ある晴れた朝。
今日は別段何もすることも無いシンは久しぶりに朝から家でゆっくりとしている。
「ふぅ」
そういえば、たまに朝からシグナムのトレーニングに付き合わされたり、デスティニーの調整でアースラに言ったりと、ここ数日朝から暇という事がない。
たまにはこうやって朝から昼寝(昼寝と呼べるかは疑問)するのもいいのかもしれない。
そこへ……
「おーいシン、いるかー?」
ヴィータがシンの部屋に来た。
またゲームでもさせられるのだろうか。
「いるけど、なんだ?」
「昼から用事あったら一緒に出かけねえか?」
合わせたい人がいる、とヴィータは言うので、友達でも出来たのかと思いながらわかった、というシン。
そのあとヴィータはリビングに戻ったみたいだった。
ふと、財布から一枚のチケットを取り出す。
数日前に美由希にもらったチケット。
「どういうつもりなんだ?」
シン自身、恋愛には疎いことは自覚している。
だが、流石のシンでもデートに誘われたことだけがわかる。
「どうすりゃいいんだよ……」
遊び感覚のデートなのか、本当に自分が好きでデートに誘ったのか全然わからない。
もし後者だとしたら、自分がいつ彼女に好意的なことをしたかわからない。
あるとすれば、彼女がナンパされているところを助けたぐらいだが、流石にそれは無いだろうと持った。
まあ、今考えても始まらない。そう思ったシンはベッドにもぐり朝から昼寝を始める。
「彼女を外へ?」
プレシアは研究室で、クルーゼはマユを一度外の世界に連れて行きたいと言い出した。
「われわれはともかく、彼女は一度精神的にも休暇が必要でしょう」
どの部屋もそうなのだが、今彼女が使っている部屋は、本当に必要最低限のものしかない。
だから、彼女を外の世界へ自分が連れて行って、少しでも気を紛らわせようといった。
実は、単にクルーゼが地上の情勢を知りたいだけだった。
だが、そう何回も地上へ降りることは出来ない。
そのためにマユを少し利用しようとした。
プレシアはしばし考える。
そこでさらに何か言おうと思ったが、あまりいすぎるとこちらの意図がばれると思い、これ以上は言わなかった。
そして出た答えは。
「わかったわ。いつ行くかはあなたの好きにして頂戴」
最近魔法の練習ばかりで、休憩代わりにはちょうどいいとおもった。
以前、フェイトがいた時ならこんなことは言わなかったはず。
知らず知らずのうちにアリシアがいたときの自分になりつつあることに戸惑うプレシア。
それを見て、プレシアにばれないように微笑を浮かべながら、クルーゼは部屋を出て行くのだった。
「くっ…また……」
ムゥはあてがわれた部屋で頭を抑える。
このところ、こうやってたまに変な感覚が起こる。
この感覚は、以前に何度か感じていた。
それは、一人の男が関係していた。
「ラウ・ル・クルーゼ……」
ラウ・ル・クルーゼ。自分の父が作ったクローン。
ムゥとクルーゼ、お互いは互いを感じ取っていた。
だが、今クルーゼはいない、奴は死んだ。そうキラから聞いた。
だが、この感覚はラウ・ル・クルーゼそのものだった。
もしかしたら、同じクローンのレイ・ザ・バレルのものかもしれないし、もしかしたら父親のクローンがまだほかにいて、自分のようにこの世界にと飛ばされたのかもしれない。
……なんかこの世界へ来てから調子がおかしい。
そう思い、気分転換にアカツキの調整でもしようかと思い部屋を出て行こうとしたとき、ちょうどレイと鉢合わせになる。
ちょうどいい、あいつも変な感覚を感じているかどうか聞いてみるのもいいだろう。
「おい、坊主」
ムゥに呼ばれてレイは動きを止めてチラっとこちらを見る。
「何ですか?」
まあ元は敵だからわかるが恐ろしく無愛想に答えるレイ。
「最近なんか変な感覚に襲われる感じはしないか?」
いわれてそういえば、と考えるレイ。
確かに数日前くらいから誰かに呼ばれるような……そんな感覚は確かにある。
「ええ、たまにですが」
それを聞いたムゥがレイに少し聞きたいことがあった。
「聞きたいんだが、坊主とクルーゼ以外にお前のクローンっているのか?」
そういわれて、そういえば、と考え込む。
「一人はいたとお思います。あとは知りませんが……」
確かにあと一人、自分達と同じクローンがいた。
だが、レイは彼の名前しか知らない。
確かその名は、ブレアといったか。
それを聞いて、ムゥは驚いていた。
いったい自分の父親はそこまでしてでも跡取りを欲したのか。
「ですが彼はすでに死んでいます。アルのクローンで残っているのはおそらく俺だけなはず」
そうだ、彼は死んだ。
どうやって死んだかはわからない。ただ、自分とクルーゼ以外のクローンが死んだと聞いた。
情報源は確かそいつと関わりを持っていたジャンク屋と傭兵だとギルから聞いた。
だが、それを聞いて、逆にムゥは不思議に思う。
じゃあ俺と彼も知らない別のクローンでもいるというのだろうか。
「わかった。スマンな邪魔をして」
そういってムゥはアカツキが格納されている格納庫へといった。
カツン。
さっきからこの音がちょくちょく聞こえてくる。
ヴィータに着て欲しいところがあるといわれて、シンが連れてこられたのは近くのゲートボール場。
話を聞くとヴィータはよくここに来てゲートボールをするらしい。
シンはそれを見て意外そうにヴィータを見た。
勿論ゲートボールだから回りは爺さんばあさんばかり。
それ以前にヴィータがゲートボールをしていることに驚いた。
こういう地味な(失礼)ものをするなんて思わなかった。
それに……
「ゲボ子ちゃん、いらっしゃい」
え?ゲボ子ちゃん?
