Seed-NANOHA_342氏_第07話

Last-modified: 2007-11-19 (月) 14:26:49

久しぶりの家族との朝食。世間話やマユの友達の話を聞きながら、これまた久しぶりに母親の作った料理を食べた。
(ほんとに…母さんが作ったみたいだ…。)
もう、味は覚えていなかったが、そんな気がした。
(今までのが夢なのか?いや、だったら、ステラはオーブにはいないはず…。じゃあ…これは…。)
「お兄ちゃん!早く食べないと、ステラさんとの約束に遅れちゃうよ!」
「…あ、あぁ…。悪い…。」残りの料理を急いで掻き込み、無理矢理飲み込む。
櫛で寝癖を直し、歯を磨く。
「じゃあ、行こっか?」
「…あぁ…。」
靴を履き、行ってきまーすと両親に一声。シンとマユは家を後にした。

『ライフルモード』
「僕が前衛で引き付けるから、なのはちゃんは…。」
「はい。…でも、大丈夫ですか?」
「うん、…大丈夫。…僕は…大丈夫だから…。準備は…いい?」
キラはフリーダムを握る手に力を込め、なのはに聞く。
「はい。」
闇の書から放たれるドラグーンがキラとなのはを襲う。羽を開き、全方位三百六十度から一斉に放たれるそれらを避けるキラ。
なのはも避けようとはしているのだが、数が多すぎる。背後からの一撃を避けたとき、自分の頭上からの攻撃に気付いていなかった。しまったと思い、障壁を展開しようとしていたら、黒い魔力の塊に蒼い魔力がぶつかり、相殺された。
「なのはちゃんは砲撃することだけ考えて!君には当てさせない!…絶対に!」キラは自分の中の何かを自らの意思で弾けさせた。
『バラエーナプラズマバスター』
高密度に圧縮された魔力を二発、通常射撃を二発で、なのはの周りを不規則に飛び回るドラグーンを4つ同時に撃ち落とす。
なのははキラの言葉を信じ、魔法陣を展開した。

「…それで、友達がね…。」ステラとの待ち合わせ場所に向かう途中。マユの話を聞きながらシンは考えていた。
ひょっとして、俺は死んだのか?
だが、闇の書には死ぬような攻撃をされた覚えはない。しかし、死んだ者と会えるのは死んだときぐらいだろう。別に、天国や地獄を信じているわけではないが、でなければ説明がつかない。一体、何故。思考の渦にのまれていると
「もう…お兄ちゃん!!」
マユに頬を抓まれた。

縦横無尽に空を駆け、降下上昇を混ぜ攻撃をかわし、ときにシールドを使い。
ときに射撃、斬撃をおりまぜて、ドラグーンを破壊する。
闇の書もドラグーンばかりに頼っていてもしょうがないと判断したのだろうか。今度は接近戦へと転じた。なのはにとってこれはチャンスだった。

オーブ、とある公園。
「あっ!!ステラさんもう来てる…。ステラさ~ん!!」マユがステラの元へと駆けてゆく。シンはそんなマユを見送りながら、本来はオーブにいるはずのない、ステラの姿を見て、立ち尽くしていた。
金色の肩まで伸びた髪。純粋な、無垢な笑顔。
ステラ・ルーシェ。彼女もまた、マユと両親と同様、死んだはずだった。
やがて、マユがシンに指を差す。そして、マユと話しているステラは、シンを見た。
目があった。
ステラが微笑む。マユが笑う。
「お兄ちゃん!早くこっち来てぇ!」
「…あぁ、今…今そっちに行くから!」
のろのろとシンは歩き出した。

