Seed-NANOHA_342氏_第08話

Last-modified: 2007-11-19 (月) 14:27:59

「時空管理局執務官クロノ・ハラオウンだ。時間がないので、簡潔に説明する。あそこの黒い淀み、闇の書の防衛プログラムがあと数分で暴走を開始する。
僕らはそれを何らかの方法で止めないといけない。
停止のプランは現在二つある。」
クロノはカードを取りだし、二つのプランの説明を始めた。
「ひとつ、極めて強力な氷結魔法で停止させる。
二つ、軌道上で待機している艦船アースラの魔導砲、アルカンシェルで消滅させる…。
これ以外に、他にいい手はないか?闇の書の主と守護騎士である君達に聞きたい。」
クロノはどちらのプランもリスクと被害が大きいのでこの二つのプランには消極的だった。
だから、こうして闇の書の一部でもある騎士達、そして、その主であるはやてに聞いているのだ。
「えぇ~…っと…」
シャマルがおずおずと手をあげ、クロノの質問に答えた。
「最初のは、たぶん難しいと思います。主のない防衛プログラムは魔力の塊みたいなものですから…。」
「凍結させても…コアがあるかぎり再生機能は止まらん…。」
シャマルとシグナムも、氷結魔法によるプランは消極的なようだった。残るは一つだが…。
「アルカンシェルも絶対駄目ぇ!こんなところでアルカンシェルぶっ放したら、はやての家までなくなっちゃうじゃんか!」
と、両腕をクロスさせてヴィータが反対の意思を示す。
「そんなにすごいのか?アルカンシェルって…。」
魔法に詳しくないシンが丁度隣にいるなのはに聞いた。キラも、興味があるようで、そちらに体を向ける。なのはも魔法に詳しいわけではない。
隣にいたユーノに聞いてみた。
「そんなに…すごいの?」
「発動地点を中心に百数十キロ範囲の空間を歪曲させながら反応消滅を起こさせる魔導砲…って言うとだいたい分かる?」
それを聞き、なのは
「あの、私もそれ反対!」
「同じく、絶対反対!」
フェイトも反対する。
「俺も反対だ。」
「うん、僕も反対だね。」
シンとキラも反対する。自分達の世界よりも綺麗なこの世界をそんなもので傷付けたくないし、何より、守りたかった。
二人はそう思い、反対した。
「僕も、艦長も使いたくないよ。でも、あれの暴走が始まったら、被害はそれより、確実に大きくなる。」黒い淀みを見るクロノ。
「暴走が始まると触れたものを侵食して、無限に広がって行くから…。」
ユーノの言葉が、皆を沈黙させる。暴走を停めるための手段ははやくも、アルカンシェルのみとなってしまった。

『は~い!闇の書の防衛プログラム。暴走開始まであと15分きったよ!!』
策もないうえ、時間もない。
「すまない、役に立てそうにない…。」
シグナムの表情が曇る。
「我々も、暴走開始の瞬間に立ち合うのはこれが始めてなのだ。」
とザフィーラ。希望の光が小さくなっていく。
「あぁ~ん、もうごちゃごちゃうっと惜しいなぁ。なんかこう、みんなでズバッとぶっ飛ばしたり出来ないわけ?」
先ほどから、全員の話を聞きイライラを募らせたアルフが苛立たし気に言った。
「アルフ、これはそんな
簡単な問題じゃ…。」
「なぁ、アルカンシェルってここじゃないと撃てないのか?」
アルフをなだめるユーノをよそに、クロノにシンが聞いた。なるほど、キラもシンが何を言わんとしているかに気付く。
自分達の世界ではさほど珍しくもない場所。
「宇宙…だね?」
キラが言うと頷くシン。
「そこならよっぽどじゃない限り被害は出ないはずだ。場所にもよるけど…。」
「アースラが今軌道上にいるなら、何らかの方法を使って、あの防御プログラムを軌道上まで運んで、アルカンシェルで消滅させる。成功すれば被害は押さえられる。」
クロノへと視線を向けキラ。
『管理局のテクノロジー…舐めてもらっちゃぁこまりますなぁ~…。
撃てますよぉ~、宇宙だろうが、どこだろうが!!』あっけにとられているクロノの代わりにエイミィが通信で答える。
「おぉい!?ちょっと待て君ら…!ま、まさか!?」
シンとキラ、そしてこの策にその場にいる皆が賛成した。

