Seed-NANOHA_神隠しStriker'S_第19話

Last-modified: 2007-11-19 (月) 14:44:50

雲の上を行くアースラ。
本来ならば解体される予定だった時空間航行船。
しかし、はやての意思によってそれは先送りとなり、整備、修復などを行って再び発進することとなった。
理由はいくつかある。
代表的な理由としては六課の損傷がまだ修復出来ていないからであり、移動する本部が欲しいというはやての考えからだ。

「皆おそろいやな?」
ブリーフィングルームに入ってきたのははやてとグリフィスの二人。
すでに楕円のデスクの前にはティアナ、シン、エリオ、キャロ、なのはとフェイトが座っている。
「ちょうど今、今後の機動六課の方針が決まったところや。」
はやては椅子に腰を下ろし、グリフィスは脇にたったまま控える。
「残念ながら事件の対応は現在、後手に回っています。
地上部隊だけでの調査を頑に主張し、本局の介入を拒んでいます。」
「そう言うわけで、本局所属の機動六課には捜査状況などの報告など一切公開されません。」
グリフィスの言葉をついで言うはやてはさらに続ける。
「そやけどな、うちらが追うのはその事件の調査でも、主犯格のジェイル・スカリエッティでもない。
ロストロギア、レリック。その捜査線上にスカリエッティとその一味がおるだけ、そういう方向や。
その過程で誘拐された108部隊、ギンガ・ナカジマ陸曹と、うちのライトニング所属のキラ・ヤマト。
それからなのは隊長とフェイト隊長の保護児童のヴィヴィオの捜索救出する。
そういう線で動いていく。」
はやては何か意見がないか、隊員たちを一眺めし
「後見人の皆さんの黙認と協力はちゃんと固めてあるから大丈夫。」
なのはとフェイトの心配そうな顔色を拭う。
「捜査、出動は本日中の予定や、皆、準備万端で待っててな。」
はやてはそれだけ言うとブリーフィングルームからグリフィスと共に出ていった。

今後の方針を聞いた隊長陣を除いたフォワードメンバー四人はとくに行く宛てもなくアースラ艦内を歩いていた。
「あれ、スバルさんじゃないですか?」
エリオの声でティアナ、シン、キャロが会話を中断、目の前の挙動不審なスバルへと視線をうつす。
「おい、こっちだ、スバル!」
「お、シン、皆!」
パタパタと廊下を駆けてくるスバル。
「体のほうはもういいの?スバル」
「ん、もうこの通り!」
ティアナの言葉を受けて肩を回して見せるスバル。
「あ、そうそう…、シン。」
「んっ?」
スバルの手から手渡されるデスティニー。
「本局でマリーさんとシャーリーさんから預かってきたよ。
それから…。」
空間モニターを開き、本局に通信を繋ぐ。
『お、スバルからの通信ということはデスティニーをシンに渡したってことかな。』
「シャーリーさん?」
モニターに写っているのはシャーリーの姿。
『どうも、シン。じゃあちょっとだけデスティニーについて説明させてね。』
「えっ…。」
『今回、皆のデバイスのメンテをする際、スバルのマッハキャリバーとシンのデスティニー、この子たちは勝手に強化プランを考えてしまったの。
マッハキャリバーの方は魔力消費、重量増加なんかがあったからスバルに意見を聞いたけど…。
デスティニーに関してはデバイスのフレーム強化だけで済んだわ。』
「重量とかは?変わらないんですか?」
『大丈夫、そこはフリーダムを修理する際に使った技術、フェイズシフトを使ってるから…。』
それで…とシャーリーの表情が険しい顔になる。
『エクストリームブラストシステムについてだけど…。』
「?何ですか、それ?」
聞きなれない単語に眉をひそめるシン。
『できれば、ずっと使わないで戦闘を終えてほしいの。』
「それって、どういう…」
とシンのかわりにティアナ。
『エクストリームブラストシステムはなのは隊長のブラスター、フェイト隊長のライオットより遥かに扱いが難しいし…
何より、万一、このシステムを使って決着をつけられなかった場合、確実に負けるわ。』