「うがて…ブラッディーダガー…。」
キラとなのはに向かう赤い閃光。
『サーベルモード』
ダガーのわずかな隙間に体を通し、すり抜け様にダガーを破壊し、ドラグーンを射出する。
なのはは、砲撃体勢をとっているため、障壁は張らない。
そんななのはにレイジングハートが警告するが、
「大丈夫だよ。きっと…。」ダガーはなのはに当たる前に、キラの最後のカートリッジを消費した、ドラグーンにより全弾迎撃された。なのはは、キラを信じる。「アクセルチャージャー起動!ストライクフレーム」『オープン』
エクセリオンモードのレイジングハートの尖端に魔力を具現化させた矛先が形成される。
キラが二刀で打撃による闇の書の強化攻撃を受けている。
バチバチ、バキンッ!!
「…ぐっ!!…くっそぉ!!」弾き飛ばされるキラ。
攻撃後に硬直する闇の書。「今だ!なのはちゃん!!」海面すれすれで、体勢を建て直し、なのはにキラが叫んだ。
なのはは闇の書に向け、レイジングハートを構え一直線に向かっていく。
闇の書は魔力の渦を発生させ、なのはの突攻を阻もうとするが、レイジングハートのストライクフレームが貫通し、尖端に魔力が収束し始める。
「まさか…!!」
なのはの狙いに気付いた闇の書が、目を見開き、その表情を初めて変えた。
「エクセリオンバスター!!!ブレイクシュート!!!」ほぼ零距離で、エクセリオンバスターが闇の書に直撃した。

呼吸が乱れ、なのはの息遣いが荒くなる。
「ほぼ零距離…これで駄目なら…。」
「…まだだよ。なのはちゃん。」
爆煙が晴れ、姿を見せる闇の書。ダメージはほとんどないようだ。
キラは再びフリーダムを構え直す。
『Master!!』
「もう少し、頑張らないとだね。キラ君、レイジングハート。」
なのはレイジングハートを持つ両手に力を込めた。
『キラ君、カートリッジを二組送ります。受け取って…。』
キラは転送されてきた二組のカートリッジを受取り、そのうちの一組をフリーダムに装填した。

「…シン?」
「…何だよ?…ステラ…。」ステラが覗き込むようにシンの顔を見ている。
「お兄ちゃん、今日は朝からボーッとしてるの。あんまり気にしなくていいよ」
「…調子…悪い?」
心配そうにシンを気遣うステラ。
「あぁ、いや、大丈夫だよ。ステラ、別にそういうわけじゃないんだ。ただ…」
「「ただ…?」」
マユとステラが聞き返す。「…いや…、何でもない。」「ね?…変でしょ?」
と、ステラにマユが言う。ポツリと手に水滴が降ってきた。いつの間にか空が曇り、辺りも暗くなっていた。
「今日は晴れだって言ってたのに…。…お兄ちゃん、ステラさん、そこで雨宿りしよ。」
「…そだね。」
ステラもベンチから腰をあげ、シンに手を差し出す。「ステラとマユは先に行けよ。…俺は、ここにいる。少し…雨に濡れたい気分なんだ。」
頭を冷やしたかった。考えれば考えるほど、この世界が現実ではなくなっていく。夢だ。現実じゃない、ただの夢…。
だけど…自分が望んだ世界だった。失ったものがある世界。
「じゃあ、私もここにいるよ!ステラさんは?どーする?」
「…ステラも…シンと一緒にいる…。」
降ってきた雨は最初のうちは激しかったが、やがて霧のように細かく、辺りを真っ白に染める霧雨になった。
それが心地いい。ステラとマユもそう感じているようだった。
「なぁ…マユ、ステラ。これは…夢…だよな。」
できれば現実であってほしい夢。だが、もう自分はこれが夢だと知っていた。
だから泣いた。
自分が一番欲しかったもの、取り戻したかったものだったから。
この夢が覚めてしまうのが怖い。だが、どうしても聞きたかった。
マユとステラは答えなかった。
シンは二人を見つめ、
「俺は…ずっと、…これからもずっと、ここに居ていいのかな?」
一番知りたかった事を聞いた。

「お前達は…なぜ眠らない?」
闇の書の言葉。
「眠りにつけば…望んだ世界にいける。」
キラが弾き飛ばされる。なのはがディバインシューターを放つ。
「そして…その望んだ自分の世界は…永遠だ…。」
ディバインシューターを交す闇の書。体勢を建て直すキラ。
「永遠なんて…ないよ!人は変わってく…、変わらなきゃいけないんだ。
私たちも…あなたも…。」放たれるプラズマランサー。そして、それを撃ち抜く蒼き魔力の閃光。
「誰だって…こんなはずじゃない人生を送ってる!」キラを囲むドラグーン。
フレイの顔が、トールの顔が頭をよぎる。
左右のフリーダムで左右のドラグーンを撃墜する。
「僕も!シンも!フェイトちゃんも!生きている人たちはみんな!!…でも、それでも、生きていくんだ!」両腕をクロスさせ、左のフリーダムで右の、右のフリーダムで左のドラグーンを撃ち落とす。
「どんなに辛くても、悲しくても、夢の中なら幸せだから、平穏だから…。そうやって逃げてちゃ駄目なんだよ!!」
『エクセリオンバスター』「だが…、それは…大きな苦しみを…、深い悲しみを…伴う…。」
闇の書がスターライトブレーカーを発動させる。
「覚悟はある!!」
『ハイマットフルバースト・ドラグーンプラス』
「僕は…戦う!!」
「「シュート!!/当たれぇ!!」」