アースラ。
「なんとまぁ…。さすがは異世界の人間と言うか…。」
驚きとなるほど、というようにリンディが呟いた。
「計算上では、また実現可能って言うのが怖いですね…。」
エイミィもシュミレーションを行い、キラとシンの案が実現可能だということに驚きを隠せないでいた。
「クロノ君!こっちのスタンバイはオッケー、暴走臨界点まであと十分!」
残り時間十分。
局員も現場のみんなも、全てをこの新しいプランにかけることを決めた。

「実に個人の能力頼りで、ギャンブル性の高いプランだが…。まぁ、やってみる価値はある。」
クロノも納得していた。
「防衛プログラムのバリアは魔力と物理の複合六層式。まずはそれを破る。」
はやてが内部空間で手に入れた情報を皆に話した。
「バリアを抜いたら、私とはやて、なのはとキラの一斉砲撃でコアの露出。」
フェイトが作戦の段取りを説明する。
「そしたら、ユーノ君たちの強制転移魔法で、アースラの前に転送!」
なのはがフェイトに続く。『あとは、アルカンシェルで蒸・発…と。』
なるほど、うまくいけばこれがベストだ。シンの作戦を改めてリンディはそう思った。
現場で皆の配置が行われ、各自、所定の位置へと慌ただしく動き始めた。

ギル・グレアム、このアースラの提督である彼は、闇の書を主ごと凍結するプランをとろうとしていた。
そして、その準備を行っていたのがあの二人の仮面の男、提督の使い魔であるリーゼ姉妹だ。
だが、それはクロノにより阻止された。
過去、闇の書事件で父親を失ったクロノ。不可抗力だったとは言え、アルカンシェルで闇の書ごと、父親を吹っ飛ばされたのだ。
だからこの事件対するクロノの思い入れは強かった。できれば犠牲を出さずに解決したい。
そう思っていた。
『提督…、見えますか?』空間モニターでモニタリングしているグレアムに、クロノから通信がはいった。「あぁ、よく見えるよ。」
『闇の書は、呪われた魔導書でした。その呪いは、いくつもの人生を喰らい、それに関わった多くの人の人生を狂わせてきました。
あれのお陰で、僕も、母さんも、多くの被害者遺族も…こんなはずじゃない人生を進まなきゃならなくなった。
それはきっと…、あなたも、リーゼたちも…。』

「なくしてしまった過去は、変えることができない。」
カードを宙に放り、デバイスを起動させる。
『Start Up!』
カードは青い杖に形状を変え、クロノはそれを握る。「だから…今を戦って、未来を変えます!」
そのクロノの言葉が、シンに、キラに、この場にいる全員に深く届いた。
管理局はアルカンシェルのチャージを開始する。
『暴走開始まで、あと2分。』
全員が沈黙しているためか、エイミィの声が普段よりも大きく響いた。

黒い淀みの周りをうねうねとうごめいている触手がその活動を活発にする。
そんな様子を真剣な面持ちで見つめるなのは、フェイト、シン、キラにはやてが声をかけてきた。
「なのはちゃん、フェイトちゃん、それから、シン君にキラ君。」
視線を淀みから外し、四人がはやてに体ごと視線を向けた。
「シャマル。」
と、はやてが声をシャマルにかける。
「はい、四人の治療ですね?」
シャマルはそういって、アームドデバイス、クラールヴィントに呼び掛ける。
「静かなる風よ、癒しの恵みを運んで…。」
そう永昌すると四人の体が緑の光に包まれ、損傷していたバリアジャケットが、怪我が治っていった。
「湖の騎士シャマルと、風のリング、クラールヴィント。癒しと補助が本領です。」
と微笑んだ。
「すごい…すごいです。」
「ありがとうございます。シャマルさん。」
フェイトとなのはがお礼と感嘆の声を漏らす。
「ありがとうございます。」「ありがとう、シャマルさん。」
それは、シンもキラも同様だった。
準備は整っている。あとは待つだけだ。
アルフ、ユーノ、ザフィーラはサポート班にまわる。攻撃してくる触手の排除を行う。
リズムよく、手早く障壁を六枚も抜いていかなければならないのだ。
攻撃されている暇などない。
海面から半分だけ顔をだしている黒い魔力の塊の回りに、同色の柱が一本、二本と数を増やしながら立っていく。
「夜天の魔導書を呪われた闇の書と呼ばせたプログラム…、闇の書の…闇。」
はやての言葉とともに暴走開始が近付いていく。
柱の中心の魔力の塊が徐々に海面から浮上し、そして、その塊を漆黒の闇が包み込み、爆散した。
その中から現れる防御プログラム。
まがまがしい姿にどくどくしいその色。そして、剥き出しの牙が鋭く光る。
プログラムの全貌が明らかになったのを開始の合図とし、最初に行動するのはアルフとユーノだ。
「チェーンバインド!!」
「ストラグルバインド!!」作戦通りに、まずは、触手をチェーンバインドとストラグルバインドが拘束し、そのまま切断した。
次に行動するのはザフィーラだ。
「きばれ!!鋼の軛!!」
轟くザフィーラの咆哮。
つむがれる白い刃が、展開された魔法陣から勢いよく噴射され、触手を根刮ぎ刈り取って行く。一時的にバリケードがなくなる今が、障壁を最初の二層を壊す合図となった。

