Seed-NANOHA_神隠しStriker'S_第20話

Last-modified: 2007-11-19 (月) 14:45:20

「一番なって欲しくない状況に…なってしもうたんかな?」
はやてはモニターに写るカリムに問うた。
『教会の…私の不手際だわ…。予言の解釈が不十分だった。』
「未来なんて見えなくて当たり前や、カリムや教会の皆さんのせいとちゃう。」
しかし、どうしたものかと考え込むはやて。
『はやて、クロノだ。』
そこへクロノからの通信から割って入る。
『本局は巨大船を極めて危険度の高いロストロギアと判断した。
次元航行部隊の艦隊はもう動き出している。地上部隊も協力して事態に当たる。
機動六課…動けるか?』
クロノの言葉にはやては強く頷いた。

廃棄都市街上空。
ナンバーズのオットーが飛翔しているとウーノから通信が入った。
『聖王の器とゆりかごは安定状態に入った。
クアットロとディエチはゆりかご内部に…私と交代を…。
トーレとセイン、セッテ、ラウはラボでドクターの警護を
ノーべはディードとウェンディ、13番目と一緒に…。
ゆりかごが完全浮上して、主砲を撃てる位置に…。』
『あ~んど、二つの月の魔力を受けられて、地上攻撃ができる軌道上の位置までたどり着ければゆりかごはまさに無敵…。』
『ミッドの地上全てが人質だ。その状態なら、本局の主力艦隊とも渡り合える。』
モニターのウーノが写る画面の隅にクアットロ、トーレが割り込む。
『そういや、一個疑問があるんスけど…。』
更に割り込んでくるのはウェンディ。
『あのゆりかごの中の女の子、聖王の器ってぶっちゃけ何?』
そして四人の顔が写るモニターの中心からスカリエッティが割り込んできた。
『ふっふっふ、それについては私から説明しようか。
今から、十年ばかり前になるかねぇ…。聖王教会にある司祭がいてねぇ…。』

その司祭は敬虔な教徒にして高潔な人格者だった。
故に聖遺物管理をまかせれていたと言う。
ちなみに、聖遺物とは聖王教会の信仰の対象で、古代ベルカの聖なる王の持ち物や、遺骨の事を指す。
しかし、いくら敬虔、高潔な司祭と言えど人、ある女性への愛から、聖遺物へと手を出してしまった。
そして、ある符に不着した血液から、遺伝子情報がとりだされ、そしてその遺伝子情報は古代ベルカを統べた偉大な王、聖王の遺伝子データだった。
そしてそのデータは各地の研究期間にわたり、極秘裏に複製され、再生を待った。
『私たちの王様になるために…だろ?』
どこか不機嫌そうなノーヴェ。
「生きて動いている聖王は、あのゆりかごの起動キーなんだよ…、王といっても、ただの器さ。」
鼻で笑うスカリエッティ。
『ほい、ドクター、質問!』
六つに別れたモニター画面。セインが写る画面が拡大される。
「どうぞ、セイン。」
『レジアスのおっちゃんはまぁいいとしてさ、最高評議会だっけぇ?
あっちの方はいいの?』
罰の悪そうな顔をするセインに、他の姉妹たちが注目する。
『ガジェットの量産とか人造魔導士計画の支援してくれたのってあの人たちだよね?』
否定せず、肯定するスカリエッティ。
『ゼスト様やルーテシア様も評議会の発注で復活させたんでしょ?
評議会は評議会で何か、思惑とかプランがあったんじゃ?』
「レジアスも最高評議会も希望は一緒さぁ…
地上と次元世界の平和と安全…。その為にレジアスは計画を頓挫させられた戦闘機人にこだわり、最高評議会はレリックウエポンと人造魔導士にこだわった。
平和を守り、正義を貫く為なら罪のない人々を犠牲を出してもいいと…。
なかなか、傲慢な矛盾を抱えておいでだ。」
『ん~~、何かよく分かんないなぁ~。
でも、スポンサーである評議会の言うことを無視してあんなでっかい玩具を呼び出したりしたら、怒られるんじゃないのって心配。』
不安げな表情を露にするセイン、しかし、スカリエッティは笑って答えた。
「ちゃぁんと怒られないようにしてあるさ。君達は何も気にせずに遊んでくるといい。
遊び終わったら、我等は新しい家にゆりかごに帰ろう。そうすれば、世界の全てが我々の遊び場だ。」

通信が切れ、セインは念話でぼやく。
『ドクターの言うことは相変わらずわけわかんないなぁ~…。』
『そうッスねぇ~…。
まっ、私ら別に夢や希望があるわけでもないし言う通りに動くしかないっスけどねぇ~。』
とウェンディ。それからセインが続ける。
『まぁねぇ~、でもさっきの話でわからない事がもう一個、司祭様をだまくらかしたその女の人って何者?』

暗い暗室。
三つのモニターが淡く輝く。画面には管理局の紋章。
そして三つのモニターが囲む中央にはスカリエッティのモニター。
『ジェイルは少々やりすぎたな。』
『レジアスとて我等にとって自由な駒にすぎんというのに…』
『我等が聖王のゆりかごを奴は自分の玩具にしようとしている。とめねばならんな。』
変声機を使ったような声とともにモニターは光を失い、暗室は闇に包まれた。