「なぁ、俺は…本当にここに居ていいのか?」
濃い霧雨の中、シンはマユとステラに問掛ける。
「…シンが…それを望むなら…。」
「お兄ちゃんはここに居たくないの?」
居たい。ずっと、ここに居て、マユとステラと、父さんと、母さんと幸せに暮らしたい。でも…現実じゃない。
「でも…この世界は…。マユも、ステラも、父さんも、母さんも…みんな…夢…なんだろ?」
マユの頬に…、ステラの頬に触れる。ステラもマユもうつむくだけだった。
「…ステラは…夢でもいい…。シンと、一緒が…。
だから…行こう…。シンが望んだ…あったかい世界に…。」
ステラは歩き出す。真っ白な景色の中を。
俺は…もう、疲れた…かな。
このまま、この世界で、夢で、家族とステラと永遠の時を過ごすのも悪くはない。シンは、ステラを追って歩き出した。

はやては、暗闇の中で闇の書と会話をしていた。
眠れば、騎士たちと平和に暮らせる。
あの楽しかった日々が戻る。けれど、それは現実ではない。だから、はやては拒んだ。
「せやけど、それはただの夢や!」
眠りかけていた、はやての意識が覚醒し、はやての足下に真っ白な純白の魔法刃が展開された。

シンは歩く、ステラの元へ行くために、家族を…幸せを取り戻すために。
だが…袖を引っ張られ、歩みをやめた。
マユだった。
「…やっぱ…、駄目だよ…。お兄ちゃ…。」
うつ向いたままの姿勢から顔をあげるマユ。
「…何で…だよ。俺は…マユと…家族と、ステラと一緒に居たい!これからも、ずっと…。もう苦しいのは、悲しいのは嫌だ!」
「お兄ちゃん!!」
マユが声を張り上げる。
「お兄ちゃん…決心したじゃない…。前を見るって、前を向いて歩くって…、過去に捕われては駄目だって…。」
マユの、シンの頬をポロポロと涙が伝う。
「…お兄ちゃ…ひっく…の帰りを…待ってる人たちが…居るんだよ?
元の世界にも…こっちの世界にも…。」
「…シン…これ…。」
ステラが手を伸ばし、シンの手をとって何かを握らせる。握らされた手を開くと、デスティニーだった。
シンの中で止まっていた時間が動き出す。マユの死を、ステラの死を受け止める。
認めたくない現実を受け止める。過去が取り戻せないものだと知る。
涙が溢れた。歯をくいしばり、声を殺そうとするが…それは鳴咽となって外に漏れる。
「うぅぅぅ…うぅ…うっ…」膝をついて、マユとステラを抱き締める。
「ごめん…守ってあげられなくて…、守ってやるはずだったのに…、守ってやれなかった。
死なせてしまった…。」
マユが、ステラが、そっとシンの体を抱き締める。
「…ステラ…ちゃんとシンから昨日をもらったよ。」
「…お兄ちゃん…もういいよ…。ありがとう…。マユも…ひぐ…ちゃんと昨日をもらったから…。」
マユとステラの体が徐々に薄くなっていく。
そんな光景みたくない。だが、これが最後の別れだ。涙でくしゃくしゃになった顔をあげるシン。
「…ありがとう…シン…。」「…現実でも、こうやって暮らせたら…よかったね…。…ごめんね、お兄ちゃん…それから、ありがとう。」
そう言い残し、二人は光となって消えた。
「…マユ…ステラ…、ありが…とう…。」
そして、ありったけの大声を空に向かって張り上げた。

