出ていった。
はやてが部屋を出ていくと、何かしら神妙な顔で思案しながら部屋を出てくるフェイトを見つけた。
「はやて…、どうしたの?」
「……なんでもないよ。」
「ひょっとして、覚えてない?」
はやては足を止め、フェイトを振り向いた。
「覚えてないんだね?
私たちのこと……。」
はやては無言で頷いた。

管理局本部食堂。
「えっ?じゃあ、シン君もキラ君も私たちのこと覚えてないの?」
「あれから何度か聞いてみたんだけど、全く忘れてるわけじゃなくて、記憶に空白があるっていうか…。」フェイトは言い淀む。
「それに、おかしいのは、年齢。あれから十年も経っとるのに、キラ君は18歳、シン君は15歳。年が変わっとらん。いつのまにか、私らの方が年上や。」

「二人のデバイスの方は?どうなの?」
「わからん、まだ起動させてへんし…。」
「ただ、技術局の人達が言うには、過去のストライクフリーダムとデスティニーとは重なる部分はあってもどっちのデータとも完全には一致しないって…。」
「魔法のことは覚えてるの?」
なのははフェイトに聞く。「シンの方はうっすらと覚えてるみたいだったよ。」
「キラ君も、それは同じや。」
それを聞いたなのはは席を立った。
「じゃあ、私はスバル及びティアナ陸士の試験の採点に行ってくるから、シン君、キラ君の件ははやてちゃんとフェイトちゃんに任せるね。」
と一礼して先に食堂からなのはは姿を消した。
「はやて、どうする?」
「どうするって言われてもなぁ~。」
フェイト、はやての目の前にモニターが開く。
過去の闇の書事件、及び、シンVSキラのデータだった。
「………。」
「………。テスト…してみよか?」
「…うん。シンは近接戦闘特化型。
キラが遠距離戦闘特化型…と言うよりは、万能型かな。二人でペアを組ませて…。」
「そやな、それで行こう!」

「八神…えと、二等陸佐。あの…試験ってどういう…?」
キラは管理局の制服を着せられ、はやての後ろを着いていく。
すると向かいからやって来るのは長いブロンドを揺らし、黒いスーツに身を包んだ女性。
そして、その後ろを歩いてくるのはキラと同じく管理局員の制服を着せられた黒髪、緋い瞳が印象的な少年。
ある通路の前までやって来てはたと四人は足を止める。
「えっと…シン…君だっけ、よろしくお願いします。」
シンは黙って頭を下げる。なぜか、キラのことを毛嫌いしてしまう自分。
なぜだろう?
そんな事を考えながらシンとキラはスバルとティアナが試験を行っていた場所へと移動を開始した。

ミッドチルダ、廃棄都市街。
スタート地点に立つ、シンとキラ。
デバイスを起動させて待機する。
キラは白をベースとした赤のラインの入ったバリアジャケットに紺のインナースーツ。
そして腰部に前回はなかった灰色に赤のラインの入った折り畳み式の何か。
傍目には鉄の塊に見える。重そうに見えるが、重量は魔法により軽量化されているようだ。
それから背部と両手には見慣れた肩翼二枚の蒼い魔力の翼と、白に蒼と赤のラインが入った二丁の銃。
対するシンは青がベースで白のラインのバリアジャケット、及び黒のインナースーツ。一刀の見慣れた実体部ありの魔力刃を右手にもっている。
背中には緋色の魔力の翼。そして、足には機械的な靴と、膝をカバーしている突起のある何かが付属していた。
「ん~、なんか二人とも微妙に武装とバリアジャケットが変わっとるな?」
「…うん。」
『はやてちゃん、フェイトちゃん、こっちは準備できたよ。
障害用のオートスフィアも、ダミーもセット完了。』
「うん、わかった。それじゃあ、始めよか。
リィン!」