場所は移って。
「だがジェイルは貴重な雇体だ。消去するにはまだ惜しい。」
「しかし、彼の人造魔導士計画もゼストは失敗。ルーテシアも成功にはいたらなかった。」
「聖王の器は完全なる成功のようだ、そろそろよいのではないか?」
「我等が求むる優れた指導者によって統べられる世界。我等がその主導者を選び、その影で世界を我等が導かねばならん。」
またもや暗室。ぼんやりとした淡い光を放つカプセルが三本。
そして中身は人の脳。
脳だけが保管され、恐らく声が聞こえるのは特別な機器を用いているせいなのだろう。
「その為の生命操作技術。その為のゆりかご。」
「旧暦の時代より、世界を見守る為に我が身を捨てて生きながらえたが…もうさほど長くは持たん。
だが、次元の海と管理局は今だ我等が見守って行かねばならぬ。」
すると、こんな暗室を訪ねる人。
「失礼します。」
女性の声、扉がスライドする音がしてその何者かは入ってくる。
「しかし、ゼストが五体満足であればな。」
「ジェイルの監視役として最適だったのだが…。」
構わず話続ける不気味な脳味噌三つ。
「皆さま、ポッドメンテナンスのお時間ですが…。」
「あぁ、お前か、会議中だ。手早く済ませてくれ。」
その女性の姿は司祭をだまくらかした女に酷似していた。

女性は返事をし、空間モニター、パネルを叩き始める。
「あれは武人だ、我等には御せんよ。戦闘機人事件の追跡状況とルーテシアの安全を引き替えに辛うじて鎖をつけていただけだ。」
「奴がレジアスに頼みついてしまえば、そこで終りよ。」
不意にパネルを叩く女性が口を開いた。
「お悩みのようですね。」
「何、粗末な厄介ごとよ。お前が気にかけることでもない。」
返事をし、再び作業に戻る。
「レジアスや地上からは何の連絡もないのか?」
一つの脳が女に問う。
「えぇ、未だに…どなたからも。」
「そうか…。」
女はパネルを叩く手を止めた。
「しばらくは慌ただしくなりそうだ。お前にも苦労をかけるが…。」
「いいえ、私は望んでここにいるのですから…。」
女は優しげな顔を上げ、薄く微笑んだ。

旧暦の時代、ばらばらだった世界を閉廷したのは最高評議会の三人。
現役の場を次の世代に託してからも評議会体制を作って見守ってくれた。
レジアスもやり方が乱暴ではあるが地上の平和を守り続けてきた功労者。
彼等が今回の事件に関わっている。
そうは思いたくない。
それが今回、機動六課の後ろ建てをしている者たちの意見だ。
「理由はどうあれ、レジアス中将や最高評議会は偉業の天才犯罪者、ジェイル・スカリエッティを利用しようとした。
そやけど、逆に利用されて裏切られた。
どこから何処までが誰の計画で、何が誰の思惑なのか分かれへん。
そやけど今、巨大な船が空を飛んで、街中にガジェットと戦闘機人が現れて市民の安全を脅かしてる…。
これは事実…。
私たちはとめなあかん。」
アースラ、ブリーフィングルームに全員が集まっていた。
「ゆりかごには本局の艦隊が向かってるし、地上の戦闘機人たちや、ガジェットたちも各局と協力してあたる。」
フェイトが言う。
「だけど、高レベルなAMF戦闘ができる魔導士は少ない。私たちは三グループに分かれて各部署に協力することになる。」
なのはがまとめ、ブリーフィングは終了した。

『第一グループ降下ポイントまで、あと三分です!』ブリーフィングを追えてから数分後。
艦内アナウンスが流れる。そしてシンたちはなのはたちの前に整列していた。
「今回の出動は今までで一番ハードになると思う。」
なのはが言う。
「そして今回はお前らがピンチでも私らは助けに行けねぇ。」
ヴィータが言う。
シン、スバル、ティアナ、キャロ、エリオは真剣な眼差しで、二人の視線を見る。
「だけど、ちょっと目を瞑って、今までの訓練のこと思い出してみて。」
なのはの指示で瞼を閉じる五人。
「ずっと繰り返してきた基礎スキル。磨きに磨いたそれぞれの得意技…。
痛い思いをした防御練習。」
あぁ~、そう言えばタフって理由だけで何度もシグナムさんに模擬戦させられたっけ。
思い出すシン。防御練習は、ヴィータ副隊長に何度もぶっ叩かれたなぁ。
「いつもボロボロになるまで私達とした模擬戦。」
なのは隊長の砲撃で撃墜されたっけとシン。
「目、開けていいよ。」
作戦前に撃墜されたような気分を味わった五人は目を開ける。
「まぁ、私が言うのもなんだけど、きつかったよね?」
苦笑いの五人。するとヴィータが一歩前に出る。
「それでも五人ともよくここまでついてきた。」
「四人とも誰よりも強くなったとは言えないけど、だけど、どんな相手が来てもどんな状況に陥っても絶対に負けないように鍛えてきた。
守るべき者を守る力。救うべき者を救う力。絶望的な状況に立ち向かっていく力。
ここまでついてきたみんなにはそれがみについてる。
夢見て憧れて必死に積み重ねてきた時間。」
五人に向かって拳をつき出すなのは。
「どんなに辛くてもやめなかった努力の時間は絶対に自分を裏切らない。
それだけ忘れないで」
力強く、けれども最後は優しく微笑んでなのは握り拳に力を込める。
「キツい状況をビシッとこなせてのストライカーだからな。」
「それじゃ、機動六課フォワード隊、出動!」
なのはの出動命令に、力強く五人は敬礼した。