「名前をあげる。」
暗闇のなか、闇の書の両の頬に、はやては手を触れる。膝まづく闇の書。
「もう、闇の書とか、呪いの魔導書なんて言わせへん。私が呼ばせへん!
私は管理者や、私にはそれが出来る。」
「無理です。自動防御プログラムがとまりません。管理局の魔導士と異世界の魔導士が戦ってますが…それも…。」
そんな闇の書の言葉を無視し、はやては目を閉じ、強く念じる。
「止まって…!!」

「…くっ……。」
キラの顎を汗が伝う。バリアジャケットはところどころ損傷していた。
なのはもキラと同様、疲労し、息を切らしていた。
駄目だ…。…きりがない。攻撃が当たっているはずなのに、闇の書はそんなそぶりを全く見せない。
終りが見えない。
それがなのはとキラの疲労を加速させていた。
闇の書が再び、キラとなのはを襲おうとしたとき、その動作がまるで電池が切れた玩具のように突然止まる。そして
『外の方!管理局の方!!私はそこにいる子の保護者の八神はやていいます。』
「「はやてちゃん!?」」
『その声は、なのはちゃんとキラ君?なんでなのはちゃんがここに?キラ君、自分の世界に帰ったとちゃうん?』
「うん、なのはだよ。色々あって闇の書さんと戦ってるの!」
「話すと長くなるから…、それよりはやてちゃん!」キラが促す。
『ごめん、二人とも、なんとかその子とめたげてくれる?
魔導書本体からのコントロールを切り離したんやけど、その子がああしてると、管理者権限が使えへん。今そっちに出てるのは自動行動の防御プログラムだけやから…。』

なのはとキラが押されていることを管理局から知らされた、ユーノとアルフ。
その援護に向かっている途中ではやての言葉を聞いた。
「闇の書完成後に管理者が目覚めてる…これなら…!なのは!」

「(分かりやすく伝えるよ!今から言うことををなのはができれば、はやてもフェイトもシン君も外に出られる!
どんな方法でもいい、目の前の子を魔力ダメージでぶっとばして!!
全力全開、手加減なしで!!)」
そのあまりに簡単な方法になのはは笑う。
「さっすがユーノ君、わっかりやすい!!」
『It's so...』
動けない闇の書の自動防御プログラムに変わり、海面下からたくさんの触手が姿を現す。
「キラ君!お願い!!」
「うん!!」

「行くよ!フリーダム!!ターゲットマルチロック」『ハイマットフルバースト・バラエーナ・プラス』
左右のフリーダムから弾き飛ばされる四発の薬筒。
防御プログラム以外の触手を全てロックする。
キラは両手のフリーダムを大きく振りかぶり、狙いをつけた。
同時に発射される六本の魔力の奔流が触手を根刮吹き飛ばす。
「エクセリオンバスターバレル展開、中距離砲撃モード!!」
『All Right, バレルショット』
柄が伸び、レイジングハート本体から桜色のつばさが生える。
そして、魔力による衝撃波を放った。防御プログラムの自由を強制的に奪う。

「夜天の主の名において、新たな名前を汝に贈る…。強く支えるもの、幸運の追い風、祝福のエール…リィン・フォース」
はやての真っ白な魔法陣が輝きを増した。

一方、フェイトも、自分の望んだ世界に、アリシアに、プレシアに、リニスに別れを告げていた。
「バルディッシュ…ここから出るよ。ザンバーフォーム…いける?」
『Yes, sir』
「…いい子だ…。」
バルディッシュを掲げ、バリアジャケットを装着する。両手でしっかりと柄を握るフェイト。
『ザンバーフォーム』
カートリッジを二発消費することでバルディッシュは大剣に姿を変えた。
魔力が具現化できるまでに高められた紫電を帯た太い魔力刃。
フェイトは魔法陣を展開した。

