シン達が昼食に選んだ場所は、簡単に言えばファミリーレストランのようなものである。
二人の好みが解らないからいろいろあるこういう店にしようということになった。
店内は流石に満席ではないが、シンたちと同じようなことを考えている人たちがかなりいた。
早めに来て良かったと思い、席を決めようとしたら。
「あ、美由希さんとシン」
振り向くとアリサの家族がいた。
どうやらアリサの家族もシンたちと同じことを考えていたらしい。
「私達も今来たばかりだ。どうせなら君達も一緒にどうだい?食事も私がおごろう」
一緒に食事はともかく、流石におごってもらうのが気が引けるのだが……
「私が忙しい間、娘がお世話になりっぱなしでね。ちょっとしたお礼でもとおもったのだが」
けど、それはなのはで自分達ではない。
だがバーンは続ける。
「それに、シン君だったかな?娘から危ないところを助けてくれたと聞いたが?」
それをきかれて「え?」と考えるシン。
「ほら、守ってくれたじゃない、あの時」
そういわれてみれば、と思い出す。
以前の戦闘のとき、一応は彼女を傀儡兵から守ったことになる。
ふとここで思う。
(あいつ、魔法のことしゃべったのか?)
そんなこと、普通子供から聞いて信じるわけが……
そこで、アリサの母親が言う。
「確かあなたは、ロボットのパイロットなのでしょう?」
……信じてるよこの人……いやまあ事実だけど……
「だからそのお詫びとしてもね」
そこまでいわれて、結局食事をおごってもらうことになった二人であった。
新しくお客さんが着たので、なのはは「いらっしゃいませ」といい客のほうを見ると、少し驚いた。
自分と同じ年頃の女の子が一人でやってきたのだ。
その女の子は少し迷いながら席に着き、メニューを見る。
流石に小学生の女の子が一人で来たのが不思議に思って、桃子が水を運んですこし話を聞くことにした。
「お一人ですか?それともほかの人が後から来るのですか?」
流石に言われている意味が分かったマユは答える。
確かに考えてみれば、自分みたいな子供が一人でこういうお店に入るのはおかしい。
「あ、一人です」
正直に一人で来たことを告げたが、予想外の言葉に戸惑った桃子。
とりあえず一人で来た理由を言うマユ。
「えと、出かけるときは一緒だったんですけど…その人がなんか用事を思い出して、それで私ひとりで……」
大体のことをいって、桃子がそう、といちおう納得してくれたようだ。
そのあとマユはランチセットを頼んだ。
しばらくして、頼んだメニューが到着して、口に入れる。
いつも食事は、プレシアの身辺の管理をしている彼女の使い魔が料理をしている。
その人(人といっていいのか微妙だけど…人型なのでまあべつにいっか)が作る料理もそこそこおいしいが、この店の料理はさらにおいしかった。
昼食を食べながら、ふと駅を見る。
目の前の駅はクルーゼとの待ち合わせ場所なのだが、まだクルーゼが帰ってきそうな気配が無い。
彼は別のところで昼食をとるといったのだから、おそらく時間がかかるのだろう。
そう思いながらマユは食事を続けた。
食事をしていると、さっき注文を聞きに来た女性が話しかけてきた。
「ちょっといいかしら?」
なんだろうと思い女性のほうを向くマユ。
「さっき言ってたけどその後から来る人ってここで待ち合わせしてるの?それとも別のところ?」
そういわれてマユは話す。
「えーと、一応駅前で待ち合わせすることになって…いつ戻ってくるかはわかりませんけど」
そう……と桃子が悩む桃子。
すると、士郎が後ろから答える。
「じゃあ、その人が来るまでここで待ってたらどうかな?ちょうど駅も見えるし」
いきなりのことで戸惑い、どうしようかと思った。
「流石に小学生一人を駅で待たせるなんて出来ないしね」
そこまでいわれて、ありがたく好意に甘えさせてもらうことにした。
「なのは」
士郎に言われて、なのはがくる。
「しばらくこのこと皆でお話しておいで」
そういい、なのははマユをフェイトたちのところへ案内した。
「どうもご馳走様でした」
シンと美由希はバーンに挨拶をして、アリサたちと別れ、二人はとりあえずさっき乗ろうとしたアトラクションのところに行くことにした。
運よくあまりまたされずに乗ることが出来た。
そして、何回かアトラクションにのり、時間も夕暮れにさしかかろうとしていた。