かつては敵同士だったヴィータとなのは。その二人が今、力を合わせる。
「ちゃんと合わせろよ!高町なのは!」
グラーフアイゼンを構えるヴィータ。
「ヴィータちゃんもね!!」なのはの顔に不思議と笑みが溢れた。
「鉄槌の騎士、ヴィータと!黒金の伯爵!グラーフアイゼン!!」
カートリッジが一発消費され
『ギガント・フォルム』
光を放ち、グラーフアイゼンはその姿を変えた。
ハンマーヘッドが巨大化する。
「剛健爆砕!!!!」
ヴィータは、咆哮とともにそれを振り上げさらに、ハンマーヘッドを巨大化させ「ギガント!!シュラーク!!」そのまま、防御プログラムの障壁に莫大な質量と込められた魔力を叩きつける。その攻撃力はもはや一撃必殺の大威力。
防御プログラムの障壁が、易々と砕け散る。
だが、まだ攻撃は終わらない。
「高町なのはと、レイジングハートエクセリオン、行きます!!」
覇気の篭った声と共に、なのはは天にその不屈の心を掲げ、桜色の魔法陣を展開する。
『ロードカートリッジ』
カートリッジが四発弾け飛び、レイジングハート本体から六枚の翼が現れる。なのはは、レイジングハートを自在に操りながら、砲撃の構えをとった。
「エクセリオン、バスター!!!!」
しかし、防御プログラムを護衛する触手が、再生し、なのはに攻撃を仕掛ける。レイジングハートの先端に不可視の魔力が収束する。『バレルショット』
発射される衝撃波が、不可視のバインドが触手の自由を奪う。
そしてその衝撃波の通り道は、照準・弾道安定・発射直後の暴発を防止するための補助魔法が敷かれている。
「ブレイク…」
拡散して放たれる4つの桜色の奔流が、防御プログラムの障壁をえぐる。
「シュート!!!!」
レイジングハートの先端から4つに分かれた桜色の奔流を一つに束ねる膨大な魔力が放出され、障壁を打ち破った。
「次!シグナムと、テスタロッサちゃん!」
シャマルが合図する。
攻撃はまだ終わらない。
シグナムとフェイトはレヴァンティンとバルディッシュを構えた。