ステラから受け取ったデスティニーを大事に胸に抱き締め、しゃがみこんでいたシンは立ち上がる。
もう…、いいだけ泣いた。目を拭い、空を仰ぐシン。霧雨が、優しく、熱くなった目頭を冷ます。
両親の顔を、マユの顔を、ステラの顔を思い浮かべる。
さようなら…。
自分の過去に別れを告げる。もちろん、忘れるわけではない。
もう、二度と、恨んでも憎んでも、どんなことをしても取り戻せないものだと、変えられないことだと理解することだ。
そして…ありがとう。
自分の背中を、前に踏み出すことが出来なかった自分の後押しをしてくれたマユとステラにもう一度だけ礼を言う。
「…ふぅっ!」
息を大きく吐き出し、泣いて乱れた呼吸を落ち着かせる。
「…行こう、デスティニー、闇の書の運命を変えるために…。繰り返される悲しみの連鎖を断ち切るために!」
そして…、自分のこれから運命を、未来を切り開く為に…。
『Destiny Form Final Plus』
青と白がベースのバリアジャケットを装着し、両手にはニ刀のアロンダイト。
背中には緋色の翼。
『ダブルケルベロス』
緋色の魔法陣が展開。両アロンダイトの柄が伸び、それを腕と間接を使って固定する。
切っ先に収束して行く魔力が巨大な塊になった。

「エクセリオンバスターフォースバースト!!」
なのはの言葉と共にレイジングハートから蒸気が排出される。
そして形成された魔力の塊が輝きを増し、巨大化していく。
なのは一呼吸を置いて叫ぶ。
『ブレイクシュート!!
スプライトザンバー!!
吠えろ!!ケルベロス!!』
内部空間のフェイト、シン、そして、外部のなのはが同時に繰り出す攻撃。
レイジングハートから発射されたエクセリオンバスターは4つに別れ、たった一人のターゲットへと向かい直撃する。
桜色の光に飲まれ、そしてその光を貫くように天に伸びる一本の金色の閃光と二本の緋色の閃光。

『新名称、リィンフォースを認識。管理者権限の使用が可能になります。
ですが、防御プログラムの暴走がとまりません。
管理から切り放された膨大な力が、直、暴れだします。』
明るい光に包まれるはやてにリィンフォースが状況を説明する。
「…ぅん、まぁ、それは何とかしよう。」
本形態のリィンフォースがはやての前に現れる。
「いこか…、リィンフォース…。」
『はい、我が主。』
それを胸元に抱き締め、はやては純白の光に包まれた。

シンもフェイトも無事に闇の書からの脱出を完了していた。
「フェイト!シン!」
いち早く気づいたアルフが二人の名前を呼ぶ。フェイトはアルフに微笑み、シンに顔を向ける。
「ちゃんと…お別れできた?」
シンも微笑み、頷く。
「フェイトは?」
「うん…、出来たよ。ちゃんと…。」
「そっか…。」
言葉にしなくても、闇の書の中で何をしていたのかは不思議と分かった。
フェイトは一本の大剣バルディッシュを構え、シンは二本の長剣アロンダイトを構えた。
まだ、終わってはいない。空間が震動する。
『みんな気を付けて、闇の書の反応、消えてないよ!』

アースラ。
「さぁ、ここからが本番よ!クロノ!」
『はい、もう現場につきます。』
リンディは小さく息を吐き、自分の手に握っている赤い鍵を見る。
「アルカンシェル…使わずに済めばいいけど…。」
アースラスタッフに緊張が走った。

震動は続き、海面にその半分を沈めた、ドス黒い光の塊が姿を現す。
『みんな!下の黒い淀みが暴走の始まる場所になる。クロノ君が現場に到着するまで、むやみに近付いちゃ駄目だよ!』
六者六様の返事をエイミィに返した。

はやては光に包まれながら暴走の妨害と破損したプログラムの修復を行う。
「管理者権限発動…。」
『防衛プログラムの進行に割り込みをかけました。数分程度ですが、暴走開始の遅延ができます。』
「うん…それだけやったら…充分や…。
リンカーコア送還、守護騎士システム…破損修復。」4つのコアが輝きを増し、シャマル、ザフィーラ、ヴィータ、シグナムがその姿を取り戻す。
「おいで、私の騎士たち。」カッ!!
と真っ白な光が輝き、天に地にその光が伸びる。
そのあまりの眩しさに、その場にいる六人、なのは、フェイト、シン、キラ、ユーノ、アルフは目をかばう。
中心に純白の丸い光を残したまま、同色のベルカ式の魔法陣が展開され、そしてその光の球体を守るかの様に、四人の人影が立っていた。
「ヴィータちゃん!?」
「「シグナム!?」」
なのはとフェイト、シンは驚き、キラは緊張で険しかった顔を一瞬緩めたが、すぐに顔を背けた。
「キラ…。」
フェイトが名前を呟く。聞く話によれば、キラは自分との戦闘のあと彼等にコアを抜かれ、管理局に捕まったと言っていた。
また、闇の書の主をかばっていたようだが、それを途中、情報交換を条件とし、管理局に彼等を売ったとも聞いた。キラにも色々と思う所があるのだろう。
「我等、夜天の主の元に集いし騎士。」
シグナム。
「主あるかぎり、我等の魂、つきることなし。」
シャマル。
「この身に命があるかぎり、我等は御身のもとにあり。」
ザフィーラ。
「我等が主…夜天の王八神はやての名のもとに!」
ヴィータ。ここに四人が完全なる復活を宣言した。