スバルはなのはと話があるようで後でヘリにのるとのことだ。
暗いライトニングの二人。エリオもキャロもなんだか元気がない。
「どうしたんだよ。キャロ、エリオ。」
シンが聞く。
「いや、あの、本当ならキラさんもこの場にいたんだよねって」
「そう思うと…複雑で…。あのとき助けられたらって」
エリオとキャロがうつ向く。
(キラさん、あんた、こんな子どもを悲しませて…。見つけたら絶対に殴ってやる。)
二人の頭に手をおくシン。
「二人とも、過ぎたことをどうこういってもしかたないだろ?
過去は振り返っても囚われちゃ駄目だ。
こんなことしか言えないけど、キラさんは絶対に俺が目を醒まさせるから…なっ?」
「そう…ですよね、シンさんもがんばってください!僕もきっと」
「私もきっとがんばりますから!」
キュックル~!
フリードも翼を羽ばたきなく。
「なぁ~にカッコつけたこと言ってんのよ?スバルが来ちゃったじゃない!
ほら、早く行くわよ!」
ヘリに乗り込む四人、最後に泣きながらスバルが乗り込んだ。
そんなスバルを不思議そうに眺めるシン、エリオ、キャロ。
おえつを漏らしながらシンとティアナの間に座る。
「出動前に何泣いてんのよ。」
とティアナ。
「なのはさんにがんばってって言おうと思ったのに…っ…。」
「逆に励まされてきちゃった?」
ティアナに言葉を足され、頷くスバルにティアナは呆れた。
「馬鹿ねぇ~、あんたがなのはさんを励ますなんて十年早いってことでしょ?
なのはさんを励ましたいのなら、今よりもずっと強くて立派にならなきゃさぁ…。」
スバルは頷く。
そして、ヘリはフォワードメンバーを乗せとびたち、それと同時に隊長陣にもはやてから出動命令がでた。
降下ハッチから飛び出す赤、金、桜、白の四色の光。
雲を突き破り降下するなのは、フェイト、はやて、ヴィータの四人。
そしてその四名の能力限定が聖王教会騎士団、騎士カリムによって解除される。
輝きを増す魔力光。
そして四色の光が一気に輝きを増し、増大爆散。光をつき抜ける光。
三色の光から遅れ、なのはレイジングハートとバリアジャケットをエクシードモードに変化させ、再び飛翔した。

スカリエッティ、ラボ。
「おかえり、ウーノ」
「はい、ドーレとセイン、セッテ、ラウも戻りました。
迎撃準備完了です。
クアットロとディエチはゆりかご内部に、他の妹たちはそれぞれのミッションポイントと地上本部に向かっています。」
「ルーテシアにもお願いをしたよ。うまく動いてもらうとする。」
スカリエッティはモニターを眺めながら言う。
「ゼスト様も独自に動いております。予想外の動きをされては…。」
ウーノの不安をよそに、スカリエッティは心配ないと笑った。
「現在の任務を完了次第、ドゥーエが地上本部に向かってくれる。」
スカリエッティは歪に口の端を歪めた。

ガシャアン。
ビンやガラスが割れたようなけたたましい音。
飛び散る溶液に潰れる脳味噌。
「な、何故、何故だぁーッ!!!」
脳味噌が叫んだところで滑稽でしかない。
女は鋭い爪に溶液を滴らせその滑稽な光景を目前に据える。
「ご老体に無理をされてはいけませんからね。」
一歩、また一歩と近付いてくる。
右手の鋭くとがり、冷たく光を反射する鍵爪を
「そろそろお休みよ。」
舐めた。
先程の優しげな微笑みは何処にいったのか、向けられる視線は冷たいものだった。
「貴様ァ!!ジェイルの…ッ」
風を空を斬る音。
「貴方が産み出し、育てた異能の天才児…失われた世界の知恵と、限りない欲望をその身に秘めたアルハザードの異児。」
さらに音。
「開発コードネーム、アンリミテッド・デザイア…。
ジェイル・スカリエッティ…。彼を産み出し、力を与えてしまった日からこの運命は決まっていた。
どんな首輪をつけようとも、いかなる檻に閉じ込めようとも…扱いきれるはずもない力は必ず破滅を呼ぶものです。」
ドゥーエが狂喜に顔を歪ませる。
「馬鹿なッ!バカなぁー!!!」
「お休みなさい…。」
一際強い音を立て右手の爪は振るわれた。

巨大船、軌道上到達まで
後三時間。