『了解しましたです!
それでは、魔導試験空戦B昇格試験を始めます。
受験者は二名、シン・アスカさん、キラ・ヤマトさんでいいですか?』
空間モニターか開き可愛らしい女の子が姿を見せる。
「はい。」
「…はぃ。」
『こちらがコースデータになります。障害物全て破壊して、時間内にゴール地点を目指してもらいます!よろしいですか?』
二人は無言で頷く。
『質問などはよろしいですか?』
もう一度二人は無言で頷いた。
二人は魔法の使用方法を記憶から引きずり出す。
所々、不鮮明だがあとは体が覚えてるはずだ。
いきなり八神はやて、フェイト・T・ハラオウンと名乗る人物から受けろと言われた試験。
しかし、魔法を使うことが、デバイスを起動させることが初めてではないことをシンもキラもわかっていた。

数時間前、管理局本部食堂。
「これは…」
過去、闇の書事件の戦闘時のモニターが開かれ、シンとキラはまじまじとその空間モニターにみいっていた。
「これが、約十年前…。キラとシンがこの世界に来てたときの映像。」
フェイトが画面を操作しながら二人に言う。モニターの中の自分を見てキラもシンも驚いているようだった。
「これが……俺?」
頭の中の断片的な記憶が繋がって行く。
「二人とも、何か思い出した?」
「魔法については…大体…。」
はやての問いにシンが答える。
「でも、あんた…、フェイトさんとはやてさんの事は…」
「あぁ、気にせんでええよ。ちょっと堪えたけど…、また元の世界に帰るまで当分はここにおるんやから…。
ゆっくり思い出してくれればえぇ。」
気まずそうな顔をする二人はさておき、フェイトが口を開く。
「それで、二人に相談したいことがあるんだ。」
「うちらは今、新しい課を設立中なんよ。」
はぁ…、と返事を返すキラ。
「一応、魔導試験を受けてもらった子たちから見込みがありそうな子たちを選出してるんだけど…。」
「正直なところ、キラ君やシン君の力はうちらにとって魅力的や。
せやから、いややなければ、こっちの世界にいる間、新設課、機動六課の支えになってほしいと思ってる。」
「ただ、そのためには、管理局への入局手続き、それから、魔導試験の成績が必要になってくる。」
「入局手続きに関してはこっちでなんとか出来るし、魔導試験の成績が悪くても、対闇の書の闇戦闘を見せれば、みんな納得してくれるはずや。」
「それに、住まいはこっちで用意するし、食事も私たちがなんとかしよう。
別に、強制ってわけじゃなくて…」
「嫌なら、嫌でちゃんと安全に保護は出来る。せやからゆっくり考えてくれたってかまわへんよ?」
「俺は別に構いませんよ?だいぶ前にもあなたたちに世話になったことがあるみたいですし…。
それに、今回も世話にならなきゃいけないみたいだし…。」
そうシンが言うのを聞いていたキラも
「それなら、僕も…」
と同意した。

以上のような流れで、二人は早速魔導試験を受けることになっていた。
点灯する三つシグナルが一つ、二つと消えて行く。
「言っときますけど、邪魔だけはしないで下さいよ?」
シンはただ前だけを見つめてぶっきらぼうにキラに言った。
「え…あ…、うん…。」
控え目に返事を返すキラ。最後のシグナルが消え、リィンフォースⅡが『スタート!』
と合図した。
崩壊した、戦闘後を思わせるようなコンクリート、廃ビルが立ち並ぶこの訓練施設。試験の合格条件は機械仕掛けの敵を殲滅。
それから、特定のターゲットの破壊、時間内に目的地へと辿りつくことが条件だ。
コースは二人とも頭に叩き込んである。
シンが先に先行し、キラはそれを追い掛けるような形で走り出した。
『Load Cartridge』
アロンダイトから弾け飛ぶ薬筒、そして展開される翼。鮮やかな光が噴射し、一気に加速、最高速度へと瞬時に達し、ビルの隙間を縫って飛行する。
キラはシンを追い掛ける形でスタートした。
指定された空域、廃ビルと廃ビルの間を縫っての飛行。
死角から現れるオートスフィアを片っ端から切り裂いて行くシン。
と、目先三寸を蒼い閃光が走り、ヒヤッとし、後退する。
直後に爆発が起こった。
自分の死角にいた敵をキラが撃ち落としたのだ。
「おい!危ないだろ!あんた!」
先頭を行くシンがキラを振り向き怒声を上げた。
「…、あ、……ごめん…。」とは言ったものの、正直な話、モビルスーツ戦でも『援護』と言う形での戦闘をキラはしてこなかった。
射撃には自信がある。
援護することにも自信があるにはあるのだが、いかんせん、シンがキラを信用してくれていない。
故に、キラがシンの死角を狙って襲ってくるオートスフィアを撃ち落としてもシンにとっては危険行為と認識されてしまうようだ。
さらに言うならば、死角をついたオートスフィアにシンは気付いているのだろう。
そんなわけでキラも機嫌を害したか、はたまたシンが一人でも大丈夫だと判断したのかは定かではないが、シンとは別方向のオートスフィアとの戦いにだけ専念し始めた。