やがて、光が晴れると、そこには黒い甲冑に身を包んだはやてがいた。
掲げられる、金色の円を貫く十字の杖、そして夜天の魔導書。
「夜天の光よ、我が手に集え!祝福の風、リィンフォース!」
ユニゾンデバイス夜天の魔導書、リィンフォースは漆黒の闇と、対の純白の光を放ち、はやてと融合する。目の色が透き通るブルーに、髪の色が白く染まる。インナースーツにジャケットが追加された。そして背中には六枚の漆黒の翼。
「はやて…。」
今にも泣きそうな顔で、声でヴィータが主の、はやての名を呼ぶ。
「…うん。」
頷き、ヴィータに微笑みかけるはやて。
「すみません…。」
謝るシグナム。
「あの…、はやてちゃん…私達…。」
命令に反した事、そして、こんな事態を巻き起こしてしまったことを詫びようとする騎士達。
「えぇよ、みんな分かってる。リィンフォースが教えてくれた。そやけど…、細かいことはあとや…。今は…おかえり…みんな。」
一番にヴィータがはやてに抱きつく。そして声を上げ、涙を流す。はやての名を何度も、何度も叫びながら…。そんなヴィータをはやては優しく抱き締めた。
そこへ、なのは、フェイト、シンがやって来る。
「なのはちゃん、フェイトちゃん、シン君ごめんなぁ、うちのこ達が色々迷惑かけてもうて…。」
「うぅん。」
となのは。
「平気。」
とフェイト。
「どっちかって言うと、あんた達には礼を言いたいぐらいだ。」
とシンが言って笑った。なるほどと思ったフェイトも笑った。

「よかったね…、はやてちゃん。」
遠巻きに、はやて達を見守るキラは小さく呟いた。フリーダムを腰に下げ、手を楽にする。
「いいの?行かなくて?」
そんなキラを見ていたユーノが言った。
「今は…いいかな…。どんな顔をして…会えばいいか、わかんないし…。」
「…でも…。」
とアルフを見るユーノ。アルフが眉間にシワをよせ、目を閉じている。片方の眉がピクピクしていた。
「…僕は…ッ!?ちょっ…アルフさん?何を……。」突然ジャケットの襟首をアルフに捕まれたキラは
「女々しいこと言ってんじゃないよ!!気になるなら行ってくりゃいいだろぉ!」はやて達の元へブン投げられた。

突然のことに対応が遅れたが、翼を展開して、慌てて静止するキラ。
だが、目の前にはシンの後頭部があった。
背後の気配に気付き、シンが振り向いて言う。
「何やってんですか?あんたは…。」
「……あ、いや、その、僕は…。」
皆の視線が痛かった。
「キラ君も、ごめんな…うちの子たちが迷惑かけて…、それから、ありがとな、止めてくれて…。」
「…うぅん。管理局にいる間、ずっと心配だったから…。だから、今は、こうしてはやてちゃん達とまた会えたことが本当に嬉しい。」
少し、目に涙をためて笑うキラ。
「キラさん、そのセリフを俺の後ろで言ってどうするんですか…。」
シンに背中を押され、前に出るキラ。
「すまない、キラ・ヤマト。」
「ごめんなさい、キラさん…。私達…。」
シグナムとシャマルがキラに謝る。
「…うん。…僕は大丈夫だから…ねっ?」
中々頭を上げてくれないシャマルとシグナムに戸惑いながら
「…心配してくれて、ありがとう。」
とたまった涙キラは拭った。
「すまないな、水を差してしまうんだが…。」
突然の声とともに上空からゆっくり降下してくる一人の少年。
時空管理局執務官クロノ・ハラオウンだった。