「ずっとこんなのに乗ってくると、流石に飽きるな」
最初にのったのはすごかったが、軍人であるシンにとっては、訓練などの対G訓練やMSシュミレーションなどで既に馴れている。
……もっと楽しもうよといわれたそれでおしまいだが……
「嘘……私もう無理」
一方美由希は連続での絶叫アトラクションですでにへばっている。
だが、なんかまだ帰るのも早いと思っていて、どうしようか迷う
そこでシンはじゃあ最後にと乗ったのが観覧車だった。
……別にこの前シャマルが見てたドラマと同じようにしてたってわけじゃないけど……
二人は観覧車に乗って、あたりの景色を見渡す。
そこにはあたりが夕焼けに染まる景色が移る。
「綺麗……」
美由希は食い入るようにその景色を見る。
確かに、デートの最後をしめくくるにはぴったりである。
一方シンは、その景色をある記憶と重ねる。
それは、シンが今回以前にテーマパークに来たときの記憶であった。
あの時は家族がまだ生きているときで、今回と同じように最後に家族みんなが乗っていて、夕焼けがオーブの町を赤く染めていた。
(似てるな……)
自分達が住んでいた、まだ好きだと感じていたオーブ、そしてなのはたちが今いる国。
シンはこの国が何故かどこか似ている感じがした。
美由希はいつの間にかそんなシンを見ていた。
そして思う
(たまにはこっちからいってみようかな……)
そして、彼女は意を決したように顔を上げる。
「ねえ……隣に座ってもいい?」
いきなりの言葉にびっくりしたが、シンは美由紀を隣に座らせる。
観覧車なのであまり広くなく、二人はほぼ密着しているようなものであった。
お互い何か恥ずかしそうにしている。
だが、そうこういているうちに、観覧車もだんだん降りてきていった。
美由希は勇気を振り絞って自分の思いを伝えようとする。
「ねえ、シン……」
また呼ばれて、ん?とシンは美由希を見る。
えーと…とまだ一歩を踏み出せない美由希。
その美由希の行動を不思議そうに見るシン。
「またこれたらこようね」
そういってしまい、自分は心でため息をつく。
そして観覧車を降りた二人。
もう日をくれかけていた。
「いろいろ忙しかったけど……楽しかったな……まだ園内出てないけど」
シンの言葉にそうだね、と返事をする美由希。
そして気付く。
「そういえば、あいつらに土産買ってかないとな……ヴィータがやかましい」
シンがそういって、美由希も家族やチケットをくれた友人に何か買わないといけないと思い、二人でそれぞれ土産を飼うことにした。
「私は高町なのは」
なのははマユに自己紹介をする。
「私、マユ」
マユも名前だけ自己紹介をする。
マユはなのはに店のテラスに連れられた。
そこに、複数の女性が話をしていて、なのははその群れの中に入っていった。
「なのはちゃん。その子は?」
すずかは、なのはが自分達が知らない人を連れてきて、それが誰なのかを聞く。
「このこは…一人でうちに来て、駅前で誰かと待ち合わせしてたんだけど……駅前で女の子一人じゃ危ないからここで皆と一緒にいようって事になって」
このテラスも、駅前からも見えるためすぐにわかるというもの利便である。
「こんにちわ。マユ・アスカです」
マユはここで初めてフルネームで自己紹介する。
ふと、フェイトは今マユが来ている服に見覚えがあった。あの服は、自分がプレシアといたときに着ていた服。
それを何故彼女が……
「あの……私がどうかしたんですか?」
マユはそんなフェイトを不思議に見る。
「あ、ごめん……私はフェイト・テスタロッサ。この子はアルフ」
フェイトは子犬形態のアルフの頭をなでながら紹介する。
フェイトの名前を聞いて、今度はマユは驚く。
(テスタロッサって……プレシアさんの?…)
確かに、良く見ればこのフェイトという少女は、プレシアの娘アリシアとそっくりである。
だが、それはあまりにも偶然過ぎると思い、そのことは今は忘れることにした。
そのことを、またプレシアにでも聞いておこうと思って。
「うちは八神はやてで、この子達は…」
「あたしはヴィータ。そんでこいつがザフィーラ」
「私はシグナムだ」
「私はシャマルです」
はやてたちも自己紹介をする。
ふと、はやてはマユに聞く。
「マユちゃん。苗字がアスカっていうんやな」
はやての問いにそうだよ、とこたえるはやて。
「うちにもう一人男の子がおるんやけど、その子もアスカって苗字」