ミッドチルダ廃棄都市街上空。
「なんか、どっちも協力…というか援護はしないみたいだね。」
「そう…やな。」
シンとキラの好感度がリバースしているように見える。
記憶喪失と関係があるのだろうか。
ハラハラしながら、フェイトは二人を見守っている。実際、シンはオートスフィアの攻撃を紙一重でかわし反撃しているのだが、スフィアの数に対応しきれていない。
また、今になって気付くのだが、キラはトリッキーな動きをするが、シンは直線的な動きをする。
それで相手の攻撃を最小限の動きで交すのだから凄いと言えば凄い。
しかし、見ている方は気が気ではなかった。

訓練場設定室。
高町なのは、スバル・ナカジマ、ティアナ・ランスターはシンとキラの試験をモニターしていた。

アロンダイトを振り抜いたシンにできる隙。
オートスフィアはその隙を逃さない。

「あっ、あぶない!」
スバルが声を上げ、ティアナもシンの方のモニターに視線を向ける。
しかし、アロンダイトから放たれる魔法刃で破壊。
付近にいるスフィアを脚部魔法刃で破壊する。
一方、キラも数の多い正面の敵の対応におわれている。

「すごい正確な射撃…。」
ティアナの視線の先に写るのは一発で遠距離の敵を撃ち抜く超精密射撃。
本当は試験の際、他局員に見せると言ったことはしないが、スバルはシンをみることで、ティアナはキラをみることで勉強になるのではないか?
ということで特別になのはが二人を呼び寄せたのだ。

「数ばかりごちゃごちゃと…」
目の前の敵を薙払い、まだ出てくる敵にうんざりしながらもアロンダイトを振るいながらつき進む。
キラも左右のフリーダムを連射しながら進んでいるのだが、やがて動きをとめた。
「フリーダム!」
『Yes, my master!
ハイマット・フルバースト stand by』
キラの腰部の砲芯が持ち上がる。
「シン君、退いて!!」
両銃、両砲芯から音を立て弾けとぶ計4発の薬筒。
振り向くシンの目に写るのは七つの環状魔法陣。
シンは上昇し、回避距離をとる。
『ハイマットフルバーストバラエーナプラス』
轟音とともに七つの魔法陣から放たれる七つの閃光。ほとばしる奔流の勢いがその破壊力を容易に判断させる。
スフィアの部品が音を立てて地に散ってゆき、先ほどまでスフィアで埋め尽されていた進路には青空が広がっていた。

高速で移動を続けるシンとキラ。
途中で出てくる少数のオートスフィアをシンはフラッシュエッジを駆使して、キラはすり抜け様に切り裂いて行く。
ゴール地点まではあと少し…残るのは大型スフィアだけだ。

「いよいよ試験も大詰めだね。残り七分。」
「最後は中距離射撃型、オート障壁に包まれた大型スフィアや。」
「二人ともどうするかな?」
フェイトとはやては顔を見合わせ笑みを浮かべた。
この難関をシンとキラの二人がどう切り抜けるか、それが楽しみだった。

一方、先ほどキラが放ったハイマットフルバーストに呆気にとられているのはティアナ・ランスター。
約数十機もいたオートスフィアが一掃されたのだ。
スバルはなのはのディバイン・バスターをみたことがあるのだがそれでも驚きを隠せないでいた。
「高町一等空尉。」
「なのはさんでいいよ。どうしたの?」
真剣な顔つきで自分を呼ぶティアナに、モニターから視線移し答えるなのは。
「蒼い翼の彼の名前を教えて頂けないでしょうか?」ティアナの目に炎がともっている。
同じ銃型デバイスの使い手として色々思うところがあるのだろう。
「闇の書事件時の民間協力者、キラ・ヤマトくんだよ。」
なのは笑ってそう答えた。