紫色の魔力を体に纏わせ、その集中力を露にするシグナム。
「剣の騎士、シグナムが魂…炎の魔剣、レヴァンティン。」
鞘から引き抜かれたレヴァンティンを掲げる。磨き抜かれたその刀身が、輝きを放つ。
「刃と連結刃に続く、もう一つの姿。」
鞘を柄の後ろに押し当て、カートリッジを一発消費した。
剣からでは想像もつかない形状に姿を変えるレヴァンティン。
『ボーゲンフォルム』
弓へと変化し、魔力の弦が両端を繋ぐ。
魔法陣を展開し、シグナムは狙いを定め、弦を引いた。魔力を練りこまれた矢が形成される。
カートリッジを二発消費し、さらに矢に、弦に魔力を込める。
足元から炎が噴き出した。「駆けよ!ハヤブサ!!!」
『シュツルムファルケン』声と共に弦を弾く。
空をハヤブサがかけ、防御プログラムまでの距離を、刹那で到達し、障壁を爆砕した。
なおも攻撃は続く。
「フェイト・テスタロッサ、バルディッシュザンバー、行きます!!」
大剣を構え、金色の魔法陣を展開する。
そして、その大剣を一振り。
不可視の魔力が触手を一瞬にして斬り飛ばす。
天高く掲げたバルディッシュに落ちる雷。
「撃ち抜け!ライディン!!」振り被った大剣を振り下ろすフェイト。
『ジェットザンバー』
金色の魔力刃が、防御プログラムの障壁を貫く。
まだだ、まだ攻撃は終わらない。残る障壁は残り二層。
「次!アスカさんとキラさん!!」
シャマルが再び合図する。「シン・アスカと運命の剣、デスティニー、行きます!!」
両腰にかけていたアロンダイトの左を抜刀し、右のアロンダイトを連結させて抜刀する。
『アロンダイト・アンビデクストラスフォーム』
「出力リミッター解除!パワー全開!!」
実体から出ていた魔力刃が消え、鍔から緋色の魔力刃が発生する。ただでさえ長いアロンダイトを、魔力刃がさらに長くする。
「貫けデスティニー!!」
カートリッジを四発消費。翼を展開、同時、今までにないほどの魔力を噴射し、シンは防御プログラムにむかって、突攻をしかけた。緋色の閃光が防御プログラムへと向かっていく。
緋色の閃光に襲いかかる触手は、連結アロンダイトを振るうシンに切り裂かれ、そして…、障壁に突き刺さるアロンダイト。
両方からカートリッジが一発ずつ消費され
『Deep Impact』
アロンダイトを中心に衝撃が広範囲で駆け抜ける。
障壁は砕け散り、最後の障壁にも亀裂を生ませ、再生しかけていた触手を押し潰す。

シンが離脱したのを確認し、砲撃の準備に入るキラ。「キラ・ヤマトと蒼天の剣、ストライクフリーダム、行きます!!」
『ロード・カートリッジ』計六発の薬筒が弾け飛ぶ。『ミーティア・セットアップ』
キラの周囲を大小様々、無数の魔力の光が囲む。
両方のフリーダムを連結させ、形状を変える。
それは一門の巨大な砲口。「これでぇ!!」
『ハイマット・フルバーストミーティアシフト』
轟音を立て一斉に放たれるそれらは、シンが亀裂を入れた障壁を難無く貫通した。
防御プログラムの上半身を根刮ぎえぐりとり、半壊させ、尚も反撃を加えようとする触手に、無数の魔力の奔流が降り注ぐ。
しかし、再生が早く、すぐさま、また新たな触手が姿を現し、砲撃を行おうとするが…。
「盾の守護獣、ザフィーラ!砲撃なんぞ、撃たせん!!」
広範囲で発生する捕縛・拘束魔法が触手を、防御プログラム本体を貫き、自由を奪う。
「はやてちゃん!」
シャマルの声を合図に、本を開き、永昌を開始するはやて。
「彼方にきたれ、宿り木の枝、銀月の槍となりて、撃ち貫け!」
杖を横に一閃し、純白の魔法陣を展開する。
渦巻く闇に、現れる七つの銀月。
「石化の刃!ミストルティン!!!!」
輝きを放つリィンフォース。それと同時に、反時計回りに放たれる銀月の槍。
防御プログラムに突き刺さり、そこから石化を開始する。
石化はプログラムの全体を浸食し、一部を破壊した。だが、新たに姿を変え、その再生力の圧倒的な強さを見せつける。
「う、うわぁ~…。」
「何だか…凄いことに…。」まがまがしさと、あまりの気持悪さに声を上げるアルフとシャマル。
『やっぱり、並の攻撃じゃ通じない。ダメージを入れたそばから再生されちゃう!』
エイミィからの現状報告。だが、クロノは言う。
「だが、攻撃は通ってる。プラン変更はなしだ!
行くぞ、デュランダル。」その掛け声に、シンとキラが反応するが
『OK, Boss』
と、デバイスの声を聞くとまた、元の臨戦態勢を取る。
「悠久なる凍土、凍てつく棺の内の瀬に…永遠の眠りを与えよ。」
青い魔法陣を展開し、両腕を広げる。
まるで粉雪の様な魔力が雪の様に舞い降り、海を凍らせてゆく。
「凍てつけ!!」
『エターナルコフィン』
デュランダルが輝きを放つのと同時に、防御プログラムは完全に凍った。

