Seed-NANOHA_129氏_第02話

Last-modified: 2007-12-23 (日) 01:48:17

誰かと誰かが、話していた。

次第に覚醒していく意識が、二つの影をおぼろげに捉えていく。



「……から、身体には特に異常は見られません。おそらく……」

「そうですか……。……あれ?シャマルさん、あの人……」



影は、輪郭を次第に明確なものへと変え。

覗き込む二つの顔を彼の赤い瞳はぼんやりと映し出す。



「目、覚めました?私のこと、見えますか?」

栗毛の、やわらかな雰囲気の女性。そして、自分と同じ紅い瞳を持った金髪の少女。

彼女たちの顔こそが、シン・アスカとこの世界との、

自覚なきファースト・コンタクトであった。





第二話 新世界





一瞬、自分がどこで何をしているのかが理解できなかった。

生活感のない部屋に、真っ白なベッド。

自らの纏う入院着に、見知らぬ二人組。



「───!?」

がばりと身を起こし、部屋を見回す。

ここはどこだ?病院か?そうだ、戦況は。オーブとプラントの戦いは、どうなった。

明らかに彼の脳の処理能力を超えた思考、疑問が彼の内を駆け巡る。

「戦闘は!!オーブ軍は、ザフトはどうした!!プラントは勝ったのか!?」



ベッド側に立っていた少女の肩を掴みかかるように揺すり、

問い詰める。彼にがくがくと揺さぶられ、彼女は目を白黒させ、

戸惑いながら応えた。



「え、えと、落ち着いてください。あなたは転移してきて、それで……」

「ミネルバは!!インパルスは!!レジェンドはどうなった!!

 ここはどこだ!!友軍の艦か、基地の病院か!?それとも……」

「はい、はい!!落ち着いて!!あなたまだ、時空転移の影響が残ってるかもしれないのよ?」

「うるさいっ!!デスティニーはどこだ!!まだ戦闘が続いてるなら……?ん?『時空転移』?」

質問攻めに慌ておろおろする少女とは対照的に、

栗毛の女性は二人に割り込むと冷静に、彼をたしなめる。

彼女の言った耳慣れぬ単語に、シンは眉を顰めた。

「自分の置かれた状況がわかっていないようだから、説明します。

 だから少し落ち着いて。順を追って話しますから」

白衣を羽織った彼女は壁の通話機に向かうと、どこか、だれかに向かって連絡をはじめた。

ぴしゃりと言い放たれ、シンは黙り込んだ。



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「ふざけんなっ!!悪い冗談もいい加減にしろっ!!」



クロノと名乗った少年が告げた内容に、思わずシンは激昂した。

あまりにも荒唐無稽で、馬鹿げている内容だったからだ。

「そりゃあ……信じられないかもしれないが。これは事実なんだ。わかってもらえないか」

「信じられてたまるか!!なんなんだ、一体!!