「くっ、何でこいつは…!」『フラッシュ・エッジ』
深紅の刃が大型スフィアを捉える、が
バシンッ
と本で机を叩いた様な音を立て霧散する。
『ロングレンジシュート』左右のフリーダムを連結させ、カートリッジを消費。ドウッと音を立て放たれる奔流は大型スフィアの障壁にあっさりと弾かれる。
「ッ!?」
追跡型の中距離射撃の連射が二人を近づけさせない。

「あかんで、正面から二人で出ていったら…。」
「うん、ここはスバルとティアナ。あの二人の作戦でやるのが定石なんだけど…。」

大型スフィアの射撃を避け続けるシンとキラ。
タイムリミットが近付く。残り時間はあと三分。
このままじゃ…。
焦る二人。
シンはキラへと視線を向ける。キラはシンへと視線を向けた。

「このままじゃタイムリミットだ。」
射撃を避けながらシンが唐突に口を開いた。
「…うん。」
「俺が接近してバリアを破壊するから、あんたは!」
「…わかった。」
二人が交差すると思われた瞬間。
急に、大型スフィアに向かって突攻を仕掛けるシン。その後ろにはキラがついている。
大型スフィアの容赦ない射撃が二人を狙い打つ。
シンもキラも紙一重でかわし、大型スフィアまであと十メートルと言うところでキラが失速し落下、いや正確には落下したように見えた。
『パルマ・フィオキーナ』アロンダイトから弾けとぶ薬筒。
大型スフィアが障壁を展開する。
あてがわれるシンの掌から純白の光が溢れだし、そして
『バースト』
障壁が砕かれる。
直後に下方から放たれる4発の蒼き閃光が大型スフィアの武装、障壁発生装置を破壊する。
今度は大型スフィア本体に直接あてがわれるシンの掌底。
『バースト』
溢れ出す純白の光が溢れだし、一瞬だけ輝度をあげた。
大型スフィアの機能は停止、なんの反応もなく地へと落下を開始した。
それを無視して二人はゴールへと全速力で向かう。
風景はもう線の世界。
風を切るピィィィィという音が耳元でなり響く。
耳が痛い。
だが、残りはあと三分。
普通に飛んでいるのではとてもじゃないが間に合わない。
「見えた!!」
キラが声をあげる。
しかし、道を塞ぐ二十機のオートスフィアがこちらへと向かってくる。

「あと二分!」
モニターしているなのは、スバル、ティアナが、上空から見守るフェイト、はやてが声をあげた。

「ターゲットマルチロック」『オール・ライト』
『フラッシュ・エッジ』
「いっけぇぇええ!」
アロンダイト、両脚部から合計三発の鋭い深紅の刃が放たれた。
中心に待ち構えるオートスフィアをフラッシュエッジが破壊してゆく。
無論、左右に散らばり回避を図るスフィアもあるのだが…。

「あっ、来ましたです。」
オートスフィアが次々切り裂かれ、煙を上げる光景をみていたリィンフォースⅡの横を深紅の刃が三つ駆け抜けていく。
「わゎ。」
『リィン!障壁!!』
「へっ?」
と前をみてみれば輝きを増す五本の蒼い閃光。
「何かチョイやばです…。」リィンフォースⅡはキョトンと目前にまで迫る閃光を見つめるばかりだった。