場に沈黙が流れ、そしてその沈黙を破ったのはシンだった。
「使わないでって、じゃあ何でそんなものつけたんですか?」
シャーリーは首を振る。
『これはあくまで私の判断だから、従う従わないは自由だよ。
ただ、データ上ではスピード、パワーが飛躍的にアップするけど、発動条件がカートリッジ六発と術者の魔力全て。
使うタイミングも難しいうえ、デバイスが無理矢理術者の力を引き出すから自分が思う以上のスピード、パワーがでてコントロールしづらい。
最大スピードはフリーダムのヴォワチュール・リュミエールと同等かそれ以上。
ただ、時間をかけて加速し、最大スピードに到達するフリーダムに対し、デスティニーはその時間が必要ない。その分、有利だけど…。』
「俺の魔力が切れたら敗けは確実…か…。」
うつ向き、何やら考えるようにして呟くシン。
「な~に暗い顔してんのよ。」
バシンッとシンの背中を叩くティアナ。
「あんたが魔力切れで動けなくなったら、私が幻術で援護ぐらいするわよ。」
「私とフリードもです!」
「キュ、クル~…。」
胸元で両手に握り拳を作り、キャロ。
「僕もきっと駆け付けます!だから、安心してください。」
しっかりした表情でエリオが言う。
「私も…必ず!」
スバルも何やら決心がついたような表情で言う。
そんな四人と一匹を目の前に、驚いた顔していたシンは頷くと微笑んで言った。
「…サンキュー、皆。」
それから、改めてモニター越しのシャーリーと目を合わせ
「そういうことで…シャーリーさん。大丈夫です。」
シンが笑った。
思えば、こんなにはっきり笑ったのはいつ以来だろう。
シャーリーもそんなシンを見て安心したのか、がんばってね、そう言って通信を切った。
「俺も、お前らがピンチの時は絶対に助けにいくから……絶対に…。」
「期待しないで待っとくわ。」
ティアナが肩を叩き薄く微笑んで歩いていく。
「「お願いします。」」
そう笑ってエリオとキャロ。
「期待してるよ。」
と握手を求めるスバル。
そんな四人の背中を見送り、追い掛けようとしたその時、艦内に不吉を感じさせる赤いアラートの文字が浮かび上がり、警報がなり響いた。

モニターに写るのは交戦中の地上部隊。
相手はナンバーズとガジェット。
アインヘリアルは各号次々と制圧、占拠され、防衛の為に戦う魔導士たちの多くはナンバーズとガジェットのAMFの前に成す術なく倒れていく。
アインヘリアル1号機、クアットロ、ディエチ、セインにより制圧。
アインヘリアル2号機、トーレ、セッテ、ノーヴェにより制圧。
アインヘリアル3号機、ウェンディ、オットー、ディードにより制圧。

モニターに写る悲惨な光景を呆然と見つめる、シン、ティアナ、スバル、キャロ、エリオ。

そして、画面が切り替わり、アインヘリアル4号機。
朱色の閃光が次々と局員を吹き飛ばし、アレックスの振るう魔力刃に局員が持っているデバイスが次々と破壊されていく。
アインヘリアルに突き刺さる灰色の閃光、ラウにより、アインヘリアルは制圧された。

スカリエッティ、アジト。
「アインヘリアルの奇襲、制圧、ほぼ完了です。
妹たちも初回出動からのデータを全て蓄積、行動に反映できています。」
『あぁ…、いいねぇ、すばらしい…、すばらしいよ。』
「失敗が目立つ人造魔導士と比べて私たちはトラブルが少ないですね。」
『元は最高評議会の主導で管理局が実用寸前までこぎつけたのだからねぇ…。
それを私が随分と時間をかけて改良したんだ。』
ウーノはモニターを開き、スカリエッティと会話をしながら通路を歩く。
その隣には、キラが腕にヴィヴィオを抱き歩いていた。
「良質なはずです。」
『人造魔導士の製造も、ゼストやルーテシアが長期活動してくれたお陰で随分と貴重なデータをとることができた。
それに、コーディネイターとやらのデータも手に入ったしね。』
口を歪にゆがめ、スカリエッティは続ける。
『彼らの失敗と成功のお陰で、聖王の器も完成を見た。』
「この聖王のゆりかごを発見し、触れることが出来て以来、その起動はあなたの夢でしたから…。
その為に聖王の器たる素材を探し求め、準備も進めてきた。」
ウーノがとある扉をあけると、低い音をたてる起動音。
証明がひとつひとつ点灯し、白い直線を二本描く。
「いよいよ、あなたの願いが叶うときですね。」
『まだまだぁ…夢の始まりはここからなんだよ、ウーノ。
古代ベルカの英知の結晶を…ゆりかごの力を手にして…ここから始まるんだぁ…。
誰にも邪魔されない!楽しい夢の始まりだぁ!!!』

喜びを現すスカリエッティ、そんな彼をモニター越しに見ていたウーノ。
すると、不意にそのモニターに表示されるアラートの文字。
「侵入者!?」
驚きを隠せないウーノ、侵入者をモニターに写す。
姿はない。
しかし、防衛システムが攻撃をしかけ、目には見えないその何かを破壊した。