自分の同じ苗字の人物に、マユは興味を持った。
「え?そうなんですか?」
「うん。男の子やけど、名前はシン」
それを聞いて、え?というマユ。
「私のお兄ちゃんもシンって名前だけど?」
それを聞いて、全員がへ?といった感じでマユを見る。
「シンの妹もマユって名前や」
それを聞いて、またもやマユがえ?といった感じの顔をする。
そういえば、以前シンの携帯電話を見たとき、少女の姿が映っていたが、その携帯の少女のマユと目の前の少女マユはそっくりというか、ほとんど本人のような感じである。
しかし……
「けど、もうシンの家族はおらんって、ちょっとしたことがあって亡くなって……」
それを聞いてマユも暗い顔をする……
「私も、私以外の家族、全員事故で…マユだけが助かって……」
さらにマユはある程度嘘を混ぜながら続ける
「それで、その時のショックで、家族の顔がどうしても思い浮かばないの……」
あれからたまに思い出そうと試みたが、どうしても家族の顔が思い出せない。
それを聞いて、しまった、といけない話題を踏んでしまったと思った一同。
「で、でも、きっとそのうち思い出せるよ」
菜の葉の言葉を聞いてそうだね、というマユ。
そうだ、まだ時間はある。ゆっくりと思い出せばいい。
「それにしても、シン君とマユちゃんって似てるところ多いね、一回あってみる?」
などはなしていたそのときだった。
「マユ」
ふと、自分を呼ぶ声が聞こえたので振り向くと、そこにはクルーゼがいた。
「あ、クルーゼさん」
そういってマユはクルーゼの元へ行く。
逆になのはたちは、クルーゼにあっけにとられる。
そして全員がこう思った
(あやしい……)
変わったサングラス、おそらくマユのものであろう買い物袋をもっている。
一瞬(あんたロリコン)と突っ込んでしまいそうである。
さらに、なのはたちのほうを見ると、不意に笑っていた。
しかもその笑いは、なのはたちというよりフェイトに向けられたような気がしたが、本人は気にしないようにした。
気にしたら夢に出る。
これがマユの知り合いじゃなければ即刻警察に通報していただろう。
「そろそろ時間だ、戻るぞ」
簡単な内容だけ言ってそばを後にした。
眉はクルーゼについていこうとしたが、すぐになのはたちのところにむかって。
「話とか面白かったよ、また合えたらまた遊ぼう」
そういってすぐにクルーゼのところに戻っていった。
クルーゼは、さっきふと笑ったことを自重する。
だが、笑わずにはいられない。
駅に行ってマユと合流しようと思えば、喫茶店のテラスで少女達と話をしていた。
そして見つけた。いや、見つけてしまった。
自分と同じ存在、フェイト・テスタロッサを。
あれからマユから話を聞き、なおさら間違いないと確信する。
自分という存在に逃げ、隠して生きている愚かな存在を……
「ただいまー」
シンが戻ってきたのは7時を回ったくらいの時だった。
真の声が聞こえて、台所からはやての「おかえり」というこえがきこえてくる。
居間に戻ると、シンは荷物を机に置く。
荷物といってもほとんどが土産なのだが……
それを見て、ヴィータがはしゃぐ。
「何買ってきたんだ?」
しょうがない、といった感じでシンは土産袋の一つを取ってヴィータに渡した。
ヴィータは早速袋を開けると、そこは海鳴ランドのイメージキャラクターのぬいぐるみだった。
ヴィータはそれを見て満面の笑みを
「何が良かったかわからなかったけど、それでよかったか?」
ああ!とヴィータが喜ぶ。
そして、あることに気付いたヴィータはすぐに自分の部屋(といってもはやてと同室)に戻ってきた。
その五分後、ヴィータはバリアジャケットに着替えてシン達の前に現れた。
だが、それは以前と全然変わってなく、どこがどう変わったか気付くのに少し時間がかかった。
「頭にあるぬいぐるみが増えてる?」
帽子に付いているぬいぐるみの隣に、シンがかったぬいぐるみがつけられていた。
(それって喜んでいいのか?)
シンの心境は複雑なことこの上ない。
「そういえば今日……」
はやては昼に会ったことを話した。
マユ・アスカという少女に出会ったこと。
シンの携帯に移っていたマユと瓜二つで、彼女も家族を失っていたこと。
「似てるひとっているんだな」
流石に誰も思わないだろう、そのマユこそが、シンの妹のマユだったことに。