しかし、尚も暴れようとする防御プログラム。
だが、あくまでこの凍結魔法は動きを封じるためのものだ。
「行くよ、フェイトちゃん、はやてちゃん、キラ君!」
なのはの呼びかけに、フェイト、はやて、キラは頷き、所定の位置へと向かう。だが、キラは途中でシンを振り返り、手を差し出す。「一緒に、行こう…。」
なのは、フェイト、はやてはもう準備をしている。
「…この綺麗な世界を、守ろうよ。…一緒に…。」
キラはシンを見据える。
シンはキラを見据える。
しばらくした後、シンは頷き、そして、キラの手を握った。
五人で防御プログラムを中心に円を描くように陣形をとる。
なのはも、フェイトも、はやても、突然のシンとキラのやりとりを嬉しく思っているのか、微笑みながら頷いた。
そして…。
「全力全開、スターライトー!」
「雷光一閃、プラズマザンバー!」
『ハイマット・フルバースト、オールシフト』
『ダブルケルベロス』
「ごめんな…おやすみな…。」
積極的な姿を見せるなのは、フェイト、キラ、シンとは違い、何処か、悲痛な表情で防御プログラムを見つめているはやて。
だが、やがて決心したのか、凛とした表情に変わる。リィンフォースを掲げ、魔導書を開き、永昌を始めた。
「響け、終焉の笛!ラグナロク!」
放つ言葉は、砲撃は同時。「「「ブレイカー!!!!」」」/「「うぉぉおお!!!!」」
桜色の閃光が、金色の閃光が、白色の、蒼色の、緋色の閃光が同時に発射される。
直撃を受けた防御プログラムは、色とりどりの鮮やかな光とは裏腹のすさまじい衝撃を受ける。
五人の奔流が途切れるのと爆発を起こしたのはほぼ同時だった。
「本体コア、露出。」
クラールヴィントを用い、コアを捕まえるための空間を開く。
ドス黒く、まがまがしく輝くコアがその姿を現す。
「捕まえ…た。」
シャマルの言葉を聞くが早いか、ユーノが叫ぶ。
「長距離転送!!」
「目標軌道上!!」
緑と、オレンジの環状魔法陣に挟まれるコア。
「「「転送!!!!」」」
三人が叫ぶと同時に、コアは転送された。

軌道上アースラ。
「コアの転送、来ます!
転送されながら生体部位を修復中!すごい早さです!」
「アルカンシェル、バレル展開!」
アースラの前方に三つのリングが縦列に展開される。中間のリングの中央に青白い光が輝きをましながら、巨大化していく、
「ファイアリングロックシステム、オープン。」
緊張が漂う艦内にリンディの声が響く。目の前に現れる中心に球体を埋め込んだ立方体と、それを囲む三つのリング。
「命中確認後、反応前に安全距離まで待避します。」防御プログラムが、その不気味な姿を再生させながら、もうじき、転送ポイントまでやって来る。
リンディは鍵を立方体の中に埋め込まれた球体にさしこんだ。
赤く色を変化させるそれ。そして、ポイントに転送された防御プログラム。
「アルカンシェル!発射!!」リンディはアルカンシェルを発射した。
前方に窪みを帯たレンズ状の物体が形成され、それに向かって、青白い光が射ち出される。
一旦、光を吸収したそのレンズ状の物体から、勢い良く放たれる青白い閃光が防御プログラムに突き刺さる。
海上にいるなのはたちが、アースラにいる局員たちに走る極限の緊張。
アルカンシェルの直撃を受けた防御プログラムは、青い閃光に包まれ、白色の光を放ち、反応消滅を起こす。
最後に赤い閃光に包まれ、そして、その姿を消した。「効果空間内の物体、完全消滅!再生反応、ありません!」
「…うん。準警戒態勢を維持。もう暫く、反応空域を観測します。」
「了解…。」
はぁ…、安堵の吐息を漏らすエイミィ。アースラ局員全員にも、先ほどまでの様な緊張感は、もうなかった。