シンのフラッシュエッジにより左右に散らばった瞬間をフルバーストで一掃。
狙い通りの攻撃。
オートスフィアはもう無い。
残り四十秒をきっている。二人はゴールへ向かう。
シンが先に前に出る。カートリッジを消費してスタートダッシュを見事にきめている。
シンがキラを振り向き口元に笑みを浮かべた。
ムッとするキラ。
周囲を流れる風景が早くなり、ヒュンッと音を立てては流れていく。
シンへとジリジリジリジリと少しずつ差を詰めていくキラ。
『止まらないと正面のコンクリートに突っ込みます。』
デスティニーがシンに警告を促す。
『同じく。安定した停止を望むなら、少なくともラインを割ったと同時にブレーキをかけなければなりません。』
とフリーダムも同様にキラへと警告を促した。
シンとキラはその警告を無視。
限界スピードのままラインを割った。
タイマーが残り11秒で停止。
刹那
飛翔魔法が強制解除、代わりに全包囲障壁が二人の全身を包む。
「ッ!?」
「ッ!?」
障壁をコンクリートに打ち付けながら転がり、正面のコンクリートの壁に思いっきり打ち当たって停止した。
フェイトとはやてが地上に降り立った。
リィンフォースは自身とはやてとフェイトの張った三重の障壁によって助けられ、涼しい顔でシンとキラを見送っていた。
ガラッと音をたて、瓦礫の中から姿を現す二人。
どっちも平気な様だったが、シンが唇を切っていた。駆け寄ってくるはやて。
それから、いつの間にかやって来たなのはとスバル、ティアナの三人。
二人の近くになのはとはやてがやって来て、安否を気遣ってくれるのかと思いきや、怒られるシンとキラだった。

場所は変わって管理局本部一室。
「二人とも危険行為に関しては自覚してるよね?」
「はい」
「すみません。」
なのはの刺すような視線を浴びながら、シンとキラは謝った。
「あそこに民間人がいたら、あなたたちは巻き込んでたかもしれないんだよ?」うなだれるキラとは対照的に、しっかりとなのはを見つめるシン。
ふぅっとなのはは息を吐き、机の上の資料を手に取り、読み上げた。
「とりあえず、シンく…、シンもキラも空戦Bランク昇格試験は合格。
おめでとう。」
なのはがそこまでいい終えるとフェイトがお茶を入れてはやてと一緒に部屋に入って来たところだった。

「二人ともお疲れ様。」
フェイトは二人に労いの言葉をかけ、お茶を置いていく。
もちろん、全員の分だ。
「ありがとうございます。フェイト執務官。」
「ありがとうございます。」シンの真似をしてキラも姿勢を正す。
シンはザフト軍所属で上官との接し方にはある程度成れている。
まぁ、それでもしょっちゅう上官とはぶつかっていたと聞くが…。
対するキラは、仕方なく地球軍に入りには入ったが、軍隊と言うものを知らない。軍による教育を受けていないのだ。
大佐、大尉、など色々あるようなのだが、正直、キラは全てさんづけだった。
なので、一等空尉、執務官などが名前についても偉い人なんだとは何となくわかるが、どれぐらい偉いのかと聞かれれば、はてといった感じである。
「シン、キラ、この面子で話すときは私のことはフェイトさんでいいから…」
「うちもはやてさんでええよ、何か二人に階級つけて呼ばれるんは気持悪いと言うか、違和感がある。」

「これから、二人をなのはちゃんとフェイトちゃん、機動六課フォワード部隊のスターズ分隊とライトニング分隊とに振りわけるんやけど…。
何か意見はある?」
となのは、フェイト両名にはやてが問いかける。
「できれば私はシン君が欲しいかな。」
なのはが言う。
なのはは砲撃戦が得意である。
スバルは超接近戦、ティアナは遠、中距離だ。
そこにシンを入れると、接近戦の連携バリエーションを増やせると思うし、何よりスバルの負担が格段にへるだろう。
「フェイトちゃんが、キラ君でええって言うならこれできまるで?」
「うん、そうだね。
私の部隊にはキラの方が必要かな。」
フェイトが率いるライトニング分隊には安定した力が必要だと判断したのだろう。
シンはミドルレンジに、スバルはクロスレンジ、ティアナは技術、サポートに突出している。
一方、フェイトが率いる二人はまだ幼いが、一人はスピードが取り柄の高速近接戦闘を得意とする少年。
もう一人は補助系魔法を得意とする少女。
ここにキラを投入することで、近接戦闘、詠唱、魔法強化中の術者のサポートを行わせる、二重にサポート置くという狙いだ。
スターズ分隊とのバランスも少しはとれるのではないだろうか、と言う考えでフェイトは決めた。
「よし、ほんならこれで解決やな。明日からがんばりや、二人とも…。」