「こんな…洞窟の奥に?」
シャッハの声が暗闇のなか反響する。
「僕の猟犬を発見してその上一発で潰した…。
並のセキュリティじゃない。ここがアジトで間違いないね。」
白いスーツに映える長く深い緑の長髪、ヴェロッサ・アコース。
「すごいですね…ロッサ。こんな場所…よく掴めました。」
森に囲まれ断崖に空いた洞窟。
「シャッハ、いい加減僕を子ども扱いするのはやめてほしいな…。」
顔をしかめ、やんわりとシャッハに抗議するアコース。
背後にはアコースと同じ髪の色の光を纏う半透明の猟犬が数匹現れる。
「これでも一応、カリムやはやてと同じ、古代ベルカ式、レアスキルの継承者なんだよ?」
一匹の猟犬を撫でながらアコースが言う。
「無限の猟犬、ウンエントリヒヤークト。あなたの能力は存じあげていますよ。」
「まっ、今回の発見はフェイト執務官や、ナカジマ三佐の地道な捜査のものだけどね…。」
会話をそこそこ、シャッハのもつヴィンデルシャフトが警戒を促すと同時、洞窟から、それを囲む森からガジェットが出現した。
「くっ…囲まれたか…。」
「やはり、おとなしく帰してくれなさそうですね。」
「あんまり戦闘は得意な方ではないんだけど…まぁ、このくらいなら…。」
やれやれと呟くアコース。
「お任せください!あなたとカリムを守るのが私の勤めですから!!」
シャッハはヴィンデルシャフトを構えた。

アースラブリッジ。
「アインヘリアル一号機、ニ号機、戦闘機人たち撤収します!」
「前回より動きが早い…。」
「嫌な感じに分散しとるな、隊長たちの投入がしづらい…。」
「アコース査察官から直通連絡!」
シャーリーがはやてに告げる。
『はやて、こちらヴェロッサ。スカリエッティのアジトを発見した。
シャッハが今、迎撃に出てきたガジェットを叩き潰してる。
教会騎士団から戦力を呼び寄せてるけど…そっちからも制圧戦力を送ってくれるかい?』
「うん、もちろんやけど…。」
「戦闘機人アインヘリアルから撤収、地上本部に向かっています。
ッ!?ゼスト、アレックスと名乗る騎士たちも別ルートで向かっています。」

モニター越しに写るアレックスとゼストを見つめるシンとシグナム。

「廃棄都市から別反応、エネルギー反応膨大!これは…戦闘機人!?こちらも地上本部に向かっています!」

『映像が、今』
スバルが目を見開く。
長い紫色の髪、藍色のリボン、ブリッツキャリバー、そして…リボルバーナックル。
服装は違えど、見間違うはずがない。
その周囲には、ウェンディ、ディードがいる。
「ギン…姉ぇ…。」
その姿を目の前にして震える声で名前をスバルは呟いた。

スカリエッティ、アジト周辺を襲う地響き、しかし、原因はルーテシアにより、召喚された複数のジライオンによるものだ。
「なんだ?」
アコース、シャッハは粗方のガジェットを片付けたところだった。
あちこちの地面に亀裂が入り、断崖を覆う岩壁にも亀裂を入れていく。

『さぁ…いよいよ、復活の時だ…。
私のスポンサー所司よ、こんな世界を作り出した管理局の諸君。
偽善を詠う聖王教会の諸君!
見えるかぁい?君達が危惧しながらも求めていた絶対の力…。』
管理局全てのモニターに写るスカリエッティ。狂喜の笑みを浮かべ、目を見開き、嘲笑う。
艦体を覆う岩壁が剥がれ、姿を見せる、巨大な艦。
『旧暦の時代、一度は世界を接見し、そして破壊した。
古代ベルカの悪魔の英知。』
あまりに巨大な艦体を目の辺りにアコースが呟く。
「聖王の…ゆりかご…。」
『見えるかぁい?待ち望んだ主を得て、古代の技術と英知の結晶は、今その力を発揮する!』
台座に座り、いくつものコードに繋がれているヴィヴィオ。
時折、短くうめき声をあげるところを見ると痛みが走るのだろう。
『ママァ~…。』
モニター越しに写るヴィヴィオの姿、悲痛な叫び。
『痛いよぉ…マァマ…ママァー!!』
台座の隣、すぐそばに写るバリアジャケットに見を包んだキラ。
両手に握られるフリーダム、二丁。恐らく、スカリエッティが完成させたのだろう。ヴィヴィオの悲鳴に少しだけ眉をひそめるキラ。
『怖いよぉ…、痛いよぉ…マぁマぁ!!!!』
甲高い悲鳴、レイジングハートを握る拳に力をいれるなのは。
そんな悲鳴を間近で聴いてもキラは顔色一つ変えない。
「さぁ、ここから始まりだぁ!」
スカリエッティの不快な高笑いがアースラ内に響きわたった。