それを聞いて元気に手を振るヴィータ。
おそらくゲボ子とはヴィータのことだろう。
名前の由来は多分…
ゲートボールをする子供→ゲボ子
だろうか。
しかも、とうのヴィータはその名前を気に入っているみたいだった。
「じーさん、ばーさん。紹介したい奴が居るんだ」
そういいながらシンの腕を引っ張りながら爺さんばあさんに近づくヴィータ。
「こいつ、シンって言うんだ」
「ども、シン・アスカです」
ヴィータに紹介されて、とりあえず自己紹介するシン。
「ゲボ子ちゃんのお友達かい?」
ヴィータは爺さん達に、今度来るとき紹介したい奴がいるから連れてくるといっていた。
「まあ、そんなもんです」
そういうと、ヴィータが怒って答える。
「ちがうだろ。おまえはあたしらの家族だろ」
ヴィータにいわれてはやてが言ったことを思い出す。
(これでシン君も家族の一員やな)
本人はすっかり忘れていたが、すでにシンは八神家の一員である。
その後、少し爺さんばあさんと話をして、ヴィータにゲートボールを一緒にしようといわれたが、今はする気じゃないから別にいいと言ってシンは見学することにした。
ヴィータは爺さん達と楽しそうにゲートボールをしていた。
このゲートボール。かなり地味で(主にお年寄りがするから当たり前だが)する分には面白いだろうが、見てるほうには全然面白くない。
ルールを知らないというもの一つの理由だろうが……
シンはそう思いながら、昨日のことを思い出す。
(結局、人って運命からは逃れられないのかな?)
こう自分で言ったが、じゃあ、自分の運命とは何なのか。
家族、ステラ…大切なものを守れなかった自分………
もしかしたら、それが自分の運命なのかもしれない。
結局自分は、何も守れない。それが彼の運命なのか。
(俺は……)
「おーい」
気付くと、ヴィータが目の前に立っていた。
「いったいどうしたんだよ?」
どうやら自分を心配してくれているらしい。
「なんでもないさ。ただちょっと考えことをしてるだけだよ」
それを聞いてむっとするヴィータ。
ヴィータは内緒ごとは嫌いなのはわかる。
だが、このことを話しても、小さいヴィータにはわからないかもしれない。
闇の書とか何とかって言ってたけど、まだ小さい子供だ。
シンはそう思っていた。
実際は、シンよりもはるかに年を食っているのだが、シンはまだわかっていない。
「ただいまー」
美由希望は学校から帰り、恭也の「お帰り」という声を聞いて、彼女は急いで自分の部屋で着替えの準備をする。
今日は恭也と剣術の稽古があるのだが、学校で友達との話で少し遅れてしまった。
そのため着替えるために少し急ぎ足で部屋に入る。
その時、玄関に例のチケットを落としたとも知らないで。
恭也はすでに準備が出来ていたため、先に道場に行こうとした。
「ん?」
そのとき、床になにか紙切れがあることに気付く。
何かと思うとそれは少し前に出来たテーマパークのチケットであった。
自分が家に入ったときは見当たらなかったし、家には自分と美由希しかいない。
「美由希のか?」
そう思ったとき、美由希がちょうど降りてきたところだった。
ちょうどいい、このチケットのことを聞くことにした。
「美由希。これお前のか?」
美由希はそういわれて彼の手にある子を見て、え?疑問符をあげる。
いつの間にかあのチケットを落としたのだ。
見る見るうちに顔が赤くなって、すぐにチケットを受け取り、速攻で自分の部屋に持っていく。
何が何だかわからずにいる恭也。
美由希はすぐに戻ってきてきた。
「さ、恭ちゃん。早く練習行こう」
いかにも動揺しながら美由希は言う。
ああ、といいながら、恭也は美由希の後に続くように道場に言った。
その帰り道、ヴィータはまだむっとしていた。
まだ機嫌が直ってなかったのか……
「まだ怒ってんのか?」
シンがそういうと、「別に」とそっぽを向く。
どうみても怒っている。
しかたない、といった感じでシンは正直に話す。
「昨日独り言で言ったことを考えてたんだよ」
それを聞いて、え?とシンのほうを向くヴィータ。
そして昨日独り言で言っていたことを思い出す。
……結局、人って運命から逃れられないのかな……
それを聞いて、ヴィータが言う。
「あんまし考えすぎねえほうがいいんじゃねえか?」
ヴィータらしい考えだなと思うシン。
まあ確かにそうなのだが、つい考えてしまう。
「あんまし考えすぎてると禿げるぞ」
それを聞いてつい噴出してしまうシン。
じゃあ裏切ったあいつは今頃大変だな、と思いながら。
「な、なに笑ってんだよ」
いきなり笑ったシンにヴィータは少しびっくりする。
「なんでもないさ。驚かせて悪かったな」
はなしていると、もう家は目の前だった。
「さ、さっさと家に帰るか」
そういってシンは家に入る。
なにか釈然としないまま、ヴィータも家に入っていた。
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