『と言うわけで、現場のみんな、お疲れ様でした!』エイミィからの通信が、現場にいる全員の緊張を解く。
現場のみんなも、安堵の吐息を漏らす。
終わった…。
繰り返されてきた惨劇はもう終わった。
夜天の魔導書は運命の呪縛から解き放たれた。
それは、騎士たちも主たちも同じで、その顔には自然と笑顔が浮かんでいた。
皆が皆、互いに労いの言葉を掛け合う。
「はやて!!」
そんな中ヴィータが声をあげる。
それに気付いた全員が視線を移すと、気を失ったはやてをシグナムが抱きかかえていた。

アースラに運びこまれたはやては、応急処置を終え、今は医務室で静かに眠っていた。
そんなはやてを心配し、シグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラ、そして、リィンフォースが付き添っていた。
キラは医務室の外で、壁に体重を預け、彼等が出てくるのを待っている。
「行かないんですか?」
リンディたちと通りかかったフェイトがキラに聞く。「…うん、…僕はいいよ。もちろん、はやてちゃんのことは心配で…行こうとも思ったんだけどね…。
深く事情を知らない僕が首を突っ込むことじゃないじゃない?
それに、シグナムさん達と、リィンフォースさんも、積もる話があるだろうし…。」
「じゃあ、私達と一緒に食堂で待ってましょう。
シン君とキラ君、あなたたちの世界のこと、もっと聞きたいわ。」
キラとシンはリンディに従い、フェイト、なのはも食堂へと向かった。

食堂。
五人はそれぞれ、昼食をつつきながら会話をしていた。
「話を聞いてると、キラ君って相当強そうなのに…、シン君には負けちゃったんだね。」
素直な意見を口にするなのは。
「そうだね。でも、守りながら戦うのと、ただ倒せばいいのとじゃ、かかるプレッシャーが違うよね?」
フェイトが言った。
先に消耗しつつ、アークエンジェルを気にかけながら戦うキラと、全てのバックアップが整っているシン。もちろん、気を散らした方が負けで、キラも敗けは敗けだと認める。
「まぁ、アークエンジェルに気をとられてたのは事実だけど…、でもやっぱり、君の勝ちだと思う。」
「俺自身、対等な戦いをしたなんて思ってませんよ?だから、そのうち、決着をつけたいと思ってたりします。一対一で…。」
シンの意気込みにあいまいな笑みで返すキラ。
「あら?それなら…。」
リンディが一つの案を提案した。
その提案に、最初は乗り気ではなかったキラも、なのはとフェイトに後押しされ、キラもその提案に同意した。
「お楽しみ中、水を差すようで悪いんですが…。艦長ちょっといいですか?」
突然の声に視線を向ければ、深刻な面持ちをしたクロノが立っていた。

リィンフォースは消えた。いや、正確には生まれ変わったと言った方がいいだろうか。
クロノとリィンフォース自身の話によれば、このまま自分がいると、またはやてを暴走に巻き込んでしまう。だがら、自分は消える。
そう言った。
はやては、反対した。リィンフォースをこれからもっと幸せにしなければならない。
今までが今までだ。
闇の書となり、リィンフォースとなるまで、悲惨な運命を辿ってきた。
はやての言うことはもっともだが、しかし、リィンフォースの言うことももっともだった。
なのは、フェイト、シン、キラ、そして、騎士たちに、主であるはやてに見送られ、リィンフォースは旅立った。

それから数日が経った。
はやて、シグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラはクロノの取り計らいで、相当な減刑をしてもらった。
むろん、その見返りとし、管理局に従事、また保護観察がつくことになる。本当なら、これではすまないのだから、クロノには皆感謝していた。

闇の書の運命は変えられた。
そして、その主の定まっていた運命も変わった。
その騎士たちの運命も…。そう、未来は…、運命は、変えられるのだ。

さらに、数日後。
はやてたちと、なのはたち、それから、シンとキラはアースラに召集をかけられていた。
「期間は一週間。その間、はやてさんたちは、キラ君を…、なのはさんたちはシン君を指導してあげて。いいかしら?」
はやてたちも、なのはたちも頷く。
「言っときますけど、俺は負けるつもりはありませんよ?」
シンはキラにそう言って手を差し出した。しばらく、沈黙してシンの手をみていたキラだが、
「そうだね…。だけど、僕も負けるつもりはないよ。あのときのようにはいかないからね?」
そう言い放ち、キラはシンの手を握った。
キラとシン、一週間後、二人は一対一で戦う。