 何が異次元だ、『時空管理局』だよ!?そんなの、聞いたことない!!」

「いや、まあ。そうかもしれないが……」

「いいからはやくデスティニーを返せよ!!俺は戦わなきゃならないんだ!!」

「戦う?」

怪訝な表情で見返してくる少年に、シンは苛立った声を浴びせる。

が、直後彼は唖然とすることになる。



「そうだ!!俺はザフトのパイロットなんだ!!今はメサイヤでみんなが……」

「ザフト?メサイヤ?」

「……知らないのか?嘘だろ?」

「悪い、君たちの世界は僕らの世界とは交流のないところのようだ」

開いた口が塞がらない、というべきだろうか。

まさか、ザフトを知らない者がこの世にいるとは。

よくよく見れば、ザフトでもこのような雰囲気の病院はみたことがない。

ならばやはりここは彼らが言うとおり───……いやいや!!そんなことがあってたまるものか。

彼らはなんらかの理由で自分をかつごうとしているのだ。

そうだ、そうに決まっている。



「……まあ、君が自分の乗ってきた機体を気にする気持ちもわかる。立てるな?ついてくるといい」

見せてやる。

クロノという名の少年は踵を返し自動ドアへと向かいながら、シンに促した。



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「デスティニー!?お前ら、俺の機体に何をした!?」



ここがドックだ、と案内された先にあったのは、

窓から見えるディアクティブモードのグレーの機体を、

なにやら水色の光の壁に包まれて座している愛機の姿であった。

「心配するな。念のため結界で封印してあるだけだ」

「意味わかるか!!デスティニーをどうする気だ!?まさか奪う気か!!」

「別に……調査して、ロストロギアの影響が見られなければ結界は解除する」

「はあ!?」

ますます、わけがわからないことを言う。

こいつらはひょっとすると、デスティニーを解析し、利用するつもりなのだろうか。

この機体はザフトの最新鋭機だ。どこの軍もそのデータは喉から手が出るほど欲しがることだろう。



「まさかお前ら、オーブの!?」

「は?オーブ?」

「とぼけんな!!そうか、お前ら……」



特に、敵対する勢力ならなおさらだろう。

一度思うと、シンの疑心暗鬼は際限なく広がっていく。

「このやろうっ!!」

疑心暗鬼は無性の怒りへと変わり、黒衣の少年へとシンは飛び掛る。

こいつらは敵だ。間違いない。彼はそう一方的に思い込む。

敵は、倒す!!



「やれやれ……」

「!?」

飛び掛った瞬間、不意に引っ張られたように身体の自由が利かなくなり、

受身もとれず顔面から床に落下する。



「な……なんなんだよ!?これは!?」

身体の異常に自身の肉体を見た彼の目が捉えたのは、

幾重にも巻きつく、青白い鎖。

いくら力を込めても切れないそれは、それでいて実体がないかのように

輪郭が曖昧に淡く光り輝いている。



「お兄ちゃん、ちょっと」

「仕方ないだろう。暴れそうになったんだから」

「大丈夫ですか?」

「お前、らぁっ!!やっぱり……!!」

「いや、暴れようとしたのはきみだろう」



溜息をつく偉そうな少年の姿が、ある人物と重なった。

シンの扱いに困っているような、

話をきちんと聞けと言っているようなその仕草。

まるで、あの裏切り者のように。



「しかし……どうしたものか。どうすれば信じてもらえるんだ」

「うるさいっ!!」



彼はシンを見下ろしながらぼやく。

「あの……ひとつ提案、いいかな」

「ん?どうした、フェイト」

先程彼を諌めた金髪の少女が、おずおずと手を挙げた。

自己紹介はされていたのだが、少年が呼んだことによってシンはようやく、

彼女の名が「フェイト」であることをきちんと認識した。

全然似ていないが先程彼のことを「お兄ちゃん」と呼んでいた以上、

彼とこの子は兄妹らしい。



「実際に、この人に見せたらどうかと思うんですけど。魔法も、この世界も」

「はん!!魔法なんてあるかよ!!見せられるもんなら見せてみろよ!!」

「ほら、こう言ってることですし」

シンとしては即座に却下したつもりだったのだが、

身動きのとれない彼の意見など聞いてはもらえない。

フェイトと呼ばれた少女はその可愛らしい顔をクロノへと向ける。

黒服の少年は暫し考え込むような仕草をすると、顔をあげてシンのほうを向きつつ、

彼女達に言った。



「……そうだな。それがてっとり早いかもしれない。シャマル」

「はい」

「彼の健康状態に問題はないな?」

「はい。外出許可は私のほうから書類を出しておきますから」

「フェイト、君は適当な相手……たしか、なのはが非番だったな。彼女に連絡を」



シンが口出しする間もなく、あれよあれよと既成事実が固まっていく。

なんとも皆、手際よく。話を進めていく。



「うん。場所は?」

「海鳴でいいだろう。結界を張って。彼に転移魔法を実体験させることもできるし……ね」

「な……あんたら、一体何するつもりだ」

「悪いが、一緒に出かけてもらうよ?シン・アスカ」



自分より、明らかに年下で。身長だって低いはずなのに。

身動きが取れないのは別にしても、

彼の物言いにシンは何故だか、抗することができなかった。

その不快感に、目を逸らすのがやっとだった。



つづく。